10 旅の終わり、旅の始まり1
さんざん泣き枯らし、シェイナが安置されてようやく落ち着いたミュー
彼女はすでに決意を固めていた
「私、また冒険者をやる」
「シェイナちゃんの分まで頑張る!」
幼いながらも必死に出した答えなのだろう
勇者として自覚し、世界を守ると決意した顔
魔王も、周りのものも、心配しながらも笑って送り出す
当然、リモットもハノラもついて行く
三人での旅
いつもはここにリーダーの声が加わり賑やかだった
その声はもう聴けない
決して彼女たちを励ましたり、ともに笑いあったりすることはない
それでも彼女たちは前に進むことを選んだ
脅威はまだ去ってはいない
ガルードラもグランドルを滅ぼした者の仲間と思しき二人組に滅ぼされた
加えて闇の存在
問題は次から次へと山積していく
悲しんでなんていられない
ミューはひとまずユグドラシオンに向かうことにした
ユグドラシルで加護を受けれないか調べるために
守護者が死んだため、新たな守護者が生まれるかもしれないとのことだが
ユグドラシルはシェイナに花を与えて以来沈黙している
それでも何かがわかるかもしれないし
もしかしたら闇に対抗できる力を得れるかもしれない
ミューの勇者としての力はまだまだ未熟すぎると言っていい
魔王の配下の配下にすら劣っている
それはリモットもハノラも同じ
当面はここの力をあげる旅になるだろう
旅に出る前に、最後にシェイナに別れと決意を言おうとマシニアに向かった
マシニアはいまだ喪に服しており
文化なのか全員が黒い服で歩いている
マーキナも自身を黒いアーマーで包んでいた
そのマーキナに案内され、シェイナの眠る王墓へと向かった
マーキナが納棺を任されていたのだが、いまだ棺は飾られていた
「その、なんだかまだマスターが生きているようで...」
そう語るマーキナの気持ちはみんな分かったため、何も言うことはなかった
三人は祈りをささげると、マーキナに別れを告げてユグドラシオンへと向かった
魔王から借りたマジックアイテムで飛ぶ
まずは女王セムディアに謁見した
「よく来られました、勇者様」
「守護者様のことは...何と言ったらよいか」
「いえ、大丈夫です!」
「これからは私がシェイナちゃんの分まで頑張るって決めたから!」
「お強いですね」
「何かあれば私たちが全力で支援いたします」
「そこで、一つご相談なのですが」
「相談?」
「えぇ、ユグドラシルの上が何やら騒がしいのです」
「もしかしたら新しい守護者様が生まれたのかもしれません」
「よろしければ見てきていただけますか?」
「わかりました!」
「でも、あんな木、どうやって登ればいいんです?」
セムディアはその質問に答えるようにうなずき、魔術師オーロスに何かを持ってこさせた
その手には三本のロープが握られている
「このロープは上に向かって投げることで気に張り付き、自動で引き上げてくれます」
「これがあれば難なく上まで登ることができますよ」
「わぁ、ありがとうございます!」
ミューはロープを受け取った
驚くほど軽く、驚くほど丈夫だ
エルフの技術で作られた特製のロープらしい
早速三人はユグドラシルへと登って行った
「高いね、どのくらいあるんだろうね?」
「そうですね、上の方は雲がかかって見えません」
「気を抜かないでくださいね?一応魔物や魔昆虫もいるみたいだし」
「は~い」
ミューはロープを木に投げた
グンと伸びたロープは10メートルほど上に張り付くと、ミューを掴んで引き上げ、巨大な葉の上に乗せた
「おお、すごいね、便利~」
投げては引き上げられ、また投げては引き上げられる
途中にゴブリンも出たが、ユグドラシルに巣くう魔物はそこまで強くはない
ランクで言えばF、よくてせいぜいDだ
ランクCとDの彼女たちにとって敵ではない
大した障害もないまま、一日で約三分の一ほどを登って来た
上を見上げるとなるほど確かに魔物が騒がしい気がする
空を飛ぶ魔物は飛び立ったりまた戻ったり
魔昆虫も上り下りを繰り返している
何かがいるため戻ろうにも戻れない
そう思えた
「何がいるんだろう?」
「もし黒い魔物だったら私たちでは対処できません」
「観察だけして報告に戻りましょう」
「うん、そうだね、シェイナちゃんなら多分そうしてるよね?」
その質問に二人はうなずく
とりあえず調査は次の日にして、その日は大きな葉の上で休むことにした
ユグドラシルの葉は広く、三人がキャンプを張るには十分な広さだった
辺りが暗くなったためか、そこで気づいた
上の方、頂上あたりがうっすら光っていることに
その光はどこか温かみがあり、見ているだけで癒されているように感じた
主人公、勇者




