星域連合緊急総会(9)長官との対話と総会の開始
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
ベイ星域の旗艦に戻った所でメアリーに呼ばれ、ロスア星域旗艦で話した内容について軽く質問された。「ロスア星域に誘われなかったか?」と聞かれたわけだが、「そういう話も有ったが、断った」としか答えようがない。メアリーは他の話…恐らくオルワ氏の組織についても聞き出そうとしてきたが、もちろんシンデンは話さなかった。
ステーションに滞在して、ようやく明日が総会の日というギリギリのタイミングでようやくキャリフォルニア星域の使節がやって来た。そしてステーションにキャリフォルニア星域軍の旗艦が接岸すると、外務大臣がSPに囲まれながら旗艦から降り立った。
>『どうして長官が来ているのだ』
シンデンが驚いたのは、外務大臣のお付きの人に諜報部の長官が混ざっていたことだった。特徴の無いのが特徴という風貌の彼だが、シンデンには忘れられない人物である。
>『過去にマスターから聞いた話では、キャリフォルニア星域から動かないというイメージあるのですが、本物でしょうか?』
>『シンデンの記憶にある顔と一致する。若干老けたが、あれは長官だと思う』
>『マスターが要注意人物としている人です。監視しますか?』
>『この星系のネットは良いが、ステーションのネットはセキュリティレベルが高くなっている。帆船でもハッキングは難しい。もしハッキングをしていることがバレたら大問題だ。今は止めておけ』
>『了解しました』
>『レマには長官が総会に来ている事を伝えておくか』
俺は自分の船で待機中のレマに通信を繋げた。
『レマ、キャリフォルニア星域の使節団として諜報部の長官が来ているが、お前に何か連絡はあったのか?』
『本当に長官が来ているの?諜報部専用の通信機が壊れた事は暗号メッセージで送ってあるけど、向こうからは特に連絡は来てないわ』
『そうか。それ以外でキャリフォルニア星域軍から何か連絡は来ていないのか?』
『一応、通信は来ているけど。今は傭兵としてベイ星域軍に雇われている事になっているから、当たり障りの無いメッセージしか来てないわよ』
『何かあったら、個人端末ではなく帆船の電子頭脳に連絡を入れてくれ』
『分かったわ』
シンデンは、キャリフォルニア星域軍の諜報部長官が直々に訪れたことで、ますます今回の総会で何かが起きると確信した。
★☆★☆
総会当日、スス星系の外周は各星域軍の戦艦やマスコミの宇宙船で埋め尽くされていた。まあ埋め尽くされていると言っても、宇宙的な距離感なので見た目は混雑しているわけでは無いが、シンデンも見たこともない程の宇宙船が集まっていることは確かであった。
「では会場に参りましょう」
「「「はっ」」」
メアリー大統領は気負う姿も見せずベイ星域の旗艦からステーションに降り立ち、総会の会場に向かった。もちろんSPとシンデンも一緒に向かう。
総会の会場となるのは、ステーションの中央にある巨大な会議場だった。そこに各星域の代表が集まっている。各国の代表が集まるため警備は厳重で、各星域のSPも人数が制限されていた。メアリーの護衛は三人という事なので、SPのリーダーと女性の理力使い、そしてシンデンが護衛に付くことになった。人選はリーダーと大統領で決めたのでSPの間では揉めることは無かった。
会場に入ると、各星域の代表がメアリーに挨拶に来るため、警護を担当しているシンデンは気が抜けなかった。特にキャリフォルニア星域の代表…外務大臣が挨拶に訪れた時は、警護担当に長官が付いてきたのでシンデンは内心の動揺を隠すのに必死であった。
「メアリー大統領、お初にお目にかかります、キャリフォルニア星域の外務大臣をしているアーノルドです」
「ベイ星域大統領のメアリーです。アーノルドさんのお名前はかねがね伺っております。私もアーノルドさんの主演された映画は見ております」
キャリフォルニア星域の外務大臣をしているアーノルドは、元映画俳優であった。銀河でも話題となった映画に主演しており、そこから出身聖域で政治家に転身して外務大臣となった人物である。映画俳優と言うことで、各星域で友好的に捕らえられているが、政治家としての彼はかなりの切れ者だった。
「ははっ、それは嬉しい限りです」
身長二メートルのアーノルドと幼女のメアリーが握手する光景はマスコミからは格好の映像素材だったのだろう。盛んにスス星域のマスコミが映像を撮っていた。
そしてその裏でシンデンと長官は睨み合っていた。
「(フランシスから通信が来なくなったと思えば、お前がベイ星域大統領の護衛に付いたのには驚かされた。まさか、ベイ星域に寝返るつもりか?)」
