星域連合緊急総会(10)総会開始
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
会場内から上がった声に答えるようにメアリーは話を続けた。
「皆様は映像だけでは判断できないと思われておられるようですね。そう思われるのも分かっております。しかし禁忌技術を使用したドローンが秘密裏に研究されているのは事実であり、超光速航法回路の駆動だけではなく、能力者のクローン脳ユニットまで製作可能である技術レベルになっている事に私は危機感を持っております。それに加え能力者のクローン脳ユニットを製造しているのが、人類の科学力では無く、レリックやレリックシップを使っている事に、私は問題があると感じております」
メアリー大統領のその発言と共にスクリーンにはヤマト級レリックシップの映像が表示された。ヤマト級の映像が出た瞬間、キャリフォルニア星域の外務大臣のアーノルドは苦虫を噛みつぶした様な表情を浮かべていた。
>『超光速空間でキャリフォルニア星域の内戦を密かに撮影していたのなら、ヤマト級の存在も知っていて当然だな』
>『メアリーにも困りましたね。ヤマト級の艦船が能力者のクローン脳ユニットを製造できる事を各星域に知られてしまいました。今後各星域はヤマト級のレリックシップを探し始めることになるでしょう。そうなれば、私達だけでは対応が不可能となります』
>『レリックシップの探索は常に行われている。危険性は今までと一緒だろう』
>『クローン脳ユニットを製造できると知れば、冒険者や傭兵が見つけても、星域がその情報を隠すでしょう』
>『なるほど。そうなると面倒だな』
冒険者や傭兵が遺跡等でレリックやレリックシップを発見した場合、自分達の功績として発表したりする。特にレリックシップは自分達で使用するといった場合が多いが、クローン脳ユニットを作れるという話となれば、星域が秘密裏に彼らから買い取るといった事が増えるだろう。そうなれば俺達はその星域を相手にして戦う事になる。負けるつもりは無いが、面倒な事になったのは確かであった。
「メアリー大統領、そのレリックシップが能力者のクローン脳ユニットを作成しているという事だが、その証拠はあるのかね?」
メアリーに直接質問してきたのは、イグラン星域の外務大臣だった。質問をしてきた感じからするとイグラン星域ではヤマト級のレリックシップに関する情報を持っていなかったようだ。
「証拠はありません。もしかしたら何処かの星域では自力で能力者のクローン脳ユニットを製造する技術を開発したかもしれません。しかしレリックやレリックシップで能力者のクローン脳ユニットを製造している場合、過去に起きたクローン脳ユニットの反乱を超える被害が出るでしょう。よって、そのようなクローン脳ユニットを製造可能なレリックやレリックシップが発見された場合は、『星域連合に報告し、それを星域連合で管理する』という条項を星間ルールに入れる事をベイ星域として提案します」
「証拠は無いのですか…」
イグラン星域の外務大臣はガッカリしたようであった。
「レリックやレリックシップの情報を公開して、星域連合で管理するというのか?」
「そんな事ができるわけが無い」
「レリックやレリックシップを持っている星域が情報を開示するとかあり得ない」
会場では、メアリーの提案に反対の意見が次々と出てきた。
>『シンデンの帆船のように傭兵が持っているレリックシップと違って、星域が持っているレリックやレリックシップは秘匿される物だ。公開するなど受け入れられないだろうな』
>『自国の戦力を正直に報告する星域はいないでしょう。しかし反対意見を言っている星域は既にレリックシップを持っている可能性があります。マスターはその星域が何処か調査してください』
>『おっ、そうだな』
シンデンは会場を見回して、メアリーの提案に対して賛成や反対意見を述べている人物の所属星域を調べた。そうやって各星域の代表を見て回った時、シンデンはリモートで出席している小星域の代表が、メアリーの提案に対して騒いでいない事に気づいた。
>『リモート出席だから、会場の雰囲気が伝わっていないのかな。小星域にとってレリックやレリックシップの情報開示は命取りになるだろう』
レリックやレリックシップは、俺の生きていた時代の兵器でたとえるなら核兵器や生物兵器のような物である。それを所持しているかどうかを知られることで、周囲の星域との外交で揉めることになるだろう。下手をすれば、そのレリックやレリックシップの所有を巡って戦争が起きる可能性もある。
