9 復活、マキナ族の国4
メンツはそろった
魔王軍に加え、聖王国の聖、治療魔導士たち、それにキガシマからの援軍
エルフの国ルーノリアからも援軍が合流する手はずとなっている
相手が二人だけとは限らない
一人だけでも魔王に匹敵する力を持つとなれば、当然それ相応の戦力も必要と思われた
すでに集結しつつある解放軍
先頭はシェイナ
結界を張り、グランドル全体にかかっている結界にぶつけるため
ぶつけた結界を破った後はすぐに後退し、後方支援に回る
シェイナのパーティメンバーはミューを魔王国に残して二人とも戦線に参加している
まもなく解放軍は集結し、行動は開始された
「守護結界!」
シェイナが巨大な結界を張った
その結界が、相手の結界に触れると
バリンと何かが砕け散るような音がした
結界は破れた
「いまです!進軍開始!」
魔王の一声で全軍がグランドルへ侵攻していく
シェイナは後ろに下がり、魔導士たちとともに後方支援に回った
グランドルの入り口にはすでに二人の男女が立っている
恐らくここを落とした相手だと思われるが、報告に会った姿、人相と異なる
男の方は種族は分からない
ひょろっとした体系だが背が高い
しかし猫背のため、一般男性と変わらないように見えた
髪は垂れ下がり、顔は見えない
女の方は常にきょろきょろと目を動かす三白眼に、ケタケタと笑う口元
その口からは牙をはやしている
恐らくはヴァンパイア族なのだろうが、日の下でも活動できているため、真祖と思われる
その女の方が急に煙のようにかっ消えた
その直後、軍の背後に出現し、鋭い爪の人なぎで後方の軍が吹き飛んだ
その体はバラバラにちぎれ飛んでいく
「ひゃ、ひゃひゃ、あぁ、血、いっぱぁあい」
ケタケタ笑う女
それを見て男の方も動き出す
「クイニー、楽しそう、俺も」
男がシュルリと兵に近づいた
慌てて槍を振りかざす兵たち
しかし、まるで骨がないかのようにシュルシュルと避けられ、一撃もカスリさえしなかった
クイニ―が指を上から下へと動かした
その前方にいた兵は縦に断裂していく
ただの指の一動きだけで数十人の兵が死んだ
「っく、何だこの力は!」
アマツユは指の線上にいたが、かろうじて飛びのいていた
すぐに体で意を立て直すと斬りかかる
しかし簡単にかわされてしまう
男はまたシュルシュルと元いた場所に戻っていった
そしてまた指をかざす
今度は横真一文字に
「まずい!全員飛べ!」
アマツユの掛け声とともに兵たちは上に飛び上がった
飛びきれずに何人かが胴をきられ、絶命した
「これは、厄介だな」
今までに戦ったことのない相手にアマツユは少し焦り始める
「アマツユ、援護しろ」
「ゴート殿!」
アマツユの上司、ゴートが横に立っていた
ゴートの力は魔王と同程度
魔王軍でも屈指の実力者だ
そのゴートが構える
彼は格闘術を得意としており、その拳は巨大な岩すら粉砕する
「硬化!疾風!尖激!剛力!」
身体能力強化のスキルを発動させる
アマツユの横にいたゴートは一瞬で男の横に移動した
音速を超える拳激で力任せに男を殴りつけた
「ぐごあっ!」
バキバキと骨が音を立てる
激しい殴打だったにもかかわらず体が浮かび上がったり吹き飛んだりしていない
威力を内部にとどめ、内側で爆発させる特殊な拳激だ
男の内部はミキサーでシェイクされたかのようにぐちゃぐちゃになっている
それでも男は血を吹き出しながらニヤリと笑っている
「あがぁ、痛い、痛いなぁ」
「あぁ、内臓がぐちゃぐちゃだぁ」
「フヒヒ、ヒヒ」
笑っている
不気味だ
ゴートはさらにもう一撃を男の頭に食らわせた
その頭がぐしゃりと潰れ、男は崩れ落ちた
倒れ込んでピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった
「さすがです、ゴート殿」
「しかし、不気味な奴だったな」
「なぜあの状況で笑っていた?」
「わかりません、しかし、どうやら我々は何か得体のしれないものを相手にしているのかもしれません」
アマツユのその一言に一抹の不安を覚えるゴート
後方ではクイニ―と呼ばれたヴァンパイアの女が暴れている
ただめちゃくちゃに手を振っているだけなのに、次から次へと被害は増えていった
「なんですかあれは、魔族?」
「ヴァンパイアに見えますがあの力は、異常です魔王様」
アドライトがクイニ―を見て驚愕している
「守護結界!」
アドライトの後ろからシェイナの声がした
兵に襲い掛かろうとしていたクイニ―の爪が結界に止められる
「くぁあ!邪魔するな!」
滅多切りに爪を打ち立て続けるが、結界はびくともしない
「あああああああ!!邪魔邪魔邪魔邪魔!」
「邪魔ぁあああ!!!」
ガキンガキンと音を立てるばかりで結界は破れない
「いまです!アドライトさん!」
「はい!」
「グラトニーランス!」
アドライトが持っていた槍を飛ばす
それが見事にクイニ―の腹部に突き刺さり、地面に縫い付けた
「あがああああああ!!痛い!痛いぃいいい!!」
「何これぇ!力が!!体が吸われるぅう!!」
クイニ―の体はその槍に吸い取られていく
グラトニーランスの効果はその名の通り暴食
突き刺したものを喰らう魔槍だ
全てを吸い取られ、槍には干からびたヴァンパイアの吸い殻が絡みついていたが、風に吹かれて崩れ去った
「こんな相手が、後いったい何人いるのでしょう?」
魔王は不安になった
すでに軍の四分の一を失っていた
争いは嫌い