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狼さんの木陰カフェ〜追放聖女は闇魔法でスローライフを送りたい〜  作者: シアノ


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11 シュワシュワ炭酸井戸

 即決した私にリベリオは目を丸くする。


「ここにするって……お前、まだ家の中も見ていないのにか?」

「なんか、ここ!って気になっちゃったんだもん」


 リベリオはやれやれって感じで息を吐いた。唐突過ぎて申し訳ないけど、さっきはピンと来なかったそのピン、が今来てしまったんだ。

 それに私はアニムニアに来て、頭でぐだぐだ考えたり悩むよりも、思うがままに生きる方が上手くいっている気がしていたからだ。私はもう両親にとってのいい子である必要はないんだし、自分のことなんだから人の顔色を窺って決めたくない。


「……仕方ねえな。確かに庭が広いのは利点ではあるか。家の中もちゃんと見て、それで決めろよ」

「うん!早く中に入ろう!」

「待て。ちゃんと見てからにするって言っただろ。ほら、井戸もあるぞ」


 リベリオが示した玄関の横に石造りの井戸がある。木の蓋がされているから井戸だとすぐに気がつかなかった。位置的にも大きさ的にも椅子かなんかだと思って座ってしまいそうだ。


 井戸があるのは少し嬉しい。アニムニアは離れた山の方に人工湖を作って、街まで水道を引いてるそうだ。日本みたいに蛇口をひねればいくらでも、ってわけではないけど台所にあるポンプで水を汲み出せる。でもその仕組み上、使える量に制限もあるらしいから、井戸があるのは飲食店としては利点だ。


「いいね。この水って飲める?」

「ん……一応は飲めるみたいだが……これは美味しくないだろうな」

「え?どうして?」

「炭酸泉って分かるか?水に泡が混じってるんだが、普通の水より鉄臭い味がする。ただ、洗い物や洗濯に使う分にはむしろいいかもな」

「炭酸泉って……」


 あの、シュワッとする炭酸水の泉?

 思わずゴクリと喉が鳴る。


「ね、ねえ、ちょっと飲んでもいい!?」

「そりゃ、いいだろうけど……気を付けろよ」

「うん!」


 私はいそいそと木の蓋を開けた。ロープを手繰り寄せるとずっしり重い。ちゃんと水は入っているみたいだ。


「重っ……!」

「貸してみろ」


 なかなか持ち上げられない私に焦れたのか、リベリオが変わってくれる。あんなに重かったのに、まるで重さを感じないかのようにリベリオは一瞬で汲み上げる。


「で、どうやって飲む気だ」


 リベリオは桶を手にしてそう言う。


「うう……桶のままは衛生的に良くないよね。やっぱり手かな……カップとか持ってくればよかったかな……」

「柄杓で良ければどうぞ」

「あ、ありがとうございます!」


 私は柄杓を受け取って、リベリオが手にしている桶に突っ込んだ。

 柄杓を入れただけで水とは違うと分かる、シュワッとした気泡。

 私は暑さで喉が渇いていたのもあり、ぐびっと一気に飲んだ。

 渇いた喉にシュワッとした刺激と爽快感。ほんの少し鉄臭い気はしたけど、よく温泉地にある飲泉所の水よりも断然美味しくて飲みやすい。思わずプハーッとしてしまいたくなる。


「美味しいー!この喉越し、確かに炭酸水だー!」


 まず、すごく冷たかったのだ。井戸もかなり深そうだったし、温いと気が抜けてしまうからこれだけシュワシュワ感が残っているということは水温がかなり低いからなのだろう。野菜とか果物を冷やすのにも良さそうだ。


「冷たいし、美味しいわよね。私はここの水好きなんだけど、うちの旦那は金臭くて嫌だって」

「……って、だ、誰ですか!」


 私は驚いて振り返る。いつのまにいたのだろう。というか、私に柄杓を貸してくれたのもこの人だ。全然気がついていなかった。


 リベリオは呆れた顔をして私の手から柄杓を引ったくった。


「お前……もう少し周りを見ろ。柄杓ありがとうございました」

「あ、ありがとうございました!すみません、井戸に夢中になっていて……」

「いいのよー。私もたまにこの井戸の水を汲みに来るんだけど、珍しく人がいるから驚いちゃった。物件の見学?」


 ちょっと小柄な奥さんは頭に茶色い小さな耳がちょこんとある。服装はツーピースで上下に分かれている間からニョッキリと大きなヘラのような毛の生えていない尻尾が出ている。多分ビーバーの獣人(アニムス)なのだろう。


「あの、サナといいます。カフェをやりたくて物件を探してて……ええと」

「サナちゃんねー。私はシビラよ。お隣の……って言っても離れてるんだけど、ほらあそこに見える黄赤色の屋根の家ね」

「あ、もしかしてこの家の手入れをしてくれてた……」

「そうなのー。生垣がボーボーだと嫌でしょー。虫も増えるし。いつでも引っ越して来られるように綺麗になってるから安心よー。それにね、この家はうちの旦那が手掛けたんですもの。だからとってもおすすめよ。うちの旦那さんね、大工なんだけど、すごく器用でね、ここの井戸まで掘っちゃったのよーうふふ素敵でしょう。私達は同種族なんだけど恋愛結婚でもうそれはそれは熱烈に──」

「は、はあ。あ、あのすみません、まだ室内を見てないので……」

「あらそうなのね。ごめんなさい、引き止めちゃって」


 シビラさんは放っておくとエンドレスで話し続けそうだ。悪い人ではなさそうだけど。

 リベリオはなんかげっそりしている。こういうタイプ苦手そうだもんな。


「リベリオ殿下も可愛らしい恋人が出来て良かったですね。私、心配していたんですよ。リベリオ殿下は浮いた話もないし、まあやっぱりジーノ殿下が先に結婚しないと恋人も作れないのかしらって──」

「こ、恋人!?違いますから!仕事で、物件を見るのに付き合ってくれてるだけで!」

「まあ、そうなの。お似合いなのに……って、またやっちゃったわ。あーん早く水汲んで帰らなきゃ!」


 シビラさんは来た時の唐突さと同じように唐突に帰って行った。手ぶらで。


「……シビラさん、水汲まないで帰っちゃったけど、いいのかな……」

「つ、疲れる……。また戻ってこないうちにさっさと中を見るぞ」

「う、うん……」


 シビラさんにリベリオの恋人って勘違いされたせいか胸がドキドキしていた。

 リベリオは呆れたような顔をしているだけで焦りすらしていなかったから、あっちは何も思ってなさそうだ。


 なんというか私も恋愛に関してなんの経験値も得てない初心者中の初心者。しかも助けてくれた恩人な上に、あり得ないほどの美形なリベリオなものだから、ちょこっと意識してしまうのは仕方ない。当然、脈があるとも思っていないんだけど。


「あ、暑いね……」


 私は赤くなっているだろう顔にパタパタと風を送って誤魔化した。


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