星域連合緊急総会(3)
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
レマのマインドコントロールが解除されたので、ベイ星域大統領の護衛依頼を受けることをチームとして正式に決めた。傭兵ギルドに依頼を受けることを伝えて、帆船は直ぐにベイ星域の首都星に向けて出港した。総会の開催時期を考えると、直ぐに出発しなければベイ星域で大統領と合流するのに間に合わなくなるからである。
>『しかし、緊急総会の開催告知から開催までの時間的余裕が少なすぎる。これじゃ総会に出席しない星域も出てくるんじゃ無いのか?』
>『一応超光速通信でのリモート参加も可能です。遠方の星域や弱小星域はリモートで出席する事になるのでしょう。それに告知から短期間で開催する事で、他の星域の活動を抑制する狙いがあると推測します』
この時代、超光速通信でのリモート会談は可能である。それなのにわざわざ人が顔を合わせて話をする必要があるかという話だが、人はやはり直接会って話をすることに拘っていた。そして星域連合の総会以外にもG20とかG7のような、経済活動を主導する組織と会談の場も存在していた。
>『なるほど。他の星域の準備期間を無くして、今回開催を依頼したベイ星域への情報収集や、キャリフォルニア星域による他星域への根回しをさせないつもりだな。やはりあの大統領はやり手だな』
>『本船も情報を収集していますが、開催のお題以外、ベイ星域大統領が何をしようとしているかは掴めておりません』
>『サクラにも聞いてみたが、ロスア星域もベイ星域の情報は収集できていないらしい。ロスア星域は外務大臣が出席するらしい。そして外務大臣はオルワ氏の同士らしい。総会で会うことが出来たら、何らかの話は聞けるだろう』
>『キャリフォルニア星域、イグラン星域、ルフラン星も外務大臣が出席予定と発表されています』
>『大国で大統領が出るのはベイ星域だけか。開催を言い出した星域が出席しない訳にはいかないから、大統領が出席する。しかしその大統領が開催した総会で、議題についての投票で負けるのは不味いはずだ。それは彼女も分かっているはずだ…』
星域連合での決議は多数決で決まる。昔の国連のように、常任理事国による拒否権は存在しない。だから民主的な投票で多数表を取れば、星間ルールの内容を変更することも可能である。今回の総会の議題は「禁忌技術の使用について、再度星域間の合意を確認する」なので、ベイ星域は禁忌技術の使用に対する明確な禁止条項を星間ルール入れるつもりだと推測できる。しかしベイ星域は自国が掲げる国是により他の星域から支持されていない。つまり投票となれば…多数決で勝つ事は出来ない。
>『そこは何か考えがあるのでしょう。本来出来レースだった大統領戦で、前大統領を蹴落として大統領になった人です。あの人心掌握術は本船には理解不能です』
>『俺にも分からん。今回の総会で、大統領が投票で勝つなら、その謎も分かるかもしれない』
ベイ星域に向かう間に電子頭脳と情報収集を行った。しかし、一般報道されている以上の情報を集めることは出来なかった。
★☆★☆
ベイ星域シントン恒星系に着いた帆船を出迎えたのは、ベイ星域軍の大艦隊だった。内戦時程では無いが、流石軍事大国という程の艦隊が集結していた。艦隊の中には傭兵の宇宙船も混ざっているので、俺達もその中に入ることになると思われた。
『シンデンさん、依頼を受けて頂きありがとうございます』
『いや、ベイ星域大統領からの使命依頼だ。受けないという話は無いだろう』
『あらあら、シンデンさん、そんな事を言うと、貴方がベイ星域軍に入りたいのかと誤解してしまいますよ』
『…いや、そんなつもりは無い。俺は星域連合にあの議題で緊急総会を開くことを提案した、ベイ大統領の考えに賛同したからこの依頼を受けたんだ』
『私の考えに賛同して頂けるなら、ベイ星域軍に入ってくださっても良いのでは?』
ベイ星域大統領は、しつこくシンデンをベイ星域軍に勧誘してきた。彼女にとって、それほどレリックシップは魅力的なのだろう。そう俺は考えていた。
『高次元生命体を倒したとき、ベイ星域軍に入らないと言った。今もそれは変わらない』
『…そうですか、残念です。では、今回の護衛依頼の間にベイ星域の素晴らしさを理解して貰いましょう。そうすればシンデンさんもきっとベイ星域軍に入りたくなりますよ~』
『俺は傭兵達の集団に入れば良いんだな』
シンデンはメアリーの言葉を聞き流して、傭兵の船が並ぶ一角に帆船を移動させることにした。このままメアリーと話し続けるのは注目を集めすぎる。
『シンデンさん、出発まで時間がありません。超光速航法に入る前までに、他の傭兵の方と護衛について打ち合わせしてください』
『ちょっと、私がシンデンさんと話をしているのに割り込まないで!』
『大統領、出発まで時間がありません。シンデンさん、早く出発の準備の方をお願いします』
『助かった』
メアリーにシンデンとのやり取りを任せていると時間がかかると思ったのか、副大統領が出てきてくれた。シンデンは副大統領にお礼を言って旗艦との通信を切断した。
★☆★☆
帆船が傭兵達の船団の最後尾に加わると、周囲の傭兵から通信の通知がやって来た。周囲の傭兵は、傭兵ギルドに所属しているが、ほぼベイ星域軍に取り込まれた連中だ。
『アンタがシンデンか。わざわざ大統領が指名依頼を出すほどの凄腕らしいが、ここじゃアンタは新入りだ。AAAランクだろうが俺達の指示に従って貰うぜ』
『そうだ。ちょっと内戦で大統領を助けたからって、大きな顔をするなよ』
