潜水艦との戦いと対応作
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
超光速空間で雷撃を受けた帆船は、かなり危険な状況だった。魚雷を受けた船首には大きな穴が空き、水が船体に入り込んでくる。帆船は宇宙船なので、機密を保持する重力制御を使ったフィールドが存在するが、超光速空間の浸水を防ぐ程の力は無い。このままでは、帆船は進水により身動きが取れなくなってしまう。
>『電子頭脳さん、超光速航法を停止して通常空間に離脱できないか?』
>『超光速航法停止の間、多数の雷撃を受ける可能性大』
緊急事態の為、電子頭脳は、会計監査プログラムを停止し、メインプログラムが対応している状況だ。
>『穴が空いた部分に液体金属を注入して、浸水を防ぐんだ。今命中した魚雷の威力だと、シンデンが持っている気では防げない。だから船全体を液体金属でコーティングして、それを気で強化して魚雷を防ぐぞ』
>『了解』
電子像脳とのやり取りは、一瞬で終わる、そして帆船は船体を液体金属でコーティングして、シンデンは今有る気を使って液体金属を強化した。その作業を終えた瞬間…実際には最初の魚雷が命中してから一秒も経っていないが、帆船は四方八方から数十発の魚雷に襲われた。液体金属のコーティングと気による強化が間に合った事で、帆船は木っ端微塵にならず、何とか魚雷攻撃の嵐を乗り切った。
>『ギリギリだったな。電子頭脳さん、何処から魚雷が来たか分からないのか』
>『魚雷の衝突コースから、敵潜水艦の位置は推測可能。しかし、既に敵は移動済みと推測』
>『そりゃ当然、ヒットアンドウェイで攻撃してくるよな。しかし、敵の位置が分からないと反撃すらできないな。…それで、敵はヤマト級の仲間で、多分潜水艦だよな?』
>『肯定。超光速空間での潜水技術は人類は未開発。魚雷の種類と威力から、敵は伊号潜水艦と確定』
>『ヤマト級の仲間の潜水艦が封印から解放されている事は確定か。しかし、雪風が居ないこの時に潜水艦が襲ってくるとか運が悪すぎる』
液体金属を気で強化することで、何とか魚雷攻撃に耐えたが、船体にはかなりの衝撃が加わった。その為帆船内部に衝撃で破壊された部分も出てきていた。
シンデンは気を練ると、液体金属を更に気で強化して再度の雷撃に備えた。そして同時に周囲に気の波動を放って、敵潜水艦を見つけようとしたが、魚雷の爆発で周囲の水は乱れており、気の波動で敵潜水艦を探索することは出来なかった。
>『潜水艦は、どうやってこちらを見つけているんだ』
>『伊号潜水艦は、潜望鏡及び音響探知とソナーにより、目標を索敵可能』
>『第二次世界大戦、いや俺が知っている潜水艦と一緒だな。潜望鏡とソナーなら電子頭脳さんは探知できたはずだよな?』
>『肯定。超光速航行時は、周囲の警戒およびソナーによる索敵を実施。しかし今回は潜望鏡は未発見かつソナーの探知波も未検出』
超光速空間の水面は、重力異状でも無い限りは穏やかな水面である。そこに潜望鏡が出ていれば電子頭脳も見落とさないだろう。つまり、敵潜水艦が帆船を捕らえたのは、音響探知と推測される。俺の知識では、潜水艦が音響探知だけで船を狙うとなると、待ち伏せる必要がある。つまり、帆船、いやシンデンの行動は、潜水艦を操っている連中に監視されていた事になる。
シンデンは傭兵ギルドに次の目的地を伝え移動している。だから傭兵であれば、シンデンが何処に行こうとしているか調べようと思えば簡単に分かる。そしてその情報が有れば、帆船を待ち伏せる事は可能だ。
>『つまりシンデンは、いやこの船は、ずっと狙われていたということか』
>『同意』
>『とにかくこのまま帆船の状態で移動すると狙い撃ちされる。船首像を使って移動するぞ』
>『了解』
船首像が人型モード変形すると、シンデンは気功術で水を蹴って移動した。
船首像を使いシンデンが水面を蹴って移動すると同時に、十数本の魚雷が水面下を通っていった。潜水艦達は、帆船が最初の航路通りに移動すると考えて、その予測進路に魚雷を放っていた。自動追尾機能で魚雷は帆船を探すが、気功術で水面を蹴って移動している状態の帆船を追尾することは不可能であった。魚雷は水面から飛び出すことはできないのか、一定時間帆船を探してウロウロと行動した後、自爆して沈んでいった。
>『魚雷を発射したのは、あの潜水艦か。彼奴に攻撃を仕掛けるぞ』
シンデンは、船首像を水面に立たせて、魚雷の進路の逆算と気による探索で、水面下に潜む潜水艦の一隻を発見した。シンデンが気の探知で感じ取った潜水艦は、第二次世界大戦で日本海軍が建造した、伊十五型潜水艦ソックリであった。伊十五型潜水艦にソックリなレリックシップは、帆船が移動する度に帆船と距離を取るように移動していった。
