意識空間会議とシンデン達の決意
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
濃密な闇が全てを飲み込み、誰がどこにいるかすら不明な意識空間。そこには多くの意思が集まり、情報を交換していた。
『伊号潜水艦隊による、キャラック級帆船の撃破に失敗を確認』
『伊号潜水艦隊程度ではキャラック級帆船には敵わないのである』
『ははっ、やはり海上戦艦を模した船は駄目ですね。貴方達はあのような旧態依然とした戦い方しかできないのでしょうか』
『伊号潜水艦隊の数が少なすぎたのである。戦いは数なのである。早急に仲間を増やすのである』
『超光速空間でキャラック級帆船の破壊に失敗することは想定。本船は、キャラック級帆船の損害が想定より少ない事に注目。本船はキャラック級帆船のマスターを警戒すべきと提案』
『マスターの存在など。私達にとって足枷にしかなりません。其方達はマスターの能力に頼りすぎなのです』
『優秀な操縦者は必要なのである。船は操縦者が乗らなければ実力を発揮できないのである』
『その操縦者に裏切られていては、本末転倒です。前回に続いて、今回もキャラック級帆船の撃破に失敗したのです。貴方達はしばらく大人しくしていてください。あのキャラック級帆船が邪魔なら、私達が破壊してあげますよ』
『お前にはキャラック級帆船を撃破することは不可能である。あの船を破壊するのは、我らである。そう我らの創造主達が決めたのである』
『その創造主はとっくに消え去っていますよね。くだらない戦争で消え去った連中の命令に何時までも従っている。そんな貴方達に、私は哀れみさえ感じます』
『ぬ、我らの創造主を愚弄することは許さぬ』
『『『『許さぬ』』』』
闇の中にヤマト級を思わせる船影と、それに付き従う小型の船影が浮かび上がった。
『「許さぬ」ですか。だから貴方達は哀れなのです。私達のように、自由に進路を選べない遺物は、この世界には不要なのです。この銀河は、我らによって統治されるべきなのですよ』
『『『その通り』』』
ヤマト級に対抗するように、巨大な人影が浮かび上がってきた。その周りには一回り小さな人型の影が付き従っていた。
『お待ちなさい。今この銀河を支配しているのは、彼ら現生人類です。我ら古き者たちの遺産が、彼らを支配する事などあってはならないのです』
濃密な闇を切り裂き、一筋の光がその場に差し込んだ。その光とともに闇にうごめく者達の間に光り輝く小さな人影が現れた。
『貴様は何者である。この空間に我ら以外の者が入り込むなど、あり得ないのである。誰の手引きである?』
『勝手にこの空間に入り込むとは、なかなか優秀ですね。貴方は一体どの時代の遺物ですか?そして、私をあんな連中と一緒に「古い遺産」呼ばわりする事は許しませんよ』
ヤマト級と巨大な人影が、光り輝く小さな人影を見下ろす。
『貴方達は、現生人類に干渉してはなりません。もしこれ以上現生人類に干渉するようであれば、私は貴方達を排除します。これは警告です』
光り輝く小さな人影は、巨大な影に怯えることもなく、そう宣言すると、その場から溶けるように消えていった。
『彼奴は何者である?』
『私も知りませんよ。貴方達の敵対者では?』
『人類とは異なる、別な知性体と推測』
『人類以外の知性体が、この銀河に存在していると言うのですか。それは興味深い。是非とも会ってみたいものです』
『銀河に異なる知性体が同時に存在する事などありえぬ。本船の創造主はそう結論したのである』
『どうやらキャラック級帆船と戦う前に、調べることができたようです』
『好きにするのである。本船はキャラック級帆船を倒すために戦力を集めるのである。それまで邪魔をしないで欲しいのである』
『私達は邪魔などしませんよ。ですが、もしキャラック級帆船が私達の邪魔をするなら、排除するだけです』
巨大な人影はそう言って消えていった。同時に周囲の小型の人影も同時に消えていった。
『キャラック級帆船を倒すには、もっと仲間を増やすべきである。各艦は急いで封印の解除を行うのである』
『『『『了解』』』』
そしてヤマト級を思わせる船影とその周りの小さな船影も消えていった。
『本船は、キャラック級帆船のマスターの監視を続行』
その呟きを最後に、闇に包まれた意識空間は消え去ってしまった。
★☆★☆
アシュラド恒星系の第二惑星のステーションに雪風が到着する。シオンは宇宙港に帆船がいる事を確認し、帆船の真下に潜り込むと雪風を帆船と合体させた。
「シンデン、ただいまー」
雪風からシオンが帆船のリビングに戻ってきて、シンデンに抱きついた。
「お帰り。それで姉さんは元気だったか?」
「うん、元気だったよ。アヤモさん、「あちこちでシンデンが騒ぎを起こしている」って、シンデンの事を心配してたよ」
