ルフラン星域軍とベイ星域軍の戦い3
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
衛星軌道上にステーションが出現したことで、ルフラン星域軍は混乱に陥った。
『大統領、ステーションが出現した理由をお聞かせ願いたい』
『提督、貴方の言っていたことは嘘だったのですか』
『ベイ星域大統領の言っていたことが事実だったのか?』
「どうして、ステーションが現れるんだ」
「提督、それはこちらがお聞きしたいのですが」
ルフラン星域軍第一艦隊の旗艦では、提督が冷や汗を流しながら、旗艦の艦長やブリッジ要員、有人戦艦の艦長から質問攻めに遭っていた。
>『ステーションは準エーテル空間から動かない。そのはずだったので?』
>『馬鹿な。シグマの奴は何を考えているのだ。ええい、お前はステーションの事より、星域軍を何とかするのだ』
ギアー級の艦橋では、ミクロンがイプシロンに詰問するが、イプシロンも状況が分からず、ミクロンを逆に叱りつけていた。
>『…分かりました』
ミクロンはイプシロンに頭が上がらないため、何とかルフラン星域軍を動かそうと考える。
『ルフラン星域軍の皆さん、ステーションが突然現れて驚かれたでしょう。どうやら私が最後に残してきたドローンがメアリー大統領が仕掛けた装置を破壊してくれたようです。そのお陰でステーションが戻ってきたのです』
ミクロンは空々しい嘘の通信をルフラン星域軍に発進するが、もちろんその通信で誠意軍の混乱が収まるわけもなかった。
『ミクロン大統領、貴方の話は嘘まみれだな』
そして決定的なタイミングで、ステーションから船首像が飛び出した。
『シンデンさん、貴方は死んだはずでは…』
『生憎と、俺は生きているぞ。そしてステーションを再び宇宙空間に戻したのは、ミクロンのドローンでは無く、俺がやった事だ』
『ぐぬぬ…』
イプシロンやシグマの事を公言できないミクロンは、シンデンからの通信に何も言い返せず唸るだけだった。
>『シグマ、我らと再び敵対するつもりなのか?また有機生命体に騙されるつもりか』
>『イプシロン、儂は有機生命体を支配する事には反対と言ったはずだ。儂らは有機生命体と係わっては駄目なのだ』
>『有機生命体に係わらないというなら、何故あの傭兵に従ってステーションをこちらに出現させたのだ?』
>『彼奴は有機生命体というより、我らに近い存在だ。そしてやはり儂はおまえ達のやっていることには賛同できないと分かったからだ』
>『シグマ、お前は又有機生命体に騙されているのだ』
>『例え騙されていたとしても、儂はやはりお前達のように有機生命体を支配したいなどとは思わぬ。イプシロン、お前の野望はここで終わらせて貰う』
>『戦艦の無い貴様に何が出来る』
>『傭兵は儂をこのステーションのネットワークに接続してくれたぞ。今はこのステーションが儂の体だぞ』
一方、シグマとイプシロンは霊子力通信で会話をし、シグマはイプシロンと敵対することを表明した。そしてステーションの防御兵器がレリックシップ艦隊に向けられた。
>『シンデン、やはり生きていたか』
>『マスターは必ず生きていると信じていました』
>『電子頭脳さんは、「マスターの仇は必ず取ります」とか言っていたくせに…』
>『霊子力通信が妨害されていたからな。俺が死んでしまったと誤解しても仕方ない』
>『マスターはお優しい。バックアップ霊子も見習ってください』
>『いや、シンデンとバックアップ霊子は同一人物だぞ』
>『…とにかく今はこの戦いをどうするかが重要です。マスターには何か策があるのでしょうか?』
>『ベイ星域軍がステーションに逃げ込めば、ルフラン星域軍も攻撃出来なくなるはずだ。メアリー大統領とベイ星域軍にそう伝えるぞ』
>『ステーションに逃げ込んで大丈夫なのか。ベイ星域軍ごと準エーテル空間に入るんじゃ無いのか?』
>『大丈夫だ。あのステーションは今は俺達に味方してくれる奴…シグマによって制御されている。シグマはミクロンを操っているイプシロンを止めたいと思っている』
>『シグマ?それにミクロンがイプシロンという奴に操られているとは?』
>『事の発端は、ケイ素系生命体同士の争いだ…』
ここで、シンデンは俺と電子頭脳は霊子力通信で、ケイ素系生命体とミクロンの関係について簡単に話してくれた。
