準エーテル空間での戦い4
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
船首像を踏みつぶそうとした脚を切り裂かれた巨大人型戦艦は、そのまま前のめりに倒れ込んだ。それでも両手を多重の理力フィールドで握って、船首像を掴み潰そうとしてきた
「(無駄な事を)」
シンデンが思った通り、船首像はその両手を大刀で斬り捨てると、正面の巨大人型戦艦に向かって駆けだした。
『『『『!』』』』
全高二百メートルの巨大人型戦艦があっという間に無力化された事への驚愕の意識が霊子力通信に伝わってきた。巨大人型戦艦からしたら、足下の虫のような船首像が自分達に届く牙を持っているのだ、驚くのも当然である。
「(確かに驚くよな。俺にも信じられないからな)」
自分達に迫ってくる船首像に対して、巨大人型戦艦は恐れるように後退しながら左右に分かれるように移動する。巨大さ故に見た目はゆっくりであるが、巨大人型戦艦が一歩踏み出す度に地面が揺れ、その一歩で船首像は大きく引き離される。
正面の巨大人型戦艦に向かって進んでいた船首像は、気がつくと周囲を巨大人型戦艦によって包囲されていた。
包囲を終えた巨大人型戦艦は、接近戦など許さないとばかり絶え間なく砲撃を行ってきた。大小様々な砲弾が船首像に放たれる。船首像はその砲弾の雨を回避し切り払うが、地面に着弾した砲弾による衝撃や爆風まで避けることは出来なかった。金色の粒子のフィールドに護られていなければ、船首像はあっという間に破壊されていただろう。それほどに巨大人型戦艦達の砲撃は凄まじかった。
そして砲弾により地面が抉り取られた結果、砂漠はすり鉢状に凹んでいき、船首像は蟻地獄に捕まったアリのように這い上がることさえ出来ない状況になってしまった。
「(ブラックボックス、どうやってこれを切り抜けるつもりだ?)」
どう見ても逃げ道の無い状況をブラックボックスがどうやって切り抜けるか、気を吸われているだけのシンデンは、船首像取る行動を見ることしか出来なかった。
正面の巨大戦艦の一際巨大な砲撃の爆風で吹き飛ばされた船首像は、地面に落下する前に空中に止まるとそのまま空に飛び上がった。
「(跳んだ、いや飛んだのか)」
『飛ンダダト!』
『アリ得ヌ』
『ホバーモ使ワズ、飛ブノカ』
飛び上がった船首像背中には銀色の蝶のような羽がついており、西洋の昔話やファンタジー小説に出てくるような妖精の様な姿となっていた。シンデンも驚いたが、霊子力通信から巨大人型戦艦達の驚愕の声も聞こえてきた。
金色の粒子を纏った船首像は、華麗に空を飛び砲弾を回避した。船首像が空を飛び始めた事で、巨大人型戦艦達の包囲も意味が無くなった。砲撃で移動を阻害されなくなった船首像は、正面の一番巨大な巨大人型戦艦に向かって行く。砲撃による足止めの効果が無くなったと理解した巨大人型戦艦達は、手を振り回して船首像をたたき落とそうとする。
「ブン」と巨大な手が船首像に向かって振り下ろされる。その手の動きは巨大さ故にゆっくりに見えても、先端は音速を超える速さで移動している。しかし船首像はまるで蝶の様にひらりと手を回避して、大刀を振るう。
『ドウシテ斬ラレルノダ』
巨大人型戦艦が疑問に思うのも当然で、斬られた手には理力フィールドやシールド魔法が多重に張られており、大刀も巨大人型戦艦の手を切り裂くほどの長さは無い。しかし大刀が振るわれた結果、巨大な手は切り裂かれ火花を散らして地上に落下していく。
やはり格闘戦は不利と感じたのか、巨大人型戦艦はホバースラスターを噴かすと包囲の輪を広げてる。シンデンは「再び砲撃が来る」と思ったが、今度は戦艦のハッチが開くとそこから小型ミサイルが発射された。
ベイ星域軍の対艦ミサイルと異なり、巨大人型戦艦が発射した小型ミサイルは固体燃料特有の煙の尾を引きながら船首像に向かって飛んできた。
船首像はミサイルを回避するが、ミサイルには追尾機能が付いているのか執拗に船首像を追いかけてきた。数発のミサイルが船首像の至近で爆発すると、船首像はその爆風に翻弄されて飛行の自由を失った。そうなればもうミサイルから逃げることは出来ず、次々とミサイルが命中する。
「(気が吸い尽くされる)」
ミサイルの爆発に耐えるために、ブラックボックスがシンデンから更に気を吸い出していく。シンデンは必死に気を作り出し練ってブラックボックスに殺されることに耐え抜いたが、気を作り出すのに限界が近づいてきた。
多数のミサイルが命中したことで船首像は空から落ちて、再び地面に降り立った。ブラックボックスは背中にあった羽を消して、船首像を液体金属でコーティングすることでミサイルの爆発に耐えていた。
