戦闘の後始末
誤字脱字のご報告ありがとうございます
電子頭脳と主人公との会話ですが通信会話と区別できるように、『の前に>を付けるようにしました。
霊子力弾が炸裂し超光速空間が霊子力による光に包まれる。光学カメラの光量調節が追いつかず、ハレーション起こして俺の視界は真っ白になってしまった。
>『撃っちまいやがって…。うおっ、体が凍って焼けて吹き飛びそうな、この力はいったい…。やばい吹き飛んでしまう…意識が持って行かれる』
>『ピッ、霊子力弾の炸裂を確認。バックアップ霊子保護のため、対霊子フィールドを強化』
電子頭脳が対霊子フィールドを強化したという報告とともに、俺が感じていた力は消え去り、超光速空間に満ちていた光も消えていった。そして俺は水面に沈むような浮遊感を感じた。そして目を覚ますとそこは超光速空間ではなかった。
>『…何も残っていない。というか通常空間に出現しているぞ。ここはどこだ、青いドローンや戦艦はどこに消えた!』
>『ピッ、本船はキャリフォルニア星域最後の恒星系から約二百光年の座標に出現、ドローン及び三隻の戦艦は、霊子力弾により搭乗生命体の霊子を吹き飛ばすことに成功。生命体の霊子が消え去ったことにより、超光速航行を維持不能となったため、超光速空間から離脱。ドローンの離脱により理力拘束が消失し本船も超光速空間から離脱』
>『霊子を吹き飛ばしたって、霊子力弾って霊子兵器って何だよ。シンデンが巻き込まれたあの兵器と同じって物なのか?』
>『ピッ、肯定。霊子力弾は負の霊子を解放する兵器。霊子力弾の負の霊子力を浴びた生命体は、その霊子を消失』
>『つまり、戦艦に乗っていた連中は、シンデンと同じく魂を無くしてしまったって事か。くっ、俺はなるべく人を殺さないようにと思って行動していたはずなのに…』
苦労して人を殺さないようにしてきた努力が無駄になったこと、そして平然と人の命を奪ってしまった電子頭脳に対して、俺は怒りをつのらせた。
>『ピッ、肉体から霊子は消失。しかし生命活動は継続』
>『そういうことじゃ無い、肉体だけが生きていても霊子が無ければ死んだも同然だろ!』
>『ピッ、バックアップ霊子を書き込めば復活』
>『シンデンの記憶じゃ、そんな事ができるのは、この船ぐらいだ!つまり、魂が無くなったら、人は死んだと同じだ。それが分からないのか!』
シンデンの記憶を検索したが、彼は霊子力兵器についてあの事件まで知らなかった。いや、精神系技術には、「死者を蘇らせる物もある」とあったが、それは帆船の電子頭脳の言う「魂を書き込む」といった物ではない。RPGゲームの復活魔法のように、霊となった魂を死体に呼び戻す物らしい。その方法では、霊子が破壊されてしまった人を蘇らせる事はできない。つまり霊子が壊れた人を復活させる、そんな事ができるのは、この帆船だけだった。
>『ピッ、理解不能』
>『ピッ、ピッって五月蠅い。クソッ、魂の無い電子頭脳には理解できないのか』
この帆船を作った異星人は、霊子をバックアップしたり兵器として転用する程の技術力を持っていた。その異星人が作った電子頭脳に魂の重要性を理解させられない事を、電子頭脳を怒鳴っても意味が無いと俺は理解してしまった。
>『シンデンの魂と一緒で取り返しできない事なのか。…重要なのは俺がどうやって生き延びるかだ。せっかく意識を取り戻したのだ。バックアップ霊子でも、死にたくは無い。よし、俺、いや俺達が生き延びる努力をしよう。…それで、超光速空間を離脱したドローンと戦艦はどこにいったんだ?』
>『本船からおよそ五十光年の範囲のポイントに出現。現在戦艦は、AIが救難信号を出しながら漂流中』
>『おい、「ピッ」はどうした』
>『バックアップ霊子が取り消すように設定』
