表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/156

星域連合緊急総会(14)五大星域会談

誤字脱字のご報告ありがとうございます

電子頭脳と主人公バックアップとの会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。

 無事ベル恒星系に着いたベイ星域軍は、両ギルドのトップを乗せた連絡艇をステーションに向けて発進させた。シンデン()もそれに便乗させてもらっている。


「君が私達を助けてくれた傭兵のシンデン君か。今回は君のお陰で助かったよ」


 冒険者というより大学の教授といった方が合ってそうな茶色のスーツ姿の男性が、冒険者ギルドのトップであるジョージ・カウフマン、通称ジョーンズ(冒険者ギルドのトップは伝統的にそう呼ばれるらしい)だった。考古学者らしい雰囲気を持つナイスミドルだが、元イグラン星域軍人であり、魔法使いである。


「シンデン、お前が未だAAAランクの傭兵というのは間違っているな。チームのメンバーも含めて早々にランクアップさせるように傭兵ギルドに指示を出そう」


 ジョーンズの横に立って、シンデン()の肩をバシバシと叩いてくる、サングラスをかけた禿げ頭の巨漢が、傭兵ギルドのトップであるマイケル・ビアード、通称ミスター・ビッグであった。ボア付きのロングコートを着用した姿は、マフィアのボスという感じだが、熟練の気功術士にして理力使いというたぐいまれな素質を持っている傭兵である。シンデン()は同じ気功術士として、ミスター・ビッグはかなりの腕前であると感じていた。


「ミスター・ビッグ、それは職権乱用では無いのか?まあ、俺のランクアップはどうでも良いが、チームのメンバーはランクアップさせてもらえると助かる」


 シンデン()は両ギルドのトップを観察していたが、そのたたずまいから二人が偽物とは思えなかった。もちろんギルドのタグは本物であり、メアリーが偽物を用意するとは俺も思ってはいなかった。


「傭兵ギルドのトップだからな、傭兵を実力に見合ったランクに推薦するのは当然だろ。お前の実力ならSランクであるべきだ。俺が推薦してやる」


 ミスター・ビッグは禿頭を輝かせて、シンデン()をSランクに推薦すると言い出した。


「星域軍が手足も出なかったレリックシップ(遺物船)を撃退したん、私もシンデン君はSランクが妥当だと思うな。そうだシンデン君、冒険者ギルドにも登録しないか。君のようなレリックシップ(遺物船)を持っている冒険者がいてくれると、遺跡調査もはかどると思うんだ」


 シンデン()はどうやら二人のお眼鏡にかなったようだ。シンデンなら嫌であっただろうが、俺や電子頭脳にとっては好都合だった。もしメアリーの提案が通るなら、両ギルドのトップと知り合いになっていた方が、ヤマト級のレリックシップ(遺物船)の情報収集がやりやすい。


「傭兵ギルドの依頼でも遺跡調査は出来る。しかし、チームの中に傭兵では無い者がいる。戦いよりレリック(遺物)を研究する事が好きらしいので、冒険者ギルドに登録する方が良いかもしれない。後で登録するか聞いてみよう」


「傭兵チームの中に傭兵じゃないメンバーもいるとは面白いね。確かにレリック(遺物)の研究者なら君の船は宝の山だろう。僕も一度君の船を調査させて欲しいな」


「…申し訳ないが、傭兵にとって船の情報は機密事項なのだ。残念だが断らせてもらう」


 ジョーンズが目をキラキラさせてシンデン()に詰め寄ってきたが、丁重にお断りさせて貰った。


>『カエデを冒険者ギルドに入れておけば、遺跡調査の依頼も受けやすくなるな。彼奴が嫌がらなきゃ登録させよう』


>『そうですね。傭兵ギルドとは異なった遺跡の調査依頼があるかもしれません。是非カエデを冒険者として登録しましょう』


 自室で研究室に閉じ籠もっているカエデに「冒険者として登録しないか」と聞いてみたところ、「遺跡は見たいから登録するわ」と直ぐに返事が返ってきた。カエデは総会が終わった後、適当なステーションでカエデを冒険者として登録する事になるだろう。


 両ギルドのトップからシンデン()の最近の活動について話をしている間に、連絡艇はステーションに到着した。


 両ギルドのトップはステーションに着くと、スス星域のシモネン大統領に挨拶に向かった。シンデン()は傭兵ギルドに依頼の完了を報告してから、メアリー大統領の警護に戻った。旗艦で自分に割り当てられている部屋に戻ると、そこにメアリー大統領がSPと今回救援を行った艦隊の提督を連れてやってきた。


