星域連合緊急総会(12)草案の検討と救援依頼
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
総会が中断し、車で旗艦に戻る間にシンデンは草案の内容についてメアリーの考えを聞くことにした。
「大統領、申し訳ないが先ほど送られた草案について貴方の考えを聞かせて貰いたい。自分は、星域から一定数の人材や軍隊を提供して貰い管理組織を作ると思っていたが、傭兵と冒険者ギルドを組みこむとは考えもしなかった。一体何処からその発想が出てきたのか教えて貰えないだろうか」
俺は国連のPKOを思い浮かべていたので、メアリーの提案には驚いていた。彼女の提案は、俺の時代に当てはめれば「国連が多数の民間軍事会社を平和維持軍として雇う」という話になる。そんな事は俺の知る国連では不可能なことだった。
「シンデンさんなら私の気持ちを理解してくれると思ったのですが…。ええ、どうして私が傭兵ギルドと冒険者ギルドを星域連合に所属させようと思ったかですが、それは星域が傭兵や冒険者に対する対応が悪かったからです。ベイ星域は傭兵を積極的に星域軍に勧誘していまし、冒険者を雇って遺跡を調査して貰っています。そういった星域に貢献している傭兵や冒険者に対して、ベイ星域は買収するならまだしも、権力や軍事力を使って囲い込もうとしていました。私はそのベイ星域の対応を見て、何とかならないかと考えたのです。調べて見れば、他の星域もベイ星域ほどではありませんが、同様な事が起きていました。そこで私は今まで星域と関わりが無かった両ギルドを星域連合…いや星域連邦の組織にすることで、各星域から彼らを護ろうと考えたのです」
「なるほど。確かに傭兵や冒険者を強引に勧誘したり、彼らが所持しているレリックやレリックシップを狙う星域は存在する。しかしベイ星域も現状は傭兵を星域軍に勧誘している。その行いは貴方の思いとは違うのではないか?」
「草案にも書かれていますが、各星域からも星域軍を派遣して貰う事になっています。ベイ星域はスカウトした傭兵の方々をベイ誠意軍として管理組織へ派遣するつもりです。傭兵から星域軍になった方々であれば、他の傭兵の方と上手くやっていけると思います。それに私が大統領になってからは、星域軍から退役して傭兵に戻る事も許可しております」
「大統領はそこまで傭兵や冒険者の事を考えていたのか。草案通りなら彼らも星域から狙われることは少なくなるだろう」
>『やっぱりメアリーは凄いな。俺にはそこまで考えが及ばなかった』
>『バックアップ霊子が感心する理由は分かりました。それより、両ギルドのトップをどうやって納得させたかも尋ねてください』
>『そうだな。俺も傭兵ギルドのトップなんて見たことが無いからな。どうやって伝手を取ったか、聞いておきたいな』
「もう一つ質問をしたい。大統領は、二日後には傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップがこの星系に来ると言い切っていたが、どうやってその二人と連絡を取ったのだ。各星域の代表は、「居所さえ掴めない」と言っていた。大統領はその二人をどうやって見つけだし、総会に参加する様に説得したのだ?」
「…その件ですが。シンデンさんは傭兵ギルドや冒険者ギルドのトップがSランクの傭兵や冒険者であることは知っておられますか?」
「二人がSクラスの傭兵や冒険者だとは知っている。傭兵ギルドのトップは、通称ミスター・ビッグという人物だとは聞いている。自分が知っているのはそれぐらいで、本名も顔も知らない。冒険者ギルドのトップは、確か通称ジョーンズだったと思うが、其方も本名も顔も知られていないな」
「そうですよね。一般的にはその程度の情報しか出ておりません。これはここだけの話ですが、傭兵ギルドのトップはマイケル・ビアードという方で冒険者ギルドのトップはジョージ・カウフマンという方です。…そして二人はついこの前まで、ベイ星域の刑務所にいました」
「ベイ星域の刑務所?何故そんな所に二人が…ああ、前大統領の仕業か…」
メアリーの話によると、傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップは古くからの友人であり、ギルドのトップとしての仕事を部下に押しつけて、二人でコンビを組んで遺跡調査に向かうという迷惑な人物とのことだった。そして二人はAAAランクの傭兵と冒険者と偽って、ベイ星域の遺跡調査に来たところを前大統領に発見され、彼は二人を星域軍に勧誘した。しかし二人がベイ星域軍に興味を持つはずも無く、遺跡調査だけして逃げだそうとした。しかし前大統領は星域軍を大々的に動かして二人を追い詰めて捕らえてしまった。二人は捕まった後も「星域軍に入らない」と言ったため、気が変わるまでと刑務所に拘留される事になった。