>『はぁ、五月蠅いと言ったから止めたのか。…まあそっちの方が話しやすいか。超光速空間から離脱した戦艦だが、星域軍は連中を見つけることは可能か?』
>『救難信号を受信すれば、発見可能』
>『できれば星域軍より早く見つけ出したい。それは可能か?』
>『超光速空間からの離脱ポイントは記録済み。艦隊を離脱した戦艦より本船の方が近い』
>『よし、まずは三隻の戦艦に接触する。超光速航法に入るぞ』
>『了解』
生きるための努力を俺は始めることにした。
★☆★☆
数十秒の超光速航行を終えて通常空間に出た帆船の前に、三隻の戦艦が横た
わっていた。
>『うぅ、超光速航法回路を起動する度に、シンデンの体を使うのは気持ち悪い。何とかできないか?』
>『バックアップ霊子と超光速航法回路の接続方法について検討。バックアップ霊子と超光速航法回路との接続データ不足。超光速航法回路との接続データの為、数回の試行が必要』
>『ドローンを回収し終える頃にはデータが集まっていると良いな。…さて、ここからは電子頭脳さんの出番だ。三隻の戦艦の電子頭脳をハッキングして、霊子力兵器のデータを改竄するぞ』
>『了解』
霊子力兵器は、その存在がまだ秘匿されている状況である。よって禁忌技術ではなく帆船が使った事でとやかく言われることはない。しかし、その威力が公開されれば、クローン脳の航法装置と同じく禁忌技術となってしまうことになるだろう。そして、帆船が霊子力兵器を持っている事が知られれば、帆船は禁忌技術を搭載した船として破壊や封印処理となるだろう。そうなればバックアップ霊子である俺などどうなるか分かった物では無い。よって、帆船が霊子力兵器を使った証拠を抹消し、スーツ男が使った物と同じ物を戦艦が使ったように戦艦のデータを改竄することで、他の星域や傭兵ギルドを欺くのだ。
>『まあ、企業とキャリフォルニア星域軍はそんな事を認めないだろう。だが俺達の方が先に主張し、禁忌の航法装置という証拠があれば勝算ありだ』
>『処理終了』
>『って、早いな。データの改竄より超光速航行していた時間の方が長いぞ』
>『人類が作った電子頭脳は低レベル』
電子頭脳さんがどや顔をしている気がするが、レリックシップの電子頭脳ともなればそれぐらいの性能差はあって当然なのだろう。俺は改竄されたデータを念のために見たが、旗艦から発射された霊子力兵器が作動し、それが原因で戦闘が終わったように改竄されていた。
>『乗組員の記憶は改竄しなくても良いのか』
シンデンが「頭さえ有れば良い」みたいな事を言っていたので、リビングデッド状態の人の記憶を改竄する必要があるかと思っていたのだが。
>『不要。霊子がない状態の脳から記憶を抽出は、人類の技術では不可能』
と電子頭脳さんが答えてくれた。
三隻のデータ改竄を終えたら、青いドローンの回収に取りかかる。超光速通信を持たないドローンまで回収する必要性は無いとも考えたが、帆船の持つ霊子力兵器の情報が漏れる可能性は、わずかでも残したくはない。
ドローンの出現位置がかなり散らばっていたため、何度も超光速航法を起動した事と艦隊の残りの戦艦と遭遇しないかという緊張感から、最後のドローンを回収したとところで俺は参ってしまった。まあ、霊子だけの俺が倒れることはないのだが、体が無くても精神は疲弊する物だと知ることになった。
>『早く超光速航法回路と直接接続できるようにしてくれ~。それが終わってたら、ハーウィ星域に向けて出向だ』
>『バックアップ霊子と超光速航法回路との接続データの蓄積完了。設計…回路の構築まで一時間』
>『おう、待ってるぜ』
電子頭脳が回路を設定するまでの間、体の無い俺はどうやって疲れを癒やしたら良いのか悩むのだった。
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