星域連合緊急総会(4)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
恒星系の名前が間違っていたので修正しました
ベイ星域から星域連合の総会が開かれるスス星域に辿り着くまでには、超光速空間上では幾つかの星域が支配する領海を通る必要があった。しかしベイ星域を取り囲む星域は全てベイ星域を敵対国家として認定していた。過去にベイ星域は周辺国に何度も攻め込んだ経緯がある為、当然の対応であった。
ベイ星域大統領を護衛する星域軍は、当然のことながら大艦隊となっていた。自国の大統領を護る為に最大限の戦力を準備するのは当たり前だが、その戦力は弱小星域ならば一週間ほどで征服可能な規模であった。この大艦隊に超光速空間上の自国領海の通行許可を与えることは、下手をすると占領される危険性がある。
つまりベイ星域軍は、「隣接する星域の領海を通らない航路を使う必要がある」とシンデンは考えていた。だからメアリーはそんな余裕を持って出発するものと思っていた。
>『キーバ星域が通行を許可したのか』
ベイ星域の周辺星域としては、メキコ、キーバ、グリード、ベネエラが存在していた。宇宙空間では必ずしも隣接するわけではないが、超光速空間ではその四つの星域の何処かを通らないとスス星域までの航路は長くなり過ぎるのだ。しかしその四つの星域のうち、キーバがベイ星域軍艦隊の通行を許可した。
>『本船が集めた情報の中には、その様な情報は全くありませんでした。どのようにして通行許可を取り付けたのでしょう』
>『メアリーの交渉力だろうな。それ以外考えられない』
>『前大統領時代には軍事衝突していたはずなのに、大統領が変わっただけで、そう簡単に信頼を得られる物でしょうか』
>『そこは、俺にも分からない。しかしメアリーは前大統領を蹴落として大統領となった。それが理由かもしれない。後は、わざと通行を許可したが、途中で襲いかかってくるという事もありえる。何しろ今のベイ星域は大統領が大艦隊を連れて国を離れているのだ。戦国時代なら攻め入る奴らがゴロゴロいるはずだ。しかしそんな事はメアリーも分かっているはずだ。何か手を打っているのだろうな』
>『本船には現生人類に対応した戦略支援プログラムが搭載されておらず、その為ベイ星域の戦略が想像できません。バックアップ霊子には、戦略支援プログラムの構築を要請します』
>『戦略支援プログラムって…。只の大学生だった俺に無茶を言うな。シンデンも士官学校は出ていないし、レマも一緒だ。この前ようやくハッキングについて学んだばかりの俺には出来ないよ。それに国家規模の戦略を予想するプログラムなんて作ったとしても、今のメアリーの行動なんて予想できないだろう』
>『…困りました。敵の戦略が不明な場合、戦術的に勝利しても勝てない可能性があります。まさか本船がそんな状況に陥るとは想定外でした』
>『仕方ないだろ。電子頭脳さんに取っては、敵はヤマト級レリックシップだけだろ。某英雄伝の提督じゃないが、戦術的勝利を戦略的勝利に繋げるしか無いだろ』
>『ヤマト級が直接出てきてくれれば簡単なのですが…』
>『奴らも馬鹿じゃない。今はメアリーが敵で無い事を祈ろう』
俺と電子頭脳はそんな会話をしていたが、シンデンは油断することなく超光速航法を続けていた。
ベイ星域の大艦隊は、キーバ星域の領海を抜けてもその歩みを止めることなくスス星域に向けて進んで行った。超光速航法の休憩はステーションを利用せず、誰もいない宙域に降りて休憩を行った。傭兵達からその様な行動に対して文句が出るかと思ったが、傭兵達は文句一つ言わず、星域軍の補給艦から補給を受けてモクモクと仕事に就いていた。シンデンの記憶では、それは傭兵らしからぬ光景であった。
ベイ星域の艦隊は超光速空間では輪形陣を敷いていた。中央にベイ星域大統領の乗る旗艦が有り、周囲をキロメートル級有人艦艇が取り囲み、更にその周囲を傭兵達が守る陣形である。輪形陣は防御に優れた陣形で、中央の艦隊を護る為に特化している。超光速空間では人類は接舷しての移乗戦闘しか出来ない為、この陣形は大統領を守る事に対して意味はあった。しかし、輪形陣とは本来潜水艦や航空機などから重要な艦艇を護る為の陣形だが、人類は超光速空間で潜水や飛行する技術を持っていない。その為監視は光学センサーで、「水面上に艦影が見えるか」という物であった。
