小さな研究者
魔王国によって回収された黒いゴブリンの死体
死体は残らなかったが、セレニティア聖国を襲った黒い兵
それらのデータを照らし合わせながら話し合いをする二人
クーシーのコニアンとケットシーのニューミャだ
「く~ん、これは、何なんでしょう?」
「さぁ?よくわからないですよ」
「黒い肌は何かに包まれているよう?ですね」
「採取するです」
ニューミャはピンセットとメスを使って黒い部分のみを肌から切除した
「にゅあ~、なんかこれ、べとべとするですよ」
「きもちわる~」
「うぅ~なんかぴくぴく動いてますね~」
「グルルルルrrr」
突如、唸り声をあげるコニアン
「コニアン、出てるですよ」
「あ、ごめん、またいつもの癖が」
「コニアン、黒い兵って、すぐ消えたんですよね?」
「うん、そう報告書には書いてあるね~」
「じゃぁ、別物、なのです?」
「でも、似ているです」
「似すぎてるです、この二つは」
報告書に書いてある絵と黒いゴブリンの死体を比べる
姿、姿がそっくりだ
大きくはれ上がったかのような腕
ゴブリンと兵の形をした黒いもの
その黒い部分は少なくとも、同じに見えた
「ふにゅ、コニアン、やっぱり一緒ですよこれ」
ぴくぴくと脈打つ黒いものをつまみながらコニアンが顔を向けた
「う~、じゃぁなんでこっちは死体がないんだろう?」
「ゴブリンは死体があるってい、う、の...に」
「そっか!そうだ!」
「ニューミャ、こっちはゴブリンって素体をベースに作られてるんだよ!」
「んで、こっちは側だけ!」
「中身がないから死体がない!」
「にゅ、にゃるほどです」
「コニアンなのに察しがいいので偽物かと思ったです」
「アハハ、照れる~」
「ほめてねぇですよ」
二人は仲良く掛け合いをする
こういった言動からコニアンは馬鹿に見られがちだが
その実、クーシーという種族は非常に頭がいい
ケットシーもそうだ。人に知恵を与え、導いたという伝承もある
だからこそ、この二人は魔王国で研究者としても立場を確立している
「このこと、報告しなきゃね~」
「うにゅ、じゃぁ私が報告してくるですよ」
「コニアンはあとかたずけお願いです」
「あ~い、いってらさ~い」
手を振るコニアン
「さて、おっかた~ずけ~♪」
器具を洗い、消毒し、乾燥のためパッドに入れる
死体は保存のための加工をし、報告書はきちんとしまい、持ち出る用意をした
「おっし、できた~」
「明日はお休み~、何しよっかなぁ~」
「キードット様にボール投げしてもらおっかなぁ~」
研究室を後にしようとするコニアン
その後ろで、何かがうごめいた
「む!何やつです!」
振り向くコニアン
動いていたのは、ゴブリンの死体だった
切断され、バラバラにされたはずの肉体が、黒いものによって繋がっていく
「キャイン!何ですかこれは!」
「なんで、確かに、死んでいて」
「もしかして、あの黒いのが、操ってる!?」
「ま、まずいです!」
「武器、武器」
コニアンは空間から異質な槍を取り出す
真っ赤な槍、その槍の刃は錫杖のように丸く、その先端は鋭くとがっている
丸い部分の中心には瞼を閉じた目があり、まがまがしい雰囲気を醸し出している
「ふっふっふ、これはクーシー一族に伝わる浄魔の槍です」
「ただ刺すだけで浄化させる槍!」
「そして!私は槍術が得意なクーシーの中でも最も優れた力を持っているのです!」
「ただの死体であるお前には負けることなし!」
槍を振り、構える
全身をつなぎ終わった黒いゴブリンはコニアンを見ている
大きな手からは黒い爪が生え、臨戦態勢
「先手必勝!」
「クーちゃんジャンプ(自称、ただのジャンプ)!」
高い天井、そのてっぺんのぎりぎりまでジャンプし、ゴブリンに向かって槍を突き出した
ザグッという音がし、槍が地面に深々と刺さっている
そこにゴブリンの姿はない
「まずっ」
ドチュッ
コニアンの腹部が切り裂かれた
「あ、う、あれ?」
自分の真下を見る
「私の、足、なんで転がって...」
