ちっちゃなイズナの大冒険2
エルベルリトロ山、世界一の高さを誇る山
年中雪に包まれ、標高8562mの頂上付近にフェニックス族がすんでいると言われている
確実にいると言い切れないのは、誰もしっかりと確認したわけではないからだ
というのも、年中雪に包まれているため慣れた者でなければ進むことができない
さらに、日に数度起こる猛吹雪が登るものの命を奪う
加えて凶暴な魔物も多い
道中にはクレバス(氷の裂け目)もあり、幾人もの冒険者が飲み込まれている
そのふもとにたどり着いたナズミ、シャーズロット、バニエイラの一行
案内人との待ち合わせはふもとにある村だった
ふもとの村は観光客であふれているが、だれも山に登ろうとする者はいない
危険性は折り紙付き、それでも登ろうとする者は馬鹿か英雄かと言われている
「ちびっ子、ここがエルベルリトロ山麓村のアスピ村だ」
「ここに住んでいるクスクという悪霊が案内してくれる」
「まぁ、悪霊と言っても性根が腐ってるだけで害はない」
「害がない?それは嘘だよ~」
「あいつ私の体で遊ぶんだもん~」
「ま、まぁそれは許してやれ、あいつは子供だからな」
「え~、だって~私たちより年上じゃん~」
「いいから、笑って許せ、案内してもらえなくなるぞ」
「私は別に~、いいんだけど~」
ちらっとナズミをみると目をウルウルさせながらしょぼんとしている
「あ、で、でも~、こういうとこ登ってみたかったんだよね~」
「さ、いこ、シャーズロットちゃん、おちびちゃん」
三人がまず向かったのは入山許可証を発行している宿
ここで自己責任である旨が書いてある誓約書にサインしないと入山は許されない
毎年何人もの犠牲を出しているため、無駄に死なせないための処置だ
宿には何人かの旅人や観光客がいたが、入山者はナズミたちだけだった
「おいおい、子連れで登る気か?死ぬ気じゃねぇだろうな?」
そう、宿屋の主人に聞かれた
実は、毎年出る犠牲者の中には自殺者も含まれる
死体とともに遺書が見つかることもあるからだ
「いえ、この子は本気で頂上を目指しています」
「それに、私たちが死なせませんので」
「どうか、入山を許可願えませんか?」
「案内のあてはあるのか?」
「はい、悪霊と言えばわかりますか?」
「む、クスクか、なら心配はねぇだろうが」
「あいつは性悪だからな」
「気を付けろ、絶対馬鹿なことするからな」
「えぇ、それは百も承知ですよ」
「そうか、なら大丈夫か。どれ、許可証を出してやる」
クスクはよほど信頼?されているのだろう
あっさりと入山許可証が出た
それもそのはずで、クスクはいたずらを仕掛けてはくるが
必ず登山客を連れて帰るため、案内としては超一流なのだった
しかし、気まぐれが過ぎるため、なかなか案内をしてくれないことでも有名である
「よし、次はクスクに会いに行く」
「バニエイラ、手土産は持ってきたか?」
「はいはい、これでしょ?」
バニエイラが袋から取り出したのはクマのぬいぐるみだ
「ぬいぐるみ?ですか?」
ナズミが首をかしげる
「そうだ。クスクはぬいぐるみが大好きでな」
「これさえ渡してれば機嫌がよくなる」
「あまり知られていないがな」
「そりゃ~、普段はあの姿だから~、誰もそんなもの喜ぶと思わないよ~」
その言葉の意味するところはクスクに会ってわかることとなった
クスクが住んでいるのは村の少し外れにある小屋だった
簡素な木の小屋で、人ひとりが住むには十分な広さ
中に入ると、一人の太った巨漢の無精ひげの男がいた
「クスク、久しぶりだな」
その男がクスクのようだ
シャーズロットが言っていた子供、の姿とは似ても似つかない
「シャーズロット?それに、バニエイラじゃない、久しぶりね」
話し方がおかま調だ
「クスク、明日明朝に登りたいんだが、頼めるか?」
「あら、私にモノを頼むのに手ぶらなんて、シャーズロットも偉くなったじゃない?」
長く伸びたぼさぼさの汚い髪の毛を指でくるくると絡めながら笑う
「そういうと思って手土産を持ってきた」
「バニエイラ」
バニエイラが袋から熊のぬいぐるみを取り出した
「まぁ!クマちゃんじゃない!」
「可愛い!」
その巨体からは想像もつかないほどの素早さでバニエイラからぬいぐるみをもぎ取った
その直後、ボンとクスクの体がはじけて煙が上がる
その煙が晴れ、クスクが立っていた場所には小さな女の子がぬいぐるみにほおずりしていた
目の下にはクマがあり、みつあみに編んだおさげ髪
白と黒のコントラストなワンピースを着て、足にはサンダル
この辺りの気温は低いはずなのにまるで意に介していないのはすでに死んでいるから
ぬいぐるみをギュッと抱きしめるその姿は年相応のものに見える
「ムフー、なかなかいいぬいぐるみじゃない」
「気に入ったわ」
「案内したげる。明日ここにまた来なさい」
無事クスクという案内を得て、エルベルリトロ山へ登山する準備は整った(事前に登山用品は準備済み)
「あ、そうそうバニエイラ」
「ん?なによ」
心底嫌悪した顔でクスクを見る
「はいこれ」
何か液体の入った瓶をよこす
「これ何?」
「飲んでみて、さっき作ったドリンク」
「ほら、あんたたちにもあげる」
また瓶を取り出してナズミとシャーズロットに渡す
ナズミは躊躇なく飲んだ
「ちょ、飲むな!何があるかわからんぞ!」
「あ、これ、おいしいです」
「フフフ、でしょ?知り合いに分けてもらったプリエって果実のジュースよ」
ナズミはごくごくと飲み干す
「その果物はね、体を芯から温めてくれるの」
「数日間は有効だから雪山を登るのに重宝されてるわ」
「わぁ、すごいです、ほんとに体がぽかぽかしてきました」
ナズミは顔が赤くなっている
「ほぉ、どうやら大丈夫そうだな」
ナズミの様子を見てシャーズロットもバニエイラも一気に飲み干した
「おお、うまいなこれ」
「なぁ、シャーズロッ...ット?」
シャーズロットの体色が銀色から青、緑、黄色と変わっていく
そのままシャーズロットの体はドロッと溶けてスライムのもとの姿に戻った
「アハハハハハハハ!引っかかった引っかかった!」
「バーカバーカ、バニエイラのバーカ」
クスクは笑い転げている
「あ、うう、あああ」
「これ、毒物、うっぷ!」
「だめ、体を保っていられな、ぐぇええ」
バニエイラはそのままぺちょっと床に水たまりのように広がった
「アハハハ、あ~あ、面白かった」
「はいこれ解毒薬」
胸元から小瓶を取り出すとバニエイラに振りかけた
解毒されたのか、バニエイラがまた人型をとり始める
「クーーースーーーコーーーーー!!」
怒りに打ち震えるバニエイラ
「もう許さない!」
「ぶっ殺す!!」
バニエイラがクスクに襲い掛かったが、まるで霞のようにとらえどころがないクスクの体
その手は空を切った
「無駄だってば」
「学習しないな~バニエイラは」
二人の間に火花が散っているのが見える
ナズミは止めに入り、シャーズロットはため息をついた
喧嘩だ喧嘩だ