星域連合緊急総会(18)メイド無双再び
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
「ドローンは全て私に引きつける必要がありますね」
宇宙港の通路からやって来る船内制圧ドローンは、地下通路でUターンすら不可能な大きさであり、本来なら地下通路に投入するようなサイズではない。そして、通路をほぼ塞ぐ形でやって来る船内制圧ドローン達に対して、響音がステルス機能を使って姿を隠す意味は無かった。
蛇のような姿の船内制圧ドローンは響音を発見すると、レーザー砲を撃ってきた。響音は回避行動を取りながら、ちりとりと液体金属でレーザーを防御して、一気に船内制圧ドローンに接近した。
「その巨体、狭い地下通路では不便ですわね」
レーザーを防がれた船内制圧ドローンは、接近した響音に対して、その巨体による蹂躙を仕掛けた。船内制圧ドローンは響音の数倍の大きさであり、普通なら響音はその巨体に挽き潰されるだけだった。しかし彼女の手には帆船が魔改造した高周波ブレードの竹箒が握られていた。レーザーや対戦車ミサイルの直撃にすら耐えられる船内制圧ドローンの装甲だが、竹箒によって一瞬で切り裂かれて破壊されてしまった。
「これでこの通路は塞ぎました。次に参りましょう」
船内制圧ドローンの残骸で地下通路が通行不可能となった事を確認した響音は、次の通路を進んでいる船内制圧ドローンに向かって走り出した。そして同様な戦闘が繰り返され、ステーションの地下通路は次々と通行不能となっていった。
★☆★☆
「何故だ。相手はたかが人型ドローンではないか。我が軍の船内制圧ドローンは、メイド姿の人型ドローン一体に負けるほど弱いのか!」
「そんな事はありません。我が軍の船内制圧ドローンは弱くはありません。あの人型ドローンが異状なのです」
船内制圧ドローンが響音に次々と破壊され、地下通路が通行不能となる中、指令所の指揮官は、部下のオペレーターに怒鳴ることしか出来なかった。船内制圧ドローンの性能を知っているオペレーターとしては、それを容易く破壊して回る響音が異状としか言いようがなかった。
「人型ドローン船内制圧ドローンで駄目というなら、特殊部隊を出すしかあるまい」
「司令、本気ですか。船内制圧ドローンを一瞬で倒すような人型ドローンなのですよ」
「だから特殊部隊を向かわせるのだ。特殊部隊には気功術士や魔法使い、理力使いがいる。人型ドローン如きに遅れは取らん。さっさと向かわせるのだ」
「…了解しました」
オペレーターは宇宙港の近くで待機していた特殊部隊に地下通路へ入るように命令を伝えた。
『おいおい、地下通路には船内制圧ドローンが入って行ったんだろ。俺達の出番があるのか?』
「その船内制圧ドローンが撃破されている。相手はメイド服の人型ドローン一体だ」
『はあ?メイド服の人型ドローン?相手はテロリストじゃ無かったのか』
迎賓館でジョーンズとミスター・ビッグを襲った特殊部隊と異なり、宇宙港に配備された特殊部隊は、テロリストから宇宙港を護る様に命令されているので、人型ドローンを倒す為に地下通路に入ることに疑問を感じていた。
「テロリストが使っている人型ドローンだ。一体で船内制圧ドローンを倒すような奴だ油断はするな」
『船内制圧ドローンを倒す人型ドローンか…。それは腕が鳴るな』
特殊部隊の気功術士が指をポキポキと鳴らしながら、笑っていた。
「とにかく気を付けてくれ。それに人型ドローンは本命じゃ無い。それを操っている二人のテロリストを排除しなければならないのだ」
『分かっている。さっさと戒厳令を解除しろと、ステーションの住民からの苦情が来ているんだろ。俺達がさっさと片付けてやる』
長らく宇宙港で待機させられていた特殊部隊の兵士達は、「ようやく出番が来た」と意気揚々と地下通路に入っていった。
★☆★☆