「(これは依頼で受けているだけだ。俺はどの星域にも所属しないつもりだ。それにキャサリンがいなくなった今、俺がキャリフォルニア星域軍に忖度する理由はない)」
「(アヤモはまだキャリフォルニアにいるが良いのか?)」
「(姉さんに手を出したら、長官なら俺がどうするか分かっているだろう。姉さんを人質に取って何かさせるというなら、覚悟して欲しい)」
「(分かった。アヤモには手を出すなと言っておこう。しかし今のお前は昔と余りにも違う行動をしている。本当にお前はシンデンなのか?)」
「(キャリフォルニア星域軍人の特殊部隊出身者で無ければ、この会話が成りたたないだろう。俺はシンデン本人だ。俺が変わったのは、軍拡派が俺にレリックで攻撃を仕掛けてきた事と、キャサリンが亡くなった事が原因だ)」
「(軍拡派の提督の件に関しては、私の監督ミスであった。まさかあそこまで愚かだとは思わなかったのだ。キャサリンについても、あのレリックシップがそんな物とは諜報部でも知らなかったのだ)」
「(終わったことにたいしての言い訳は不要だ。あのレリックについては、今後は使わない様にしてくれ。もしキャリフォルニア星域軍が同じような兵器を使った場合、俺はキャリフォルニア星域の敵となるだろう。あと軍拡派が使ったレリックシップと同様な船があるのであれば、教えて欲しい)」
「(悪いが、お前の要望には応えられない。あのレリックを研究していた研究所だが、諜報部でも所在が把握できていないのだ。それにレリックシップの存在についても、傭兵である今のお前に教える事は出来ない)」
「(長官、それは本当か?あのレリックの所在を諜報部でも掴み切れていないというのは問題だぞ!)」
「(あの提督はブラックマーケットと繋がっていた。レリックもブラックマーケットから入手したと諜報部は考えている。そしてブラックマーケットの連中は消えてしまったのだ)」
「(了解した。だがもし今後キャリフォルニア星域が同様なレリックを入手したとしても『使うな、研究するな』と警告しておくぞ。あれは危険な物なのだ)」
「(それも確約は出来ない。あのレリックは戦略兵器として使えることが証明されてしまった。私の立場では研究するなとは言えない)」
「(長官の立場ならそうなるか。しかし、あのレリックを戦争に使うと、人類の存亡に係わる事になるぞ。キャリフォルニア星域があのレリックに付いて研究するというなら、俺はキャリフォルニア星域の敵となるだろう)」
「(しかた有るまい。それに敵に回ると言うが、現状キャリフォルニア星域はお前の指名手配を消すつもりが無い。つまり、お前はキャリフォルニア星域の敵として認識されているのだ)」
「(そうか、俺は敵なのか)」
「(いや、それはキャリホルニア星域の一部の連中が原因なのだ。私としては…)」
「(残念だが、時間切れだ)」
シンデンと諜報部長官との会話は、口や唇を少しだけ動かしたり震わせるだけで会話をするという特別な話法であり、声や音は出していないという特殊技術である。この会話方法はキャリフォルニア星域軍でも諜報部や特殊部隊の人間だけがマスターしている物で、他の星域には今のところ会話の方法は知られていない。シンデンと長官の会話だが、メアリーとアーノルドの会話が終わったため、時間切れで物別れのような感じで終わってしまった。
★☆★☆
総会の準備が整う中、色々な事がステーションで起きていた。いわゆるテロ活動という奴である。大概のテロ行為はスス星域国が責任を持って対応していた。しかし今回はベイ星域の開催予告が急ぎだったこともあり、その対応に漏れが出てしまった。
「メアリー大統領、俺の後ろに」
会場へ向かう通路で、そのテロリストはメアリーを待っていた。センサーによるスキャンをくぐり抜けて来るために武器らしき物は持っていなかったが、気功術士である彼には武器など不要だった。
「…」
テロリストは気を纏うとメアリー目がけて突っ込んで来た。シンデンも護衛とはいえ今は会場に向かうために武装は持っていない。そして周囲にスス星域の警備員もいなかった。つまり、シンデンも無手で相手をすることになるとSPやメアリー達は思っただろうが、そこは抜かりは無かった。
「!」
「人型機動兵器に乗らなくても、この程度は可能だぞ」
手刀に気を纏わせて襲いかかってきたテロリストに対して、シンデンは腰から一筋の糸を繰り出して気を込めて刃とすると、テロリストの手刀をはじき返した。今回の護衛を受けるに当たって、愛刀の持ち込みが禁止される場合もあると考え、準備しておいたのがこの糸であった。太さ一ミリ、全長二メートル程の長さの糸だが、帆船由来の素材であり、シンデンが気を込めれば立派な刃となる。
「…」
シンデンの刃に驚いたテロリストだが、襲撃を諦めるつもりは無いのか、必死の顔で襲いかかってきた。テロリストは、シンデンを邪魔だと言わんばかりに気を使って体を強化すると、壁や天井を跳ね回って、直接メアリーを狙ってきた。
