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苦悩する人の王2

 戻ってからもしばらく悩み続けたデュルク

その合間にデュルクは過去のことを思い出していた

愚王になる前、優しかった父に連れられ行った国同士の会議を

そこで出会った一人の少女

やせているが、健康的な赤い頬にきれいな金の髪

空を移しているかのような青い瞳に潤った唇


それは一目ぼれだった

思わず


「僕の、お嫁さんになってくれませんか?」

そう聞いていた


返事はあっさりと帰って来た

「はい、よろしくお願いしますね」


その後、少女は三人のそっくりな少女たちに呼ばれてどこかへ去ってしまった

「またね」

という言葉を残して


「あの少女、一体誰だったのか」

「今回は見かけなかった」

「あぁ、あの娘に会いたい」

「さぞかし、美しくなっているだろう」

「あのサリアナ聖王女のように」


そこで考えが至った

もしかして...サリアナ聖王女様が?


その考えはどんどん膨らんでいく

あの時一目ぼれした少女がサリアナ聖王女

その思いに支配されていく

きかなくては

約束を覚えているか聞かなくては


その時、扉が激しく叩かれた


「陛下!大変です!」


「騒がしいな、入れ」


「は!」


兵士が慌てた様子で入って来た


「どうした?私は今考え事の最中なのだが」


「セレニティア聖国が!謎の黒い軍に攻められております!」


「なに!」

「...サリアナ...」

「すぐに救援軍を送る!」

「魔王陛下にもお伝えして救援を要請するんだ!」


「ハッ!」


伝令の兵士は急ぎ、軍の編成を騎士長カドラへ伝えに行った

素早く救援軍は組織され、魔王の派遣した魔族軍もそれに加わった

魔王はそのおり、大規模な移動を可能とする伝説の魔法、転移のこめられたオーブを渡していた

これにより一気にすべての軍をセレニティア聖国へと運ぶことが可能になった


「行くぞ!たとえ同盟を組めなくとも」

「こちらの利益にならなくとも」

「俺には救わねばならない理由がある」


王が言う言葉ではない

自分の目的のために兵を死地に向かわせようというのだ

それでも、その疑問が止まらない

彼女があの時の少女なのか

もしそうなら、助けなければ永遠にその疑問の答えは失われる


全ての兵が転移した場所、それは聖国の神殿外の街だった

そこに広がる光景は凄惨

白く美しかった街並みは、火に焼かれ、真っ赤に染まっていた

いや、その赤は火だけではない

血だ

埋め尽くさんばかりの民衆の血が流れている

すでに黒い兵は神殿の中にまで攻め込んでいるようだ

騎士がいるとはいえ、ほとんどの者が回復呪文に特化したもの

明らかに異様で強敵と思われる黒い兵になすすべなく蹂躙されていった


「急げ!聖王女様をお救いしろ!」


兵は一気になだれ込んだ

数は圧倒的にこちらが上

だが、黒い兵はその剣の人なぎで10人ほどを屠っている

実力差は明らか

そこで威力をふるったのは魔王軍だ

彼らの力はヒュームの兵たちの比ではない

ヒュームを蹂躙する黒い兵をさらに蹂躙していった


倒れる黒い兵

死体はすぐに崩れ、灰のようになった

まるで泥くれで出来た土人形ゴーレムのようだが、その強さはまるで違う

ゴーレムならばヒュームでも3人がかりで倒すことは可能だ

しかし、黒い兵は10人掛かりでも倒せるかどうか

ヒュームは、あまりにも弱かった

だが、やられてばかりでもない

騎士長カドラは一騎打ちでそれなりに善戦しているし

招集した冒険者たちも数人掛かりで黒い兵をそこそこ倒していた

弱いだけではない

経験という蓄積と鍛えた体、不屈の心が黒い兵を押していた


神殿内にたどり着く

そこにはところどころに殺された女性神官の姿があった


「まずい、急ぐぞ!」


自らが先頭に立ち、その後ろに魔王軍キードット配下

土蜘蛛の女性ローシィとディアボロの女性ディプリー、雪女のセツナが続く

三人は魔王軍でも戦闘力が高く、こういった戦いで活躍することが多かった

今回は魔王にデュルクを守るよう言われていた


聖王女のいる神殿の最奥まであと少し

目線の先に人影が見えた

聖王女の部屋の前に三人の女性がいる

無残にも切りつけられ、血反吐を吐きながらも聖王女を守るために黒い兵を足止めしていた

傷の深さは内臓まで達しているようだ

一人は腹から腸のようなものが飛び出てさえいる

それでも、倒れない

親友であり、敬愛する聖王女を守るために、ナウラー三姉妹はたちあがる


「あそこだ!」

「彼女たちを守ってくれ」


「あいよ!」

ディプリーが身に炎を纏い、黒い兵に突撃した

