6 世界を見て回ろう エルフの国5
意識のないリモットを抱え、急いで街に戻るシェイナとミュー
治癒はできたとはいえ、心臓を貫かれ、死の瀬戸際だった
体力は回復していない
呼吸も荒く、すぐに治療師のもとへ連れていく必要がありそうだ
街へ戻ると、ギルド近くにあった治療所へとリモットを運ぶ
エルフの治療師が彼女の診断をすると、慌てた様子で数人で集中的に治療を行った
その結果
「無事、峠は越えました」
「もう安心ですよ」
そこには、呼吸も落ち着き、安心したかのように眠るリモットの姿があった
シェイナもほっと一息つく
落ち着いたところで、エルフたちが治療をあっさりしたことにも驚いた
多種族を見下す傾向のあるエルフたちがだ
しばらくして目を覚ますリモット
胸元を見て、不思議そうな顔をしている
「あ、シェイナさん、私は一体?」
「あぁ、よかった、目が覚めたんだね」
「リモットさん、本当に無事でよかった」
「あの、ここは?」
その疑問にエルフの治療師が答える
「ここは治療所ですよ」
「助けられてよかったです」
「でも、大事を取ってしばらくここで療養してもらいますね」
リモットもエルフが治療してくれたことに驚いたのか
疑問を投げかけた
「あの、どうして、エルフの方々が私のような獣人を助けてくださったのですか?」
「治療を必要としている方に種族は関係ありませんよ」
「我々は人助けのためにこの治療所をやっていますから」
それは、人を助けたいという純粋な心からくるものであった
ユグドラシオンのエルフ以外にもこんな人がいるんだなぁ
そう、シェイナは思う
治療所にミューとリモットを残し、依頼の報告のためギルドへ
もちろん、黒いゴブリンのことも報告した
受付のリエラがギルドマスターのアドムというエルフに報告すると
詳しく話を聞きたいとマスターの部屋へ通された
「黒いゴブリン、か」
「はい、そこらのゴブリンの数十倍は強いと思われます」
「ぎりぎり、なんとか倒せましたけど、もし他にもあんなのがいれば、危険です」
「うん、そうだね」
「その黒いゴブリンの死体はのこっているかい?」
「はい、洞窟内にあると思います」
「ちょっと強力な魔法を使ったのでバラバラになってますが」
「よし、すぐに調査隊を派遣する」
「守護者殿は魔王に報告をしてほしい」
「えぇ、そのつもりです」
「ギルドに通信用のマジックアイテムがあるから」
「それを使って」
「はい、ありがとうございます」
「リエラ、持ってきてくれるかい?」
「はい~です」
リエラは通信用の魔法がかかったペンダントのようなアイテムを持ってくる
「あ~あ~、こちら、冒険者ギルド、ルーノリア支部~です」
「デュミノイテ支部の方~、応答願います~です」
しばらくすると、ザザという雑音とともに女性の声がした
「ザ、ザザー、こち、ら、デュミノイテ支部、マリアです」
次第に鮮明になっていく声
「どうしました?」
「はい~、実は魔王様に~、急ぎのご報告がありまして~です」
「わかりました、少しお待ちいただけますか?」
「魔王様につなぎます」
ほんの少しして、魔王に繋がる
「はい、サクラです」
「どうされましたか?」
「あ、サクラ、僕です」
「シェイナです」
「あら、シェイナ、どうしたんですか?」
「実は、闇と思われるものに憑依されたゴブリンと遭遇したんだけど」
「なんですって?!」
「それは、本当ですか?」
サクラは通信の向こうで驚いている
「うん、恐らく間違いない」
「あの強さは、異常だった」
「それに...あの時と同じ感覚が」
「あの時?」
「あ、いや、何でもない」
前世のことは黙ってた方がいい、よね?
「わかりました、こちらからも調査隊を派遣しましょう」
「すみません、よろしくお願いします」
と、アドムが魔王に頭を下げた。相手に見えていないにもかかわらずだ
「では、これから調査隊を選定して送り出します」
「現地での案内をお願いしますね」
「はい」
通信を切る
「すいません、僕は仲間が負傷したので治療所に戻りますね」
「あぁ、ありがとう、報酬は下でもらって」
「それと、ギルドからも報酬を出すよ」
「情報報酬と討伐報酬をね」
「リエラ、頼んだよ」
「はいは~い、わかりました~です」
ギルド一階で報酬をもらうと、治療所に戻った
リモットは元気そうだ
ミューと笑いあっていた
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世界の外で男が球体をのぞき込んでいる
ソロストイという男
それと、天使のような翼をもつセプテリルだ
「下等なゴブリンでもここまでになるとは」
「まぁ、倒されてはいるが、十分にいいデータが取れたといえよう」
「そうですね、次は魔獣などで試してみましょう」
「以前消した世界でのデータが役にたってくれているみたいですしね」
「あの世界は惜しいことをしたな」
「勇者を取り込むことにも成功していたのだが」
「世界ごと消えてしまってはデータの取りようがない」
「まぁ、こちらでゆっくり実験してみるとしましょう」
「ところで、最後の扉の様子は?」
「あぁ、まだ開きそうもない」
「慌てることはない」
「すでに六門まで開いているのだ」
「あと一つ、後たった一つ」
「あの方にも見せたいものだ」
「我らに力をくれた方に」
「監視者たちも動いています」
「門を開いたことには気づいているようですが」
「目的までは分からないでしょうね」
「今のところ、奴らとのボードゲームは勝ち越している」
「二つ、世界を消せなかったが、門は開いた」
「計画に支障はない」
「さて、私も仕事に戻るとしましょう」
「転生者も、ついでに探しておきますよ」
「あぁ、創造主の魂のかけら」
「それを奪えば我らもより強固になる」
セプテリルは翼を翻し、どこかへと消えた
暗躍暗躍~