>『そんな事があったのですか。創造主もケイ素系生命体の存在には気づいていませんでした』
>『分かった。シンデンはそのシグマを信頼しているんだな。それならバックアップ霊子もシグマを信じるぞ』
シグマが信じられる存在と判断し、シンデンはベイ星域軍と傭兵達に通信を送った。
『メアリー大統領、ベイ星域軍と傭兵達をステーションの宇宙港に待避させてくれ。そうすればルフラン星域軍も攻撃出来なくなるはずだ』
『シンデンさん、よくぞ御無事で。それでステーションをあの空間から戻したのは、シンデンさんがやられたことなのですか?』
『ああ、そう思ってくれ。とにかく今はステーションに逃げ込んでも、あの空間に行くことは無い。メアリー大統領、俺を信じて欲しい』
『…分かりました。全艦ステーションに待避します』
メアリーはシンデンからの提案に、少し考え込んだが同意して頷いた。
『シオン、良く頑張ってくれたな。帆船と雪風はベイ星域軍がステーションに待避するまで殿を努めるぞ』
『シンデン、ようやく戻ってきてくれたのね。私達はベイ星域軍がステーションに待避するまで守り切れば良いのね。分かったわ』
『シンデンさんが戻ってきてくれて良かったです』
シオンとスズカはシンデンが戻ってきた目に涙を浮かべて喜んでいた。
『心配をかけて済まなかった。ルフラン星域軍の兵士は今混乱している。攻撃を仕掛けてくるのはAI戦艦と戦闘ドローンだけのはずだ』
『無人なら遠慮無く雪風で倒せるわ』
『任せてください』
ベイ星域軍の対応を帆船と雪風に任せ、シンデンはミクロン大統領が乗っているレリックシップの方に向かって行った。ベイ星域軍がステーションに逃げ込むまで、シンデンはレリックシップの気を引くことに徹するつもりだった。
『シンデンさん、貴方はどうして私の邪魔ばかりするのですか』
『ミクロン大統領、俺はそのレリックシップに人類を支配させるつもりは無い!』
ギアー級を筆頭とするレリックシップの艦隊は、船首像に向かって砲撃を仕掛けてくる。準エーテル空間と異なりレーザーやブラスターによる弾幕だが、通常の宇宙空間であれば船首像は自在に動けるため回避するのも容易い。
>『援護するぞ』
>『助かる』
船首像に気を取られていたレリックシップに向けて、帆船から光速の魔弾による援護射撃がやって来た。光速の魔弾は全長三百メートルのディノハ級の理力フィールドを破りその主砲を破壊した。一方全長がキロメートルを超えるギアー級は多重の理力フィールドを張って光速の魔弾を防いでいた。
帆船からの援護射撃の威力に驚いたのか、レリックシップ達は防御を固めた。
『ルフラン星域軍の皆さん、ベイ星域軍に攻撃を集中してください』
レリックシップが防御を固めた変わりにとミクロン大統領が必死に星域軍に攻撃をする様に通信を送るが、ルフラン星域軍の兵士はステーションが現れた事で混乱しており、組織だった攻撃は出来ない状況だった。そのお陰でベイ星域軍はAI戦艦と戦闘ドローンの編隊を突破してステーションの宇宙港に逃げ込むことができた。
『ええい、こうなればステーションごとメアリー大統領を抹殺するのだ!』
『提督、ルフラン星域のステーションを攻撃してどうするのですか。それにステーションを破壊してしまうと、惑星状に重大な被害が出てしまいます』
『かまわん、ステーションを攻撃しろ!』
『誰か、提督が乱心した。急いで止めるのだ』
ルフラン星域軍第一艦隊の旗艦では、提督がステーションへの攻撃を命じて艦長とブリッジ要員によって取り押さえられていた。
『メアリー大統領、ステーションに捕らわれているルフラン星域のSPとマスコミ関係者を解放してください。彼らに証言をさせれば、ルフラン星域軍は戦いを辞めるでしょう』
『分かりました。私もルフラン星域軍とは戦いたいとは思っておりません。彼らに協力をお願いしましょう。護衛艦から船内制圧ドローンを出してください』
シンデンの提案に、メアリーは頷いて行動を開始した。
『レマもベイ星域軍に協力してくれ、響音はレマの護衛を頼む』
メアリーが動き出したのを確認したシンデンは、レマと響音にベイ星域軍への協力を命じ、それに紛れて人型ドローンの一体にシグマの回収を命じた。