「シンデンさん、ベイ星域軍を助けていただき、ありがとうございます。シンデンさんのチームのおかげで戦死者を出さずに済んだと、バルザー提督から感謝されました」


「メアリー大統領、星域のトップが一介の傭兵に何度も頭を下げるな。俺は依頼をこなしただけだ」


「いえ、星域の国民から死者が出なかったことに対して、星域代表としてお礼を言うのは当然です」


「大統領の言う通りだ。今回の救援依頼で我が艦隊は死者を出さずに済んだ。改めてお礼を言わせてほしい」


 幼女と老人の二人に頭を下げられ、シンデン()は困ってしまった。そんなシンデン()をSPのリーダーが生暖かい目で見ていた。


 ★☆★☆


 メアリー大統領達が部屋を出てから、数時間ほど部屋で草案について電子頭脳と三人で検討を行っていると、メアリー大統領から「外出するので護衛をお願いします」と連絡が届いた。

 シンデン()響音(おとね)を伴ってメアリーの護衛に付くことになった。響音(おとね)を連れて行くに当たって、彼女には目元を隠すマスカレードの仮面を付けさせた。響音(おとね)の容姿は特徴的なので、見る人が見ればTOYO社製と一目で分かる。大統領の護衛に一目でTOYO社製人型ドローンと分かる響音(おとね)をそのまま連れて行くのは不味いと、旗艦の兵士が作ってくれたのだ。


>『やっぱり仮面メイドは護衛としては目立ち過ぎるか…』


>『ベイ星域の兵士からはお掃除ドローン(響音)は好意的に受け止められているようです』


>『好意的って、まさか響音(おとね)に手を出す馬鹿はいないだろうな』


>『旗艦の兵士は、準エーテル空間での戦いを知っていますので、お掃除ドローン(響音)を信頼しているようです。物理的に手を出す馬鹿はいないでしょう』


 途中でシンデン達はSP達と合流したが、響音(おとね)が護衛として参加することに文句を付けてくる者はいなかった。


 今回のメアリー大統領の外出は、両ギルドのトップと草案について話し合うためだった。両ギルドのトップとの打ち合わせなら旗艦でやれば良いと俺は思ったが、それでは両ギルドのトップがベイ星域に与しすぎと思われるとのことで、シモネン大統領、イグラン、ロスア、ルフラン、キャリフォルニア星域という五大星域の外務大臣(代表)を交えて会談することになった。


 会談場所はスス星域が準備してくれた会場で、各星域の護衛達も全員入ることを許可された。イグラン、ロスア、ルフラン、キャリフォルニア星域の外務大臣と護衛は仮面のメイド(響音)を見て少々驚いていたが、他の星域の護衛に文句を言う者はおらず、そのまま五大星域と両ギルドのトップを交えた会談が始まった。


「今回我らが集まったのは、傭兵ギルドと冒険者ギルドがメアリー大統領の草案について了解しているかを事前に確認するためだ」


 会談が始まると、まずはイグランの外務大臣がジョーンズとミスター・ビッグに問いかけた。


「その認識で合っています」


「おう、傭兵ギルドも同じだ」


 二人はその問いかけに即答した。その姿を見て、イグラン、ロスア、ルフラン、キャリフォルニア星域の外務大臣は驚いた表情を浮かべていた。


「各星域の傭兵ギルドや冒険者ギルドは、メアリー大統領から送られてきた草案を見て驚いていたようだが?ギルドのトップから何も連絡もせず、各支部と議論もせずにこれだけ重要な事を決めて良かったのか?」


「本来は各ギルドの支部長を集めて議論すべきなのでしょうが、意見が纏まる訳は無いので、ギルド長としての特例規則を使って決定することにしました」


 ロスア星域の外務大臣の質問にジョーンズがそう回答した。傭兵ギルドと冒険者ギルドだが、民主的な意思決定の場もあるが、そんな事をしていては間に合わない状況が有る場合、両ギルドの長が独自に判断を下せるという特例規則が残されていた。ジョーンズは「メアリーの草案」について、その特例規則を使うと宣言した。


「それは流石に強引では無いか?傭兵ギルドや冒険者ギルドの支部長から各星域に対して問い合わせや苦情が来ているのだが」

 ルフラン星域の外務大臣が、ジョーンズの返答に頭をかかえて嘆いていた。


「俺からしたら、各ギルドの支部長が星域に問い合わせをしたり苦情を言うことの方がおかしいと思うぞ。星域に問い合わせている…つまり、今の傭兵ギルドと冒険者ギルドの支部は、冒険者ギルドや傭兵ギルドは星域に縛られないという原則を忘れて、各星域と繋がっちまっていると言うことだ。まあ、今まで俺はそれでも良いと思ったが、メアリーちゃんの草案を見せられて考えを変えたんだ。傭兵ギルドと冒険者ギルドは、原則通り、星域に縛られない組織であるべきだ!」


 ミスター・ビックは、ルフラン星域の外務大臣の嘆きに呆れた感じで答えた。


>『まあ、キャリフォルニア星域のギルドもそうだったからな。大概の星域はギルドの支部を既に懐柔済みだよな』


>『両ギルドのトップは、メアリーの草案を元に、その状況を改善するつもりですか』


>『そういう事だな。しかしトップがそれを言い出してもそれだけで各支部が従うとは限らない。結局従わせるための軍事力も必要となる』


>『管理組織には各国から星域軍が一定数編入することになっています。ベイ星域軍とベイ星域のギルドはジョーンズとミスター・ビッグの指示に従うでしょう。そうなれば軍事力はそろいますね。つまり、両ギルドは星域連合の傘下に入ることで、各星域から本当に解放されるのでしょうか?』


