星域連合緊急総会(19)総会の再開
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
総会が再開される一時間前にステーションの戒厳令は解除された。結局スス星系は響音によって特殊部隊に多大な被害(しかし死亡者はゼロ)を出しておきながら、ジョーンズとミスター・ビッグの行方も掴めていなかった。しかしベイ星域の旗艦に逃げ込んでいないことは分かっていたので、これ以上与党と星域軍の都合でステーションの物流を止めることは不可能という事もあり、戒厳令を解除することになった。
もちろん戒厳令が解除されても、ステーション内部には星域軍の兵士が立っており、二人の行方を追いかけていた。
「シンデンさん、それでお二人は今何処にいるのでしょうか?」
朝一でメアリーは部屋にやって来て、シンデンに二人の居場所を尋ねてきた。
「一応安全な場所にいる。総会への出席も大丈夫だろう」
「だろうとは?シンデンさんの人型ドローンが護衛に付いているのでは?」
「ああ、人型ドローンは途中から二人の護衛じゃなくて、囮となってスス星域軍の注目を引いて貰っていたからな。今二人とは離れて行動している」
「あの人型ドローンはスス星域の特殊部隊を相手に一体で戦っていたと言うことですか。しかし戒厳令が解除されたと言うことは、あの人型ドローンは…」
「大統領、誤解しないで欲しい。響音は無事だ。スス星域軍が撤退したのを確認後、旗艦まで戻ってくるだろう」
「では、スス星域の特殊部隊は、あの人型ドローンに負けたのですか…。星域軍の特殊部隊を退ける人型ドローン、シンデンさんといると驚くことが多すぎます」
「自分もメアリー大統領には驚かされている」
「それで最初の質問に戻るのですが、二人は今何処にいるのでしょうか?」
「二人の場所だが…もし居場所がバレたら不味いので、総会の会場に着いてから話そう。メアリー大統領は二人の事を気にせず、普通に会場に向かえば良い」
「…分かりました。シンデンさんがそう言われるなら、信じましょう」
メアリーが部屋を出て行った後、ようやく通信妨害が解除されたので、俺は響音と通信を繋げた。もう彼女を追いかけていた特殊部隊は引き上げていた。
『メアリーが会場に向かえば、宇宙港の警戒も手薄になるだろう。お前はそれを見計らって、旗艦に戻って来い』
『了解しました』
結局響音は一人でスス星域軍の特殊部隊中隊の半数を戦闘不能に追い込んだ。半数が戦闘不能とは、軍事的には壊滅したという事になる。もちろん一人も死者は出していないし、響音にも目立った破損はない。
響音はリミッターを解除して特殊部隊と戦った為、駆動系がオーバーヒート気味であった。普通に動く分には支障は無く、半日ほど動かなければ自己修復ナノマシンが修理を終えてしまう程度の損耗だが、響音の返事から疲れたという雰囲気が感じられた。
『囮役御苦労だった。無理をさせて済まない。しかし、特殊部隊相手に良くやった』
バックアップ霊子は響音の戦闘記録を見て、彼女がどれだけ頑張ったか理解した。
『マスターが謝罪する必要はありません。私はマスターの命令に従うだけです』
『…そうか。だが俺は響音を仲間と思っている。無茶はしないで欲しい』
『私はマスターの命令を遂行するために最善の行動を選択し実行しました。今回のマスターからの命令も可能と判断して実行しました。通信で私の居場所がバレた様です。ドローンが近づいて来ましたので、通信を停止します』
そう言って響音は通信を一方的に切ってきた。
>『響音の様子がおかしい気がするな』
>『シンデンもそう感じたか。もしかしてケイ素系生命体を使った回路を組みこんだ影響かな?』
>『ケイ素系生命体を使った回路は安全だと本船が保証します。お掃除ドローンのAIは他の人型ドローンと異なった特殊な成長をしているので、人のように感じられるのでは?』
>『そうかもしれないな。まあ、戻ってきたらもう少し話をしてみよう』
>『シンデン、頼んだぞ』
電子頭脳と響音について会話を終えた後、シンデンはメアリーの護衛に向かった。
★☆★☆
メアリーと一緒に会場に向かうが、ジョーンズとミスター・ビッグの行方が分からない状態のため、迎賓館には寄らず会場に直行となった。もちろんスス星域軍が自棄を起こしてメアリーに襲いかかってくる可能性があるので、SPとシンデンはスス星域軍の行動に殊更気を張っていた。しかし、徹夜で響音と二人を追いかけていたスス星域の兵士達は、疲れた顔をしており、メアリーに襲いかかってくる様子は無かった。
「メアリー大統領、申し訳ありません。迎賓館がテロリストに襲われ、二人が行方不明と聞いております。本日の総会に二人は出席できるのでしょうか?」
会場に着くと、先に来ていたシモネン大統領がメアリーに駆け寄ってきた。彼女は全ての状況を理解しているが、迎賓館を襲ったのはテロリストと言うしかない。
「そうなのですが、二人が総会に出席する件は、シンデンさんからは大丈夫と聞いております」
「ああ、大丈夫だ。シモネン議長の方は特に問題は無いのだろ?」
