ハクラ姫童子立つ1
進化を果たしてから数時間
ハクラはゆっくりと目を覚ました
回りには侍女たちが心配そうな顔で立っていた
「姫様、お体はもう大丈夫なのですか?」
「う、うむ、それどころか体に力がみなぎるようだ」
「!」
「キリサメは!?」
「グランドルへの遠征はどうなった?」
「は、はい、キリサメ様が兵を率いて向かわれました」
「そうか、わらわも出るぞ!」
ハクラはそばに脱がされてあった白銀の鎧を身に着け始める
素材は白鋼と呼ばれるオリハルコン並みの硬度を持つレアメタル
白鋼を精製し、加工する技術はキガシマにしかなく
姫であるハクラは鎧と刀を持っていた
しかし、ハクラには“散雪”という刀がある
持ち主の思い通りに変化するこの刀はハクラの愛刀だった
彼女の戦闘スタイルは、散雪を二刀の刀に変質させ
右手に身の丈ほどある大剣、左手には小刀を逆手に持ち
体験を打ち付け、左手の小刀を相手に突き刺す、あるいは反動を利用して回転する
その細腕でも大剣を扱えるのは、散雪の性質
主と認めた者の身体能力を強化し、自在に扱えるようにする
「お待ちください」
「キリサメ様に姫様を休ませるよう仰せつかっております」
「これ以上私たちを心配させないでください!」
強い口調で言う侍女
国の宝とまで言われるハクラ姫を心配しない国民はいなかった
あまりにも強く言われたので仕方なく引き下がった
「姫様!ご報告です!」
「キリサメ様が返ってこられました!」
伝令によってもたらされた報告
キリサメとリンドウが遠征から戻って来たのだ
「おお、そうか、すぐに迎えに行くぞ」
「それならばよかろう?」
「ええ、わたくしたちも付き添わせていただきます」
「うむ」
ハクラは侍女を付き従えてキリサメ達を出迎えに行った
「キリサメ!」
「無事でよかっ
キリサメもリンドウもボロボロだった
キリサメの足は不自然にねじ曲がり、口からは血反吐を吐き出しながらリンドウに支えられてかろうじて歩いている
リンドウの方もたどり着くなり倒れ込んでしまった
脇腹には血がにじんでいる
「二人とも!何があったのじゃ!」
「キリサメ、こんなに傷ついて...」
「リンドウ、死ぬでないぞ!」
「すぐに治療班を!傷ついたものを早急に治療せよ!」
侍女たちは急いで治療班を呼びに行く
キリサメもリンドウも苦しそうだ
「何があった?」
「姫、さま、あれは、奴らは、かかわってはならないものです」
「我々では全く歯が、立ちませんでした」
「たった二人に、軍は壊滅状態で、守護者様も殺されてしまい、ました」
「・・・そうか」
「よく無事に戻ってきてくれた」
「どうか、姫様、どうか、行かないでください」
「あなたがいなくなればこの国は...」
「わかった。わかったから、今はゆっくり休め」
「あり、がとう、ございます、ひ、めさ...」
キリサメは気を失った
キガシマでも屈指の実力を持つキリサメをもってしてもこのありさまだ
ハクラはまだキリサメよりも弱い
それは自分でもわかっている
それでも、許すことができない
大切な者たちをこのような目に合わせた奴らを
その数時間後、ハクラは一人、グランドルの前にいた
結界はすでにない
暗闇の中月明かりに照らされ白く輝く鎧と刀、そして白銀の髪
幻想的に映し出されるその姿はまさに雪花だった
激しい戦いのあった街を過ぎ、城の前までたどり着くと、たった二人の侵略者に出迎えられた
「グルrrrrr、一人、鬼人族の姫か」
「たった一人で何をしに来た?」
「死にたくなったのか?」
「あ、ううぅうう」
手に持った大剣を男の方、オウロウへと向ける
それを振り下ろすと、地面が砕けた
蒔きあがったつぶてを隠れ蓑に、オウロウの懐へと接近し、小太刀で貫いた
オウロウはとっさのことで反応できず、腕に深々と小太刀をうけた
「次は外さぬ」
ハクラは白霧という霧を発生させるスキルを発動させ、それに紛れた
ハクラと狂乱葬送の二人
その戦いの火ぶたが切って落とされた
主人公交代(嘘です)