地下通路を進む特殊部隊…およそ二百名だが、そのまま全員纏まって地下通路を進むと、戦う事すら出来ない。そこで中隊は通路で三~六名の分隊に別れて進軍していった。一つの分隊は気功術士と魔法使い、理力使いが必ずメンバーに入っており、特殊部隊と言うだけに有人機動兵器のパイロットよりも対人戦が得意な兵士であった。
「人型ドローン…いえ、生命反応があると言うことは、人間ですか。スス星域はようやく特殊部隊を送り込んできたのですね」
十数体目の船内制圧ドローンを破壊した所で、響音は特殊部隊の存在を察知した。特殊部隊はドローンの破壊状況から、響音を包囲するように地下通路を進んでくる。
「一番近い敵で実力を試しましょう」
響音は再度ステルス状態に移行すると、一番近くの分隊に近づいていった。
★☆★☆
響音に狙われた分隊は、特殊部隊らしく動きが機敏であった。しかし彼らも地下通路を通るのは初めてで、少し戸惑いながら進んでいた。
「エアフィルターで濾過されているはずだが、臭いな。俺のヘルメットは壊れてるのか?」
「俺も一緒だ、我慢しろ」
「二人とももう少し緊張しろ。そろそろ人型ドローンが襲ってきてもおかしくは無いんだぞ」
「分かっている…って、正面から何か来ているぞ」
響音が狙った分隊は、地下通路の臭いに文句を言いながらも周囲を警戒して進んでいた。そして光学迷彩状態の響音を見つけたのは、気功術士であった。ステルス状態の響音だが、姿は消せても移動に伴う大気の流れまでは消せなかった。ドローンと違って気功術士はその大気の流れを感じ取り、気の波動の探知で響音の接近に気づいた。
「正面って、何も見えないぞ」
「まさか、レリックを装備しているのか?」
魔法使いと理力使いは気功術士の様な索敵方法は持っていないため、光学迷彩中の響音の姿が見えていなかった。
「軍の人型ドローンより動きが早いぞ。まずは俺が攻撃を仕掛ける。二人はその結果を待って攻撃を仕掛けてくれ」
気功術士は響音の移動速度から彼女が強敵と判断すると、響音を探知できる自分が攻撃を受け持つと宣言した。
「見えなきゃ魔法が使えない。透明看破の魔法を唱えるぞ!」
「分かった!」
魔法使いは響音の光学迷彩を破るべく探査の魔法を唱え始め、理力使いは自分と魔法使いを理力フィールドで覆った。
響音に立ち向かった気功術士だが、気で探りながらの戦いであるため苦戦していた。苦戦で済んでいたのは、響音がシンデンから「人は殺すな」と命令されていたため。竹箒を使わず素手で戦っていたからである。
「スピードとパワーが軍の人型ドローンとは段違いだ。こんな人型ドローンをテロリストが持っているか?」
気功術士は気のフィールドで響音の攻撃を防ぐが、彼女のスピードに追いつけるほどの使い手では無かった。そこで気功術士は攻撃は仕掛けず防戦一方で、魔法使いの魔法を待っていた。
響音は、「このまま普通に戦っていては彼を無力化するのに時間がかかる」と判断し、シンデンに教えられた対気功術士向けの技を繰り出した。
「菩薩○!」
響音は気功術士の背後に回って空中に蹴り上げると、身動きのとれない彼の頭を手のひらで挟んだ。もちろん響音が全力で頭を挟めば相手を殺してしまうので、微妙に隙間を空けて頭を手で挟み込む。そうすることで気功術士の頭は彼女の手の中で数十回も右に揺さぶられ、気のフィールドで護られていたとしても脳震盪を起こすのだ。
シンデンでも防ぐ事が難しいこの技を受けた気功術士は、当然一瞬で気絶してしまった。響音は脳震盪で気絶した気功術士の体をそっと地面に寝かせた。
「ディテクト・インビジブル!」
気功術士と響音が戦っている間に、魔法使いは透明看破の魔法を唱えた。魔法使いから光の波動周囲に広がり、それに当たった響音は光学迷彩が解除されてしまった。
「本当にメイド姿なのか。おい、何時の間にかゲーツが倒されたぞ」
「姿が見えれば攻撃魔法で倒せる。見てろゲーツの仇を討ってやる。」
理力フィールドに護られた魔法使いが、倒された気功術士の仇を討つとライトニングボルトを唱え始めた。
理力フィールドに護られた二人に対して、響音は慌てることも無く接近していった。