「そんな手に乗るほど甘くはない」
シンデンはテロリストの動きを見極めて、彼の体に刃を突き刺した。チャクラの一つを刃に貫かれたテロリストは、気を使うことが出来なくなり、そのままシンデンとメアリーの間に崩れ落ちた。
「理力フィールドを強化しろ」
刃から微妙な気の変化を感じたシンデンは、SPの理力使いに理力フィールドの強化を命じた。その瞬間、テロリストの体は爆発した。
「メアリー大統領は無事か?」
「はい、何とか」
シンデンは気のフィールドで体を護ったが、メアリーはSPが張った理力フィールドで護られていた。
「シンデンさんが注意してくれなかったら危なかったです」
「いや、貴方が自分の命令を聞いてくれたから、大統領を護ることが出来たのだ。自分もまさか気功術士が自爆するとは思わなかった」
理力使いのSPがシンデンにお礼を言うが、大統領を護ったのは彼女がとっさにシンデンの助言を聞いてフィールドを強化したからである。周囲は悲惨な状況だが、理力フィールドから後ろには被害は無かった。
「ベイ星域は今まで大勢の人の恨みを買いましたからね。大統領が替わっても恨みをぶつけてくる人がいると言うことですね」
メアリーがため息をつく。
「大統領、ここは私に任せて、議場に急いでください。時間がありません!」
SPのリーダーが集まってきたスス星域の警備員に対応すると言ったので、理力使いのSPとシンデンはメアリーを連れて会場に向かった。
★☆★☆
総会の会場は先ほどの爆発音が聞こえていたのか騒然としていた。しかしメアリーが会場に現れた事で、そのざわめきも徐々に収まっていった。
「メアリー大統領御無事でしたか」
スス星域のシモネン大統領が壇上からメアリーに駆け寄ってきた。
「ええ、私は無事ですわ」
「良かった。スス星域が仕切る総会の会場で、あの様な事が起きてしまい申し訳ありませんでした」
「お詫びは宜しいです。それよりシモネン大統領、総会を開催してください」
会場にはメアリー以外の代表がそろっており、リモート出席者も含め総会を始める準備は整っていた。
「分かりました」
テロに遭ったのに動じないメアリーの言葉に気圧されるように、シモネン大統領が壇上に上がっていった。
「それでは、メアリー大統領も来られたので、これより第三百四十二回、星域連合総会を開催します」
スス星域の星域連合総会であるため、総会の議長はシモネン大統領である。開催の言葉で会場は静かになる。
「では、今回の総会の開催を提案されたメアリー大統領に、本総会での議題に付いて説明をお願いします」
幼女のメアリー大統領が壇上にトコトコと歩いて行くと、会場から失笑が漏れたが、メアリーは気にせず壇上に上がった。マイクにも背が届かないので専用の台座が用意されていた。
「私がベイ星域大統領メアリーです。私はついこの前の大統領選で選ばれたばかりの若輩者ですが、その私の提案した総会に、多忙の中お集まりいただきありがとうございます。今回は、私メアリーが星域の皆さんにお聞かせたい事があり、総会を開催させていただきました。まずは本総会を開くに当たって議題とさせて頂いた『禁忌技術の使用について、再度星域間の合意を確認する』についてお話しさせて貰います。これは最近とある星域の内戦で禁忌技術が使用されたと思われる映像です」
メアリーの話と共に、台上のスクリーンにキャリフォルニア星域軍が内戦で使用したクローン脳ユニットの戦闘映像が映し出された。しかしその超光速空間の戦闘映像はキャリフォルニア星域軍の艦艇からの撮影された物では無く、別な船が撮影していたと分かる物だった。
>『電子頭脳さん、あの時キャリフォルニア星域以外の船って存在した?』
>『本船の索敵には他の艦艇は見つかっておりません。どうやらベイ星域には、本船の索敵をすり抜けるほどの高度なステルス艦があるようですね。水中ドローンも開発しましたので、今後は見つけ出して見せます!』
>『お、おう。頑張ってくれ』
電子頭脳は、自分の索敵をすり抜けられたことに怒っていた。話を振ったシンデンとしては、頑張ってくれとしか言えなかった。
「それが禁忌技術を使った物という証拠はあるのかね。新しい有人機動兵器という可能性もあるだろう」
「確かに、映像だけでは証拠にはならない」
「新型の有人兵器と言っても、あれだけの魔法使いや理力使いを揃えるの大国でも難しいぞ。それに機動兵器の性能が皆同じに見えるな」
「超光速回路を駆動するクローン脳ユニットは聞いたことがあるが、能力者のクローン脳ユニットの存在など始めて聞いたぞ」
メアリーの発言に会場から、様々な声が飛び交った。
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