シンデンはつい先日伊号潜水艦隊からの攻撃を受けていたので、この大艦隊の警戒態勢に穴があることを知っていた。そこで警戒の穴を潰すため、帆船は周囲に探索ドローンを配置していた。星域軍も傭兵も水面下に注意を払っていないので、水面下を動く小さなドローンに気付く者はいなかった。
スス星域まであと二日程の距離を残して、ルフラン星域内でベイ星域の大艦隊は超光速空間から離脱した。今までと違う点は、今回はルフラン星域のロヌア恒星系の近傍で超光速空間から離脱したことであった。
ルフラン星域はキャリフォルニア星域、ロスア星域、イグラン星域と並んで、ベイ星域に軍事力で対抗可能な大国だった。ルフラン星域がベイ星域軍が自国領を通過する条件として出してきたのは、ロスア恒星系で大統領同士が会談したいという物だった。
>『あからさまにメアリーの真意を探りに来たな』
>『大国なら当然でしょう。バックアップ霊子も大統領の誘いを断らず、夕食会にマスターを出席させて、彼女の真意を探るべきでしたよね』
>『そんな事できるわけ無いだろ。一度出て見たが、メアリーは全くその手の話は避けるし、シンデンを星域軍に勧誘する話ばかりしてくるんだぞ。それにシオンやレマの機嫌が悪くなるし、周囲の傭兵達が、血の涙を流さんばかりに睨み付けるだけの通信を送ってくるんだ。もう二度とあんな目には遭いたくないぞ』
>『…そこは、バックアップ霊子が頑張って下さい』
>『むーりー』
俺は電子頭脳に「無理」と伝える。シンデンでもあんな状況には耐えられないだろう。あんな目に遭うのは一回だけで十分だ。
>『それより、電子頭脳さん、ルフラン星域の大統領との会談内容を盗聴する方法はあるのか?』
>『流石に会談場所はセキュリティが高いです。ハッキングで盗聴することは不可能です』
>『やっぱり無理か。俺も試したけど、外部からは無理だよな。何が話し合われるか知りたかったんだが、諦めるしか無いか』
>『マスターが会場となるステーションに入ればハッキングは可能では?』
>『いや、大統領同士の会談に、傭兵を護衛には連れて行かないだろ。無理だって』
電子頭脳と俺は、大統領同士の会談の内容を聞くことは不可能だと結論づけていた。
★☆★☆
「自分が大統領の護衛に?」
『はい。ですが、これは私の要望ではありません。シンデンさんを会談の場に来て貰いたいと言い出したのは、ルフラン星域大統領です』
「…自分はルフラン星域大統領とは会った事すらないのだが」
『どうやらルフラン星域大統領は、シンデンさんがサン星域で太陽系を母艦級宇宙生物から守った話を聞いて、「ぜひ会いたい」と思ったようです。一応シンデンさんが同意すればという条件は付けたのですが、私としてもシンデンさんが護衛にいてくださると安心できます』
メアリーとルフラン星域大統領との会談が行われる当日、その直前になって俺はメアリーから会談の現場に護衛として参加することを打診されることになった。
>『いや、大統領同士の会談の場に、シンデンが呼ばれるとかおかしいだろ』
>『マスターが成し遂げた武功を考えれば、会ってみたいと思うかもしれませんが、大統領の会談の場に呼ぶのはおかしい気もします』
「シンデンが大統領の会談の場に呼ばれるって、凄い事だよね」
シオンはシンデンが会談の場に呼ばれることが誇らしいのか、目をキラキラさせていた。
「ええ、確かに凄い話ですが…。一介の傭兵が星域軍の大統領に呼ばれるなんて普通はあり得ませんよ。確かに人類の故郷である太陽系を救った話は話題になっていますが、それだけでシンデンを呼ぶのはおかしいです」
「シンデンさんはベイ星域大統領に指名依頼を出されています。つまり、大国から注目されている傭兵ですよね。そう思えば不思議では無いのでは?」
「うーん、スズカはそう思うか。ルフラン星域もシンデンを狙っているのかな?」
レマはシンデンが会談の場に呼ばれることに疑問を感じていた。スズカは今更と言うが、それでもルフラン大統領がシンデンを呼びつけるのはおかしいとレマは感じていた。
「俺が出向けば良いのだな」
『そうです。ですが帆船をステーションに着けることは許可できないそうです。シンデンさんは私と一緒に旗艦でステーションに向かって貰う事になります』
>『シンデンを帆船と引き離す?いや、帆船の戦力を知っていれば、ステーションに近づけるのは危険だと分かるが…露骨だな』
>『バックアップ霊子、これは罠です』
