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3 冒険の始まり1

 世界樹の国ユグドラシオンからエルフの騎士たちが調査に派遣されたころ

芋虫は困っていた


まずいことになった

まさかこんなことになるなんて


周りを見渡す

世界樹以外を知らない自分にとって全くの未知の世界


おのれ鳥め

僕を食べなかったのは誉めてやろう

でも、なんで運んじゃったの

んでなんでわざわざ遠いところで落としたの

硬いよ、そりゃ僕の硬さは正直鉄より硬いと自負してるよ

落とされても傷一つ追わなかったよ

でもね

自分のペースでゆっくりいろんなとこに行きたかったよ

世界樹から降りてその周辺から探索したかったよ

声は出ないから心の中で叫ばせてもらうね

・・・・・・・

ここ、どこだよ!!


あたりはほの暗い森

360度どこを見渡してもモリモリの森だ


 さかのぼること数時間前

頂上に到達し、進化も果たし

何もかも順風満帆

時折出会うモンスターも難なく倒せるほど世界樹上での強さは上がった

甲殻の硬さはもはやその体を傷つけることのできる魔物がこの周辺にはいないほどだ


今度は下に降りて周辺を探索しよう

ゆっくりと世界を見て回るもいいなぁ

そういえば、きく、はなすってコマンドがあったなぁ

あれ使えば意思疎通が図れるかも

ってことは、人間と話をして一緒に冒険、なんてこともできるかもしれない

・・・

いや、襲ってくることの方が多いかな?

話が通じるようなら話してみよう


そんなことを考えていると

警戒に何かが引っかかった


ん?敵さんのお出ましかな?

僕のスキル練習の糧となってくれ


と、周りを見渡すと

巨大な怪鳥が口を開けて迫ってきていた


やば


 あっさりと咥えられ、僕は、連れ去られた

運ぶ途中、くちばしは何度も体を砕こうと締め付けてきた

しかし、ほんの少しキシキシと軋んだ程度で砕けることはなかった

締め付けられてるなぁという感覚はあったが

痛くもかゆくもない


硬すぎだろ、僕の体


そこで食べるのをあきらめたのか、落とされた


そして今に至る


このまま森をさまよってもらちが明かない

なら、街道を探して..

あ、それは昆虫の僕としては正しいのだろうか?

このまま彷徨いながら平和に暮らすのが正しいかもしれない

でも、人間がいるならあってみたいなぁ

それに、いろんな種族がいるらしいし

見るだけ、見るだけなら大丈夫、だよね?


誰に聞くともなく疑問を投げかける

当然なにも帰ってくるわけがない


おっし、ひとまず街道を探して人間を見てみよう

それから決めよう


 それから数時間、うろうろしている中

猛烈な空腹感が襲ってきた

口には念のためと持ち歩いていた世界樹の枝が5本ある

しかし、それは本当にいざとなった時のためだ

今食べるわけにはいかない

幸いにもここは森

あたりには葉っぱも草も売るほど、いや、無料で配れるほどある

“みる”であたりを確認しながら食べれる葉っぱ、もしくは草を探す


しばらく探していると、ヒール草という草を発見した


 ヒール草


一般的な薬草

軽傷程度なら癒すことができる

飲む、すりつぶして塗るなどの使用方法がある

ポーションの原料


おお、これは食べれそうだね


咥えていた世界樹の枝を置き、ヒール草に食らいついた


ムシャッ


うぅう

まっずぅぅう


世界樹の葉とは比べ物にならないほどの苦み

良薬口に苦しというがそれにしても苦すぎた


思わず吐き戻しそうになるが、これからはこういった草花や葉が食物となる

好き嫌いも言ってられない

我慢してすべてを食べきった

それでもまだ空腹は満たされない

“みる”で確認できた食べれそうな草を片っ端から食べる

毒消しの効果のあるアンチドート草、麻痺を回復させるアンチパラライ草

そのほか、野菜と思しきもの、野草、食べれそうな植物は何でも食べた

しかし、世界樹の葉ほどおいしいものはなく

少しがっかりした


がっかりしててもしょうがない

世界樹の葉が特別だったんだ

今あるもので満足しよう


ひとまず空腹はなくなった

ならば次は探索と森の中をまっすぐにひた進んだ


行けども行けども薄暗い森

木々がただただ並び、代わり映えのしない景色に飽きてきた

モンスターも飛び出さないし、警戒にも何も引っかからない

それでもおなかはすく

幸い薬草や野草の類はどこかしこにあった

旨くはないものの、空腹を満たすために食べる食べる食べる


ポーン


え?


— 魔法、ヒールを獲得しました


んお?

ヒール?


 ヒール


魔力を消費し、他者を回復させる魔法

回復量としてはポーションと同程度


おお

今まで自分しか回復できなかったけど

これで自分以外も回復させれるってことか

もし怪我した人間とか助けられたら

意思疎通のきっかけもできるし、あわよくば一緒に冒険とかできるかも

これは、ワクワクしますよ~


しかしながら、まさかその辺に生えてる草からも魔法を獲得できるのか

これはこの世界のルールなのか、それとも僕がおかしいのかどっちなんだろう?

