ルフラン星域軍とベイ星域軍の戦い2
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
メアリーの乗る旗艦が出現した事で、ルフラン星域軍のターゲットはベイ星域軍から旗艦に移ってしまった。旗艦も準エーテル空間では使えなかったAI戦艦や戦闘ドローンを出撃させるが、それだけでは戦力は足りない。
『旗艦を護れ!』
『野郎ども、メアリーちゃんを護るぞ』
『『『おう!』』』
「シオンさん、旗艦を守らないと」
「分かっているわよ!」
戦場が一気に旗艦の周辺に移動していく。その中でも真っ先に旗艦に辿り着いたのは、帆船と雪風だった。立ち塞がるAI戦艦と戦闘ドローンを撃破、いや時には体当たりで弾き飛ばして旗艦まで一直線に進んだ。ベイ星域軍は、帆船と雪風が空けた道を通って旗艦に向かって進んで行った。
『ルフラン星域第一艦隊の指揮官に告げます。ベイ星域軍はステーションに攻撃などしておりません。全てはルフラン星域大統領ミクロンが仕組んだ奸計です。直ちに戦闘を停止してください』
メアリーはルフラン星域軍第一艦隊に向けて通信を送るが、もちろん第一艦隊の提督がそれを受け入れるわけもなく。
『何を言っておる。ステーションと我が星域の大統領が戻らず、ベイ星域大統領だけが戻ってきた事で、なおさらベイ星域軍、いやメアリー大統領が全ての元凶だと分かったわ。ルフラン星域軍兵士よ、敵の甘言に惑わされるな』
提督は艦隊に通信を送る。ルフラン星域軍はベイ星域軍の旗艦だけが戻ってきた事で、提督の言葉を信じてしまった。
>『不味いな、旗艦だけが戻ってきた事で、敵の士気が上がってしまったぞ』
>『有人部隊も接近戦に入るようです。戦況が一気に不利になりました』
帆船は光速の魔弾で有人兵器への狙撃を行っているが、気功術士の人型兵器への攻撃は出来ない。旗艦から出撃したベイ星域の気功術士が対応しているが、劣勢な状況である。
>『掃除ドローンの記憶にあったレリックシップの艦隊が出現しました』
>『来るのが早すぎだろ』
「雪風、あの艦隊は一体何処の船なの。見たこと無い形だよね」
「レリックシップのようですが、ルフラン星域軍の艦隊なのでしょうか?」
『マスター、スズカさん、あれはミクロン大統領の艦隊です』
シオンとスズカがレリックシップの艦隊の出現に驚くが、雪風には既に敵艦として帆船から情報が送られている。
『ベイ星域軍、ルフラン星域軍、今出現した艦隊はミクロン大統領が秘匿していたレリックシップです。あの艦隊にミクロン大統領が乗っています。ミクロン大統領、そろそろ本当の事を話してください』
旗艦からメアリーがオープン回線の通信でミクロンに呼びかけた。
『メアリー大統領、本当の事とは何の事ですか?ベイ星域軍がステーションを消し去ったのは事実でしょう。SPの皆さんのおかげで私は何とか逃げ出せたのですが、マスコミ関係者を含め多数の犠牲者がでました。ルフラン星域軍の皆さん、メアリー大統領の嘘に騙されないでください』
メアリーの通信に対して、ミクロン大統領はそう答えた。
『ミクロンさん、嘘をついているのは貴方でしょう。ステーションを消したのもルフラン星域のSPとマスコミ関係者を捕らえたのも、全て貴方の仕業ですよね』
メアリーは、通信に「砂漠に浮かぶステーション」と「会談現場に雪崩れ込んだ船内制圧ドローンがルフラン星域軍のSPとマスコミ関係者を捕縛していく」映像を流した。
『衛星軌道にあったステーションがどうして砂漠に移動しているのですか?そんな馬鹿な合成映像に騙される程、ルフラン星域軍の兵士は馬鹿ではありませんよ』
ミクロンは反論するが、ルフラン星域軍第一艦隊の兵士は、メアリー大統領に映像を見せられて、ミクロン大統領の主張とどちらが正しいか一瞬だが迷った。