>『そうですね。レリックやレリックシップもその存在が秘匿されている事で、星域間の外交が成り立っている場合もあります。確かに小星域はメアリーの提案に反対しても不思議ではありませんね』
>『まあ、単に小星域はレリックやレリックシップを所持していないだけかもしれない。ちょっと気になっただけだ』
「メアリー大統領。貴方の星域…ベイ星域は『人類を統一国家として纏める』という国是を掲げておられます。今回の禁忌技術に係わるレリックやレリックシップを星域連合で管理するというのは、ベイ星域が他国を侵略することに有利に働くのではありませんか?」
そう言ったのはキャリフォルニア星域のアーノルド外務大臣だった。ヤマト級や禁忌技術使用について総会という場で情報公開された事に対しての嫌がらせのような質問である。もしメアリーの提案が星間ルールに取り込まれれば、キャリフォルニア星域は真っ先に情報の公開を迫られるだろう。
「私は今までの大統領とは異なり、我が星域の国是を武力で成し遂げようとは思っておりません。国是には「統一国家」と有りますが、私は星域連合がその国家の代わりになれば良いと思っております」
「メアリー大統領、それは星域連合を星域連邦国家にすると言う事でしょうか?」
メアリーの発言にシモネン議長が驚いた様子で問いかけた。
「ええ、私はそうなれば良いと考えております。もちろん星域連邦国家となったとしても、我が星域が主導権を握るといった事は考えておりません」
メアリーはシモネン議長を含め会場の星域代表を見渡して、そう言いきった。
>『星域連合から星域連邦国として、人類を一つの国家に纏めると言うのか。メアリーは大風呂敷を広げたな』
>『本船の創造主も一度は成し遂げましたが、結局分裂して戦いになりました、果たして現生人類にそれが可能でしょうか?』
>『いや、俺の知る歴史でもシンデンが知っている歴史でも、人類が一つの国に纏まったことは無いぞ』
>『バックアップ霊子は無理と考えているのですね。しかしメアリー大統領はそれを提案しましたね』
>『何か策があるのだろう。しかし総会でその策を言うつもりだろうか』
禁忌技術に係わるレリックやレリックシップの管理の話から、星域連合を星域連邦国とする話に変わったことで、会場はざわめき始めた。
「メアリー大統領、ここは一旦休憩を入れたいと思います」
「そうですね。各星域の代表の方々も自星域と話をする必要があるでしょう」
「では、一旦ここで総会は中断とします。再開は…六時間後とします」
シモネン議長の宣言で、総会は一旦中断となった。各星域の代表は自国と連絡を付けるべく、それぞれの船に戻っていった。メアリーも壇上から降りて、シモネン議長と共にシンデン達の方に戻ってきた。
「メアリー大統領、星域連合を星域連邦国家にするとは、驚きました」
「ええ、本当は禁忌技術を使うレリックやレリックシップについてもう少し話をしたかったのですが、あの質問が来たので、そう答えることになってしまいました」
シモネン議長にそう言われて、メアリーは苦笑いを浮かべていた。
「大統領は本気で星域連邦国家を作るつもりなのですか?」
メアリーの「星域連邦国家を作る」と言う話はSPのリーダーも知らなかったようで、メアリーに尋ねていた。
「この話は私と副大統領だけが知っている話です。ベイ星域国民にも秘密にしていたのは申し訳ない事ですが、私は本気で星域連邦国家を作りたいと思っています。いや、作らないと駄目なのです」
SPのリーダーの目を見て、メアリーは力強く答えた。その姿は幼女だが、彼女の言葉には周囲を動かすだけの力があるとシンデンには感じ取れた。
「大統領がそう判断されたのであれば、私はそれに従います。前大統領のように武力で他の星域を制圧するなどと言うよりより良い方法だと思います。私はメアリー大統領は国是を無くすつもりと思っておりましたが、星域連邦国家を提案されるとは思いもよりませんでした」
「私も大統領のお考えを聞いて、感動しました」
SPのリーダーと理力使いのSPはメアリーを尊敬のまなざしで見ていた。
「シンデンさんは、私の「星域連邦国家を作る」という提案をどう思いますか?」
「自分は政治については素人です。しかし歴史は少しは知っています。大統領の考えは素晴らしいが、今の人類が一つに纏まることは難しいと自分は思っています」