刑務所に入れられた二人に転機が訪れたのは、メアリーが大統領になった時だった。メアリーは前大統領が捕らえ刑務所に拘留していた傭兵や冒険者を釈放していったのだが、その際に念入りにその身元を調査した。念入りに身元調査を行ったのは、流石に犯罪歴のある傭兵や冒険者を無条件に解放するのは不味いと思ったからである。そしてその身元調査によって二人が傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップであることが判明してしまった。
二人がベイ星域の刑務所に捕らえられていたことにメアリーは頭を抱えたが、そこで二人から思わぬ提案が来た。
「刑務所に入れられていたことには文句を言いたいが、それはメアリー大統領に言うことでは無い。それより俺は傭兵ギルドに居場所を知られたくない。しばらく音信不通だから、部下が探しているだろうが、俺は書類の山に埋もれたくは無いのだ」
「私もビッグと同じ考えだ。冒険者ギルドで書類に埋もれてるぐらいなら、遺跡の調査をしたい」
「このまま俺達がベイ星域にいる事を秘密にして、ベイ星域内の遺跡調査をやらせて欲しい」
結局メアリーは二人の提案に乗ることにした。つまりデータ上では二人はベイ星域の監獄にいるが、実際はベイ星域の遺跡調査を行っていた。
「なるほど、だから二人の居場所は分かっていたと。そしてこの草案を作るに当たって、二人の了承も得ているのだな」
「ええ。私が傭兵ギルドと冒険者ギルドを星域連合…将来は連邦ですが、その参加に入れたいと伝えると、二人から『俺達の仕事が減るなら賛成だ』と了承を貰えました」
「星域連合の傘下に入っても、仕事が減るとは思えないが…」
「草案を見れば分かりますが、各星域から事務処理を担当する人員が星域連合にはいます。それらの方を両ギルドの運営に回すことで、二人の事務処理は大きく減るでしょう。それに傭兵、冒険者両ギルドは各支部長の権限が大きく、本部の通達を無視する事もありました。それに対して本部は手を出しづらいという組織としては問題があったのですが、両ギルドが星域連合傘下に入り独自の軍事力を持てば、支部長の暴走行為に星域連合として対応することが可能となります」
「確かに、傭兵ギルドは緊急依頼も各支部のギルドマスターが出すし、使命依頼も同様に傭兵に押しつけてくる場合がある。それに星域と癒着しているようなギルドマスターも多いな」
「はい。そういった面も改善できると思います」
「シンデンさんが指名手配された様な件も、星域連合の組織となれば簡単に受理される事は無くなると思います」
「あれはまあ、俺の対応も不味かった部分もある。だが、傭兵ギルドの組織が良い方向に変わるのは賛成だな」
「つまり、シンデンさんは、私の出した草案に賛同してくれると言うことでしょうか?」
「それは草案を詳しく精査してからだな。しかし大統領はどうして自分にあの草案を送ってきたのだ」
「それは、シンデンさんに意見を貰いたかったからです」
「両ギルドのトップの意見は既にもらっているだろ。一介の傭兵である自分の意見など不要だろう」
「いえ。私はシンデンさんからも意見を貰いたいと思っています」
「…そうか。だがさっきも言ったように今は無理だ」
「ええ、二日後までには意見をください」
メアリーとの話を終える頃、車は旗艦に到着した。そしてシンデンはメアリーと別れて、自分にあてがわれた部屋に戻った。そこで電子頭脳と俺はメアリーの草案について検討することになった。
★☆★☆
総会が中断してから一日が経った。シンデンは割り当てられた部屋で電子頭脳とメアリーの草案について議論をしていた。
>『メアリーの草案は良く出来ているが、他の星域が足を引っ張る余地が多い。やはり傭兵ギルドと冒険者ギルドのトップを巻き込む程度では難しいだろう。傭兵もギルドの言うことを聞く奴ばかりじゃ無い。管理組織を作ったとして、順調に運営がいくとは思えないな。やはり星域を纏めるための何かが足りない』
>『バックアップ霊子の判断は正しいと本船も推測します』
>『電子頭脳も人類社会について理解が進んだようだな』
>『マスターはそういう事を求めませんでしたので。バックアップ霊子と過ごすことで、本船も少しは人類への理解が進みました』
>『それは良かった。さて、メアリーにはどう返事をしたものかな。俺の知識を交えた回答は不味いが…』
俺がメアリーへの返答を考えている時、シンデンが居る部屋の通信端末にメアリーの姿が映った。
『シンデンさん、申し訳ないのですが、今すぐ貴方の船に戻ってください。貴方に星域軍の救援を依頼したいのです』