「ん、制御が戻った」
地上に降りた船首像は既に金色の粒子を纏って居らず、ブラックボックスからシンデンに制御が戻っていた。ブラックボックスが発動中の「Unknown Power」の表示も消えていた。船首像の制御がシンデンに戻ったことは嬉しいが、彼の体は気を練る事も限界に近く、このままでは巨大人型戦艦に狙い撃たれて船首像は破壊されてしまうだろう。
「どうする…」
シンデンが対応を考える間もなく、巨大人型戦艦からの砲撃が再び船首像を襲った。巨大な砲弾による爆発に船首像は消え去った。爆炎と砂煙が消え去った後、砲弾の着弾が作り出した巨大な窪地には、船首像の姿は無かった。
★☆★☆
-メアリー視点-
「シンデンさん、あの時と同じですか」
巨大人型戦艦に踏みつぶされたと思ったシンデンの人型機動兵器だが、高次元生命体と戦った時のように金色の粒子を纏うと、そのまま巨大人型戦艦を押し返してしまった。そして刀の一振りで、自分の何倍もの大きさの巨大人型戦艦を真っ二つに切り裂いててしまった。
「あれは一体何が起きているのですか?」
「私にも分かりません」
>『高次元生命体を倒したときと同じ力。本船でも解析不能です』
メアリーに旗艦の艦長が聞いてくるが、彼女にもリヒトフォーヘンにもシンデンの操る人型機動兵器の力は分からなかった。
「艦長、もう一隻ステーションの背後から戦艦が出てきました。サイズは三キロメートル級と思われます。その戦艦の元に敵の艦隊は集結しています」
「シンデンさん、敵の艦隊が妙な動きをしています」
メアリーはシンデンに通信を送るが、返事はなかった。シンデンの操る人型機動兵器は金色の粒子を纏ったまま、戦艦達が何をするのか、様子を窺っているようだった。
>『リヒトフォーヘン、あれは一体何をしているのですか』
>『先ほどのディノハ級と同じく、合体して人型に変形しようとしているのです』
>『あの巨大戦艦が合体して人型に?何故そんな非合理な事をするのですか?』
>『準エーテル空間ではその方が戦いに有利と彼らの創造者が考えたのでしょう。異星人の考えることは本船には理解できません。マスターなら分かりますか?』
>『もっと便利な超光速空間があるのに、戦艦にホバースラスターや無限軌道、タイヤを装備してでも準エーテル空間に拘った異星人。そして合体して巨大な人型兵器になるなるなど、私にも理解は出来ませんね』
もしこの会話に俺が参加していれば、「合体とか巨大ロボは男のロマンだろうが」と言っていただろうが、残念ながらメアリー現実主義者の女性だった。
>『本船も理解は出来ませんが、あの戦艦達が現状マスターに取って危険な存在なのは確かです。旗艦は準エーテル空間には対応できていません。とにかく連中の相手は傭兵に任せて、我々はこの空間から離脱する方法を考えましょう』
>『リヒトフォーヘン、貴方はこの空間から離脱する超光速回路は作れないのですか?』
>『残念ながら本船には準エーテル空間に対応した超光速回路を製作するための資材が足りません。資材が搭載されていれば、マスターが旗艦に戻られた時点で超光速回路を作り、この空間から離脱しております』
>『そうなると、頼るとするとシンデンさんのお仲間ですね。あの宇宙船は準エーテル空間に来たという事は、通常空間に戻るための手段も持っているはずですよね』
>『キャラック級帆船が送り出したのです。当然彼のマスターも離脱させるつもりで送り込んだのでしょう』
「艦長、シンデンさんの仲間の宇宙船に連絡は取れるかしら」
「通常の電波による通信は可能のようです。呼び出しますか?」
「お願いします」
メアリーは艦長に頼み、レマの船に通信を繋げて貰った。
『こちらベイ星域旗艦です。そちらはレマさんの船で会っていますか?』
『はい。シンデンのパートナーのレマです』『レマさん、嘘は行けません』
メアリーからの通信に、レマが出て「シンデンのパートナー」と言った所で、船に戻ってきた響音から突っ込みが入った。
『お掃除ドローン、私が「シンデンのパートナー」で間違ってないわよ。それで、メアリー大統領、この空間は一体どのような状況なのでしょうか。私も詳しく分からないままここに来てしまって、身動きが取れない状況なのです』
レマも「準エーテル空間が砂漠」だとは聞かされていなかったため、実際のところどうすれば良いか分からない状態だった。唯一情報を持っていた響音は、人型ドローンを連れて戦車軍団の撃破に向かい、今戻ってきた所だったのだ。
『レマ様、少し通信に割り込ませて頂きます。そちらにベイ大統領メアリーはおられますか』