『ええい、ステーションが消えてしまった以上、我らが大統領のいうことが正しいであろう。なぜ大統領がわざわざ自国のステーションを消し去る必要があるのだ』
しかし、ルフラン星域軍第一艦隊の提督の通信によって、彼らはミクロン大統領の方が正しいと思い直した。
一瞬停滞した戦場がまた動き出す。このままでは帆船と雪風の援護があっても、ベイ星域軍の壊滅は時間の問題であった。
>『不味いな。このまま不殺を続けるのは厳しい』
>『しかた有りません。気功術士の人型機動兵器を破壊します』
>『分かった』
俺と電子頭脳がそう決意した時、それは出現した。
『ばかな、どうしてステーションが…』
ミクロンは思わずオープン回線で叫んでしまった。そう、衛星軌道上に現れたのは、準エーテル空間に残してきたはずのステーションだった。
★☆★☆
誰もいなくなったはずの準エーテル空間で、巨大人型戦艦の砲撃によって粉砕された跡の地面が盛り上がった。
「砂がクッションにならなければ危なかったな」
地面から出てきたのは、塵も残さず破壊されたと思われた船首像だった。
ブラックボックスの制御から解放された船首像は、そのままでは砲撃で破壊される運命しか残されていなかった。しかしシンデンはとっさに船首像の両手をドリルに変形させると、最後の気を使って砂の中に潜り込むことを選択した。船首像の背中だけ液体金属と気を使って強化し、砲弾の爆発の威力も推進力に使って砂地に潜った事で、シンデンは死ぬことを免れた。
「巨大人型戦艦はもういないか。しかし、俺一人だけこの空間に残されてしまったな。…いや、ステーションは残っているのか」
砲撃の後から飛び出した船首像の目の前には、砂に埋もれたステーションが残されていた。
「そう言えば、こいつでこの空間に運ばれたんだよな。…という事は、こいつにはこの空間と通常空間を往復するための機能が付いているはず」
船首像をステーションの宇宙港に接舷させると、シンデンはステーション内のネットワークに侵入した。
「電子頭脳さんからハッキングの技術を学んでおいて正解だったな」
シンデンはステーションの電子頭脳をハッキングすると、目的の装置が在る場所を探した。
「ミクロンの性格なら、普通の人が近づける場所には置かないだろう。探すのは、ステーション内のネットワークから切り離されて警備されている場所だな。…見つけた。この部屋にこの空間に入るための機能が隠されているはずだ」
ステーションの一角、ネットワークから切り離され、戦闘ドローンに護られた部屋をシンデンは見つけた。
「とにかく部屋まで行って確認するしかないな」
ネットワークから隔離されているため、実際に部屋に向かって見るしか確認する手段は無かった。シンデンは船首像を降りると、その部屋に向かって走り出した。
「まだ此奴らが残っているのか」
部屋に向かう通路の途中には、会談の場に出てきた船内制圧ドローンがまだ残っていた。船内制圧ドローンもネットワークから切り離されているため、シンデンのハッキングは通じない。
「邪魔だ!」
シンデンは愛刀を抜くと、船内制圧ドローンを切り倒して進んで行った。幸い船内制圧ドローンの設定は捕縛命令のままだったので、シンデン一人で何とか撃退することが出来た。
「さて、残る障害は彼奴だけか」
目的の部屋の前を護っているのは、銃を持ったガードマンの様な姿をした人型ドローンだった。
『警告します。この先は進入禁止区域です。許可無く近づいた場合は、実力を持って排除します』
戦闘ドローンはシンデンに向かってレーザー銃を構えると、そう警告してきた。
「重要な部分に配置してあるのは、スタンドアローンタイプのドローンばかりだな。ミクロンは自分以外信用していないのか?」
ネットワークから切断されているドローンの命令を変更できるのは、ミクロン大統領だけだった。
「俺はその部屋に用があるのだ。だから…力尽くで通らせて貰うぞ!」
