ハクラ姫童子立つ3
リコルコの猛攻をぎりぎりでかわし続けるが、それも限界が近づいてくる
纏っていた雷もすでに消えている
身体能力は目に見えて落ちていた
「殺すぅううう、グチャッとぉおおおお!」
二つの目をぐるぐると動かしハクラを捕捉し続ける
躱し続けたハクラの足が、とうとうもつれ、倒れ込んだ
「死ね!弾けろぉおお!!」
リコルコの手がハクラをとらえ、握った
ゴシャっという音
リコルコはそれでも止まらない
ハクラのいた場所をぐちゃぐちゃにめちゃくちゃに壊した
徹底的に、破壊し、潰しつくした
潰れ切ったその場所に目を向ける
果たして、ハクラの死体はなかった
「どこだぁ!!逃げた!!どこにいるぅううう!!」
きょろきょろと探すが捕捉できない
辺りにはいつの間にか黒い霧が立ち込めていた
「仙力スキル、黒霧」
突如霧の中から響いた声
ハクラの声ではない
ハクラの優しげな声とは違い、冷たくとがった女性の声だ
「ハクラ、間に合ってよかった」
自分を抱えるその女性を見てハクラは目を見開いた
「姉、様」
ハクラを抱えていたのは、姿を消していた姉、クラハだった
姫になることを辞退し、どんな敵からもハクラを守りきるために武者修行をしていた
鋭い目つきに美しい黒髪、ハクラと同じく赤い角に赤い目
黒い着物を身にまとい、真っ黒な宝刀“黒蝶”を腰に下げている
種族はハクラより上の鬼子母神
神に至ると言われる今までにない童子からのさらなる進化
「待っていなさい」
「私がすぐ終わらせるから」
黒く輝く宝石のような太刀を抜き放つ
「お前もぉ!!邪魔するか!」
「なら殺す!私の大事な妹を!ルコを!!殺させない!!!」
「そうか、妹は大切だろう?」
「私もそうだ」
クラハはリコルコの横を驚くほどあっさり通り抜けた
「振り向くな」
クラハがリコルコにそう言う
「何を!!」
リコルコが振り向いたその時、首がごろりと転がり落ちた
「?」
リコルコには何が起こったのか分からない
ただ、自分の体が自分に向かって倒れてくるのが見えた
それがリコルコの見た最後の景色だった
クラハはハクラのもとに戻って来た
「姉様、お久しぶりです」
「ハクラ、強くなったのね」
「あぁ、よかった」
「お前が無事で、本当によかった」
「い、痛いです姉様」
クラハはハクラをギュッと抱きしめた
「でも、姉様がなぜここに?」
「それは、国に帰ったらお前がいないのだもの」
「臭いをたどって来たのよ」
「に、臭いを!?」
「フフ、お前の臭いなら世界の裏からでもたどれるわ」
ハクラの姉クラハは重度のシスコンだった
「お前がヒュームの国に攫われたと聞いたから急いで戻って来たのに」
「その国は滅ぼされてて、国にはお前がいない」
「すごく、心配したのよ?」
「すいません、姉様」
「でも、どうしてもキリサメ達をあんな目に合わせた者たちを許せず」
「そう、お前は昔からキリサメと仲が良かったものね」
「でも、危ないことはしないで頂戴」
「私がいつも駆け付けられるとは限らないのよ?」
「はい、申し訳ありませんでした」
「わかってくれればいいの」
「さぁ、帰りましょう」
「はい」
と、その時、リコルコの死体が黒いものに包まれ、動き始めた
「な!姉様!死体が!」
「あら、まだ生きてるの?」
「しぶといのね」
また黒い太刀を抜くクラハ
「姉様、あれは焼き尽くさないと再び立ち上がるそうです」
「魔王殿が言っておられました」
「そうなの?」
「なら」
「黒炎」
黒い炎が太刀を覆う
それをリコルコに振り下ろした
黒い炎は一瞬でリコルコの死体を灰にする
「これで、いいのかしら?」
「は、はい、大丈夫かと」
「そ、じゃぁ今度こそ帰りましょう」
「帰ったらまた一緒にお風呂に入りましょうね」
「う、そ、それは」
「あら?嫌なの」
「...入ります」
ハクラは姉に弱かった
国に帰った二人
クラハは歓迎を受け、ハクラは臣下たちに盛大に怒られた
そして、もう一つ
世界中に駆け巡った訃報
マキナ国女王にして、守護者、シェイナの死
彼女の亡骸は、マキナ国へと運ばれ、しめやかに国葬が行われた
第二部完です