「私ですか。ええ、与党と星域軍の暴走してしまいましたが、私のあずかり知らない事になっていますので、特に問題は起きておりません。後で、何故星域軍の暴走を止められなかったと野党から追求されるぐらいですが、それも大丈夫です。そうで無ければ、私が今この場に来ている事は無いでしょう」
「スス星域の政治的な話は分からないが、大統領がこの場に来ているからには問題は無い。二人は総会が再開する時には会場に来るだろう」
「…そうなのですか。ではこのまま総会を再開する方向で進めます。メアリー大統領はしばらくお部屋でお待ちください」
「分かりました」
総会が再開するまで三十分ほど、会場内を星域軍の兵士が二人を探して走り回っている気配をシンデンは感じるたが、結局再開の時間まで二人は見つからなかった。
★☆★☆
「メアリー大統領、会場の準備が整いました」
「はい」
シモネン大統領が部屋に来て、メアリーと共に会場に向かう。シモネン大統領は二人がいない事に不安を感じているようだが、メアリーは堂々としていた。二人の居場所を正確に知っているのは俺だけのはずなのだが、メアリーはシンデンを信頼しているのか心配していない。
二人が行方不明という話を聞いたのだろう、会場では各星域の代表達がざわめいていた。
「皆さんお静かに願いします。ただいまから総会を再開します」
シモネン大統領が議長として壇上に上がると、総会の再開を宣言する。
「議長、再開すると言っても傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップ二人が来ていないでは無いか」
「二人がいなくては、メアリー大統領の草案の議論は不可能だと思うが?」
「二人は昨日から行方不明と聞きますが、どうなっているのですか」
「スス星域軍が二人を追いかけていたという話も聞いております。スス星域が二人を捕まえているのでは?」
シモネン議長の開催宣言に対して、各星域の代表から野次のような問いかけが殺到する。シモネン議長は困ったような顔でメアリーとシンデンの方に視線を送った。
「シンデンさん、お二人は今何処にいるのですか?」
「もう少しで会場にやって来ます。…今来ました」
メアリーの問いかけに、シンデンは二人がどこにいるか辺りを見回すと、シモネン大統領のSPの中から二人が壇上に駆け上がってきた。
「あの二人はシモネン大統領のSPですが…いえ、違います。あれは…」
メアリーはそのSPがジョーンズとミスター・ビッグだということに気づいた。魔法使いであるメアリーなら、もっと先に気づくはずだが、そこはジョーンズが凄腕だったという事だろう。
「ふぅ、こんな危ない橋を渡れとは、シンデンさんも無茶を言います」
「何時バレるかとひやひやしていたぞ」
二人が壇上を歩いていく間に、二人はSPの姿から何時もの姿に変わっていった。
シンデンが響音を通して二人に伝えた潜伏先は、シモネン大統領がいる大統領官邸だった。
スス星域は与党と大統領が対立してはいるが、シモネン大統領は国民からの支持は高くテロなどで暗殺される恐れがほぼ無かった。そして二人を殺すために星域軍が投入された為、大統領官邸の警護が手薄になると分かったので、シンデンは二人に大統領官邸に隠れて、大統領のSPと入れ替わって会場に来るようにお願いしたのだ。
もちろんこの方法はジョーンズが変身魔法を使えることが前提だった。もちろん電子頭脳にジョーンズの過去を探らせ、彼が変身魔法を使えることを知ったために頼んだのだ。
ジョーンズが変身魔法を使えない場合は会場に隠れて貰うつもりだったが、再開前に会場の捜索が行われたので、大統領のSPに成り代わって貰って正解だった。
「私のSPと入れ替わっていたのですか。全く気づきませんでした…」
壇上に上がってくる二人を見て、シモネン議長は絶句してしまった。
「ビッグ、ようやくここまで来ましたね」
「ジョーンズ、ここから始まるのだ」
ジョーンズとミスター・ビッグが壇上に立ったことで、会場のざわめきが更に大きくなった。
「あの二人が、傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップか。初めて見たぞ」
「本当に二人が来てしまった…」
「おい、二人は来ないんじゃ無かったのか。話が違うじゃないか」
「草案の可否について、二人が来ないという条件であったが、二人が来てしまった以上考えを変える必要があるな」
どうやら二人が総会に来られないと聞いていた聖域の代表達は、それを聞かせたイグラン、ルフラン星域の代表に非難の目を送るが、その代表の二人も驚きを隠せない様子で、冷や汗を流していた。
「さて、どういう話が裏で成されていたか知らないが」
「私達、いえ冒険者ギルドと傭兵ギルドは、ベイ星域メアリー大統領の草案に賛成します。これは両ギルドの特例規則を使い、私達二人によって両ギルドの正式な決定となります」
「草案が可決された後、ギルド本部の指示に従わないギルドマスターがいた場合、実力を持って排除させて貰う。最悪支部の取りつぶしもあり得る」
「…」
