メイド無双
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
『証拠とはその人型ドローンの事を言うのか?シンデン、貴殿は星域軍を馬鹿にしているのかね』
超光速空間上で、帆船と巡洋艦は無事接舷を行い、データの入った媒体を届けるように命令した響音が甲板に出たところで、巡洋艦から抗議の光通信が送られてきた。
>『電子頭脳、まさか馬鹿にするような内容の通信を送ったのか?』
>『否定。「接舷して、こちらの身の潔白を証明する証拠を渡す」と通信』
>『それならどうして巡洋艦は怒っているんだ?』
>『不明。人類の思考分析は、バックアップ霊子の方が得意』
>『いや、確かに俺は人類だが大昔の人間だからな。シンデンの記憶を見ても、何が悪かったか分からない。証拠のデータを格納した媒体を響音から渡せば、後は星域軍の軍人が受け取ってくれると思ったんだけど…。それとも人型ドローンより作業ドローンの方が良かったのか?』
>『分析不能』
帆船の電子頭脳と俺は、どうして巡洋艦の連中が怒っているのか分からず、頭を悩ませていた。
★☆★☆
一方、巡洋艦では。
「おい、”証拠を渡す“と言っておいて、出てきたのが人型ドローン。それも、あれは…その…男性向けの人型ドローンじゃないか。もしかして、シンデンとかいう傭兵は我々をからかっているのか」
「確かに。しかもメイド服とは、趣味の良い…。いや、身の潔白を証明する証拠として人型ドローンを送ると言うのは、将官も聞いたことがありません」
「うむ、儂もそう思う。抗議の通信を送れ」
「はっ、直ちに通信を送ります」
光通信が送られる間、
「副官、シンデンは星域国とやり合うほどの凄腕傭兵と聞いていたが、本当なのか」
「はっ、傭兵ギルドでも一二を争うと聞いておりますが、傭兵の評価ですし、当てにならないかもしれません」
「そうだな。いや、もしかするとあの帆船は、シンデンの名を語っているとは考えられないか」
「通信で送られて来た傭兵IDは、シンデンの物でした。船の登録IDや船体形状も一致しております。今のところ別人という証拠は出てきておりません」
「IDなど偽装は可能だろう。船体形状などいくらでも変えられる」
「しかし、指名手配されている傭兵の名を語るというのは、些か愚かだと思うのですが…」
「もしかして、傭兵と偽って我が星域に進入しようとした海賊かもしれないな。そういえば、新型の船内制圧ドローンが配備されていたな。その性能も確かめたい。出撃させて、人型ドローンを拘束させるのだ。しかる後に船を臨検して証拠とやらを見せて貰うとしよう」
最新鋭である巡洋艦には、それ又新型船内制圧ドローンが搭載されていた。艦長はその性能を確かめる良い機会だと思った。
「はっ、些か乱暴な対応ですが、それと先ほどの通信の返答は、待たないのでしょうか」
「待つ必要は無い。直ぐに実行したまえ」
「はっ、直ちに船内制圧ドローン部隊を準備し、臨検に向かいます」
副官は敬礼すると、戦術オペレータに船内制圧ドローン部隊を送るよう指示を行った。
★☆★☆
>『おい、巡洋艦から船内制圧ドローンが出てきたぞ。一体どうなっている。電子頭脳、「証拠は響音が、いや人型ドローンが持っている」と通信しろ。後、作業ドローンに航法装置を甲板に持って行かせろ』
>『了解』
しかし、その通信の前に船内制圧ドローンは動き出した。
>『クソッ、あっちはドローンでこちらを制圧するつもりだ。作業ドローンなら何とかなるかもしれないが、響音じゃあ、歯が立たないだろ。直ぐに戻るように響音に命令を伝えなきゃって…おい、響音さん、何をしてるんですか』
船内制圧ドローンによって、響音が破壊されてしまうと思ったのだが、響音は作業ドローンが苦戦するほどの戦闘能力を持っていたことを、俺は忘れていた。
