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7 カフェってどうですか?

 私が孤児院に来て、もう1週間が経過していた。

 両親のことを考えると心臓がきゅっとするので出来るだけ考えないようにしている。日中は掃除やフォクシーの手伝いに明け暮れて、夜はうだうだ考えずにさっさと寝るに限る。


 レクの方は孤児院でできた友達と遊び回り、もうすっかり馴染んでいた。

 狸っぽい子がウリー、猫っぽい子がミーカだ。どの子もとても可愛らしい。


「みんなー、ちゃんと水は飲んだ?」


 広場は闇魔法で日差しカットして少しは涼しいけど、それでも暑いから定期的に休ませたり水分をちゃんと飲ませてないと子供はすぐに熱中症になってしまう。

 レクは水を汲んだカップを持ってトコトコとこちらへやって来る。


「サナお姉ちゃん、つめたくしてー」

「いいよ」


 私は闇魔法で水の熱を奪ってあげる。適度にやると冷たい水になって美味しいのだ。ウリーとミーカも駆けてくる。


「私もー!」

「つめたいの、お願いしまーす」

「はいはーい」


 みんなが冷たい水を飲みながら耳をぴこぴこさせるのが可愛らしい。獣耳に生えている毛が子供特有の柔らかそうなポワポワ毛なのもまたいい。

 私はその光景をニヤニヤしながら見つめていた。決して変な意図はない。あくまで可愛いものを愛でているだけである。




「サナ、お話があるのですが」

「ひゃっ!は、はい、なんですか!?」


 私はフォクシーに呼ばれて、掃除の手を止めて彼女の向かいに座った。

 まさか小さい子を見てニヤニヤしていたのを見られてはいないだろうか。私は慌てて姿勢を正した。


「サナは18歳だそうですね」

「はい」

「アニムニアでは18歳だととっくに成人で、働いて納税する義務がある年齢なんです。前にも言いましたがアニムニアの民は男女問わず働くことを良しとしています」


 私は頷く。

 掃除なんかはしているけど、あくまでお手伝いレベルだ。教会の中のこと全て取り仕切るフォクシーのようには出来ないし、仕事と言えるレベルではない。


「ですからサナもアニムニアでの市民権を得て、独立すべきだと思います」

「えっと、市民権ってどうやって得るんでしょう」

「サナはレクを助けてくれましたよね。あれはアニムニア国民の人命救助に当たると思います。ですので法に則るならアニムニアの役人と面談をして、受諾されれば特例として市民権は得られるはずです」

「ほ、本当ですか!?」

「はい、市民権が得られれば、種族は関係なくアニムニアの民です。独立して家を持つことや、商売も始められます。もちろん納税の義務はありますが……しばらくの期間は逆に受給金が与えられるでしょう」

「え、そんなに至れり尽くせりでいいんですか!?」


 フォクシーは口に手を当てて笑う。


「ええ。もちろん貴方の人柄を知ったからですよ。サナならこのアニムニアでも暮らしていけるでしょう。だからこそ、そう推薦させてもらいました」

「あ、ありがとうございます!」

「それで、サナはどういうところで働きたいとか、やりたい仕事の希望はありますか?」

「ええと……」


 私は腕を組んで考え込む。

 どうせなら闇魔法を使った仕事がいいと思っていた。獣人(アニムス)の人たちは私なんかよりずっと力が強くて体力がある。彼らと肩を並べて同じように働くのは難しい。

 それに私は日本ではただの学生でしかなかった。将来なりたい夢もない。

 両親は共に医者で、私にも医者になるように言われていたけど、それが本当に自分のやりたいことかと言われると、違う気がした。


「すぐには難しいでしょう。急ぐことでもないし、もし少しでも興味のある分野があれば教えてね」

「はい……」

「コーヒーでも飲んで、少し考えながら休憩していてちょうだい」

「いただきます!」


 私はフォクシーの淹れてくれた甘いコーヒーを口にした。美味しいけど、暑いからやっぱりスッキリしたアイスコーヒーも飲みたいな、なんて贅沢なことを考えてしまう。もしくは冷やし飴。夏休みに京都のおばあちゃんの家に行ったら必ず作ってくれた。暑い時に飲む冷やし飴はすごく美味しかった。


「あ!」


 私はコーヒーのカップを置いた。

 フォクシーが驚いたように目をパチパチとさせてこちらを見てくる。


 私は恐る恐る手を上げた。


「カフェ……喫茶店、やりたいです」





 思い付きと勢いで言ってしまったけど、私に本当に出来るのだろうか。


 でもこのアニムニアは暑い。今は夏というわけではなく、一年中多少の差はあってもこれくらい暑いのが当たり前なようだった。

 それなら私の闇魔法を使って、冷たい飲み物を出すカフェって需要はないだろうか。これまでアルバイトは禁止だったから、カフェで働いた経験もない。

 でも、やってみたい。おばあちゃんがよく作ってくれた飲み物の作り方はどれもちゃんと記憶している。

 私はうん、と頷いた。





 次の日、フォクシーが言っていた通り、アニムニアの役人さんが教会にやって来た。

 驢馬っぽい耳でのんびりした話し方のロッソさんと、茶色い狼耳のジーノさんだ。

 耳のせいでジーノさんを見ているとついリベリオを思い出してしまう。リベリオも美形だったけど、ジーノさんも柔らかい雰囲気で綺麗な顔立ちをしているから、獣人(アニムス)は美形が多いんだなってしみじみ思った。


 リベリオはまた会えるって言っていたけど、私はまだ教会の敷地外にすら出ていないから会う機会すらない。お礼は言ったけど、命を助けてもらったようなものだし、恩返しもしたいんだけどな。






 役人との面談というから堅苦しいのを想像していたけど、思いの外あっさりと終わった。私が異世界人である事情なんかはフォクシーが既に説明しているのかもしれない。


「はいー。ではー、サナさんに市民権を与えるということでー」


 のんびりとロッソさんが言い、書類らしいものにさかさかと記入していく。


 そんな簡単に決めてしまっていいのだろうか。

 覗き込んだ書類は私には読めない。

 言葉は分かるようになったけど、字は分からないままだった。数字はフォクシーが教えてくれたけど、それ以外はまだまだだ。


「それでこの箇所に、その権利について書いてあるのですがー」

「サナさんは異世界人とのことで、アニムニアの文字は分かりませんよね。私が読み上げても構いませんが、初対面ですし信頼できる人に頼んだ方がいいでしょうか」

「あ、えっと……」

「あー、それならボク、フォクシーさんを呼んできますー」

「あ、ありがとうございます!」


 私が召喚されてすぐに酷い目にあったのを知っているからか、彼らも気を使ってくれているようでありがたかった。


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