コニアンは真っ二つに切り裂かれていた
グチャッと音を立てて倒れ込むコニアン
「あ、あぁ、ごめん、ニューミャ、もう、一緒に、いれない、か...も」
「なんです?今の音は」
騒ぎを聞きつけたのか、近くをたまたま歩いていたペーヨード配下のニンフ、エコーが覗きに来た
「またコニアンですか」
「まったく、研究もいいですがあまり騒がしくさ、れ、て...」
真っ二つにされたコニアンを見つける
「コニアン!」
「だれが、こんな」
目の前に気配がした
「だれ!」
黒いゴブリンがゆらゆらと揺れながら歩いてくる
「な!これは、回収されたゴブリンの、死体?」
「なんで動いて...」
「っは!」
「バインドボイス!」
口から発する声によって相手を縛るスキル
美しい歌声のような叫びが黒いゴブリンをとらえた
その声を聞きつけ、さらに何人かが駆け付けた
テュポルとハルルー、そしてアマツユだ
「何事だ!」
アマツユがその状況を見て驚愕する
死体だったはずの黒いゴブリンが動いていたから
「エコー、離れろ!」
拘束を解いたエコーは素早く逃げる
「炎熱剣技!彼岸送り!」
全てを焼き尽くす炎の剣技がゴブリンを黒いモノごと焼き尽くす
灰すら残さずゴブリンは消滅した
「コニアン!」
エコーがその半分になってさらに小さくなった上半身を抱える
かすかに息をしていた
「まだ間に合います!」
「急いで魔王様を!」
「ここまでの怪我の治療は魔王様でなければできません!」
魔王のスキルに再生というスキルがある
魔王は魔法ではなく、スキルによってフルヒールより多少劣化するが、それと同じような効果を発揮できた
すぐに魔王が呼ばれ、コニアンの治療が施された
さかれ、臓物の飛び散った下半身をつなぎ、再生を発動させる
フルヒールと唯一違うところは痛みを伴う治療
上半身と下半身をつなげるとなれば、死ぬよりつらい痛みが伴う
それでも、血尿を流しながらコニアンは耐えた
「う、うああぁああん、コニアン、ごめん、ごめんですよ」
「私が、一緒にいれば、うぅ、ヒック」
「魔王様、コニアンは、コニアンは、大丈夫ですか?ウック、ヒック」
駆け付けた二人の親友のナズミも心配そうに治療を見ている
「大丈夫ですよ」
「治療はもうすぐ終わります」
「ただ、前のように歩くことはできないかもしれません」
「神経が、ズタズタです」
「ごめんなさいね、コニアン、ニューミャ」
「私のミスです」
涙を浮かべ、コニアンに治療を施し続ける魔王
「そんなことないです、魔王様、まさか動き出すなんて、だれも予想しなかったです」
「グズッ、ヒクッ」
「コニアン、あなたが歩けないなら、私が足になるです」
「ずっと、ずっと二人一緒です」
二人は、幼いころから姉妹のように育ってきた
ずっと一緒だよ
その約束を胸に、これまでずっと
それから数日してコニアンの意識が戻った
「コニアン!」
涙ではれ上がった目をしたニューミャがコニアンに抱き着く
「ニュー、ミュ?」
「私、生きてる?」
「うん、そうです、そうですよコニアン」
コニアンは立ち上がろうとした
が、まったく足に力が入らない
「あ、れ?足、動かない」
必死にもがく
「うごか、ない、よ、ニューミャ」
「動かない、うぅう、動かないよ」
「あああん、動かないよぉおお」
泣き叫ぶ
「大丈夫、大丈夫です」
「私がコニアンの足になるですから」
「一緒に、ずっと一緒にいよう、コニアン」
二人とも泣きながら抱き合った
そんな二人を見ているナズミ
「私も、コニアンとニューミャをサポートする」
「だから、だから」
それ以上かける言葉が見つからない
どういえばいいのかわからない
そうだ、私は、私はコニアンを治せる治療師を探そう
ナズミは親友二人のために自分ができることを見つけた
その治せる治療師はただ一人
フルヒールのさらに上、原初魔法パーフェクトヒールを持つ治療師
その力は神に近いと言われるフェニックス族のミナテト・ワイズマンだ
もう一個幕間