巨大人型戦艦の最後
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
飛び込んできた帆船に対して、巨大人型戦艦がその巨大な手足で帆船に襲いかかってきた。
『遅い!そして軽い』
準エーテル空間と異なり帆船の慣性制御や重力制御、スラスターが十分に性能を発揮する宇宙空間では、巨大人型戦艦の攻撃は遅く軽かった。
>『何ダト!』
準エーテル空間で船首像を殴り飛ばしたディノハ級の腕の一振りを、船首像は左手だけで受け止めた。もちろん気で船首像の船体は強化しているが、船首像と帆船の慣性制御が合わされば、百倍の質量差があってもこの様に受け止めることは可能だった。
>『引ッカカッタナ』
しかしディノハ級も拳を受け止められるのは予想の範囲で、船体の各所から大量の小型ミサイルを帆船目がけて発射してきた。
『一度見た攻撃に引っかかるわけが無いだろ』
『シールド!』
帆船の副砲と雪風のレーザー砲が小型ミサイルを迎撃し、そして最後はシオンのシールドの魔法が迎撃を逃れた小型ミサイルを受け止めた。
『ブラックボックスの様に一刀両断は出来ないが、帆船が一緒ならこういう手もある。ラムアタックモード起動』
船首像の両手がドリルに変形すると、船首像の足が宇宙を蹴って直進する。
船体に多重に理力フィールドを張り、船首像と帆船のラムアタックを受け止めようとするが、気で強化され帆船と雪風の推進力が加わったことで、ドリルは理力フィールドを次々と破壊して巨大人型戦艦の胴体に突き刺さった。
>『グオオオォ』
胴体をドリルで貫かれた巨大人型戦艦は、真っ二つになるとそのまま活動を停止した。手足となった小型艦も離脱することなく爆発するのは、合体した際に一種の融合状態になっているからだろう。
>『一人デハ駄目ダ。複数デ囲ンデ叩キ潰セ』
超ギアー級が変形した巨大人型戦艦…イプシロンの命令で、ディノハ級巨大人型戦艦が三隻、前と左右から襲いかかってきた。三隻から発射された小型ミサイルが雨あられと帆船に襲ってきた。帆船は小型ミサイルの爆発の閃光に包まれるが、帆船と雪風はその爆発を全てシールド魔法とシールドの魔弾で防ぎきった。
>『シールドヲ張ッテイル間ニ叩キ潰スノダ』
小型ミサイルをシールド魔法で防いでいると、三方向から巨大人型戦艦が帆船に向かって体当たりを仕掛けてきた。船首像で受け止めても巨大質量で押しつぶすつもりなのだろうが、そんな力押しの攻撃が三隻がそろった状態の帆船に通じるわけが無い。
『雪風、左の敵に対艦ミサイルを発射しろ』
『シンデン、雪風じゃ無くて私に言ってよ』
シオンが文句を付けるが、雪風はシンデンの命令に従って左の巨大人型戦艦に向けて対艦ミサイルを発射する。右の巨大人型戦艦には帆船の主砲が榴弾を発射する。対艦ミサイルと榴弾は巨大人型戦艦の理力フィールドに命中して大爆発を起こすが、巨大人型戦艦にはダメージは無い。しかしミサイルと榴弾の爆発で二隻の巨大人型戦艦は一瞬停止してしまった。三隻の連携が崩れたその一瞬の隙に、船首像は残った巨大人型戦艦の体にドリルを突き立てていた。
手から胴体までをドリルで貫かれた巨大人型戦艦が大爆発を起こす。その爆発の中から帆船は、光速の魔弾と徹甲弾を右の巨大人型戦艦に向けて発射した。光速の魔弾で理力フィールドを壊して徹甲弾が巨大人型戦艦の機関部に命中する。八十センチ、五十口径の徹甲弾はその威力を遺憾なく発揮して、巨大戦艦の機関部を破壊した。それを見てもう一体の巨大人型戦艦が機関部を防御するかのように腕で機関部を防御するが、船首像のドリルはその防御を突き破り、機関部を貫いた。
帆船と船首像によって瞬く間に四隻のディノハ級が破壊され、レリックシップ艦隊に動揺が広がった。その動揺が収まらない間にも、帆船は次々とディノハ級巨大人型戦艦を破壊していった。
>『馬鹿ナ馬鹿ナ、コンナ事ハアリ得ヌ』
三分と立たずに、ディノハ級巨大人型戦艦が全て破壊され、イプシロンが絶叫するが、これが船首像と帆船、雪風がそろったときの強さなのだ。