情報が、なさすぎる

わからないことは保留

いつまでも、保留ってわけにはいかないけど

わからないならしょうがない

今はまだ調べる手段もないしね


ということで再びまっすぐに森を進み始めた

まっすぐに進めばいずれどこかにつくだろう

安直かもしれないがそれは間違っていなかった

開けた場所に出たのだ

それも、人工的に開けた場所

木を切った後の切り株があるのだ

人間、もしくは知能のある生物が切り倒したと思われる


やった、もしかしたら人に会えるかも!


広場に出て周りを見渡すと

少し狭いが切り出した木を運ぶには十分な通り道のようなものがある


ここを進めば街道、もしくは人のいる場所に出るかも

ひとまずそこまで行ってみよう

道は、誰かが通った後がある

それも、最近だ

足早に道を歩いていると

悲鳴が聞こえた

声から察するに、少女のようだった

その声は道の先


急がせていた足をさらに早める

目に映る小屋

小屋の前に少女が血まみれで倒れていた

その少女を取り囲むようにゴブリン?たちが笑っていた

手にはナイフを持っている

このままでは少女が殺されてしまう


ウィンドカッター!


敵を切り裂く魔法を放つ

ゴブリンたちは風が吹き抜けただけだと思っただろう

その風が吹いた方向を振り向いた瞬間

バラバラになって崩れ落ちた


あたりを見渡し、敵がいないことを確認すると、少女のそばへと行く

様々な個所をいたずらに切り裂かれており

おびただしい出血が少女の寿命をどんどん縮めていった

顔も、体も、深い傷が走っていた


これは、まずいな

よし、ヒール!


ヒールの魔法をかける

出血は何とか止まったようだ

しかし、それは気休めにしかならない

徐々に体温を失っていく体


ふと、世界樹の枝を咥えていたのを思い出す


これを食べさせれば、何とかなるかも

口もとに枝を持っていき、口移しのように入れ込む

しかし、咀嚼ができないほど弱った少女に枝を食べることはできなかった


これじゃぁ食べさせれない


そうだ!


 自らの口で咀嚼すると、かみ砕かれ、ペースト状になった枝を少女の口に流し込んだ

少女は必死に飲み込む

恐らく、無意識のうちに助かろうとしているのだろう

枝のペーストの効果は絶大だった

みるみる傷が治っていく

その少女の頭の傷

いや、傷と思っていた場所から猫のような耳が生え始めた

そして、臀部からはふさふさのしっぽ

獣人の少女だった

耳やしっぽはゴブリンたちに切り取られたのだろう

むごいことをすると思った


 ややあって少女は目を覚ます

きょとんとした顔の少女

傷の治った顔は整っており、とてもかわいい


少女は自分を心配そうに見ているワームの姿を確認した


「ユノス ヘルペリ ミャニュ サクステ?」


ん?なんて?

何言ってるのか分かんない・・・

あ、こういうときにこそコマンドの“きく”、“はなす”じゃない?


二つを発動させると

先ほどの言葉が翻訳されて聞こえた


「あなたが、私を助けてくれたの?」


はなす

自分の言葉を相手にわかるように伝えれるらしいけど

言葉が出ないのに話せるのかな?

う~ん

やってみるしか、ないか


(大丈夫?)


口からはキシキシという音しか出ていない

それでも、意志は伝わったようだ


「うん、大丈夫」

「あなた、話せるのね?」


(通じたみたいでよかったよ)

(ゴブリンたちは倒したからもう安全だよ)


少女はおびえたように周りをきょろきょろ見ていた

それを安心させるための言葉


「あなた...芋虫さんが追っ払ったの!?」


(まぁそんなとこかな?)


「すごいすごい!芋虫さん強いんだね!」


(ふっふ~ん、まぁねぇ~)


「私、ミューロラル」

「ミューって呼んで」

「あなたは?」


(僕?僕は・・・)

(名前はまだない)


ちょっと言ってみたかったセリフ

それもあったが

転生前の名前は使わなかった

この世界での名前が欲しかったから


(よかったらミュー、君がつけてよ)


「え?いいの?」


(うん)


「じゃ~ね~」

「ワームだから~」

「ワムちゃん!」


(クリスマスソング歌うバンドか!)

心の突込みが“はなす”のせいで伝わってしまう


「ご、ごめんね、気に入らなかった?」


(あ、いやいや、ごめんごめん)

(違うよ、ありがとう、すっごくいい名前だよ)


正直少し後悔していたが

この世界で初めて自分の名前を手にした

その満足感の方が大きかった


ポーン


ん?


— 名前がワムちゃんに設定されました


お、おおん?

設定された?

あれ?もしかして僕

ずっとこの名前?

あ、ああ、ちょっとこうか...

いや、せかっくもらった大事な名前だ

甘んじて受け入れよう


「ワムちゃん、お礼がしたいから家に入って」

「そこの小屋が私の家なんだ!」


目の前にある簡素な小屋を指さす

少女はワムを抱きかかえる


(ちょ、僕重いよ?)


「大丈夫大丈夫」

「このく、ら、いっ」


ふらふらよたよたと歩く少女

当然、転んでしまった


(ほらほら、言わんこっちゃない)

(自分で歩くよ)

(ほら、立って)


「うん、ごめんね」


一人と一匹は小屋へと入った


エルフさんたち無駄足だったな

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