黒い兵はその身を焼き尽くされ、崩れ去る


三姉妹は何とか生きている

しかし、三姉妹の一人、ターニャは臓物が飛び出るほどの重症

命の灯も限界が来ている


「く、この傷では持ってきたハイポーションでも治らん」

「どうすれば」


「わたくしにお任せなさいな」

それは、雪女のセツナの声


「コールドスリープ」


セツナの口から発せられた氷結によってターニャは凍らされた


「な、なにを!」


「大丈夫です」

「凍らせて眠らせただけですから」

「あとは治療師に見せるときにでもわたくしが氷を溶かしますわ」


「あ、ありがとう」

安心したデュルク

部屋の扉に手をかけて中へと入った


「サリアナ!」


中では、サリアナが震えていた

外の音を聞いていたのだろう

成すすべなくやられていく親友たちの声を

それでも立ち上がる優秀な臣下たちの叫びを


「あぁ、あぁ、デュルク様!」

「あの子たちは!?」


「無事だサリアナ」

「一人は凍らせて眠っている」

「彼女はすぐに治療師に見せる必要がある」


「あぁ、よかった」

泣きながら彼女たちのもとへと駆け寄るサリアナ

「わたくしが治療いたします」

「下がってください!」


「なら、氷を溶かしますわ」

「それ」

指をパチンと鳴らしたセツナ

それだけで氷は粉々に砕け散り、ターニャが倒れ込んだ


「体温はあたしが戻しといたげる」

「ウォーム」


体温を上昇させる魔法をターニャにかけるディプリー

それにより、腹部の傷から血があふれ出す


「ガッグフゥっ、あっ!」

血を吐き出すターニャ


「あぁあ、ターニャ!こんなになるまで!」

「今、治してあげますから」

「フルヒール!」

回復系の最上位魔法

ちぎれ飛んだ手足すら再生させる

いや、それだけではない

死んでさえいなければ首を斬られたとしても再生させることができる

あくまでも死んでいなければだが


「あぁ、温かいです、サリアナ様...」

「ありがとう、ございます」


「いいの、ターニャ、今は眠りなさい」


ターニャの傷は無事ふさがり、一命をとりとめた


「さぁ、次はあなたたちです、ティナ、クレリア」

三姉妹の長女と三女の傷をいやす

ターニャほどではないが二人もそうとう重症だった



しばらくすると、魔族とヒュームによる連合軍は黒い兵を一掃した

黒い兵は殲滅したものの、被害は甚大だった

特にヒュームの方は兵の数が半減、聖国の騎士もほぼ壊滅し、神官たちにも多数の犠牲が出ていた


「ありがとうございます、デュルク様」

「あなたのおかげでこの国は救われました」

「それと、魔王様にもお礼を言わなくては」

「あの方の援軍がなければヒュームだけの軍ではきっと助からなかったでしょう」


「えぇ、伝えておきます」


「ところで、デュルク様」

「先ほどわたくしをサリアナとお呼びになっていましたが」


「あ、あれは!その、何というか」


「思い出していただけましたか?」


「え?」

「思い出す、とは」


「はぁ、やはり、覚えていませんが」

そうため息をつくサリアナにずっと気になっていた疑問をぶつける


「その、実は私も、お聞きしたいことが」


「はい、何でしょう」


「私がまだ幼いころ、この国に来たことがあります」

「その時に、ある少女と約束を交わしました」

「私は、その約束を果たしたいと考えています」

「あの時の、婚礼の約束を」


「まぁ、素敵ですわ」

「わたくしは、その方との恋争いに敗れてしまったのね」

「残念ですけれど、わたくしも応援いたします」


「いえ、その婚礼相手は今目の前にいらっしゃる」

「そうでしょう?サリアナ様」


サリアナの顔が輝いた


「フフフ、嬉しい、です」

「覚えていてくださったのですね」


「私も今しがた気づいたところです」

「なぜ、いつも目をお隠しになっているのです?」

「その青い瞳を見れば思い出せていましたよ」


「...わたくしの目は、見たものの未来を見通してしまいます」

「今はあなたから目線を外しているので見えませんが」

「未来は、なるべく見ない方がいいのですよ」

「あの時も、あなたとわたくしの、この未来が見えたから、了承したのです」

「あの時から、私はあなたのものとなることを決めていました」


「では」


「もちろんです」

「この国と、あなたの国は」

「一つになります」


その日、ヒュームの国は聖王女とともに歩むこととなった

それを、魔王国も祝福した

デュルクは実は強いです

一人で旅したりしてましたから

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