「シンデンさんはそう思いますか。ではどうすれば今の人類を一つに纏められると思いますか?」
「一介の傭兵である自分に聞かれても…。答えは持っておりません」
「そうですか。シンデンさんなら答えを知っていそうだと思ったのですが…」
メアリーはシンデンの答えにガッカリしている様子だった。
>『いや、答えはあるんだけど、それは提案することが出来ない答えだ』
>『バックアップ霊子はメアリー問いかけの答えを持っているのですか』
>『ああ、答えは「人類全体に対して明確な敵を作ってやる」だよ。宇宙生命体のような星域で収まるような敵ではなく、人類が一丸とならなければ勝てないような敵が存在すれば、星域連邦国は作り出せるだろう。しかし、今の銀河にはその様な敵は存在しないだろ』
>『ヤマト級やケイ素系生命体では人類の敵にならないのでしょうか?』
>『ヤマト級が大艦隊で人類を滅ぼしにかかれば、人類全体の敵となるだろう。しかしヤマト級が人類に敵対するかといえば?』
>『ヤマト級の狙いは本船とその仲間の船です。彼らにとって現生人類は操縦者としての興味しか有りません。人類を滅ぼすような事は行わず、裏から支配すると思います』
>『それじゃあ、人類全体の明確な敵とはならない。それじゃ人類に寄生する害虫ってレベルだ』
>『ヤマト級が「寄生する害虫」ですか…。バックアップ霊子にしては的確な表現ですね』
電子頭脳と話をしている間にも、シンデンとメアリー大統領は会場を無事に出て、出口ではテロリストの代わりに各星域のマスコミが、総会で話した内容についてしつこくメアリーにコメントを求めてきた。しかしメアリーは「総会が終わるまでコメントはしない」と言ってマスコミを振り切り、そのまま車に乗り込んで旗艦まで戻ってしまった。
★☆★☆
「私はベイ星域の閣僚や国民に総会で話した内容を説明しますので、失礼します」
旗艦に戻ったメアリーは、「星域連邦国を作る」と発言したことを説明するために記者会見などに使う部屋に向かった。彼女は暫くはベイ星域の閣僚と総会での話をすることになるだろう。その間シンデンは暇になってしまったが、旗艦から出ることも出来ない。
「スズカとカエデは帆船に戻っても良いぞ」
「サクラともあったし、私は帆船に帰るかな。スズカはどうするの?」
「そうですね…シンデンさん、私も帆船に戻った方が良いでしょうか?」
「そうだな。この船よりは帆船の方が安全だな。二人は戻ってくれ」
シンデンの発言に旗艦の兵士が少し顔をしかめたが、そこは無視して二人を連絡艇に乗せて帆船に送り返した。響音も二人と戻っても良かったのだが、ステーション内で何かが起きた時に彼女の戦闘力が役に立つため残って貰った。TOYO社製の人型ドローンと言うことで、傭兵達が色々ちょっかいをかけては手ひどい反撃を喰らっているのを見て、ベイ星域軍の兵士達も響音に関しては何も言わなくなっていた。
★☆★☆
総会が再開される三十分ほど前になって、ようやくメアリー大統領がシンデンとSP達の前に姿を見せた。閣僚や国民への説明の為に数時間の超光速通信を行っていたはずなのに、彼女は疲れたそぶりも見せなかった。
>『まさに幼女の皮を被った化け物だな。あの外見に騙されているが、並の気功術士より体力があるようだ』
>『ベイ星域軍で魔法使いとして活躍したのですから、体力はあるでしょう』
そんな失礼な事を電子頭脳と会話していたら、メアリーがシンデンを睨んだ。
「何か?」
「シンデンさん、今失礼な事を考えていませんでしたか?」
「いや、特に。大統領は大変だなと思っていたぐらいです」
「…そうですか。では皆さん、会場に向かいますよ」
メアリーはシンデンを睨むのを止めると、会場に向かう車に乗り込んだ。
>『電子頭脳さん、この霊子力通信が傍受されている可能性は無いか?』
>『ケイ素系生命体との霊子力通信と違い、この通信を傍受できる装置は本船の知る限り存在しません』
>『彼女の感って事か』
>『感と呼ばれる感覚については、マスターの方が詳しいかと』
>『そうだな。メアリーは魔法使いとしても凄腕らしいから、そういった感覚もあるかもしれない。今後は霊子力通信時は彼女が近くにいない時にしよう』
>『了解しました』
電子頭脳との霊子力通信を終えたシンデンは、メアリーの後に続いて車に乗り込んだ。
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