「ゲーツをどうやって倒したか知らないが、俺の理力フィールドは船内制圧ドローンの攻撃をも防ぐ。人型ドローンの出力では敗れないぞ」
理力使いは自分の理力フィールドに自身があるのか、近づいてくる響音を悠然と待ち構えていた。
「ライトニングボルト!」
魔法使いの詠唱が完了し、雷撃が響音に向かって発射された。二人は魔法で響音が倒されると確信していたが、実は彼女はライトニングボルトが放たれるのを待っていた。
響音は、液体金属でコーティングされた右手で魔法の雷撃を無効化しながら、雷撃が通った後の理力フィールドの穴にその手を突き刺した。魔法が理力フィールドを通過する一瞬、理力フィールドには千分の一秒という僅かな時間だけ穴が発生する。人間の反射速度では突くことなど不可能な隙だが、響音ならその穴に手を差し込むことが出来た。
「理力フィールドを貫いただと!グハッ」
「何だこの糸は、ギッ!」
理力フィールドを貫いた響音の手から液体金属の糸が放たれ二人に刺さると、その糸を伝って電撃が二人を襲った。もちろん電撃は気絶させる程度であり、二人はその場で気を失ってしまった。
「少々手こずってしまいました。ですが、目的は達成出来そうですね」
三人組とはいえ、響音によって分隊が倒された事が他の分隊にも伝わった。仲間を倒されたと知った特殊部隊の兵士は、出発した時の余裕を殺意に変えて響音を追いか始めた。
響音は、ジョーンズとミスター・ビッグの二人が向かった先に誰も向かわないように、特殊部隊の分隊を誘導していった。
★☆★☆
「無空○」
響音は気功術士の気のフィールドに当てた手を高速振動させた。気のフィールドでダメージは体に届かないが、気のフィールドが微細に振動することで気功術士のの脳を揺らして気絶に追い込んだ。
「これで五チームですか。なかなか手強いですね。…部隊を編成して、次は大人数で襲ってくるつもりでしょうか」
特殊部隊の分隊を五つほど無力化したところで、分隊は響音に近づかなくなった。少人数で響音と戦う事の不利を悟り、分隊にいる人数を増やそうと分隊を編成し直し始めた。
しかし分隊が編成を変えようとしている中で、響音に近づいてくる分隊が一つだけ存在した。センサーの反応から、その分隊は六人で構成されていると響音には分かった。
光学迷彩中の響音がその分隊が進む通路に出た瞬間、彼女はちりとりを取り出して打ち込まれた弾丸を弾き飛ばした。
「弾丸を弾き飛ばすとか、本当に凄い人型ドローンだね~」
対物ライフルのような巨大な銃を持った小柄な兵士が、響音が弾丸を弾き飛ばした事に驚いていた。
「船内制圧ドローンを倒す人型ドローンだ。侮るな」
大柄でマッチョな気功術士が分隊のメンバーに注意を促した。どうやら彼がこの分隊のリーダーらしいと響音は判断した。
「しかし特殊部隊の精鋭が、こうも容易く倒されるとは…情けない」
「ああ、そうだわ。人型ドローン相手に負けるとは、特殊部隊失格だ」
大剣を背負った二人の気功術士は、既に響音の位置を探り当てていた。
「私達から逃げられると思わないでください」
「魔法を無効化するレリックの正体を突き止めさせて貰います」
二人の女性の魔法使いが、姿の見えない響音に対してそういった。
この分隊は今まで倒してきた分隊達の兵士より、個々の力も連携も上だと響音には感じられた。
「レリックが厄介だ。さっさと無効化してくれ」
「まあ、俺には居場所は分かるけどな」
「気功術士に光学迷彩など無意味だ」
理力使いが魔法使いの一人に透明看破の魔法を唱えるように命令し、そして魔法詠唱の時間を稼ぐために、二人の気功術士が響音に斬りかかってきた。
「!」
二人の気功術士のスピードは響音の想定より速く、音速を超える速度で振るわれた大剣を響音は竹箒の柄で受け止める事になってしまった。大剣には気のフィールドが纏わり付いていたが、理力回路で発生させた極小の理力フィールドを柄に纏う事で、彼女は大剣を受け止めることに成功していた。
「ディテクト・インビジブル!」
「見えた、ファイア・アロー」
「今度は避けられないよ~」
