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白鬼の姫、冒険者になる4

 ヒュームは怖い

時折とんでもない理由で多種族を傷つける

身をもってそれを知っているハクラ

心に深い深い傷を残すほどの体験


従者二人は心配でたまらない

この先果たしてこの傷は癒えるのだろうか

今目の前にいる姫はスースー寝息を立てている

まるっきり子供

言動から大人に見られがちだが、本来の年齢は子供

称賛される美しさを持っているがまだ、子供なのだ


「姫...」

キリサメは優しくハクラの髪に指を通す

滑らかに通り、さらさらと流れ落ちた


リンドウもハクラの手を握る

自分より小さな手

この手でずっと国を支えてきたのだ


鬼人の国キガシマは全ての民がハクラを尊敬し、愛している

だからこそ、ヒュームの国にハクラが攫われた時は、国民総動員で戦争を仕掛けようとした

魔王が止めていなければ事実やっていたことだろう


「ん、んん~」

ハクラが目を覚ました


「な!なんじゃお前ら!」

「手なんぞ握りおって!」


キリサメとリンドウ、二人に手を握られながら寝ていた自分が恥ずかしかったのだろう


「姫がうなされていましたので」


「む、そ、そうか、すまんな」


「姫、お顔を洗いに行きましょう」


「うむ、そうじゃな」

「それと、朝飯じゃ、今日は何かのぉ」

ハクラはウキウキと階下へ降りる

心配をかけまいと明るくふるまっている

つい先ほどまでうなされていた

救出されてからずっとうなされて、睡眠もろくに取れてはいない

キリサメとリンドウが交互にハクラと添い寝をすることで落ち着かせているのが現状だった


ハクラは母を知らない

父も知らない

傷だらけの母親が赤子のハクラをキガシマへと連れ帰って来た

そのすぐ後にハクラの母は亡くなった

父親の方はすでに亡くなっていたらしく、種族が仙族ということ以外は分からなかった


種族以外がわかったのは、ハクラには鬼人族にない種族スキルがある

“仙力”仙族と言われる幻の種族のスキルだ

つまり、ハクラは仙族と鬼人族のハーフ

まだ仙力を使いこなせないが、覚醒すれば恐らく、魔王と同じくらいにはなれると言われている


そんな力を秘めた少女は宿にある食堂でルムという実の酢漬けが具のおにぎりをぱくついている

時折酸っぱい顔をしているが、ハクラの好物は白飯とこのルムの酢漬けだ

顔が自然とほころんでいた


「で、今日はどこに行くのじゃ?」


「はい、元ダークエルフの国ソリュド跡地にて、国の特産だったルナプリムという花の種採集です」

「ルナプリムはソリュド周辺の月の力が強い土地でしか咲かないのですが」

「このたび適した土地が魔王領にて見つかったのでそちらで栽培するそうです」


「ふむ、ダークエルフの国か」

「彼らも大変よのぉ」

「魔王殿は本当によくできた王じゃ」

「見習わねばの」


チャムチャムとおにぎりを咀嚼し、ルムの種をぷっとさらに吐き出した


「おっと、この種の中の天神様がうまいのじゃ」


ルムの種をカリッと歯で割り、中から種子を取り出して食べた


「うむ、程よい酸味にこの食感」

「く~ったまらんの~」


脚をパたつかせて喜んでいる

まさに年相応の子供だった


「姫、食べ終わったら行きましょう」

「満月が出てすぐ出ないと見つけれないので」


「おう、そうか、ムシャムシャ、コクン」

「よし、行くぞ」


ソリュドは現在地グランドルより東へ行き、グランドル領から抜けた森にある

距離的には朝出立すれば夕方には到着できる計算だ


「姫、出口までは私におつかまりください」


「あ、う、わ、わかった」

白い頬を赤く染めている

キリサメはそれを見てガシッとハクラを抱っこした


「ぬあ!何をしとるか!」


「姫様が可愛すぎるのがいけないんです!」

「もう辛抱たまりません!」


ガツッ!


リンドウに後頭部を殴られてキリサメは倒れた


「た、助かったぞリンドウ」


「すいません、つい」


「ついじゃない!」

「もういい、リンドウと行く!」


「あ、あぁ、そんな」


キリサメの手を離れてリンドウに負ぶってもらった


ハクラを背負ったのはまだヒュームを見ると震えが止まらなくなるからだ

そのためどちらかが背負い、目隠しで街を歩く

ぱっと見は子供を抱えた母親にしか見えない

依頼を達成するためにいつもこうやって街の出口まで行っていた


「姫、着きました」


「すまんなリンドウ」


「いえ、お役に立つのが我ら家臣の務めですので」


「キリサメ、いつまで落ち込んでおる」

「張り切っていくぞ!」


「は、はい!」


少し遠くはあるが、鬼人族の体力ならば一度休憩をはさむくらいで踏破できる

その日の夕方、無事ソリュド跡地へたどり着いた

ひとまず少し休憩をし、そろそろと探し始めた


日は暮れてきている

暗くなってきた周囲を大きな満月が照らし始めた

ソリュドの奥地、田畑があるさらに奥に光り輝く園があった


「ほぉ、これは美しいな」

「これの種を採取すればいいのじゃな?」


「はい、咲いているものからは取れないので、枯れた花を探してください」

「枯れた花弁の付け根辺りに種の入った袋があるはずです」

「その袋ごと採取してください」


「うむ、わかった」


枯れた花は結構あった

次から次へと採取していき、一時間ほどで500こほど採取できた


「このくらいかの?」


「えぇ、それではここで野営して明日の朝出立しましょう」


三人は空き家になった家を借り、一晩を明かした


翌朝、またグランドルへと戻っていき、ハクラを宿に置いて報告を済ませた

その依頼の達成をもって全員のランクがEランクへとアップ


しかしここで問題が起きたのだ

ランクアップにはどうしてもギルドに本人が顔を出す必要がある

ハクラをどうするかだ


彼女はまだヒュームの集団の前に出すことはできない

それとなく受付に相談してみる


「そうですか、実は、そういう方は結構いるんです」

「そんな元奴隷だった冒険者のために代理でも大丈夫なよう手配できますので」

「ご心配せずとも大丈夫ですよ」


問題はあっさり解決した

しかし、何とも複雑ではある

ヒュームはそれほどまでに様々な種族の心に傷を与えていたのが分かったから


依頼とランクアップを達成し、無事Eランクへとランクアップした一行は

次の日、グランドルの一大都市アークロへ向かうことを決めた

一度魔王軍によって滅んだ街だが、同盟国となったおり、魔王国の援助のもと復興しつつあった

ハクラ姫はそのうちちゃんと活躍させます

なんだかんだでまだ全然戦ってないもんね

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