>『罠と言うが、ルフラン星域がシンデンと帆船に罠を仕掛ける意味があるのか?ルフランにはヤマト級が係わっているという情報は無かったはずだ』
>『そうですが、ルフラン星域は本船を狙っているのかもしれません』
>『シンデンを星域の大統領同士の場で罠にはめて拘束や殺したりすれば、流石に問題になるだろう。大国であるルフラン星域がその様な事をするとは思えない。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」だな。ここはあえて誘いに乗って相手の出方を見よう』
>『了解しました』
「ルフラン星域が帆船を警戒するのは当然だ。分かった俺一人が出向けば良いのだな」
『はい。今迎えの連絡艇を送ります。それで旗艦まで来てください。ああ、帆船は駄目ですが、一応私の護衛なので、武装は許可されていますが、銃器は駄目ですよ』
「愛刀なら問題ないと言うことか…分かった」
『では、よろしくお願いします』
「本当に大統領同士の会談に行くのですか?」
メアリーとの通信が終わると、レマがシンデンに詰め寄ってきた。レマのマインドコントールは既に解けているので、彼女が心配しているのは、純粋にシンデンの身の安全だった。
「俺は大統領の護衛として依頼を受けた。その中には身辺警護も含まれている。それに傭兵なら大統領のお誘いを断るわけが無い」
「先ほどの通信を聞く限り、断ることも可能でした。普通の傭兵なら引き受けるのでしょうが、シンデンはそういう事が嫌いだと思っていました」
「ああ、本当ならやりたくはない。だが、もしここでベイ星域大統領が暗殺でもされてみろ。依頼は失敗となる。指名依頼を受けたんだ、クライアントの要望はなるべく応じておくべきだ。それにルフラン星域の大統領が会うと言っても、俺がサン星域を救った事を知っての行動だろう。『ベイ星域だけじゃ無く、ルフラン星域も有名な傭兵と知り合いですよ』という国民へのアピールに使うつもりだろ」
「なるほど、そういう考えもあるのですね」
スズカは俺の無理矢理な理屈に納得していた。
「それを言われると、シンデンを指名手配のままにしているキャリフォルニア星域は馬鹿と言われている気がします」
レマは、俺の説明を聞いて頭を抱えていた。
本当にルフラン星域大統領が、「サン星域を救った傭兵、シンデンは素晴らしい。今度は私達の星域にも力を貸してくれ」と言えば、シンデンは「報酬次第だな」と返す事になる。それが銀河のネットニュースで流れれば、キャリフォルニア星域に取っては外交的なダメージとなるだろう。マインドコントロールから解放されてもレマはキャリフォルニア星域軍に所属しているのだ。母国に不利となる状況は嫌なのであろう。だがそれはキャリフォルニア星域の問題である。シンデンには関係はない。
「とにかく俺は会談の間帆船を離れる。船のコントロールは雪風に任せるぞ」
「う、うん。分かったよ、私に任せて」
シオンが胸をドンと叩いて、咽せていた。
>『(本当に大丈夫かな)』
一抹の不安を抱きながら、シンデンは迎えに来た連絡船に乗り込み、旗艦に向かった。
★☆★☆
連絡船で旗艦に乗り込んだシンデンは、そのまま直ぐに大統領が居る部屋に通された。武装は取り上げられるかと思ったが、そのまま部屋に通された。その代わり背後には、ゴリラの様な体格のSPが二人付いてきた。シンデンは気の感触から二人が気功術の使い手だと分かった。
「シンデンさんには御迷惑をおかけします」
「これも指名依頼の内容の範囲だ。誤る必要は無い」
「そうですね。ではシンデンさん、ルフラン大統領からの要望を伝えます。彼は『太陽系を救った英雄と少しお話ししてその様子をアピールしたいだけ』だそうです。まあ、政治的なアピールとして使うと正直に話してくれました。その程度なら問題ありませんよね。それで、シンデンさんは、もしルフラン星域軍に勧誘されてたら…」
「ルフラン星域軍に勧誘されたら、「傭兵ギルドの依頼以外で星域軍と関わる事は無い」と断る。それで彼と貴方の会談がおかしくなっても俺には関係ない事と思うが?」
「いえ、それならそれで良いのです。私も無理に今のルフラン大統領と友好を結ぶつもりは無いのです」
メアリーがルフランの大統領と友好を結ぶつもりが無いという話は、外交上の機密事項である。それをシンデンに聞かせる必要性が分からなかった。
>『外交上の秘密を聞かせて、シンデンを絡め取る気か?』
>『勝手に向こうが喋ったのです。無視してしまいましょう』