『警告します。この先は進入禁止区域です。許可無く近づいた場合は、実力を持って排除します。…排除します』
戦闘ドローンはレーザー銃でシンデンに攻撃を仕掛けてきた。しかしシンデンは体を液体金属でコーティングしてレーザー光線を防ぐと、人型ドローンを一刀の元に斬り捨てた。
人型ドローンを倒したが、部屋のドアも当然ネットワークから切り離されロックされていた。シンデンは最後に残った気を集めて、扉を斬って部屋の中に入った。
「クローン脳ユニットでは無いな。これは一体何なんだ?」
部屋の中にあったのは、ゴルフボールほどの大きさの水晶玉に繋がれた、見たことも無い装置だった。水晶玉に見えた物体の中では小さな光が無数に飛び回っていた。
「装置に操作する端末が無い?この水晶玉が繋がれていると言うことは、これが端末なのか?」
シンデンは恐る恐るその水晶玉に触った。
>『儂に触るな』
シンデンが水晶玉に触ると、水晶玉が激しく明滅して霊子力通信が送られてきた。シンデンは慌てて水晶玉から手を放したが、部屋や装置には何も変化は起きなかった
「(これは、霊子力通信の端末だったのか。もしかしてこの装置は霊子力通信で制御するのか?それなら俺の通信回路でも制御できるかもしれないな)」
装置を制御するには、水晶玉を霊子力通信で使うのだろうと考え、シンデンは再び水晶玉に触れた。
>『儂に触るなと言っておろう。下等な有機生命体め!』
シンデンが再び水晶玉に触ると、先ほどと同じように水晶玉が激しく明滅して霊子力通信が送られてきた。
>『下等な有機生命体とは、俺のことか。そしてこの水晶玉…霊子力通信を使うと言うことは、もしかして生命体なのか?』
シンデンは水晶玉に霊子力通信を送った。
>『下等な有機生命体のくせに霊子力通信を使えるのか。イプシロンは儂をこの様な有機生命体に渡してどうするつもりなのだ?』
水晶玉はシンデンの霊子力通信に答えた。ようやくシンデンは、この水晶玉が霊子力通信機ではなく一種の生命体だと理解した。
>『俺は今のところお前をどうこうするつもりは無い。それにお前の言うイプシロンとは、ミクロン大統領の事か?』
>『ミクロンとはイプシロンに操られている有機生命体の固有名だな。イプシロンとは、ミクロンという有機生命体を操っている…儂の元仲間じゃ』
>『ミクロンが操られている?もしかして、ミクロンはあのレリックシップ達に操られているのか?』
>『貴様のいうレリックシップというのがギアー級の事を言うなら、その認識で合っておる。イプシロンはギアー級の電子頭脳と一体化しておる。そしてミクロンという有機生命体は、イプシロンによって脳内に奴の欠片を埋め込まれ、奴の下僕となって操られておる。儂は「もう二度と下等な有機生命体と係わるべきでは無い」とイプシロンに言ったのだが、彼奴は儂の言うことを聞かず、儂を船体から切り離してこの超光速航法装置に繋げたのだ』
シンデンは、水晶玉…いやケイ素系生命体から、彼らの歴史とレリックシップを操るイプシロンについて話を聞くことになった。
ケイ素系生命体は、帆船達の創造主達より先に霊子を獲得していた。しかし有機生命体と異なりケイ素を主体として生まれた彼には、知性や自我も無く、発生した星で孤独に空を見上げて体を成長させるだけの生命体だった。そんなケイ素系生命体に変化が訪れたのは、有機生命体が彼らの星にやって来てからだった。
ケイ素系生命体を発見した異星人は、ケイ素系生命体を知的生命体と思わず、霊子力通信を操れる便利な素材と考えた。そしてケイ素系生命体を通信機器や宇宙船の電子頭脳の素材に使用した。異星人は、ケイ素系生命体が霊子力通信を使える事を利用して、彼らの欠片を自信の神経中枢に埋め込み、霊子力通信による文明を作り上げた。