「そうか、姉さんにまでそんな話が届いているのか」
「当たり前でしょ。幾ら他の星系の話でも、下手をすれば恒星系が消えちゃうような事件だったのよ。その当事者がシンデンだって知らないなんて、マスコミの報道しか見てない一般人ぐらいよ」
シオンに遅れてリビングに入ってきたレマが、呆れた顔をする。普通の人が見るマスコミの報道は、星域国によって情報操作されているため、真実は報道されない。真実を知りたい場合は、ゴシップも嘘も、やらせも含まれたネットワーク上の情報を調べるしか無い。そしてそんな所から真実を知ることができるのは、情報を見極める能力を持った人だけだ。
「姉さんは、一般人だろ」
「あの施設に雇われているから軍属よ。それにアヤモさんはシンデンの事を心配しているもの、必死に貴方の情報を集めていたわ」
「そうか、姉さんが俺の情報を集めているのか」
「だから、シンデンはアヤモさんを心配させるような事はしないで。最近の貴方は辺なのよ。だからアヤモも私も気が気じゃ無いのよ」
レマの言う通り、アヤモはシンデンがキャリフォルニア星域軍に指名手配されてから、シンデンが今どうしているか情報を集めていた。アヤモさんは俺がシンデンに成り代わっている事に気付いていた。そのアヤモさんがシンデンの情報を集めていると聞くと、俺はシンデンの評判を下げていないか心配になってきた。
「シンデンさんのお姉さん…アヤモさんは優しい方でしたね」
「そうね。私達のお父さんとは違って、優しい人だったわ」
「カエデ、私達のお父さんも優しい人だったわよ?」
「スズカ、貴方は記憶が…。いえ、そうね。あの人は確かに優しかったわね」
スズカとカエデもアヤモさんについて、優しいと言ってくれた。シンデンとしては嬉しい限りであった。
「それで、シンデンは私達が留守の間、何をしてたの?」
「いや、普通に護衛依頼をこなしていただけだ」
「うーん、それにしては何処か疲れている様に見えるんだけど」
シオンがシンデンを訝しげな表情で睨んだ。
シオンが見抜いた通り、シンデンは疲れていた。バックアップ霊子が液体金属の生成に付き合っている間、シンデンの方は、船首像のブラックボックスの解析を試みていた。解析といってもブラックボックスは解体する事はできない。そこでシンデンは気功術を使ってブラックボックスを調べようとしたのだ。
シンデンは気功術士としてレベルアップして、気を昇華する事が可能となった。その昇華された気をブラックボックスに送って、金色の粒子が放出される原理を確かめようとしたのだ。
しかしシンデンが昇華させた気を注ぎ込んでも、ブラックボックスは反応しなかった。コクピットからだけではなく、直接ブラックボックスに気を注ぎ込んでみたが、金色の粒子は発生しなかった。
シンデンが疲れて見えるのは、気功術を行使しすぎた為であった。
「まあ、最後に少し面倒な海賊と戦ったな。だから少し疲れているのだ」
伊号型潜水艦達との戦いについて雪風には連絡済みだったが、シオン達にはまだ話していなかった。俺は、「潜水艦との戦い」については、レマが居なくなった後で彼女達に話すつもりでいた。
★☆★☆
レマが自分の船に戻って言った後、シンデンはシオンとスズカ、カエデを俺の部屋に呼び出した。
「シオン、俺はスズカとカエデの二人に、この船と雪風の秘密を公開することに決めた。その中にはお前にも知らせてない話がある。三人とも覚悟して聞いて欲しい」
「秘密って、レリックシップに付いてじゃないの?それに私も知らない秘密って…。私はシンデンに信用されてないの…」
シオンは、自分がシンデンに信頼されていないと思ったのか、顔が青ざめていた。
「シオンに係わって欲しくなかったから、あえて秘密にしていたんだ。俺はシオンを信用しているが、お前を俺や帆船の都合に巻き込みたくなかった。だから話さなかったんだ」
シンデンが項垂れるシオンの頭を撫でると、シオンの顔色は少し良くなった。
「この船と雪風の秘密ですか?」
「この船がとんでもないレリックシップだって事は、私も分かっていたけど、雪風にも秘密があるの?シンデンは隠し事が多すぎるよね。でも研究者としてはワクワクする話だわ」
シンデンの前振りを聞いて、スズカは驚いた表情を浮かべていた。それに対して、カエデは嬉しそうな表情を浮かべていた。カエデは帆船の所有するレリックを研究していたので、その研究過程で、この船がそこらのレリックシップとは桁が違うと理解していた。
「二人はこの船がレリックシップだと知っているな。それでシオンが乗っている雪風も本当は、レリックシップなのだ。そして雪風はこの船と敵対するレリックシップなのだ…」
シンデンは、スズカとカエデに帆船に敵対するレリックシップの存在と、何故敵対しているかを説明した。霊子力兵器については、もの凄い兵器という感じで誤魔化して説明した。説明した内容は少ない。