魔法使いの一人が光学迷彩を無効化すると、響音と切り結ぶ二人の背後から、もう一人の魔法使いがすかさずファイア・アローを放ち、小柄な兵士も対物ライフルからはレーザーを放った。
剣を受け止めている状態の響音は、とっさにメイド服に液体金属をコーティングして魔法を無効化し、液体金属でレーザーを反射させて全ての攻撃を防いだ。
魔法とレーザーが防がれてた事に驚く気功術士の二人に対して、響音は竹箒の柄を回転させて受け止めていた大剣を振り払い、一気に後方に飛び退いた。
「たかが竹箒のはずなのに、俺の剣で切れないとは」
「片手なのに、俺達二人の攻撃を受け止める膂力とは。厄介な相手だな」
「魔法もレーザーも聞かないとか反則です」
「あの銀色の液体金属が厄介ですね~」
「あの距離のレーザー攻撃を反射して防ぐとか、船内制圧ドローンより優秀じゃない」
「強敵だ。油断するな」
「分かっておる」「分かってるって」
「「はい」」
「油断なんてしてないよ~」
リーダーの理力使いが叱咤すると、分隊のメンバーの表情が引き締まった。
「(この六人が連携すれば、マスターに匹敵しますね)」
シンデンから人を殺すなと命じられていた響音は、今までその動きにリミッターをかけて戦ってきた。しかしこのままでは分隊の連携攻撃に対応できないと判断した彼女は、そのリミッターを解除した。
「雰囲気が変わりおった」
「やばい、ぞくぞくしてきた」
響音の変化を感じ取ったのは、気功術士の二人だった。
「防御しろ」
リーダーの理力使いがそう命じると、魔法使いはシールドの魔法をとっさに張った。小柄な兵士はリーダーの側に近寄り、彼の理力フィールドの中に逃げ込んだ。
「グッ」「ガッ」
響音が目の前から消えたと思うと、気功術士の二人は頭から壁にめり込んで気絶していた。これは響音がリミッターを解除して、二人気功術士の身体強化では追いつけない程の速度で移動して蹴りを放った結果だった。
「馬鹿な、あの二人が反応出来ないとは」
リーダーの理力使いが驚いている間に、響音は再び動くと今度は魔法使いの二人に襲いかかった。二人はシールドの魔法を張って防御に徹していたが、液体金属でコーティングされた響音の両手は、二人の魔法を霧散させた。
「シールド魔法が」「消えるなんて」
魔法使いの二人を両手の電気ショックで気絶させて、響音は次の敵に向かった。
「この化け物」
小柄な兵士がレーザーを乱射するが、気功術士すら反応できない速度で移動する響音にレーザーを命中させることは出来なかった。
「捕まえたぞ」
目にも留まらぬ速度で移動して理力使いと小柄な兵士に近寄った響音だが、理力フィールドに触れた瞬間にフィールドが反転し、彼女は理力フィールドに捕らわれていた。かつてレマがシンデンに見せた理力フィールドの応用技だが、分隊のリーダーは、その技を使うことが出来るレベルの理力使いだった。
「潰れろ」
理力使いが力を込めてフィールドを圧縮すると、響音はフィールド内で体をねじ曲げられて小さくなっていった。そして最後はパチンコ玉程のサイズの球体になってしまった。
「ん?」
響音が圧縮されてしまった結果を見て、理力使いが違和感を覚えた瞬間、背後から電撃を纏った両手が二人を襲った。
「馬鹿な、質量を持ったダミーだと…グハッ」
「リー…ダッ」
理力フィールドに触れたのは、響音の姿をしたダミーバルーンだった。目のも止まらぬ早さで理力使いに近づいた彼女は、ダミーバルーンを出すと、光学迷彩を発動させた。簡易の重力制御装置を内蔵したダミーは、響音と同じ質量を持つ実体として理力フィールドに触れた。気功術士なら違いが分かっただろうが、理力使いにはダミーバルーンと実物の差が分からず、響音が理力フィールドに触れたと勘違いしたのだ。
「レマさんと同じ技を使うとは。スス星域は侮れませんね」
理力使いと小柄な兵士を電気ショックで気絶させた響音は、光学迷彩を解いて姿を現した。
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