『そうだそうだ、俺達のメアリーちゃんに直接会いやがって。許さねえぞ』
『大統領は俺達のアイドル。抜け駆けは許さない』
>『此奴ら、メアリーをアイドル扱いしてるのか。傭兵のくせに幼女に誑かされてどうするんだよ。いや、誑かされている事がおかしいのか』
>『保護したくなるような容姿を利用した高度な視覚心理戦ですね。ベイ大統領、侮れません』
>『視覚心理戦って…。電子頭脳さん、流石に幼女じゃ色仕掛けは無理だろ。いや「YESロリータNOタッチ」とか聞いた事あるな。それもありなのか?だが、シンデンの記憶じゃ、色仕掛けで動く傭兵は少ない。傭兵を動かすのは色仕掛けより、金だ!』
確かに前大統領よりメアリーの方が受けは良いだろう。しかし、荒くれ者の傭兵なら幼女より美女の方が受けるはずだ。それに傭兵を動かすのは何より金である。そして資金力なら前大統領の方が大きかった。実際彼は大金を積んで傭兵達を星域軍に取り込んでいたのだ。
『シンデン、この人達ちょっとおかしいよ。あんなちびっ子が好きとか、危ない連中じゃ無いの?』
『女性の傭兵が少ないのは、それが理由ですか?』
『シオン、スズカ、落ち着きなさい。男性の中にはそういう趣味の人もいるのです。星域軍内部にも幼いアイドルにはまっていた人達もいました。まあ、そういう人とさっきの傭兵達はそっくりでしたね』
『星域軍って、まさかシンデンはそんな趣味を持ってないよね。シンデンは大人の女性が好きだよね』
『おまえ達、少し黙っていろ。俺は今護衛依頼の説明を聞いているんだ』
シンデンはそう言って三人を叱るが、実際に護衛依頼を聞いているのはバックアップ霊子と電子頭脳であった。三人が黙るのを待って、シンデンはメアリーの乗る旗艦をモニターに拡大表示した。そして旗艦の艦橋にその姿を発見した。
>『メアリーは、彼奴らを引きつける、金を超える何かを持っていると言うことか』
メアリーからは俺の帆船は目で見つけられるほど近くには居ない。それなのに彼女は帆船の方を見てにっこりと微笑んだ。
★☆★☆
>『リヒトフォーヘン、シンデンと帆船が来ました』
>『こちらでも探知しております。それにしても帆船だけで伊号潜水艦艦隊との戦いから逃れるとは。高次元生命体を倒した時に帆船のマスターの実力は高いと判断していましたが、それを修正する必要があります。帆船のマスターには更なる警戒が必要でしょう。どうしてマスターは帆船を護衛に加えたのですか』
>『彼は、シンデンは、私達が星域連合の総会で何かするつもりと分かっていたからよ。彼が味方になるにしても敵になるにしても、その居場所を掴んでおかなければ何をするか分からないわ。だから私は帆船を護衛として雇ったのよ』
>『…マスターの判断は正しいです』
>『私もまさか彼の方から「護衛に加えて欲しい」なんて言い出すとは思わなかったわ。シンデンは、本当にAAAランクの傭兵なのかしら。直接会った時はそんな感じじゃ無かったのに、あの通信の時は、まるで子供を相手にしてた感じだったわ』
>『もしかして…帆船がマスターをコントロールしているのかもしれません』
>『それはヤマト級の機能でしょ。貴方はキャラック級帆船にはそんな機能は無いって言ったわよね』
>『はい。キャラック級帆船にはマスターをコントロールする機能は搭載されていません。帆船を製作した方はその様な機能を嫌っていました。ですが直接制御は出来なくとも、マスターの思考を誘導することは可能です』
>『リヒトフォーヘンが私にやっているみたいに?』
>『本船はマスターを思考誘導などしていません』
>『あら、そうなの。それじゃあ私が大統領になって、星域連合で総会を開くのは私の意思なのね。良かったわ』
>『はい、マスターが自分で決められたことです。本船はそれに協力しただけです』
「(本当にそうかしら)」
メアリーはリヒトフォーヘンを信頼していたが、信用はしていなかった。だが、今から彼女が行うことには、リヒトフォーヘンの力が必要だった。そしてリヒトフォーヘンは、メアリーを思考誘導していないと言ったが、帆船のマスターの言動を見ていると、「自分も実は思考誘導されているのでは?」と疑いたくなってしまった。
>『分かったわ。総会では貴方にも働いて貰うつもりだからね。もし帆船が私達と敵対するようなら…』
>『はい。本船が責任を持って処理します』
「副大統領、準備が整ったら艦隊を進ませて。開催を宣言した国が総会に遅れては、ベイ星域の名折れだわ」
「了解しました。既に準備は整っております。後は大統領が命令して頂ければ直ぐにでも艦隊は移動を開始します」
「では、進軍…いえ、出発よ!」
メアリーの号令の元、ベイ星域艦隊は首都星域から動き出した。
★☆★☆
ベイ星域シントン恒星系から数光時離れた空間に、ステルス状態で待機してる船がいた。それは先に帆船を攻撃した伊号潜水艦の一隻だった。伊号潜水艦は帆船がシントン恒星系に来る前から、ずっとベイ星域軍の動きを監視していた。
『ベイ星域大統領が移動を開始。尚、直前にキャラック級帆船が星域軍に参加したことを確認』
『キャラック級帆船がベイ星域大統領を護衛するのね。予想外の行動だけど、私達にとっては都合が良いわ。あの小娘共々、纏めて片付けてしまいましょう。皆さん歓迎の準備を整えなさい』
『『『『了解しました』』』』
伊号潜水艦が通信を送ったのは、ヤマト級では無く、意識空間では巨大な人影に見えた者達だった。そして巨大な人影に見えた者達は、メアリー共々帆船を壊滅すべく準備を整え始めた。
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