8 ホビットの国2
周囲を森と澄んだ川に囲まれた豊かな土地
その中心に位置するトゥラレンテ
ホビットたちの平和な暮らしがあるのは周囲を攻めにくい地形に囲まれている上に
様々な魔術的トラップが仕掛けられ、攻めてくるものを一網打尽にするからである
起きた
寝ぼけ眼で部屋から出て、宿の外にある井戸に向かう
ミューは寝ていたのでグイッと起こし、一緒に連れて行った
リモットとハノラはすでに起床して顔を洗っていた
シェイナとミューもそれに続く
ものすごく冷たいが、一気に目が覚めた
「ふあぁあえええ、おはよ~、シェイナちゃん」
「おなか、すいたぁ」
相変わらずのマイペースでしゃべる
「ぼくもだよ、食堂にいこっか」
四人で連れ立って食堂に行くと、いいにおいが漂ってきた
「朝ごはん、何にしよっかなぁ」
ここはオーダー制で、メニュー表から選ぶ
僕はタムニットという芋と大根の中間ような食感の野菜のスープとトースト
他の三人は鶏肉の入ったスープと同じくトーストだ
スープには香草と野草がたっぷり入っていて、スパイシーな香りだ
トーストも自家製のパンとバターを使っているらしくシャクっといういい音が響いた
食感は外はカリッと中はふんわり
スープに付けて食べるのもおいしい!
もにゅもにゅと寝ぼけ眼で食べるミュー
その横でリモットががっついている
ハノラはとても上品にスープをスプーンで口に運んでいた
あぁ、やっぱり聖女って呼ばれる人は違うなぁ
何やっても絵になってる
「よし、ギルドに依頼を受けに行こう」
食べ終わった僕たちはさっそくギルドへ出勤した
仕事?だから出勤でいいのかな?
まぁ気分はそんな感じ
「どんな依頼があるのっかな~」
提示版を見ながら依頼を探していく
その中に、至急、と書かれた依頼があった
ランクはD、今なら受けれる依頼だ
内容は、最近新種の魔獣が確認されたので調べてほしい
その魔獣の説明に気になるところを見つけた
体色は暗闇のように黒い
これは、もしかして
すぐにそれを提示版から引きはがすと、受付に持っていった
危険かもしれない
でも、今は治療できるハノラがいる
それに、僕がみんなを守り切って見せる
その時、久しぶりに頭の中にポーンという音が響いた
— 成長を確認しました
— スキルを獲得します
え?僕何もしてないんだけど?
— スキル、守護結界を獲得しました
うお!、なんかちょうどよさそうなスキルゲット
えーっと、効果は
守護結界
味方と認識した任意の相手複数に一度だけ攻撃を無効化する結界を張る
使用制限は一日に一回
ふむふむ、一日一回攻撃無効か、すっごいスキルなんだけど、なんで今手に入ったんだろう?
謎だが、考えても仕方がない
受付ではコボルトの受付嬢ウィトが依頼の申請をしてくれていた
「依頼の受注ですね」
「では、ギルドカードをご提示の上、少々お待ちください」
ウィトは手際よく依頼を受注する
「はい、では、調査のほどよろしくお願いしますね」
「この魔物が確認されたのは東にあるトルアの森の奥地です」
「魔法薬に使うためのキノコが採取される場所なため、危険な魔獣であれば報告をお願いします」
「こちらから討伐隊を送りますので」
「こちらの通信機を渡しておきます」
「もし倒せないと判断された場合、こちらで救援を要請してください」
「すぐにランクA以上の冒険者を派遣いたします」
「わかりました」
「じゃぁ、行ってきますね」
目指すは東のトルアの森
野生の果物や食べれるキノコ、薬草、薬茸、非常に豊富な資源がある森
ホビット族はここで薬になる薬草やキノコを採取する
立ち入り禁止ではなかったものの、危険な魔物が出るかもしれないということで
ホビットたちはここ最近採取に出ることができずにいた
なるほど、だから至急なのか
採取ができないと死活問題だもんね
途中で拾った薬草や薬茸をムシャムシャしながら歩く
その結果、胞子というスキルを手に入れた
すでに手に入れている鱗粉のスキルと似ているが、鱗粉より広範囲に毒物を蒔くことができるらしい
正直使う場面はあまりない
鱗粉だって持て余してるくらいだ
森は木漏れ日がこぼれていて気持ちいい
その森から急にあたりに霧が立ち込めてきた
あれ?事前情報には霧が出るなんて情報はなかったんだけどなぁ
「リモット、なにか異変は?」
「・・・いえ、特におかしいところは」
「そか、一応警戒して進むよ」
「奇襲に気を付けてね」
「はい」
レンジャー職であるリモットの警戒網はちょっとやそっとで裏をかくことはできない
多角形的に周囲を数十メートル半径で警戒することができるからだ
その警戒網に何もかからない
「う~ん、考えすぎかな?」
「どう思う?ハノラ」
「そうですね、霧が森で出るのは珍しくないとは思いますが...」
「どうも、何というか、この霧に違和感があるんです」
「違和感?」
「はい、何か魔素のようなものが練り込まれているようで」
「ねっとりとした空気があるんです」
よくよく感じてみれば、たしかに体に霧がまとわりつく
「ほんとだ、なんかおかしいね」
突然リモットが叫んだ
「何か来ます!」
「これは...」
「霧自体が、霧が魔獣です!」
「霧が収束してます!」
周囲を覆っていた霧は、一か所に集まり、黒い靄となった
靄は巨大な蛇のような姿をとる
アンノウン蜃
闇にのまれた蜃(ドラゴンの眷属の下位の魔獣)
通常の蜃よりも霧を広範囲に展開できるほか、その霧に幻惑の効果を付与できる
詳しくは不明
まずい、本当に黒い魔獣、闇にのまれた魔獣だった
「救援を!」
「ハノラ!お願い!」
「はい!」
ハノラは通信機を取り出し、ギルドに救援を頼んだ
まずい、まずいぞ、これは、あのゴブリンよりも、はるかに格上だ
逃げなきゃ
逃げなきゃ死ぬ
すでに四人の逃走準備は整っていた
「逃げて!」
シェイナの合図とともに脱兎のごとく走る
いや、それでは遅い
そう判断したシェイナは三人を抱えて一気に空へ飛びあがった
またしても森に霧が伸びていく
先ほどと色が違う
恐らく幻惑を付与したのだろう
幸い飛ぶより速度は遅かった
兎に角逃げて、逃げて、逃げ
ザクッ
自分のすぐ右から音がした
それで、目が覚める
逃げてなどいなかった
ここはまだ森の中
目の前には蛇がいる
その蛇が加えているのは
自分の右手だった
あぁ、死んだかも
シェイナは死を覚悟した
でっかい蛇って怖い