>『メアリーの草案が可決されたら、そうなるだろうな。そして各支部のギルドマスターで本部の指示に従わない奴は実力を持って排除されるだろう。しかし、これはメアリーの草案が可決される前提の話だ』


>『バックアップ霊子()は、草案が可決される可能性は低いと推測しているのでしょうか?』


>『俺は大昔の大学生で政治は専門じゃ無い。シンデンも星域軍の兵士から傭兵になっただけで、星域間の政治がどう動くかは分からない。だから俺が生きていた時代の国際政治をベースにした推測を電子頭脳さんに話すぞ。まず、レリックシップ(遺物船)を管理する組織を作る事は既に決定済みだ。後はその組織をどうやって作って運営するかが問題となっている。もし星域連合でメアリーの草案が可決されれば、管理組織には軍事力が集まり、星域連合で星域の総意で軍事活動が可能となる。今の人類社会は俺が生きていた時代と異なり、宗教やイデオロギーに縛られた星域は少ないからな。つまり星域連合が軍事力を持って星域間の平和を護ってくれるなら、中小の星域は余計な軍事力を準備する必要が無くなるというメリットがある』


 現在の人類社会では、地球にあった宗教は形だけとなっていた。唯一宗教として勢力を持っていた「聖なる星」も、オルワ氏の事件でレリック(聖地)が破壊され、宗教紛争が発生しない状況となっている。そして国是として「人類統一」を掲げていたベイ星域はメアリーが大統領となり、軍事侵攻をしないと宣言した。残るは星域間の領土問題や経済格差等での紛争だが、それは星域を滅ぼすほどの規模ではない。


>『それでは中小星域はメアリーの草案に賛同し、可決されると言うことでしょうか?』


>『電子頭脳さん、これは俺の推測だと言ったはずだ。星域の中には平和を望まない星域や企業もいるはずだ。それに管理組織が出来たら、大星域も軍事力を使った外交が出来なくなるから、メアリーの草案に反対だろう。大星域はメアリーの草案を否決するために、今は中小星域に根回しをしている最中だと俺は思っている。明日まで、大星域がどれだけ賛成派の中小星域を切り崩せるか…メアリーの草案の可決は、それにかかっていると思う』


>『なるほど。平和を望まない星域もあるとは驚きです。現生人類の歴史を見れば、戦争は無益と分かりそうな物ですが、どうして争うことを止めないのでしょう。その様な現生人類は過去に学ばない愚か者なのでしょうか?』


>『まあ、人…いや生命体が戦いを止めることは無いだろうな。この船の創造主も戦争で滅んだんだろ』


>『…そうですね。私もヤマト級とは相いれませんので、現生人類を愚かとは言えませんでした』


 俺と電子頭脳がそういった論議をしている間にも、両ギルドのトップとイグラン、ロスア、ルフラン、キャリフォルニア星域の外務大臣は、言葉巧みに二人を説得しようとしていた。しかしジョーンズとミスター・ビッグの考えは変わらなかった。


「なるほど、両ギルドのトップであるお二人の決意が固いことは分かりました。説得は出来ませんでしたな」


「こうなると管理組織がどうなるかは、明日メアリー大統領の草案が採決されるかに掛かっておりますな」


「メアリー大統領の草案が可決されなかった場合、我が星域はからは管理組織について提案をさせて貰います」


 イグラン、ロスア、キャリフォルニア星域の外務大臣は、メアリーにそう言って暗に草案に賛成しないと言ってきた。


「我が星系としては、出来ればメアリー大統領にあれとは異なった案を考えていただきたいと思っております」


 ルフラン星域は、メアリー大統領の襲撃や両ギルドのトップが星域内で襲撃された件もあるため、明確にメアリーの草案に対して反対とは言わなかった。恐らく明日は棄権票を投じるつもりだろうと感じられた。


「ええ、明日私の草案が否決されたら、新しい案を考えて提案しますわ」


 こうして、五大星域と傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップを交えた会談は終了した。


「メアリー大統領、スス星域はあの草案に賛成を投じたいと思っております」


 他の星域の代表が退出し、メアリーとシモネン、ジョーンズとミスター・ビッグの四人が残ったところで、シモネン大統領は自分の考えを口にした。


「…スス星域はルフラン星域と隣接しています。それで宜しかったのですか?」


「はい。ですのでルフラン星域の代表がいる場では発言を控えました」


「分かりました。明日までその御意見が変わらないことを願っております」


 メアリーはシモネン大統領にそう言って、ジョーンズとミスター・ビッグを引き連れて部屋を退出した。


お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