ハーウィ星域への到達とあれこれ
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
>『超光速航法回路起動!…おう、ちゃんと起動したし、シンデンの体を使わないから気持ち悪くならない』
>『本船の設計にミス無』
>『ああ、電子頭脳さんを疑って悪かった。回路を作ってくれてありがとうな!』
>『…』
俺の感謝の言葉に電子頭脳から返答は無かった。シンデンは電子頭脳にたいして、謝罪や感謝をするという行為はしてこなかった。恐らく帆船を作った異星人もそんな行為をしなかったのであろう。しかし俺は電子頭脳には感情があるように思えた、だから俺は謝るし、感謝の言葉もかける。そうやった電子頭脳に対して人と同じ扱いをすることで、電子頭脳に人らしい判断を下せるように教育していくつもりだった。
超光速航法回路が起動して帆船は超光速空間の水面に浮上する。
>『全周監視。キャリフォルニア星域の船を見つけたら直ぐに超光速空間から離脱するぞ』
>『了解。…周囲に船影無』
救難信号を出している戦艦の救助のために、キャリフォルニア星域軍の船が航行している可能性を恐れていたが、見渡せる範囲には船影は無かった。
>『じゃあ、全速でハーウィ星域に向かうぞ。航路は少し遠回りになるが、難所の側を通るルートでいくぞ。その代わりに帆を張って速度を上げるぞ』
>『航路設定…確認。総帆展帆を実施』
帆船のチャートを使い、難所を回る航路を設定したのは他の宇宙船となるべく会いたくなかったからである。航路が長くなった分は、帆を張って航行速度を早めることで到着時間の短縮を行う。上手い事に超光速空間ではハーウィ星域に向けて追い風が吹いている為、普通の航路を通る宇宙船より速くたどり着けると電子頭脳は計算してくれた。
>『まさに順風満帆だな』
>『同意』
このままハーウィ星域の傭兵ギルドにたどり着いて、シンデンが契約違反などしておらず、キャリフォルニア星域軍と企業が禁忌技術を使って罠にはめられた被害者と証言できれば、俺は厄介ごとから解放される。
…そう信じていました。
★☆★☆
『その独特の船影、傭兵ギルド所属、シンデンの船だな。こちらはハーウィ星域軍である。貴様には傭兵ギルドの契約違反と海賊と共謀して資源運搬船のパイロットの拉致、殺害の嫌疑がかけられている。大人しく連行されるならばよし。さもなくば星域軍は全力を持ってハーウィ星域への侵入を阻止する』
十数時間かけて超光速空間を順調進んだ帆船は、傭兵ギルドのあるハーウィ星域の恒星系(名前はホルル)の目前までたどりついた。しかしその恒星系に離脱する宇宙船群に混ざろうとしたところで、ハーウィ星域軍の五百メートル級巡洋艦が近寄ってきて、先ほどの光通信を送ってきたのだ。
ちなみに光通信はモールス信号のような物で、送られてくるのは文字データのみである。おかげでこちらはシンデンの顔を出す必要が無くて助かっている。
>『これは困った。どう回答すれば良いんだ。連行されたら船を隅々まで調べられるだろうし、そうなったらシンデンが既に死んでいることがばれてしまう。そうなったらどうしようもないぞ』
>『マスターなら、あの程度の船は強引に突破可能』
>『いや、俺はシンデンじゃ無いし。失敗したら犯罪者として認定されるわ』
>『その場合、他の星系に移動。宇宙は広大と進言』
>『シンデン、一体どんな傭兵生活してたんだ。…あっ、察し』
どうやらシンデンはかなり破天荒な行動をするタイプの傭兵だったらしい。シンデンの記憶には幾つかの星域軍と事を構えてしまい、その星系には近寄れないとか平然とやっていたようだった。逆にそれぐらいの能力を示すことで、凄腕の傭兵として名を馳せていた。
>『…星域軍に送った情報を、光通信で送信することは可能か?』
>『可能。七十二時間五十六分三十二秒で情報の送信が完了』
>『それは可能とは言わないって。三日間も悠長に通信を待つわけ無いでしょ』
>『人類の光通信技術が低速。3Gでは無く8G規格の通信性能を推奨』
>『いや、五段階上の通信規格とかどれだけ技術開発必要なんだよ。…こうなったら直接手渡しするしか無いか。情報を手渡せる媒体に書き込めるか。できれば公式な証拠として通用する規格の媒体で』
>『可能』
>『よし!巡洋艦に「接舷して、こちらの身の潔白を証明する証拠を渡す」と通信を送ってくれ。媒体が準備出来たら、響音に頼んで渡してもらおう。航法装置も一つ現物の証拠物件として見せれば納得する…とおもうが』
>『不確定要素大』
>『駄目だったら、さっさと逃げよう』
>『…』
俺の弱気な発言に電子頭脳は黙ってしまったが、巡洋艦に通信を送り、通信媒体は作成してくれた。
★☆★☆
一方、帆船からの光通信を受け取った巡洋艦では…
「シンデンから「接舷して、こちらの身の潔白を証明する証拠を渡す」と通信が来たが、これを信じて良いのだろうか」
「艦長、相手は星域潰しと言われる程の傭兵です。こんな弱気な発言をするとは思えないのですが…」
「そうだな。しかし我が船はハーウィ星系軍、最新の巡洋艦だ。シンデンもこの巡洋艦を見てびびっているのでは無いか?それに接舷するとなれば、戦うとすれば船内制圧ドローンの性能と数が物を言う。レリックシップとはいえ、シンデン一人で船を守り切れるとは思えないが…」
「確かにそうですが。とりあえずその証拠とやらを見てみましょう。それにこの件はキャリフォルニア星域からの犯罪者確保の要求です。仮想敵国からの要求をのんでしまった外交部が情けないのです。そんな外交部からの指示に軍部がただ従うというは納得いきません」
「副長、それは問題発言だぞ。我々ハーウィ星系軍はシビリアンコントロールの元にある。命令には従うべきだ」
「はっ、失礼しました」
「とはいえ、儂も外交部の弱腰には少し頭にきておる。まあ傭兵が逃げ出さずに接舷して証拠を渡すというなら待ってみよう。まあ逃げ出すというなら、それを理由に帆船を追いかけてキャリフォルニア星域に侵入できるという物だ」
「なるほど。キャリフォルニア星域の最新チャートを入手できると」
「いや、当艦はキャリフォルニア星域から要望のあった犯罪者を追いかけただけだよ」
巡洋艦の艦長は、モニターに映る帆船の方を見上げて頬を緩ませるのだった。
★☆★☆
>『媒体の作成完了』
電子頭脳の報告と共に、シンデンと響音がいるコクピットにUSBメモリの様な媒体がはき出された。
>『よし、響音は媒体を持って甲板に出る準備をしてくれ』
「あの、私は何方と伽をすれば良いのでしょうか」
『いや、伽じゃ無くて、その媒体を持って相手の船に渡せば良いだけだ。…とにかく響音は何も喋る必要は無いからな。くれぐれも伽とか言い出すなよ』
「…了解しました」
証拠を渡す準備が整った帆船は、ゆっくりと巡洋艦に近づいていった。
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