各星域の代表は二人の意思を既に知っていた。しかしそれも総会ではっきりと宣言されたので、この事実は国家のトップだけでは無く各星域の人達に知れ渡ることになるだろう。
「では、我らの役目はこれで終わりだな」
「ああ、本当に面倒な話だった。しかし、これで草案が通れば私達も楽になる」
二人は何かやりきった感じで壇上から降りてメアリー達の元にやって来た。会場では、二人を総会に参加させないように苦労してきたスス星域と大星域の代表が渋い顔をしていた。しかし総会で発言してしまった事はもう取り消せない。
「お二方、お疲れ様でした。これで後は草案に付いて議論をして、採決を取るだけです」
メアリーは二人にそう言って、入れ替わるように壇上に上がっていった。
「傭兵ギルドと冒険者ギルドのお二人は、私の草案に賛同してくださいました。二人の意思は分かったと思いますので、後は各星域から草案に対して質問や御意見をもらい、私がそれにお答えしたいと思います」
メアリーは各星域の代表から草案に対する質問や意見聞く場を設けた。星域連合の総会では、この様な公開討論は余り行われないのだが、メアリーは各星域に対して隔意の無い事を示すためにあえてこの様な形にした様だった。
「…メアリー大統領、両ギルドのトップの意見は先ほど聞かせて貰った。それでだが、本当に草案通りに傭兵や冒険者を国連総会の下部組織にしたとして、傭兵や冒険者を適切に星域に派遣する事は可能なのか?」
メアリーに質問をしてきたのは、イエル星域の代表だった。彼の国は「聖なる星」という宗教の聖地があった為に、周辺星域と揉めていた。しかしその聖地が無くなった事と「聖なる星」という宗教が弱体化したため、宗教問題に起因する領土紛争が無くなってしまった。しかしそうなると戦争を当てにしていた傭兵達仕事が無くなり、結果、大勢の傭兵が星域から出て行ってしまい、戦争の護衛依頼を受けてくれる傭兵がいなくなってしまった。
「はい。現在は星域間で傭兵の分布が偏っています。私の草案が可決されれば、各星域で適切な傭兵の配分が行われます。もちろん傭兵の自由意思は尊重しますが、傭兵や冒険者も仕事を強制される様な事は無くなります。つまり、適正な価格で依頼を出されているのであれば、傭兵や冒険者も其方に移動してくれるでしょう」
「なるほど。そうなってくれれば、我が星域も助かる。何しろ聖地を巡る戦争は無くなったが、今度は海賊達がのさばりだしたのだ。星域軍では手が足りない上に、護衛依頼を受けてくれる傭兵もいなくて、物流が止まり気味なのだ」
イエル星域の代表はメアリーの説明に納得したのか頷いていた。
「メアリー大統領、今我が星域はロスア星域と紛争中です。我が星域はどうなるのですか。傭兵達がいなくなれば、我が星域はロスア星域に太刀打ちできません」
次に発言してきたのは、現在ロスア星域と領土紛争中のウイナ星域だった。
「紛争ですが、草案にあるように今後は星域連合の星域司法裁判所にて解決を行う事になります。一方的な武力侵攻は、星域連合から戦力を派遣して戦争を監視することになるでしょう。今回のロスア星域の紛争についてもそうなると思ってください」
「なるほど。星域連合が間に入ってもらえるのですね。そうなれば助かります」
ウイナ星域の代表は安堵の表情を浮かべるが、ロスア星域の代表は渋い顔をしてメアリーを睨んでいた。大星域が周辺の中小星域を武力で制圧することを今まで率先してやって来たベイ星域が、それを無くそうというのだから睨まれてもしかたあるまい。しかしメアリーは非難するような視線を平然とした顔で受け止めていた。
★☆★☆
「質問や御意見はございませんか。では、草案の採決に入る前にですが、一つ私からお話しさせて頂きたいことがあります」
多数の星域の意見や質問を終え、もう後は採決するだけとなった所でメアリーはそう言った。
「メアリー大統領、その様な話は聞いておりませんが」
シモネン議長もメアリーの発言に困惑した表情を浮かべていた。もちろん俺やジョーンズ、ミスター・ビッグも驚いている。
「私が今回の草案を提案した理由ですが、ベイ星域の国是が理由と言いましたが、それ以外にもう一つ理由があるのです」
「「「「?」」」」」
メアリーの発言に、各星域は訳が分からないという表情を浮かべた。
「私は今回の草案で星域連合という星域のしがらみを離れた、人類として統一された軍事力を作り出そうとしています。それは当初は傭兵や冒険者、中小星域を護る為の物と説明しましたが、実はもう一つ戦力を準備しなければならない理由があったのです…」
「「「「…」」」」」
各星域代表は、メアリーの演説を黙って聞いていた。それほどメアリーの顔は真剣であったのだ。
「今から十年…早ければ五年以内かもしれませんが、人類は強大な敵と戦う事になるのです。その為にはどうしても各星域が団結する必要があったのです。その為私はベイ大統領となり、今回の草案を星域連合に提案したのです!」
メアリーからの爆弾発言に会場は静まりかえった。
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