>『このまま宇宙空間で戦うのは不利です。一旦、準エーテル空間に逃げて、体勢を立て直しましょう』
>『ヌウ、シカタ有ルマイ』
ミクロンが宇宙空間で戦う事の不利を告げると、超ギアー級巨大人型戦艦は、準エーテル空間に逃げ込んだ。
>『電子頭脳さん、この船は準エーテル空間に入って大丈夫なのか?』
>『はい、準エーテル空間でも問題はありません。レリックも準備してあります』
準エーテル空間専用の超光速航法回路のレリックは既に準備済みだった。
>『よし、直ぐに追いかけて倒すぞ』
>『了解です』
『雪風、シオン。あの船を追って準エーテル空間に向かう。通常の光速空間と異なるから、注意しろ!』
『あの船を追いかけてやっつけるのね』
『シンデンさん、早く倒してしまいましょう』
『メアリー大統領、俺達はあのレリックシップを追いかけて準エーテル空間に向かう。戻ってくるまでにルフラン星域軍と話を付けておいてくれ』
『シンデンさんは、あの空間に再び戻られるのですか?その船はあの空間で戦えるのですか?』
『心配は無用だ。とにかくミクロン大統領をひっ捕まえて戻ってくる』
『御武運を』
メアリーに後を任せて、帆船と雪風は準エーテル空間に入っていった。
★☆★☆
準エーテル空間に出現した帆船だが、当然今のままでは砂の上で動きが取れない。
『砂の海…』
『これが準エーテル空間ですか…』
『驚くのは後にしろ。雪風を一旦帆船から切り離すぞ。船首像で雪風を振り回すことになるから、慣性制御と重力制御を最大にしておけ』
シオンとスズカは広大な砂の海を見て驚くが、それに構っている暇は無い。帆船は雪風を切り離して、慣性制御と重力制御を使って砂上に浮き上がると、船底からスキッドをだして砂地の上に着地した。
『雪風、今から雪風を船首像で抱える。抱えやすいように魔法砲撃戦モードに変形するんだ』
『だから、雪風じゃなくて、私に言ってよ。…って、魔法砲撃戦モードって何?』
『そう言えば魔法砲撃戦は未完成だったから、シオンには説明してなかったな。魔法砲撃戦モードは、シオンが攻撃魔法を使うのに特化したモードだ。雪風が魔法格闘戦モードに変形して攻撃魔法を使うと目立つから、最小限の変形で帆船と合体したまま攻撃魔法が使えないか検討中のモードだ。まだ調整が上手く出来ていなくて、魔法格闘戦モードにくらべ魔法が使いづらいが、そこは我慢してくれ』
『雪風、そんなモードを作ったのなら私にも教えてよ』
『申し訳ありません。魔法砲撃戦モードを完成させた後で知らせて、マスターをびっくりさせたいと思っておりました』
『シオン、雪風を攻めるな。完成するまでシオンには秘密にしろと俺が言ったんだ。出来ればこんな場でお披露目はしたくなかったが、魔法格闘戦モードでは船首像で雪風を抱えられないからな。未完成だが、魔法砲撃戦を使うしかないのだ』
『分かったわ。じゃあ、魔法砲撃戦モードに変形して』
雪風の魔法砲撃戦モードだが、本来先端部が開いて人型の上半身が出てくる部分が少し開き、船体から飛び出しているフィン状の部分が消えて、ぱっと見には巨大な砲塔のような形状となる。
船首像は液体金属でベルトを作ると、雪風を抱えて帆船の上に飛び乗った。
>『こちらは準備完了だな』
>『あちらも準エーテル空間に入り終わったようです』
帆船より先に準エーテル空間に入った超ギアー級巨大人型戦艦だが、船体が巨体な事と帆船が所持するレリックより回路の性能が悪いため、俺達が戦う準備を整えた所で、ようやく全体が砂上に現れた。
砂上に全体が現れた超ギアー級巨大人型戦艦は、船体各所から小型ミサイルを発射して帆船に近づいて来た。帆船は後部の緊急加速スラスターを使って砂上を滑って移動すると、ミサイルを回避しながら超ギアー級巨大人型戦艦との距離を取った。
『魔法砲撃モードのお披露目だ、一撃で片付けてやる。シオン戦略級魔法を準備してくれ』
『わかったわ。うーん、このモードだと魔法の発動に時間がかかるけど、大丈夫?』
『問題ない。小型ミサイル程度ならシールドの魔弾で防げる』
帆船が砂上を走りミサイルを回避する中、シオンは戦略級魔法の詠唱を始めた。
『集いしマナよ、煉獄の炎の矢となりて我が敵を滅せよ…』