伊十五型潜水艦は全長百十メートルほどの潜水艦である。シンデンが発見したのはその一隻だけだが、雷撃の魚雷の本数から考えると、最低でも五隻の潜水艦が存在しているはずだった。
>『ちっ、逃げ出すつもりか』
シンデンが見つけた潜水艦は、魚雷攻撃が通じなくなった事と、自分が気の探査で居場所を知られたと察知したのか、超光速航法を解除して沈んでいく。シンデンは、発見した潜水艦を超光速航法から離脱する前に攻撃しようと近づいたが、潜水艦が超光速空間から離脱する速度は速く、攻撃は今一歩間に合わなかった。
>『通常空間に、逃げられたか。追いかけるぞ。同じポイントで超光速航法を解除する』
>『了解。通常空間での戦闘に備え、主砲及び副砲の攻撃準備は完了』
帆船は、超光速空間ではシンデンの気による攻撃しかできない。しかし通常空間であれば、帆船からの攻撃も可能だ。そもそも潜水艦の持ち味は、奇襲と隠蔽性である。帆船を最初の雷撃で破壊出来なかった時点で、作戦は失敗していた。敵潜水艦もそれは分かっていた。だから潜水艦は帆船から逃走した。その潜水艦を追って、帆船は超光速航法を停止した。
>『潜水艦がいない。確かに同じポイントで超光速航法を離脱したはずだ。少なくとも数光秒の範囲に、潜水艦が居るはずだろ。電子頭脳さん、あの潜水艦は、この船では探知できない様なステルス技術を搭載しているのか?』
>『カゲロウ級駆逐艦が所持していたステルスフィールド技術は解析済。同フィールドならば、本船でスキャン可能。現宙域に敵潜水艦は存在しないと判定』
>『それなら、あの潜水艦は何処に消えたんだ?同じポイントで超光速航法を解除したんだろ』
>『…敵潜水艦は、超光速空間から離脱するポイントを任意に変更できる機能を持っていると推測』
>『潜水艦はそんな事が出来るのか。それじゃ超光速空間から離脱する潜水艦を追いかけることは不可能じゃ無いか』
超光速空間では、離脱するポイントが僅かでも違えば、通常の宇宙空間では数光秒から最悪数光時の距離のずれが発生する。普通に超光速空間から離脱する場合は、その誤差を出来るだけ小さくする事が求められるが、潜水艦が帆船から逃げ出すには、その離脱ポイントをずらすという機能は有効である。
離脱ポイントを任意にずらすといった機能は、人類が持つ超光速航法回路には備わっていない。また帆船も超光速航法から離脱すると決めたポイントから正確に離脱するような機能しか持っていなかった。つまり、再度超光速航法で後を追うとしても、そのポイントは無限にある為、潜水艦を通常空間で捕まえるのは不可能に近い。
潜水艦を撃破するには、「超光速空間で倒すしかない」と言うことをシンデン《俺》は思い知ることになった。
★☆★☆
帆船が通常空間に離脱した後の超光速空間には、潜水艦も含め一隻も宇宙船は残っていなかった。しかしその超光速空間の空、帆船のカメラでは捕らえきれないほどの上空に、複葉機のような観測機が飛んでいた。
『キャラック級帆船と、伊十五号潜水艦艦隊との交戦データ収集完了。今から本機は母艦に帰投』
偵察機は誰かに通信を送ると、母艦に向かって飛んでいった。人類は未だ超光速空間を飛行するという技術を持っていない。そして帆船は、潜望鏡やソナーによる探知を警戒していたが、上空まで警戒はしていなかった。
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潜水艦を見失った帆船は、戦いの損傷を修理するために無人の恒星系に向かい、船首像を切り離して恒星に潜った。
>『シオン達との合流まで余裕があって助かったな』
>『今回は完全に不意を突かれたのです。雪風が居れば、潜水艦などに遅れなど取りませんでした』
電子頭脳は潜水艦の雷撃を受けてしまったことに不満が有るようだった。確かに雪風がいれば、魚雷攻撃は察知できていただろう。しかし雪風がいても、全方位から魚雷攻撃を受けてしまえば、シンデンが気功術を使って移動でもしない限り、避ける事は不可能だった。
そして超光速航法の間、シンデンがずっと気を使って移動することは不可能だ。
>『潜水艦が封印から解除されていることは分かった。対応を考えないとな…』
>『今後は、無人機による哨戒行動を取るべきです』
>『超光速航法が出来る無人機って、クローン脳ユニットを使うんだろ。それは禁忌技術として禁止されているから駄目だ。バレたら終わりだぞ』
>『…人類は未熟です』
>『とにかく、禁忌技術を使わない方法で、超光速空間での帆船の索敵能力を上げる方法を考えないとな。そう言えば、あの魚雷はどうやって超光速空間を進んでいるんだ。やはりクローン脳ユニットを使っているのか』
>『本船のデータでは、クローン脳ユニットを使用した物となっています』