「星域軍の救援?大統領の護衛を放置して良いのか?」
『旗艦にいる間は私の護衛は不要です。それより両ギルドのトップを乗せたベイ星域の艦隊から、「謎のレリックシップに襲われている」と救援要請があったのです。シンデンさんにはその星域軍の救援に向かって欲しいのです』
「ベイ星域の艦隊が謎のレリックシップに襲われているので、そこに自分が救援に向かえということか。自分以外は…護衛艦隊は動かさないのか?」
『無茶な依頼であることは分かっております。ルフラン星域の戦いで、護衛艦隊は消耗しており補給が出来ておりません。つまり護衛艦隊を救助に向かわせても役に立たない状況です。本国にも救援依頼は出ていますが、距離を考えると救援は間に合いません。今はシンデンさん以外、救援に向かわせる戦力が無いのです。これは今シンデンさんが受けられている護衛依頼とは異なる依頼となります。もちろんシンデンさんには、この依頼を断る事も可能です』
「メアリー大統領、貴方の草案を読ませて貰いました。自分はあの草案がこの総会でどう判断されるか見てみたい。それには両ギルドのトップが総会に参加する必要がある。だから、自分は二人を助けに向かいます」
『ありがとうございます』
「傭兵ギルドには依頼を出してくれ。船に戻るまでに受理しておく。直ぐに連絡艇を準備してもらえるか?」
『ハンガーで既に待機しています』
「了解した。念の為、先に仲間を救援に向かわせる」
『シンデンさんのお仲間を先に救援に向かわせるのですか…』
「ああ、一刻も早く救援に向かった方が良いだろ。知っていると思うが、俺の船は分離可能だ。先に帆船と雪風ともう一隻を救援に向かわせる」
『シンデンさんがそう判断されるなら、大丈夫なのでしょう。分かりました。軍にはそう伝えます』
シンデンは部屋を出ると、連絡艇に乗って帆船に向かった。
★☆★☆
連絡艇が帆船に向かっている間に、シンデンはシオンに命令を下した。
『シオン、状況は分かっているな?』
『ベイ星域軍から連絡は来ているわ。シンデンが付いたら直ぐに向かえば良いのね』
『いやそれでは遅いかもしれない。船首像を残して帆船と雪風は先に救援に向かってくれ。相手は謎のレリックシップだ。十分気を付けるんだぞ』
『うう、緊張する。シオンさん、私達だけ先に向かって大丈夫なのでしょうか?』
『大丈夫よ。この前も私達だけで何とかなったでしょ』
『まあ、無理はしないように。帆船の電子頭脳の指示を良く聞いてくれ。電子頭脳も無理をしないように気を付けてくれよ』
『分かっております』
『シンデン、私はどうするの?』
『レマもシオンと一緒に向かってくれ。しかし相手はレリックシップだ、レマの船では帆船と雪風の足手まといになる可能性が高い。理力使いって事はベイ星域にはバレているから、危なそうな船を護るのがレマの役目だ』
『分かったわ』
こうして作戦が決まると、帆船は船首像を切り離し、帆船と雪風とレマの船は超光速航法に入った。
★☆★☆
帆船と雪風が消えてから一時間後、ようやく連絡艇は船首像に辿り着いた。
「それでは、救援の方よろしくお願いします」
「任せておけとは言えないが、できる限りのことはするつもりだ」
連絡艇のパイロットに見送られてシンデンは船首像に乗り込んだ。シンデンは直ぐに超光速航法を起動すると超光速空間に入った。
「スス星域の国境まで六時間。そこから一時間ほど進んだルフラン星域の宇宙空間が戦場か。帆船に追いつくには帆船の倍の速度を出す必要がある」
船首像には超光速航行回路があるが、その形状から普通に進むと人類の船より遅くしか進むことは出来ない。気を纏わせて水面を蹴って進めば、人の目では追いかけられないほどの速度は出せるが、そんな移動では目的地点に着前にシンデンは気を使い果たしてしまう。
>『帆船は雪風が頑張っているから、後一時間ほどで着くぞ』
「帆船に追いつくには、帆船の倍の速度を出す必要があるな」
>『あれを試してみるのか?』
「そのつもりだ。最小限の気の消耗で帆船に追いつけるだろう」
>『まあ、無理はするなよ』
「ああ、分かっている」
バックアップ霊子には、今からシンデンがすることは分かっていた。
シンデンは船首像の足に準エーテル空間で使ったスキーを履かせ、最小限の気を纏わせて水面上に浮かんだそして、両手から液体金属を薄く広げて巨大な帆を作りだした。
「ウィンドサーフィンならぬウィンドスキーだ。上手くエーテルを捕まえられれば、帆船に追いつけるだろう」
船首像が持った帆は、エーテルの追い風を受けて大きく膨らんだ。超光速航法回路の推進力と帆による推進力で船首像は超光速空間を滑り出した。
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