星域連合緊急総会(5)ルフラン星域の会談
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
女性SPはシンデンを彼らが休憩に使う部屋に案内してくれた。
「先ほどは失礼しました。気功術士の方は血の気が多くて困ります。…失礼しました。シンデンさんはそうでは無いと理解しております」
女性SPは、気の感じから理力使いのように感じられた。キャリフォルニア星域軍の理力使いはマッチョで気功術士並みに血の気が多かったが、ルフラン星域軍の理力使いは大人しいのだろう。
「あの二人が悪いんじゃない。大統領が二人を挑発したのが悪いのだ。まあ、体を温めるには丁度良かったぐらいだ」
「大統領が挑発ですか。何時も我々SPを大事にしてくださるのですが…」
「まあ、彼女は魔法使いだ。気功術士のルールは知らなかったのだろう」
メアリーは魔法使いと言っても軍属だったのだ、気功術士についても知識は持っていたはずだが、シンデンを護衛に引き入れた理由をSPに納得させるために挑発したのだと思っていた。だからシンデンもそれに付き合ったのだ。
「そうですか。それでですが、私はシンデンさんに会ったら、言おうと思っていた事があるのです。シンデンさん、先ほどの我が星域の内戦で、私達の大統領を高次元生命体から守って頂き感謝しております」
女性のSPはシンデンに頭を下げてお礼を述べた。
「俺は依頼を遂行しただけだ」
「はいそれは分かっております。ですが、あの時、私達では大統領を守り切れませんでした。あの方はベイ星域の希望なのです。だから私は大統領を守ってくださったシンデンさんに感謝しているのです」
女性SPはそう言って部屋を出て行った。
>『今の発言時、生体反応を見た限りでは、発言を強制されてはいませんでした』
>『シンデンもそう感じているよ。メアリーは本当に国民の支持を得ているようだな』
>『国民の支持を得ていると言う事は、総会で彼女がやることに国民は支持をするのでしょうか?』
>『よほどおかしな事でなければ支持するだろうな』
俺と電子頭脳は、ベイ星域に入ってから星域内のニュースを調べた。中には世論調査も有ったが、大統領の支持率は八割を超えていた。前大統領の支持率は十割だが、これはマスコミに大統領側が圧力を掛けた結果である。メアリーはマスコミに圧力など掛けていないので、本当にそれだけの支持を得ているのだ。
>『熱狂的な支持に支えられている大統領、それが星域連合の総会で何をするのか…怖いな』
>『本船としては、ヤマト級が係わっていないのであれば問題はありません』
>『電子頭脳さんは本当にぶれないよな~』
電子頭脳と会話をしている間に、どうやらルフラン星域側の準備が出来たようで、旗艦は移動を開始した。大統領との会談は、ロヌア恒星系の第四惑星を巡るステーションで行われるようで、ベイ星域の旗艦とそれを守る数隻の有人戦艦だけが恒星系内に向かった。ルフラン星域も敵を示さないようにステーションの周囲には数隻の有人戦艦しか待機していなかった。
旗艦がステーションの宇宙港に接舷し、大統領と護衛(シンデンを含めて十名程)がステーションに降り立った。
>『盛大に出迎えがあると思ったが、ルフラン星域大統領とマスコミ関係者だけで、一般人を見かけないな』
>『ステーションには生命反応がほとんど有りません。どうやらルフラン星域は、今回の大統領会談の為に、ステーションの大部分の人を地上に退去させたみたいですね。ステーションを丸ごと機能停止したらどれだけの経済的損失が出ると分かっているのでしょうか?ルフラン星系の大統領は、経済的なセンスが無い人なのでしょうか』
>『経済的損失より、ベイ星域に対してテロを仕掛ける人間を排除したかったとかかな?ベイ星域とルフラン星域は離れているが、もしテロで大統領が殺されでもしたら、ベイ星域は荒れるぞ。ルフラン星域がその火種を作ったとなれば、国際的な非難が集中するだろ』
>『それにしても徹底しすぎと思われますか』
シンデンはSPと同じく周囲を警戒しながら進むが、シンデンはこの様な任務は初めてなので、かなり緊張していた。
「ようこそルフランへ。ベイ星域大統領でこの星域を訪れるのは、貴方が初めてです」
ルフラン星域大統領ミクロンは笑顔でベイ星域大統領に握手を求めた。
「初めまして。ベイ星域大統領としてルフラン星域大統領にお会いできて光栄です」
メアリーはミクロンの握手に笑顔で応じる。その二人の姿をマスコミ関係者が映像や写真を撮り始めた。俺が生きていた時代と変わらないマスコミの取材風景を見て「マスコミはどの時代でも同じなんだな」と感じていた。
マスコミの取材が一段落すると、二人の大統領は並んで歩き出した。
>『俺の居た世界だと、他の国の大統領が来れば歓迎のパレードぐらいはしたと思うが、無人のステーションを歩かされるとは思わなかったな。ベイ星域大統領は他の星域では歓迎されていない為の配慮かな』