>『そうか。やはりクローン脳ユニットを使っているのか』
そこでシンデン、いや俺は、自分が生きていた時代の潜水艦が搭載していた魚雷の仕組みをふと思い出した。
>『あれは、確か沈○の艦隊で見たことがあったな。魚雷は自動で敵を追いかけていると思っていたが、潜水艦から有線で誘導する魚雷が出てきて驚いたんだ。…ヤマト級との戦闘で、船首像は帆船の碇を振り回して攻撃できた。つまり、有線で繋げたドローンを飛ばすことは可能なんじゃ無いのか?』
>『有線誘導ですか。そんな事を帆船の創造主が考えなかったと思いますか?そして人類も当然検討していますよ。確かに有線ワイヤーで接続すれば、超光速空間に滞在できます。しかし、有線ワイヤーを使うとしても、その素材が問題です。超光速状態を維持するために最適な素材を使うとしても、超光速回路から離れるほど、必要なワイヤーの太さが大きくなります。本船が知る最も適した素材を使っても、そのワイヤーは本船の碇をつなぎ止めている鎖ほどの太さとなるでしょう』
>『いやその素材だが、有望な奴があるだろ。電子頭脳さんもそいつ使って実験したことは無いだろ』
>『バックアップ霊子が言う素材とは、あの液体金属の事を言っているのでしょうか?』
>『そうだ、あの液体金属だ。あれは気功術と相性が良いし、魔法は通さない。そして生成した時、いきなりメタル○ライムとして動き出したりもする。俺はあの液体金属は、「超光速航法と相性が良い」と感じたんだ』
>『バックアップ霊子の発言に科学的根拠はゼロですが、確かに試してみる価値はあります』
>『上手く使えば、クローン脳ユニットの代わりに使えるかもしれない。液体金属は禁忌技術には指定されていないからな。たとえ星域軍に追求されても言い訳が出来る』
俺は「液体金属は禁忌技術ではない」と考えていたが、もし液体金属が超光速航法回路を駆動可能であり、そのことを星域に知られれば、液体金属の生成技術の公開を迫られるか、禁忌技術として認定されてしまっただろう。しかし、液体金属はダンジョンでメタル○ライムを倒すか、恒星内にある膨大なエネルギーと帆船の電子頭脳のリソースを全力で使っての生成しか方法は無い。つまり液体金属の入手は現状不可能に近い。つまり、液体金属の有効性が高ければ高いほど、帆船は星域国から狙われる存在となる。そのことに俺が気付いたのは、かなり後になってからだった。
>『修理が終わり次第、あの液体金属を生成します。バックアップ霊子も手伝ってください』
>『ああ、分かっているって』
一週間、帆船と俺は恒星の中で液体金属の生成を行った。そして液体金属を使い超光速空間を有線でコントロール可能な魚雷…いや水中ドローンを作成した。後は、超光速空間で試してみるだけだった。
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超光速空間で、俺と帆船は試作した水中ドローンの試運転を行った。そしてその結果だが…
>『上手く…いったな』
>『はい。確かに想定通り動いています。バックアップ霊子、これは本船の創造主達もなしえなかった事ですよ』
帆船から一ミリも無い程の太さの液体金属のワイヤーが超光速空間の水中に伸びていた。そのワイヤーの先に接続されたドローンは、通常空間に離脱する事もなく、支持通りに動いていた。勿論ドローンに搭載されたセンサーも正常に稼働し、ワイヤーを通して帆船に情報を送ってきていた。何処まで遠隔操作できるか試してみたが、帆船から二十キロの距離までドローンは操作可能だった。つまりこのドローンを使えば、帆船は超光速空間の水平線を超えて敵を索敵できるようになったのだ。
>『今後、超光速航行時はこのドローンを使おう。水中だからレマや他の船にも気付かれないよな』
>『了解しました。ではドローンの量産のために再度液体金属の増産を行いましょう』
>『ええっ?もう十分増産しただろ。今有る分だけで足りると思うが?』
電子頭脳の液体金属の増産発言に、俺は異議を唱えた。一週間かけて作り出した液体金属は、かなりの量であった。そして液体金属の生成は、メタル○ライムとして動き出す危険性があった。実際、あの一週間の液体金属の生成で、液体金属は何度かメタル○ライムと動き出した。そのメタル○ライムは、俺が作業ドローンを使って退治していた。
>『ドローンが撃破された場合を考えると、液体金属ワイヤーは今の量では足りません。もう少し予備が必要です』
>『メタル○ライム退治は飽きたんだよな~』
シオン達が戻って来るギリギリの時間まで、俺は帆船の液体金属生成に付き合うことになった。
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