シオンが呪文を唱えると、船首像が抱える雪風から巨大な魔法陣が現れ膨大なマナが雪風の船体に収束していった。帆船と雪風が戦略級魔法を発射しようとしていることに気づいた超ギアー級巨大人型戦艦は、ホバースラスターを噴かして距離をとると、左右の腕から超大型のミサイルを発射した。
これまでの小型ミサイルとは異なり、ICBMの様な巨大なミサイルが帆船に向かって飛んでくるが、遠距離から発射されたミサイルなどただの的である。主砲が火を噴き対空散弾で巨大なミサイルを打ち落とした。打ち落とされたミサイルは巨大なキノコ雲を上げて地面を蒸発させるが、帆船はその爆発範囲から素早く逃れていた。
帆船がドリフトターンを決めて、船首像が構える雪風が超ギアー級巨大人型戦艦に狙いを定める。
『メギドファイア!』
そしてシオンが呪文詠唱を終えると同時に、雪風の先端から戦略級魔法が発射された。戦略級魔法発射の反動は強烈で船首像は足を踏ん張るが、それでも甲板の上を移動していった。そして戦略級魔法の巨大な炎の一撃は、超ギアー級巨大人型戦艦が張った多重理力フィールドを貫き、右手と胴体と足を消し飛ばした。
>『我ガ負ケタ…ダト』
消滅を免れた左手のギアー級が地面に落下して爆発する中、頭部であった艦橋部が砂上に落下していく。シンデンは雪風を砂上に置くと、船首像でその艦橋部を受け止めた。
捕まえた艦橋部を覗き込むと、そこには頭を抱えてしゃがみ込んだミクロン大統領がいた。
『俺はミクロンとイプシロンを捕まえてくる』
『シンデン一人で大丈夫なの?』
『艦橋にはミクロンしかいない。俺一人で十分だ』
『シンデンさん、気を付けてください』
船首像から降りたシンデンが、艦橋部に近づくと、ミクロンが俺に向かって銃を構えた。艦橋の窓の部分は戦略魔法の余波で破壊されており、ミクロンとシンデンの間を遮る物はなかった。
ミクロンの構えた銃は、古めかしいリボルバーの様な形状で、彼が引き金を引くと、「パン」と音を立てて弾丸が発射された。ミクロンは今まで射撃などしたことも無かったのか、弾丸はシンデンに命中することもなく何処かに飛んでいった。ミクロンは慌てて残り五発を撃ったが、シンデンに命中したのは一発だけだった。それもシンデンの気功術のフィールドを貫くほどの威力は無かった。
「ミクロン大統領、いい加減諦めろ」
シンデンは愛刀を一振りして、ミクロンの銃を斬り捨てた。
「シンデンさん、貴方さえいなければ…」
「お前は、人類をケイ素系生命体の奴隷にするつもりだったのか?その結果がどうなるか、イプシロンから聞いていないのか」
「…聞いていません」
ミクロンは力なく首を横に振った。
>『イプシロン、お前は自分達ケイ素系生命体が有機生命体を支配して何をするつもりだったのだ。結局どこかでシグマと同じような固体が現れて、戦争が始まるとは思わなかったのか?』
>『あのような間違いは起こさない。他の固体は全ては我が支配しているのだ。シンデンとやら、ミクロンの代わりに我を使って人類を支配するつもりはないか?』
ここまで来ても、イプシロンはシンデンに「人類の支配」と持ちかけてきた。
>『俺にそのつもりは無い』
シンデンは愛刀を一振りすると、艦橋の中央にあった円柱を切り裂いた。そこにはシグマとソックリな水晶玉が鎮座していた。
>『我を破壊するのか』
>『お前を殺すつもりもない。暫くはここで大人しくしていろ』
シンデンは懐から袋を取り出すと、イプシロンをそれに収めた。その袋は霊子力通信を遮断するレリックであり、これでイプシロンは霊子力通信が行えなくなった。
「…あぁ」
イプシロンと霊子力通信ができなくなったミクロン大統領の目から力が失われていった。シンデンはミクロンごと艦橋部を帆船に運んだ。ミクロンは作業ドローンに連れられて帆船の部屋に軟禁して、誰もいなくなった艦橋部は準エーテル空間の砂の中に投棄された。
こうして人間を支配しようとしたケイ素系生命体との戦いは終わった。
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