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白鬼の姫、冒険者になる2

 魔王国を出ると、ヒュームの国が見えた

王が変わっているとはいえ、苦い思い出があるのには変わりない


「あえてここはヒュームの国に行くのじゃ」


「何を言うのです!ひめs、ハクラさん!あなたはあそこでひどいことをされていたのですよ!」

「私たちは今すぐにでもあの国を滅ぼしたいくらいです!」


キリサメが怒りと憎しみをあらわにし、叫んだ

リンドウもそれにうなずいている


「いや、あの時の恐怖を乗り越える」

「わらわはそれで先に進めるのじゃ」


実は、ヒュームの国の端を見ただけで体は震えている

その震え様はキリサメもリンドウも明らかにわかっていた

それでも主君はその恐怖を乗り越えようとしている

そんな愛しの姫にもはや反対はしなかった


「わかりました」

「では、リンドウに先行してもらいましょう」

「ハクラさんは間で私がしんがりを務めます」


「そんな大げさな」


「いえ!そこは譲りません!」

顔を目いっぱいハクラに近づけるキリサメ


「わ、わかった」

「わかったから、近い、近いぞ」


結局、ハクラは折れて、先頭をリンドウ、真ん中にハクラ、しんがりをキリサメでヒュームの国グランドルへと入国した


一応身元を調べられたが、ハクラは帽子をかぶっていたため

その特徴的な美しい白髪で鬼人族の姫だと気づかれることはなかった


街道は広く、一目で栄えているのが分かったが

ところどころ魔王がハクラを助けるために付けたと思われる破壊の後がうかがえた

まぁ、被害は最小限にとどめているみたいだが


大通りをしばらく行くと、ギルドの看板が見えた

ただ、案内看板なので、その看板をたどり、大通りからそれた

少しだけ狭くはなったが、それでも馬車三台がゆうに通れるほど広い道を進む

その奥にギルドはあった

でかい

ただただでかい

一見すると岩の要塞のようだ

それもそのはず、ここがギルドの本部だからだ


「お、おっきいですね」


「臆してなどおらん臆してなどおらん臆してなどおらん臆してなどなどなどなど」


「は、ハクラさん?」


壊れた機械のように繰り返し続けるハクラに心配そうに声をかけるリンドウ


「だだだ大丈夫じゃ」

「こ、怖くないぞ」


明らかに震えている

建物の大きさに驚いたのではない

ヒュームの多さにすくんだのだ

あの時のことを強く思い出してしまったようだ


これ以上は、ダメだ


そう思ったキリサメは小柄なハクラを抱きかかえる


「リンドウ、何か依頼をとってきてください」

「私は姫様を連れて宿をとりに行きます」


「だ、大丈夫じゃぞ、わ、わらわ、は、大丈夫じゃ」

何とか意識を保ってはいるが、震えはどんどん強くなる


「リンドウ、頼みましたよ」


「はい」

リンドウも心配そうだが、与えられた仕事をこなすため、押し殺してギルドへと入った


息が荒く、心臓の鼓動も早くなっているハクラを一層強く抱きしめると

宿を探して街道を歩き回った


大通りまで戻ると、宿屋の看板が見えた

急いでそこに入ると、四の五の言わずに宿をとり、部屋に入った

震えるハクラは熱を出し始めていた

すでに気を失っており、拷問された時の夢を見ているのか、呻き、苦しんでいた


キリサメはハクラを寝かせると、服を脱がして汗を拭き始めた

荒く呼吸をする

震えはいまだ収まらない

それほどまでに身体以上に心に深い傷を負わせていた

ふだん、姫として皆をまとめるため強がってはいるが

年齢的にはキリサメやリンドウよりも幼く、子供と言ってもいい歳だ

そこまでのトラウマを植え付けたヒュームを許すことはできない

できないが、主君であるハクラが許すと言った

ならばその意思に従うのが家臣の務め


キリサメは主君の苦しむ様子を見て涙する

何もできない自分に腹が立つ


ひとまず落ち着いたハクラを鍵をかけた部屋に残し、リンドウを迎えに行った

リンドウは依頼を受けてギルドの前で待っていた


「リンドウ、急いで姫様のもとに戻りますよ」


「はい!」


相当心配していたのか、リンドウの足並みも早くなる

宿屋に着くと、部屋の鍵を開け、中へと飛び込んだ

ハクラはスースー寝息を立てている

ここまでずっと我慢していたのだろう

あの時の恐怖を...

張り詰めた心がギルドや人込みと言ったヒュームの多さによって崩壊してしまった

 

このまま旅なんて続けられるのだろうか?

キリサメもリンドウもハクラ姫をキガシマに返した方がいいのではないかと思い始めていた

私たちの愛しい姫

皆のことを一番に考えてくれる優しく美しい小さな姫を


しばらくするとハクラが目を覚ました


「すまん、取り乱した」

「もう大丈夫じゃ」


「あの、姫様」


「ハクラと呼べと言っておろうが」


「そんなこと今はどうでもいいです!」

「帰りましょう姫様!」

「このままでは、姫様の心が壊れてしまいます」


「いや、帰るわけにはいかん」

「絶対にじゃ」


「どうしてそこまで」

至極当然の疑問を投げかけるリンドウ


「これはわらわの問題じゃ」

「乗り越えるためのな」

「必ずやこの恐怖を克服する」

「わらわはもう負けたくない」

「恐怖を、この恐怖に打ち勝って見せる!」


ハクラの覇気に気おされる

さっきまで震えていた少女ではなく、そこにはしっかりとした姫の姿があった


本当はまだ幼い姫

優しい姫

キガシマの宝物

もし、また姫を傷つける者がいるならば

その時は、我らが...


キリサメとリンドウは命をとしてでもハクラ姫を守ることを誓った

この鬼姫はかなり昔から考えていたオリキャラです

本当はこの子主体の物語もいつか書きたいと思ってます

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