巡洋艦から出てきた六機の船内制圧ドローンは、モノアイが付いた頭部に四本のアームと二つの足を持つ人型のドローンであった。西洋の甲冑のような刺々しい威圧感たっぷりの外見であった。船内制圧ドローン臨検という名目のため、制圧戦で使われるような高出力射撃兵器を搭載していなかったが、四本の手には、敵対するドローンを停止させるための電磁ロッドが握られていた。そんな物で殴られれば、響音など一瞬で破壊されてしまうだろう。
『ピィ、抵抗は無駄だ。拘束する』
『私は、殿方の相手しかしないのです。貴方のような船体制圧ドローン方には、これがお似合いです。えいっ』
拘束しようと襲いかかってきた船内制圧ドローンに対して、響音はメイド服の中から取りだした竹箒を振るった。
『jdふぁ;じゅふぉいあおいえら』
切り裂かれた船内制圧ドローンが意味不明な言葉を発して停止する。
『ピィ、抵抗は無駄だ。大人しく降伏せよ』
仲間を破壊された船内制圧ドローン達は、響音を脅威と感じたのか、彼女に取り囲んだ。
『多人数プレイのオプションは装備されていません』
響音は、飛びかかってきた船内制圧ドローンの電磁ロッドを躱すと、その手を握って捻ると、別のドローンに叩きつけた。衝突した二体のドローンは、打ち所が悪かったのか、そのまま行動不能となった。それによって包囲に隙ができ、そこを突いて響音は包囲から抜け出した。
『私の目的はデータ媒体を渡す事です。邪魔をするなら容赦はしません』
『ピィイイイ』
響音の挑発的な発言に、船内制圧ドローンのAIが何故か怒り出す。残った三体のドローンは縦列を組むと響音に向かって迫ってきた。
『そんな旧式な連係攻撃をするとは。相当馬鹿なAIを搭載されているのですね』
響音は哀れむような目を向けると、先頭のドローンに向かって走りだした。
先頭のドローンの電磁ロッドが響音に届くという間合いで、ドローンの胸が開き、スタングレネードのような閃光と電磁波を発射した。通常のドローンであれば閃光で光学センサーがハングアップし、電磁波によって電子頭脳が焼け焦げてしまう。
しかし響音は左手のちりとりで目を隠して閃光を防ぐと、電磁波攻撃を飛んで回避した。
電磁波攻撃は同士討ちを避けるために射界が狭い。それを知っていれば、有効範囲外に出ることで被害を受けない。船内通路であれば上にしか逃げ場が無いが、広い空間であれば左右に避けることも可能である。上では無く左に飛んだ響音を見て、三体のドローンは非難の目を向けるが、某ジェットな流れの攻撃は止められないのか、突き進んでいく。
『ピィ、反則』
『旧式な連係攻撃にロマンを感じるAI設計者を呪いなさい』
電磁波の余波でメイド服をスパークさせながら響音は、最後尾でジャンプ中のドローンの足を掴むと、そのまま前の二体に投げつけた。甲板に投げ出された三体のドローンは、絶妙な形で手足が絡みつき動けなくなった。
『今度はもっと紳士にお誘いください。それでは、私は媒体を届けて参りますので』
竹箒とちりとりをメイド服に収納した響音は、動けなくなった船内制圧ドローン達に優雅にカーテシーをすると、巡洋艦に向かって走って行った。
>『あー、なんだ。もしかして俺の知らない間に響音を改造したのか?』
>『否定』
>『じゃあ、船内制圧ドローン相手に響音が無双したのは』
>『海賊のカスタマイズと船内制圧ドローンが欠陥品だったと推測』
>『…なるほど。それで響音は何故巡洋艦に入っていったんだ?』
>『命令は、「データ媒体を届けること」』
>『すぐに呼び戻せ』
>『巡洋艦内への通信は不可能』
>『大至急巡洋艦に「人型ドローンが、データ媒体を手渡しに向かった」と通信を入れろ』
>『了解』
それから巡洋艦の船内でどのような騒動があったのかは不明だが、響音は無事にデータ媒体を手渡しして戻ってきた。
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