>『そういう物でしょうか?』
>『メアリーなら心配ないと思うが、前大統領だったら民衆から野次の一つも飛んでいただろうな』
会談の場は宇宙港の近くに設けられていた。豪華に飾り付けられた部屋の中には二人が座る席が用意されていた。
「ベイ大統領、申し訳ないが貴方との会談の前に、彼と話をさせて貰えないだろうか」
部屋に入ると、ミクロンはメアリーからシンデンの方に視線を移した。
「ええ、そうですね。先に彼と話をした方が良いでしょうね。シンデンさん、こちらに来て下さい」
メアリーはシンデンを手巻きして呼んだ。
「君が太陽系を宇宙生命体から救ってくれた英雄か。シンデン君だったね、握手して貰えないか」
「分かりました」
そうしてミクロンとシンデンは握手を交わした。こちらもマスコミ関係者が映像や写真を撮り始めた。シンデンは不慣れだろうが、俺は高校時代に剣道の全国大会で準優勝した事があるので、作り笑顔で対応することぐらい出来る。
「シンデン君、もしルフラン星域がサン星域のような宇宙生命体に襲われたら、助けて貰えるかね」
「自分は傭兵です。依頼していただければ…」
「ほう、君はベイ星系に取り込まれた思ったが、そうでは無いのだな?」
「ええ。自分はどの星域にも所属しません」
「なるほど、それは良かった」
ミクロンはシンデンが「どの星域にも所属しません」と聞くと、にっこり笑った。これで彼との会話は終わった。
「(?)」
ルフラン星域側の警備には当然気功術士も存在するので、あからさまに大統領を気で探る事は出来なかった。だから握手したときに彼の気を感じることしか出来なかった。シンデンは、その気に僅かな違和感を持った。その為シンデンとミクロンの握手が数秒程長引いてしまった。
「どうしたのかね。もう握手は良いと思うのだが」
「申し訳ない。大統領と握手することなど無かった為、少し緊張していました」
「ほう、凄腕の傭兵と聞いていたので剛気な人物だと思っていたが、以外と神経質な方だったようだな」
慌ててシンデンはミクロンと手を放す。そして大統領はシンデンからメアリーに視線を移した。これでシンデンの出番は終わりだった。
>『シンデンは大統領から何か違和感を持った。大統領は人間だが、少し人と異なる気を持っているようだ。もしかして、大統領ではなく影武者か?』
>『その可能性はあります。ですが、影武者を立ててまでベイ星域大統領と会う理由が不明です。ミクロンは何を考えているのでしょう』
>『大国の大統領の考えることなんて、俺には分からないよ』
シンデンはベイ星域のSP達の間に戻り会談を見守ることにした。
★☆★☆
メアリーとミクロンの会談は、ベイ星域の大統領選挙から前大統領との内戦、そして周辺星域と今後の関係等、ミクロンが尋ねてメアリーが答えるという形で進んでいった。
「それで、ベイ星域大統領となったメアリーさんは、ベイ星域が掲げる国是について継承されるおつもりですか?」
「…そうですね。私はあの国是は素晴らしい物と思っております。今人類は多数の星域に別れていますが、その為に様々な軋轢が生じています。私はそれを無くしたいと思っております」
「つまり国是を変えるつもりは無いと…。ベイ星域による人類統一国家を作るおつもりでしょうか?」
「我が星域の国是に付いては、今回の緊急総会で話したいと思いますので、ミクロンさんもその場で私の話を聞いて判断してください」
ミクロンの問いかけにメアリーは答えをはぐらかした。
「総会では『禁忌技術の使用について、再度星域間の合意を確認する』のでは?ベイ星域の国是とは関係ないと思いますが…」
「その辺りも、総会にてお話しさせていただきます」
「なるほど。分かりました。…では、先ほどから私ばかりメアリーさんに質問しておりました。今度はメアリーさんから、私、ルフラン星域大統領に聞きたい事があれば質問してください」
ミクロンは今度はメアリーに質問するように言った。
「では、私から質問させていただきます。ミクロンさんは何時から人をお辞めになったのですか?」
会話のキャッチボールで、ボールを渡されたメアリーが最初にミクロンに質問したのは、星域国に対する質問ではなかった。
メアリーの質問はこの場の全員に取って想定外だったのか、ルフラン星域もベイ星域の護衛達もざわめいていた。シンデンもメアリーの突然の爆弾発言に驚いた。
「はっ?メアリーさん、何を言っておられるのですか。まさか私が人型ドローンとでも言われるのですか?私は正真正銘、見ての通り普通の人間です。それとも影武者とでも思っておられるのでしょうか?私はルフラン星域の大統領ミクロン本人ですよ!」
ミクロンは慌てて「自分が人間であり、大統領である」と主張する。
