苦悩する人の王3
冒頭部はおまけみたいなもんです
読み飛ばしてくれて大丈夫です
婚礼の儀からしばらく後、デュルクとサリアナはグランドル城にともに暮らすこととなった
聖王国とグランドルは幸いにも同じ女神を信仰する国同士であり
教会などはもともと聖王国管轄にあった
しかしながら、同盟国である魔王国や鬼人族の国は信仰する神は違う
ここに問題となる宗教の違いによって反発が起こることはないのか?
答えはNOである
なぜなら、魔王国はルナリアの遣わしたと言われる守護者にして妖精女王のモルガナ信仰
鬼人族の国はルナリアの姉シェイナつまり太陽信仰であるゆえだ
これらの教徒は争わない
神がそれを望まないから
以前愚王によってその誓いが破られたため、その際は争いは起こったものの
それ以前はどこも平和なものだった
グランドル城
デュルクは緊張していた
サリアナを妻として迎え、もちろん世継ぎを残さなければならない
それはつまり
「うう、どうしたものだ」
「俺はこの手に関して疎い」
「やはり、誰かに聞く」
「...いや、情けなくて聞けんな」
扉が叩かれる
「む、誰だ?」
「わたくしです」
「あ、あぁ、サリアナ様」
「入りますよ?」
「あ、はい」
「デュルク、わたくしの準備はよろしくてよ?」
「サリアナ様、私は、まだ、心の準備が」
「まぁ、サリアナとお呼びください」
「わたくしはもうあなたの妻なのですから」
「そ、そうだな、サリアナ」
「大丈夫です、わたくしに、身をゆだねて」
そっとデュルクを抱き寄せるサリアナ
「なるべく、わたくしがリードしますが」
「わたくしも初めてなので、その、優しくお願いしますね」
二人は深く愛し合った
翌朝、サリアナはつやつやしていた
その反面、デュルクはげっそりしていた
察した家臣たちは触れない
ああ、これは、つらいかもしれん
サリアナ、恐ろしいぞ...
それから数日後、グランドルに脅威が訪れる
「これ以上、進ませるわけにはいかない!」
騎士長カドラがボロボロになりながらも王と聖王女が逃げる時間を稼ぐ
目の前にいるのはたった二人、そのたった二人に軍は壊滅させられ、騎士も数名を残すのみになった
民の避難すらままならず多くの犠牲者を出してしまった
事の起こりは数時間前だ
グランドルの街に突如として二人の殺戮者が舞い降りた
一人は顔の半分を仮面で隠し、際どいビキニのような服を着たヒュームの女性
出ている方の顔にある白く濁った目、その目は虚ろで、何も写していないかのよう、死体の目と同じだ
もう一人は左腕がなく、右手に巨大な剣を持った犬神と呼ばれる魔族の男
ずっと怒りをあらわにし、口からはよだれをたらし続けている
「グルrrrrrrrrrr」
「リコルコ、ここが、グランドルであってるか?」
「ああーー、うーー」
リコルコと呼ばれた女性はうめき声をあげた
「そうか、ならば始める」
男は巨剣を回転させるようにふるった
その一振りで、街が半壊し、周囲の民衆は体を上と下に分かれさせて死んだ
「ああ、うあ、ああ」
リコルコは片手をあげてふるった
空中に描かれる魔法陣
その魔法陣からレーザーのようなものが噴き出し、一気に街を薙ぎ払った
もはや町としての機能は発揮しないだろう
冒険者ギルドも、宿も、店も、何もかもがただの瓦礫へと変わった
「こちらです!早く!」
ちょうど時を同じくしてサリアナはデュルクの手を引いて王家の隠し通路を逃げていた
「どうしたサリアナ!」
「一体何が!」
後ろでは轟音と地響きがしている
彼女は少し前に視た
自分たちの運命を
「早く!お願いです!」
「わ、わかった」
その迫力にデュルクは押され、サリアナを抱えて走った
たった二人で兵を、騎士を圧倒し、騎士長カドラのもとへとたどり着いた
「く、重い、何という一撃だ」
犬神の男はただ剣を振り下ろしただけ
それだけでカドラの部下が唐立割に裂かれ、絶命する
防御などないかの如く
「だが、引けぬ!」
「我が王のため、お前たちにはここで足止めさせてもらう!」
決して倒すとは言わない
戦力差は明らかだから
「あう、う」
リコルコがカドラに手をかざす
「うーあー」
握った
それで、カドラはぐしゃりと潰れ、肉塊へと変わった
「グルrr」
「少しはやるようだが、大した時間稼ぎにはならなかったな」
「リコルコ、捕捉できるか?」
「がぁあ、う、あっ」
「そうか、逃がしたか」
「まぁいい、目的は果たせた」
「これよりこの国は我ら“狂乱葬送”のものだ」
逃げのびたサリアナとデュルク
ヒュームの国は消えた
サリアナは魔王国へと保護を求める
当然のように魔王はそれを受け入れた
ほんの少し
ほんの少しだけ私が目を放したその時を狙われたのね
なんてことなの...
私の力不足
魔王はこのことに責任を感じていた
デュルクもサリアナも泣き崩れている
こうなる前に止められなかった自分を責めるサリアナと
国を失ったデュルク
慰めの言葉など思いつくはずもなく
「っく、ぅう」
「カドラ、お前は、俺の良き親友だった」
「すまない、すまない...」
サリアナの聖王国はいまだ健在
幸いまだ襲撃は受けていないみたいだが、恐らく時間の問題だろう
魔王は部下につげる
「キードットさんとゴートさん、それにアドライトさんを呼んでください」
呼ばれた幹部の三人最も戦闘に長けた三人でもある
「あなたたちに聖王国の守護をしていただきます」
「それと、それぞれ部下も連れて行きなさい」
「かつてないほどの強敵が現れました」
「聞いておりますよ」
「たった二人でグランドルを滅ぼしたとか」
キードットは悲しげな顔をする
先日、部下の一人、可愛がっていたクーシーの少女が大けがを負い、再起不能になった
重ねるわけではないが、どうしても重ねてしまう
「魔王様、今私の配下三人は旅に出ていまして」
「キムタムしか残っておりませんの」
「そうでしたね」
「ではアドライトさんはわたしとともにいてください」
「襲撃を受けた際いつでも出撃できるよう準備だけはしておいてください」
「拝承致しました」
アドライトは恭しくお辞儀する
「こちらはシーナ以外全員出せる」
「あの子はまだ心の傷が癒えていないんでな」
シーナはハクラ姫とともに攫われたマーメイド族の少女だ
彼女もまたハクラ姫と同じようにヒュームによって恐怖を植え付けられてしまっている
「では、各自聖王国の守りに向かってください」
「「っは!」」
「聖王国はひとまず安心でしょう」
「ありがとうございます魔王様」
「わたくしはデュルクを解放してまいります」
「ええ、そうしてあげてください」
デュルクは亡国の王となってしまった
民もいない、臣下もいない
ただ一人残された王に