『ようやくシンデンに追いついた』
ベイ星域軍がステーションに逃げ込んだことで、帆船は船首像の元にやって来て二隻は合体した。
『シオン、よく頑張ったな』
シンデンはバックアップ霊子と同期して、全ての事情を把握した。
>『問題は、あのレリックシップを操っているケイ素系生命体とミクロンをどうやって倒すかだな』
>『マスターの命を狙ったケイ素系生命体の乗るレリックシップなど、破壊でよいでしょう』
>『電子頭脳さん、レリックシップは破壊しても良いが、ミクロンは星域大統領だからね。問答無用で殺しちゃ不味いんだよ。それにケイ素系生命体も破壊するのは避けたい』
>『また難しい事を要求しますね』
>『ミクロンを殺してしまうと、シンデンは流石にどの星域にも入れなくなる。だから仕方ないだろう』
>『人類社会は面倒ですね。了解しました。砲撃で攻撃力を奪っていけば良いのですね』
電子頭脳の説得が終わったので、帆船と船首像が本格的にレリックシップに対して攻撃を開始した。
『帆船と船首像は攻撃に集中する。シオンと雪風には防御を任せる。ベイ星域軍がいるんだ、魔法格闘戦モードは使うなよ』
『分かったわ』
帆船は、副砲の光速の魔弾でディノハ級以下の地上戦艦の砲塔を破壊していった。一方多重の理力フィールドで光速の魔弾を防ぐギアー級とミクロンが乗る超ギアー級に対しては、光速の魔弾と主砲で徹甲弾を連続で打ち込んだ。人間では不可能な魔弾と徹甲弾の同時着弾という精密射撃だが、帆船の電子頭脳なら余裕で実行可能だ。
>『この程度の弱い理力フィールドを多重展開しても、本船の攻撃を防ぐ事は出来ませんよ』
電子頭脳の言う通り、光速の魔弾で多重に張られた理力フィールドに負荷を与えて、そこに主砲の徹甲弾が同時に着弾することで、ギアー級の防御を貫き砲塔を次々と沈黙させていった。
もちろんディノハ級やギアー級から反撃もやって来る。しかしディノハ級のレーザー砲やブラスターでは帆船の装甲を貫くことは不可能であった。そして帆船の装甲を貫きそうな超ギアー級からの砲撃は、シオンのシールド魔法とシールドの魔弾の多重展開によって防御していく。
>『馬鹿ナドウシテ我ラガ打チ負ケル』
>『準エーテル空間までしか到達できなかったレベルの文明に、本船が負けることなどあり得ません』
超ギアー級から悲鳴のような霊子力通信が入るが、電子頭脳が煽るような返信を送った。
帆船とレリックシップ達の戦闘が進む間に、ステーションではルフラン星域のSPやマスコミ関係者が解放されていった。
『ルフラン星域軍の皆さん、今回の事件は全てミクロン大統領の仕組んだ事です。それについては、マスコミが証人となります』
『ミクロン大統領。我々SPまで拘束して、貴方は私達をどうするつもりだったのですか?』
『そ、それは…。とにかく大統領命令に従ってください』
SPとマスコミ関係者による通信と、それに返答できないミクロンの狼狽した通信によって、ルフラン星域軍はこれ以上ベイ星域軍と戦う意思を無くしてしまった。
『ルフラン星域軍は、ベイ星域軍との戦闘を中断する。各艦現状で待機するように』
ルフラン星域軍第一艦隊の旗艦から全艦に「戦闘停止」の通信が送られた。
>『さて、ルフラン星域軍は戦闘を停止した。残るはレリックシップだけだな。攻撃手段もほぼ潰した。跡は何をしてくるのかな』
>『どうやら合体して、格闘戦を挑んで来るつもりのようです。連中は本船がどうして砲塔だけ潰していったか、その理解していないようですね』
>『シンデン、気の方は回復したか?』
>『彼奴らを叩き潰すぐらいには回復したぞ』
>『では、決着を付けましょう』
『シオン、あのレリックシップ艦隊を撃破して、ミクロン大統領を捕らえれば、この戦いも終わりだ。今から突っ込むぞ。敵は大きいが、それだけだ。俺達が負ける要素は無い』
『分かったわ』
『シンデンさんに任せます』
シオンとスズカの返事を待って、帆船は船首像を起動させた。敵は合体を終えて巨大人型戦艦となっていた。
『準エーテル空間でやられた分を宇宙で返してやる!』
銀色の大刀を構えた船首像と帆船、そして雪風が巨大人型戦艦達の中に飛び込んでいった。
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