>『迂闊に反応を返す方が駄目か。そうだな』
「そうか。それで俺はルフラン星域の大統領と少し話をすれば良いのだな。それでは大統領同士の会話の間、俺はどうしていれば良い。部屋の外で待機していれば良いのか?」
「シンデンさんは護衛なのですから、会談の間も私の側にいてください。あちらも護衛は連れているでしょう。それにシンデンさんは生身でも強いと聞いておりますが、実は違うのでしょうか?後ろの二人より頼りになると思っておりますけど…」
「大統領、気功術士にそんな質問をしてはいけない。気功術士は、生身でも強いことが求められるのだ。後ろの二人が気を悪くするだろう」
魔法使いや理力使いは生身でも強いが、それでも近距離…宇宙船の室内などで気功術士と戦えば勝てないだろう。魔法使いや理力使いに求められるのは、マナの使い方や術の行使の熟練であり、気功術士のような体術は含まれていない。逆に気功術士にとっては、体術は気功術と一体となって身につける物なので、生身で弱いと言われるのは、気功術士を侮辱していることになる。
現に大統領の発言を聞いた後ろの二人から、殺気にも似た気が漏れ出していた。
「失礼しました。シンデンさんは高位次元生命体を倒せる方でしたね。愚問でした。それでは会談の間の護衛もお願いします。後はルフランの準備が終わるまで、旗艦で待機していてください」
「承知した」
大統領との会話はそれで終わり、シンデンはSPの二人に連れられて、旗艦の部屋に案内された。
「大統領は『待機していてくださいと』言っていたはずだが?」
俺が通されたのは、SPの人間が訓練に使う様な部屋だった。
「護衛任務の前に、体を温めておくのも我らの役目だ」
「高次元生命体と戦って勝ったという貴殿の腕前、見せて貰おう」
>『こうなると分かっていて、大統領はああ言ったんだよな』
>『マスターの生身での腕前を見るつもりでしょう。なるべく実力を隠してくださいね』
>『分かったよ。この二人なら全力を発揮しなくても大丈夫だろう』
「AAAランクの傭兵の実力を見せてやろう」
シンデンは、レマもシオンもいないので、SP達の試しをさっさと終わらせるべく、シンデンは彼らしくない挑発を行った。既に怒りゲージMAX状態のSPの二人は、挑発されると同時にシンデンに襲いかかってきた。
ツーマンセルで大統領の護衛に当たっているだけに、二人の呼吸はぴったり合っていた。そして気功術士としても星域軍では上位と思われる程の気を纏っていた。
「フッ」
当たれば骨まで砕けるであろう気を纏った拳を、シンデンは最小限の気を纏った左手でいなす。そして相棒の攻撃に遭わせて、シンデンに姿勢の低いタックルを仕掛けてきた奴には、気を纏った膝蹴りを喰らわせた。
「星域軍のマニュアル通りの対応だな。だから動きが簡単に予想できるぞ」
一人が上を攻撃して、もう一人が下からタックルで相手を拘束する。手堅いが、それだけに読みやすい。
「傭兵ごときが」
「星域軍をなめるな」
膝蹴りを食らわせた方が少し鼻血を出していたが、ダメージは大きくは無かった。それもシンデンが手を抜いたからだと二人は理解していた。だから更に怒気が膨れあがっていく。
>『響音の方がよっぽど手強いな。ああ、個人装備なら響音も連れてくれば良かった』
>『流石に人型ドローンは個人装備とは言えません』
>『冗談だ。TOYO社製の人型ドローンを連れ回しているなんて知られたら、アヤモさんが気絶しかねないからな』
それから二人は全力でシンデンに襲いかかってきた。しかし特殊部隊で鍛え上げられ、そして気功術士としてレベルアップしたシンデンに取って、二人の攻撃は気を見れば動きが分かり、避けることもカウンターを放つことも簡単だった。
十分ほど二人の相手に体を動かした後、最後は二人の気のフィールドを鎧通しという技で無効化して気で脳を揺らして気絶させた。
「まさかおまえ達も俺とやるつもりか?これから大統領の護衛をしなければならないのだが、そんな時間は無いぞ」
気がつくと周りにはSP達の仲間が集まっていたが、シンデンが一歩踏み出すと、彼らは道を空けてくれた。中には俺と戦いそうな奴もいたが、周りに押さえられていた。
「済まないが、休める場所を教えて欲しい」
「分かりました」
むさい男の中から、一人女性のSPが出てきて、俺を休憩出来る部屋に案内してくれた。
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