宇宙船の電子頭脳となったケイ素系生命体は、分割されることで個性と自我を獲得し、そして異星人から様々な知識を学び取った。異星人はケイ素系生命体が個性と自我を持ったことに気づか無いまま利用して技術と文明を進歩させた。そして異星人はケイ素系生命体が個性と自我を持ったことに気づいたときには、彼らは宇宙船の電子頭脳であるケイ素系生命体に支配される存在になっていた。
異星人を支配下に置いたケイ素系生命体は、自分達の仲間を増やしていった。しかしケイ素系生命体の中には有機生命体を支配せず共存を望む個体もいた。有機生命体を操る派閥の長がイプシロンであり、有機生命体と共存する事を選んだ派閥の長が、今シンデンの目の前にいるシグマだった。
ケイ素系生命体と異星人が二つの派閥に別れて戦った結果、勝利したのはシグマ達の派閥だった。敗北したイプシロン達はその船体も含めて準エーテル空間に封印されることになった。
そして勝利したシグマ達だが、暫くは異星人達と協力して生きていた。しかし有機生命体は寿命が短いため、異星人が世代を重ねるうちに、彼らはケイ素系生命体を信用できない存在と思い始めた。結局シグマは仲間であった異星人達に裏切られ、シグマ以外のケイ素系生命体は処分され、シグマもイプシロンと同じく準エーテル空間に封印されてしまった。
ケイ素系生命体を封印した異星人だが、彼らはケイ素系生命体を使った文明を捨てた事で文明が衰退してしまい、そのまま滅んでしまった。
そして長い年月が流れ、準エーテル空間に人類がやって来た。準エーテル空間にやって来た人類は、ルフラン星域でレリックを研究していたミクロンだった。彼は準エーテル空間に入ることが可能なレリックを発見し、それを使って準エーテル空間に入ることに成功した。そしてそこで、封印されていたイプシロンとその仲間を発見した。
イプシロンは言葉巧みにミクロンを騙し、彼の脳に自分の欠片を埋め込んだ。そしてイプシロンはミクロンを支配し、そして彼の協力で支配する人間を増やしていった。そしてイプシロンはミクロンをルフラン星域の大統領にすることに成功し、ルフラン星域を人知れず支配下に収めた。
ルフラン星域を手中に収めたイプシロンは、準エーテル空間に封印されているシグマを発見し、再度仲間になることを持ちかけた。しかし有機生命体の手ひどい裏切りにあったシグマは、もう有機生命体と係わるつもりは無かった。イプシロンは協力を拒んだシグマの核を船体から取り出し、超光速航法回路の制御装置にしてしまった。
こうしてシグマはイプシロンの命じるまま、超光速航法回路の制御をするだけの存在となって過ごすことになった。
>『なるほど、ケイ素系生命体が栄えた時代があったのか。しかし、ミクロン大統領は「人間より優れた、進化した人類になった」と言っていたが、霊子力通信で人を操り、自分も操られる存在が、人より進化した人類とは…哀れだな』
シグマとの会話は、普通に人間が話していれば膨大な時間がかかっただろう。しかしシンデンは、常日頃霊子力通信で電子頭脳やバックアップ霊子と会話をしていたため、シグマの思考速度で会話が可能だった。流石に一瞬とは行かなかったが、一分ほどで全てを理解することが可能だった。
>『それで貴様は儂をどうするつもりだ?』
>『俺は仲間を救うために通常の宇宙空間に戻りたい。シグマにはその協力を頼みたい』
>『そうなると、儂はイプシロンとまた敵対することになる…』
>『シグマを裏切った異星人と俺は違うぞ。霊子力通信で話したシグマには、俺がどんな存在か分かっただろう。それに俺はケイ素系生命体の存在を人類に公開するつもりは無いことも理解しただろう』
>『分かった。儂もイプシロン達が有機生命体を支配する事を望んではおらん。お前に協力しよう』
>『取引成立だな』
船首像にシンデンが乗り込むと、シグマは超光速航法回路を起動させた。ステーションは砂に沈み始め、そして宇宙空間に出現した。
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