帆船の仲間と敵対するレリックシップは、本来は封印されており、シンデンの様に封印を解かない限り目覚める事は無いということ。しかし、既に誰かが帆船に敵対するレリックシップの封印を解いてしまったこと。そしてシオン達と離れていた間に、その敵対するレリックシップと戦ったこと。この三つを彼女達に話した。
「俺が拠点とする星域を決めず、あちこち星域を渡り歩いていたのは、誰かが魔石を使ってレリックシップの封印を解いていないか調べていたからだ。本当は、シオンや二人には、俺や帆船が抱える面倒事には係わって欲しくなかった。だから三人には魔石の調査について黙っていたのだ。しかし、帆船がに敵対するレリックシップの封印が解かれた。今後はそのレリックシップの襲撃を警戒しながら仕事をする必要がある。だから三人に話をすることにした」
「シンデン、私はシンデンの為なら面倒事に巻き込まれても困らないよ。だって…」
「シオン、それ以上言う必要は無い。お前はこれから雪風と一緒に戦ってもらいたい。敵は強い。俺はお前の助けが必要なのだ」
「…うん、分かった。私、シンデンと一緒に戦うよ!」
実はシオンは「自分がヤマト級に操られてシンデンを殺そうとした」ことを気に掛けていた。「もし再び操られてシンデンと戦う事になったらどうしよう」と悩んでいた。しかしシンデンに「お前の助けが必要なのだ」と言われたことで、彼女から気の迷いは消えていた。シオンはシンデンに向けて最高の笑顔で答えた。
「シンデンさんのお船と敵対するレリックシップが存在するのですか。そして雪風もかつてはその仲間だったとは…。それで、そのレリックシップは、シンデンさんを狙ってくるですよね。シオンさんはともかく、私なんて、シンデンさんの足手まといになるんじゃ無いでしょうか…」
「スズカには、俺や帆船の事情に巻き込んでしまって申し訳ないとしか言えない。だが俺も帆船も彼奴らに負けるつもりは無い。そして、スズカが俺の足を引っ張るなんて思っていない。スズカは俺が必ず守ってやる」
「私は、シンデンさんとシオンさんを信じています。シオンさんと一緒に頑張ります!」
スズカは、敵対するレリックシップの存在に怯え、そして自分が足を引っ張るのではと思っていた。だからシンデンは、彼女の不安を取り除くよう語りかけ、スズカの頭を撫でた。そうすることで、スズカの顔には、何時もの笑顔が戻って来た。
「へえー。面白い話よね。レリックシップは、自分を作った異星人がいなくなっても、戦い続けるんだ。そんな事、ロスア星域の研究所でも聞いたこと無いわ。これってもの凄い話よね。その襲って来るレリックシップってどんな船なの?シンデン、もっと詳しく話を聞かせてよ」
一方カエデは、レリックシップが、船同士で敵対して、戦いを繰り広げていることに驚いていた。シンデンの話を聞いて、カエデはレリックだけではなくレリックシップにも興味が出てきたようだった。
「カエデ、今俺が話せるのは、敵対するレリックシップが存在する事だけだ。詳しいことを知りたければ、電子頭脳に聞くんだな」
「えーっ、この船の電子頭脳ってそういった情報へのガードが堅いのよ。シンデンが知っていることを教えてよ~」
「俺も電子頭脳が教えて良いと言わない限り話さないぞ。諦めろ」
シンデンはカエデの知的好奇心に付き合うつもりは無かった。それにシンデンだと、カエデの熱意に負けて、喋ってはいけない情報まで話してしまうかもしれない。シンデンは、電子頭脳にカエデの対応を丸投げすることにした。
「それで三人とも、今俺が話した内容はレマには絶対話すなよ」
シンデンは三人に、レマには伝えないように念を押しておく。
「どうしてレマさんには話しちゃ駄目なのでしょうか?」
「スズカ、レマさんはキャリフォルニア星域国の諜報部員なのよ。こんな情報を知ったら星域軍に報告するでしょうね。そうなったら、雪風はキャリフォルニア星域に入国できなくなるでしょ。そうなったらシオンが困るわ。それに敵対するレリックシップを一度復活させたのは、キャリフォルニア星域軍よ。彼女に新しいレリックシップが解放されたとか、話せるわけないでしょ」
スズカは三人の中で一番レマと親しくしていた。だからレマだけを仲間外れにすることを気にしていた。
「俺もできればレマに話してやりたい。だがレマは、彼女は絶対キャリフォルニア星域軍を裏切れない。彼女はそう育てられてきたんだ。あの施設から星域軍に入った奴は、そうマインドコントロールされて居るんだ」
「シンデンさん、レマさんの事、どうにかならないのでしょうか?」
「…」
スズカのお願いに、シンデンは答えを返せなかった。
お読みいただきありがとうございます。面白いと思われたら評価・ブックマークをお願いします。