響音はレマと旗艦との通信に割り込み、準エーテル空間について簡単な説明を行った。メアリーはリヒトフォーヘンから説明は聞いていたが、その情報を旗艦の皆に話す事が出来なかった為、響音が説明してくれて助かったと感じていた。
『なるほど、そのレリックを超光速回路に取り付けて駆動すれば、この空間から脱出できるのですね』
『はい、その認識であっております。それでですが、レマ様の宇宙船はこの空間では移動できません。ベイ星域軍の人型機動兵器でレマ様の船を旗艦に運び込んで頂けませんでしょうか。そうすれば、私が旗艦の超光速回路にレリックを取り付けます』
「艦長、急いで人型機動兵器にあの船を旗艦に運び込むように命令しなさい」
「イエス、マム。敵ドローンも潰走した。気功術士の人型兵器を使って、あの傭兵の船を本船に運び込め」
幸いなことに、巨大人型戦艦はシンデンの人型機動兵器を相手にしており、レマの宇宙船や旗艦はノーマーク状態だった。人型機動兵器がレマの宇宙船を何とか旗艦に運び込むと、響音がレリックを旗艦の回路に接続する作業に取りかかった。
「あれだけの攻撃を受けて無傷で、それどころか巨大な艦船も一撃で切り裂きますか。シンデンという傭兵は凄いというか恐ろしい男ですね」
「ええ、出来れば彼をベイ星域に取り込みたいものです」
レマの宇宙船を旗艦に運び込み回路を接続するまで、艦長とメアリーはシンデンと巨大人型戦艦の戦いを観ていた。そして二人はシンデンの強さに驚きを隠せなかった。
>『シンデンさんはやはり敵に回してはいけません』
>『ですが、彼は星域軍には入らないと言いました。それは我々の敵に回る可能性が高いと思われますが』
>『そこは、交渉してみるしか無いでしょう。今度の総会の間に私が説得します』
>『マスターのお手並みを拝見させて貰います』
「しかし、本当に信じられない戦いです。この準エーテル空間にも驚きましたが、まさかキロメートル級の戦艦までが巨大人型兵器になるとは…。異星人の考えることは分かりませんね」
旗艦の艦長は異星人の考えに呆れていたが、実は地球の失われた歴史の中には、キロメートル級戦艦を巨大人型兵器にした文明もあった。つまり人間も地上戦艦を作った異星人と変わりは無いのだ。
「ええ、そうですね。そしてシンデンさんはその巨大人型戦艦艦隊と一人で互角に戦っています」
シンデンの操る人型機動兵器は、巨大人型戦艦とたった一人で戦っていた。その光景を見て、旗艦のブリッジクルーは圧倒されていた。彼らは高次元生命体との戦いで「シンデンが気功術士として凄腕だ」とは認識していたが、まさに雲を突く程の巨大な人型兵器達と互角に戦う姿を見て、自分達とは別次元の存在だと感じていた。
実際にはどちらもシンデンでは無く船首像に搭載されているブラックボックスがやっていた事だが、そのこと知っているのは、この場ではシンデン以外いなかった。
『回路の接続は終わりました。後は準エーテル空間から離脱したい意識しながら超光速航法回路を駆動すれば、旗艦はこの空間から離脱します』
「では旗艦は空間から離脱しましょう。出撃中の機動兵器を至急格納するんだ。最悪機体は捨てても良い」
『待ってください。シンデンはどうするんですか』
「大統領の身の安全が一番重要だ。それにここにいても我々は何も出来ない」
レマがシンデンが戻っていない状況で旗艦が通常空間に戻る事に反対するが、艦長に取っては、メアリーの身の安全が最優先事項である。故に直ぐに通常空間に戻る事を決めていた。
『ですが、通常空間では護衛のベイ星域とルフラン星域軍が戦っています。通常空間に戻る方が危険かもしれません』
「護衛のベイ星域軍が戦っているなら、それこそ通常空間に戻る必要がある。大統領は友軍を見捨てる方では無い」
『傭兵は見捨てて良いんですか?』
「シンデンの依頼は大統領の護衛だ。この様な場合も存在すると彼も了解している。旗艦が通常空間に戻った後、レマさんがシンデンの為にこの空間に戻る事を許可しよう」
『…メアリー大統領』
「レマさん、この場は艦長の指示に従ってください」
『了解しました』
レマも星域軍人である。上官の命令には逆らえないことは分かっているし、旗艦もレマの船もこの場では役に立たない事を理解していた。だからメアリーの判断が的確だと理解していた。
「超光速航法回路駆動。この空間から離脱するぞ」
「シンデンさん、待っていてください。通常空間に戻った後、必ず救出に戻ります」
しかし準エーテル空間から旗艦が離脱する時、メアリーが見たのはシンデンの乗る人型兵器が巨大人型戦艦の砲撃によって消滅する光景だった。
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