「ええ、貴方がルフラン星域の大統領ミクロンさんであることは分かっております。ですが、貴方はどの時点かは分かりませんが、人を辞めてますよね」
メアリーは立ち上がると、ミクロンを指さした。
>『電子頭脳さん、メアリーはああ言っているけど本気なのか?』
>『分かりません。マスターは装備しているセンサーか気で大統領を探ってください』
>『一国の大統領相手に、そんなこと出来るわけないだろ。しかしメアリーは突然なんてことを言い出すんだ』
>『人類の思考については、バックアップ霊子が判断してください』
「ははっ、まさかベイ大統領がこんな愉快な方だとは。私も予想していませんでした。メアリーさん、貴方は「私が人間では無い」と言って驚かせて、私を動揺させるつもりでしたね。残念ですが私はその程度の冗談で動揺などしませんよ。それでメアリーさんは私を動揺させて本当は何をお聞きしたかったのですか?」
会談の場がざわつく中、ミクロンは笑い出した。周囲の人間はミクロンがそう言ったので、「メアリーがミクロンを動揺させるために冗談を言ったのか」と納得したのしたのか、ざわめきは静まっていった。
「本当も何も私がミクロンさんにお聞きしたいのは、『貴方は何時から人間を辞めたのですか?』ですよ。冗談ではありません」
しかしメアリーは再度同じ質問をミクロンに浴びせかけた。
「メアリーさん、流石に冗談でも度が過ぎると思いますよ」
同じ質問を繰り返されて、ミクロンの顔から笑顔が消えた。いや彼の表情から感情が抜け落ちた。
ミクロンの顔から表情が消えると同時に、ステーション内にいた人達は、自分達が超光速航行に入る感覚を味わっていた。
★☆★☆
ルフラン星域大統領とベイ星域大統領の会談の様子は、当然のことながら生放送などされていなかった。ベイ星域軍の艦艇は、ただじっと大統領が会談を終わるのを待っていた。
しかし、その待っている時間は突然終わりを告げた。彼らの目の前でステーションが消え去ってしまったのだ。シンデンを通して会談の様子を見ていた俺も何が起きたか分からなかった。
>『ステーションが消えた?』
>『ステーションを丸ごと超光速航行させたようです』
>『ステーションを丸ごと超光速航行って。そんな事出来るのか』
>『超光速航法回路には超光速航法させる対象の大きさについて制限はありません。大きさに見合っただけのエネルギーを与えれば超光速航法をさせる事は可能です。ですが、惑星や恒星の近くで超光速航法を行うと、重力によって超光速航法がその物体がどうなるか。最悪超光速航法に失敗して原子レベルまで分解されてしまうとか、超光速空間ではない別な空間に飛ばされてしまう可能性があります』
>『別な空間って、それって大丈夫なのか?おい、シンデン応答しろ』
バックアップ霊子は慌ててシンデンに呼びかけた。
>『バックアップ霊子か、超光速航法に入ったように感じたが、一体何が起きたんだ』
霊子力通信でシンデンから返信が届いた。どうやら原子レベルまで分解されるという状況にはならなかったようだ。
>『…マスターとの霊子力通信の状況から、ステーションが今どこに存在しているか判明しました。ステーションは超光速航法に入っています。ですが今マスターが存在する空間は、通常の超光速空間ではありません。その空間は超光速空間と異なった亜空間で、創造主は準エーテル空間と呼んでおりました。現生人類が使用している超光速航法回路が開発されるまで、創造主達が超光速航法に使用していた空間です』
電子頭脳の説明によると、準エーテル空間は現在の超光速航法回路が開発がされるまで超光速航法に使われていた亜空間であり、そこに入るには専用の超光速航法回路が必要とのことだった。準エーテル空間を使った超光速航法は現在の超光速航法より重力に対する影響度合いが少なく、惑星の衛星軌道上でも入ることが可能だった。しかし準エーテル空間は超光速空間より空間圧縮率が低く、航行するためのエネルギー効率も悪かったため現在の超光速航法回路が開発されると使われなくなった亜空間だった。
人類も含め他の異星人達も帆船の創造主が残した超光速航法回路を使用しているので、準エーテル空間の存在など知らなかった。
>『専用の超光速航法回路が必要なのか。ルフラン星域はどうしてそんな超光速航法回路を持っていたんだ。いやレリックとして所有していたかもしれないが、ステーションをわざわざそんな場所に移動させた理由がわからない』
>『どうやら、ルフラン星域は、ベイ星域軍をここで壊滅させる計画の様です』
>『本気かよ』
>『ルフラン星域軍の戦艦が恒星系外周に出現しております。それ以外の意図は無いと本船は推測します』
帆船のセンサーは、ロヌア恒星系の外周部を取り囲むようにルフラン星域軍の艦艇が出現している事を捕らえていた。
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