8 ホビットの国7
驚くべきことに、扉の中には大量の大型カプセルが天井が見えないほど連なっていた
そのカプセル一つ一つに人間のようなものが見える
「なんだよ、これ」
ハイリ―が感嘆の声をあげる
「あれは何かな?」
リンナの指さす方向にはこの場所の機械すべてを管理していると思われる制御装置のようなものが置いてあった
「コンピュータ?制御装置?」
「なんにしても今は触らない方がいいよ」
「何が起こるかわからないからね」
「クラベルさんを呼んで来よう」
とりあえずリモット、ミュー、ハイリーでクラベルを呼びに行ってもらった
数分後、クラベルを連れて戻って来た
クラベルの顔は輝いていた
「こっ、こっ、こっ」
「こ?」
「これは!!何という!!芸術!すぅううあああっばらっしぃいいいい!!!」
うわ、キャラ変わっちゃってる
「うひょぉおおお!!」
「これは!これは何なのですか!」
「これは!おお!カプセル!何か入ってる!」
「ほっひゃぁあああ!!」
「あ、あの、クラベルさん?」
「アハハヒハ、ハ...」
一同の冷たい視線を受けてようやく素に帰ったようだ
「す、すいません、取り乱しました」
「これほどのものが眠っているとは思いませんでしたので」
「これ、なんなの?」
「古代の技術で作られた道具」
「私たちはマキナと呼んでいます」
「マキナ?」
「はい、超古代に失われた今よりはるかに進んだ技術です」
「数十年前に最初の遺物が見つかったのですが、それは明らかに異質でした」
「見たこともない金属でできていて、引き金を引くと目に見えない弾が出るのです」
「我々はこれを空激砲と名付けました」
「今この場にはありませんが」
「弾が出る?...」
「銃みたいなものか」
ぽつりとつぶやいた言葉を聞かれてしまったようだ
クラベルの耳がぴくっと動き、目を輝かせてシェイナの腕をつかむ
「銃、とは何です!?」
「げ・・・」
「さぁ、お聞かせください!」
「あなたは何か知っているのですね!?」
「あ、あの、僕も詳しくは知らないのですが」
「その遺物、引き金のようなものついてませんか?」
「そこを引くと弾が出るとか」
「え、えぇ、確かについています」
「それは銃と言って、弓よりも強力な射撃武器なんだ」
「それがあれば恐らくだけど、この世界の戦いはすっかり変わってしまうよ」
「やはり、武器なのですね」
「弾自体は見えない、空気ってことですか?」
「えぇ、そうですね」
「じゃぁ僕が知ってる獣と少し違いますね」
「僕の知っている銃は鉛の玉を火薬で撃ちだすんです」
「殺傷能力は折り紙付きですね」
「殺すための武器、だと思います」
「恐ろしい、ですね」
「昔は、その銃を使って戦争をして、たくさんの命が奪われたんです」
あれ?何、この記憶
「銃以外にも、光を集めたエネルギー砲や、地表を数度焼き尽くすほどの炎」
ちょっとまって、これは、僕の記憶じゃない
「私たちは、互いを憎みあい、殺し合い、やがて滅びました」
やめろ、だれだ、僕の中に、何かが
シェイナの様子がおかしいことにみなが気づき始める
「私たちは、戦争を嫌い、殺し合いを憎み、平和を愛する者のみをここに集め、眠らせました」
誰、か、助け、て、意識が、奪われ、て
「さぁ、皆さん、目覚めの時です!」
その一声で、周りの機械が起動し始めた
「な!動いた!?」
「みんな、ここから離れて!」
アズの声でいっせいに部屋から飛び出た
「シェイナちゃん!」
ミューがシェイナに声をかけるが、シェイナは笑顔を浮かべながら装置へと歩いていく
装置に手をかけると、何かを押し始めた
「“シーケンス作動、これよりコールドスリープの解凍に入ります”」
「“マスター、お帰りなさいませ、デウス・エクス・マーキナ、起動します”」
機械音声が響き、カプセルから蒸気が出始める
シェイナの前の装置が下へと収納され、代わりに人型の機械骨格がせりあがってくる
その機械骨格にプレス機のようなものがガシャリと取り付けられ、そこからも蒸気が出る
シューという音がして、プレスが取り除かれると、そこには裸の少女が立っていた
少女がゆっくりと目を開く
眼には何やら複数の文字が現れ、流れていく
「デウス・エクス・マーキナ、肉体生成完了」
「プログラムインストール完了」
「これよりバックアップデータの復元を始めます」
キュルキュルという音がして、その少女の体のところどころがパカパカト開き、蒸気が吹き出た
「バックアップデータの復元完了」
「マスター、お久しぶりです」
「マーキナです」
マーキナと名乗った少女はシェイナにかしずく
「久しぶりね、マーキナ」
「彼らの解凍にはどのくらい時間がかかりますか?」
「はい、およそ10分ほどです」
「記憶の復元も問題なくできております」
「ありがとう、マーキナ」
「私の役目もこれで終わりです」
「お借りしたこの体の方にお礼を、では、マーキナ、私、は、さきに、行ってま、す、ね...」
シェイナは崩れるようにその場に倒れた
その前で、マーキナという少女は一筋の涙を流した
「お疲れ様です、マスター」
「後のことは、お任せください」
少女は再びシェイナに礼をし、シェイナの体をそっと抱え、アズたちのもとへと運んだ
デウス・エクス・マキナってよく聞きますよね
「機械仕掛けから出る神様」って意味だそうです
まさに機械にふさわしいですよねマキナって