トラニナッタ・その8
「よぉやっと、顔見せよったなぁ! そのツラ拝むの、首を長くして……ちゃうな、トラになって楽しみにしとったでぇ!」
「…………」
ガオルが何を言おうが、大きなドクロは何も答えない。
ただ、がらんどうの眼の奥で燃える火を爆ぜらせ、カチカチと歯を鳴らすのみ。
「へんっ、言葉が喉につっかえましたってか!? 頭しかあれへんクセに、生意気なやっちゃで」
姿が見えているのは、頭の骨の部分だけ。
首から下が霧で隠れているというわけではなく、本当に何もなく、頭だけが宙へと浮いていた。
合いの手もツッコミも無い、独り言状態の会話が不服らしく、ガオルが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
そして、つまらない試合へブーイングするように、足元の小骨をひょいと拾い上げてシャレコウベに投げつけた。
投げた先は大きく分厚い頭蓋骨、周りにいる枯れ果ては傀儡とは異なり、ソレはあまりにも頑強。
当然のようにコツンと音を鳴らして弾かれると、無傷のまま小骨が零れ落ちていく。
だが、小骨が再び地を踏むことはなく、不自然に空中で止まってしまう。
まるで砂鉄を集める磁石のように、首の根元辺りでピンと立っているのだ。
「読み通りや……クラヤミの残した即席写真、そこに載っとった名前が『骸体骨』。 んでもって、匂いが混じりあってたんは、お前の身体にされてぐっちゃぐちゃのお好み焼きにされてたっちゅうわけやな」
ガオルの放った小骨が呼び水となったようで、手を触れてもいないのに足元の骨が次々と浮き上がっていく。
それらの行方は、当然のようにあの巨大ドクロの首の下。
スクラップを集める電磁石の如く、骨とあれば無差別に吸い込んでいき、継がれた骨が大きな骨格として再形成されている。
剥製達に吹き飛ばされて再生途中の骸骨、まだ身体も動く者達も例に洩れず、まるで学校中に潜む骨まで飲み込む勢いであった。
「考えてみれば、当然やったな。 いくら墓から蘇るっちゅうても、あんな巨人の骨があるかいってな話や」
呆れているのか感心しているのか、ガオルが首を徐々に上へと動かしながら呟く。
彼の言葉が終わらない内に、みるみると学校の校舎より大きな骨格標本のバケモノが校庭に鎮座していた。
立てば学校を跨げるだろうという恐ろしい巨人。
だが今は、膝と手ををついて首を降ろしている。
それはまるで地を這う蟻の観察でもするかのよう。
あまりにもスケールの違う縮尺に、もしや自分の方が小さくなったのではと錯覚するほどだろう。
この巨躯を眼にした途端、加勢に来ていた剥製達は悲鳴を上げてしまう。
野生の本能なのか、そのまま蜘蛛の子を散らすように校舎の暗がりへと消えていく。
それでも、ガオルは頑として退かず、空を覆うドクロの灯と睨み合っていた。
「へ、へっへっへ……なんや、ガン飛ばしとるんかワレ! こちとら舐められたら負けの商売で新聞書いてんねん!」
虎の頭で牙を剥き、ガルルと喉を鳴らして威嚇を返す。
だが、そんな彼に対しての興味が無くなったのだろう。
ガッタイコツは大人の身の丈よりも大きな右手を動かし、ガオルを握りつぶそうと近付けていた。
「ぐぅっ……こけおどしは長くはもたんかったか……でもまだや……!! まだここを動けへん、男を見せるんや……!!」
焦らすように、そしてより恐怖を植え付けるように、ガッタイコツの腕はジリジリと動いている。
まるで仲間の元へ逃げ出せと言わんばかりだった。
だが、それでも大した時間を取らず、彼を捻り潰すことだろう。
想像に難しくない、トマトのようにぐしゃりと崩れる自分。
それでも逃げ出したくなる脚を踏ん張り、ガオルはキッと眼を上げた。
「頼むで、みんな……!!」
彼の瞳は目の前のガッタイコツのさらにその先、どこかで奮闘しているであろう仲間達の姿が写っている。
ガッタイコツが現れた影響か、学校の中から彷徨う骸骨達の姿が消える。
コツコツと床を叩く堅い音も鳴りを潜め、静寂と霧だけが廊下を満たしていた。
「……消えた? なぁヤガミン! 本当に消えたぜ、アイツ等!!」
「でも、校庭の方ですごい振動があったけど……みんなは大丈夫かしら……」
ゲットやガオルとは別行動をしていたター坊とヤガミン。
戦えない剥製と共に他の教室へ移動し、今までずっと立て籠もっていたらしい。
「分っかんねぇけどさ、予定通りやるしかねぇだろ?」
「それはそうだけど……ちょ、ちょっとター坊!! 窓の外!!」
「どうした、ヤガミン!?」
彼女の声に驚き、ター坊が出入り口から駆け付ける。
そして窓枠に手を着き、身を乗り出すと、校舎を超える大きさの骸骨が校庭に出現していた。
その怪異が屈みこんで覗き込む先には、一人立ち尽くすガオルの姿も遠目に映る。
「げぇっ!? デカ骨ってこんなにでっけぇのかよ!?」
「そんなことより、ガオルが危ないの! 早くあんたも準備しなさいってば!!」
「分かってるよ!! よっしゃ、学校中を探し回って、やっとこの教室で見つけた秘密兵器の出番だぜ!!」
続きます。




