白鬼の姫、冒険者になる1
鬼人族の国、キガシマ
白鬼の姫は一人、決心した
さっそくは以下を呼び、その決意を表明する
「わらわは、冒険者になろうと思う」
「はい?」
突如言い放たれた言葉に目を丸くする側近の女性キリサメ
「あの、なんと?」
「じゃから、旅に出ると言っておる」
「冒険じゃ、ぼ・お・け・ん」
「は、はぁ...」
「いやダメですよ!何言ってるんですか姫様!」
キリサメは全力で留める。一国の姫が冒険者になるなど前代未聞だからである
「しかし、わらわは弱い、今回の件でよくわかった」
「お前たちにも迷惑をかけた」
「いえ、それは我々がお守りできなかっただけのこと」
「我らが鍛えなおせばよいのです」
「いや、もう決めたことじゃ」
「お前たちに守ってもらうばかりでは、ダメなのじゃ」
ハクラ姫の決心は固かった
「...わかりました」
「ただし、私と、もう一人、同行をさせていただきます」
「む、それは仕方ない」
「もう一人とは誰じゃ?」
「リンドウです」
「おお、アマツユの娘か」
「いい、同行を許す」
「ハッ、では呼んでまいります」
キリサメはアカネを呼びに行く
リンドウはアマツユの娘で、国での実力も一頭抜き出ていた
忍者刀による奇襲を得意とする
職はレンジャー、ダガー、盗賊、義賊、忍だ
徹底したお忍び職である
「失礼いたします姫様」
キリサメに連れられリンドウが入ってきた
いかにもシノビと言った格好、は、していない
どちらかというと和風の村娘といった感じだが
その色合い鮮やかな薄紫の髪と切れ長の目が顔に涼し気な印象を与えていた
ようするに、クールビューティだ
「姫様、リンドウ、はせ参じました」
「うむ、話は聞いておるか?」
「ハッ、ですが、本当に冒険者とやらに?」
「そうじゃ、世界を見て回る」
「それはわらわの強さになるはずじゃ」
リンドウは少し考えて、拝承致しましたと言って頭を下げた
ハクラの決意を受け取ったのだろう
リンドウの父、アマツユは恩義に報いるために魔王軍へ下った
ならば、父の意志を継ぐのは自分だと考える
「必ずや、この身に変えても姫様をお守りします」
「いや、旅の間は無礼講じゃ」
「わらわに敬称も敬語もいらん」
「で、ですが、そう言うわけには!」
「わらわが良いというておる」
「それと、髪を染める」
「この髪だと目だってしょうがないからのぉ」
「「それはいけません!!」」
二人がハモッた
「絶対ダメです姫様!」
「そのお美しい御御髪を染めるなど!」
「そうです!せめて帽子にしましょう」
二人の配下に激しく止められて、髪を染めるのは断念した
少し、残念だった
染めてみたかったから
とりあえず、皮の帽子(と言っても上等な生地のおしゃれな帽子)を被らされる
ほんのちょっとブスッとしている気がするが、二人の配下は気にせずに準備を整えた
「さて、準備もできたのぉ」
「早速出発じゃ!」
意気揚々と出立するハクラ
それにため息をつく二人
「それで、まずはどこへ行こうかの?」
「まずは冒険者ギルドへ行きましょう」
「この国のギルドでは姫様の御顔は知れ渡っているので」
「そうですね、魔王国に行きましょう」
と、キリサメが提案した
「ふむ、それなら魔王様にいただいたまじっくあいてむが使えるのぉ」
「よし、では、転移するぞ」
ハクラは闇の扉を開き、魔王国へと向かった
魔王国、デュミノイテ
その入口へと転移してきた三人、周りには同じように転移してきたものが何人かいる
街に入り、ギルドにまっすぐ向かう
入ってすぐに看板が見えているので迷う心配はない
「ここですね、姫様」
「姫様はやめんか、ハクラと呼び捨てにしろ」
「は、はい、申し訳ありません」
「敬語もやめんか」
「冒険者としてここは対等にならねばならん」
「は、はい、わかり、わかった、ハクラ」
「うむ、それでよい」
「じゃぁハクラさんもその言葉遣い辞めましょ」
「な、う、うむ、そうじゃ、な」
「いや、そう、ね、か?」
「や、やっぱりいいです、違和感が...」
「む、わらわ、私だってそれくらいできますのことよ」
「ハクラさん、すごく変です」
「ぐ、む、そ、そうか、なら戻す」
仕方なく口調を戻した
「よし、入りましょうか」
まだやっているがそれは無視して中に入った
またハクラはブスッとした
「ほら、ハクラさん、あそこの受付で登録しますよ」
「う、うむ」
受付には受付嬢マリアが座っている
「ようこそ、冒険者ギルド、デュミノイテ支部へ」
「本日のご用件は?」
「うむ、冒険者登録がしたいのだが」
「はい、それでは、こちらの用紙に記入をお願いいたします」
「あい分かった」
三人は用紙に名前を記入する
「あ、ハクラさん」
「ん?」
「後で適正職業も見てもらいましょう」
「職によって使えるスキルが異なるので見てもらっておくと便利ですよ」
「ふむ、そうか」
書き終えると、マリアに用紙を渡す
「はい、では、そちらにおかけになってお待ちくださいね」
てきぱきと登録を始めるマリア
手慣れているので驚くほど手際がいい
あっという間にギルドカードを作り上げた
「はい、こちらがギルドカードです」
「これを提示していただければどこの国のギルドでも依頼が受けれますので」
「なくさないようにお願いしますね」
「うむ、ありがとう」
「それと、職業適性を見てほしいのだが」
「あ、はい、では、そちらの奥の部屋でお待ちいただけますか?」
ハクラは部屋へと案内された
「お前たちは行かないのか?」
「はい、我々はもう適正を受けておりますので」
「そうか」
部屋に入ると、オーブが一つ、机の上に置いてあった
「では、そちらのオーブに手をかざしてください」
ハクラが手をかざすと、オーブが光った
そして、中空にいくつか文字が浮かぶ
剣士、重剣士、軽剣士、ダガー、小太刀、二刀、太刀、バーサーカー、戦士、ナイト
ホーリーナイト、姫騎士、魔剣士、侍、クレリック、M
「おお、姫騎士がついてますね」
「これは王族の方にしか出ない職業なんですよ」
「やはりあなたはキガシマの姫様ですね?」
「む、そんなことでばれるのか」
「たのむ、内密にお願いする」
「何かわけがあるんですよね?」
「大丈夫です、ギルドは口が堅いですから」
「なるべくその職は隠しておいてくださいね」
「うむ、わかった」
「それと、このMじゃが、これはなんじゃ?」
「あ、そ、それは...」
「?」
首をかしげてみているハクラ
「それは、その」
「なんじゃ、もったいぶりおって」
「それは、真正のマゾに現れる職です」
「な!」
「なんじゃそれは!なぜそんなものが職業になっておる!」
「認めん!わらわは認めんぞ!」
あきらかに取り乱すハクラ
顔を真っ赤にして涙を浮かべている
「で、でも、悪いことばかりじゃないですよ!」
「忍耐がものすごく上がります」
「ようするに、痛みが快楽に」
「それはもうマゾではないか!」
「わらわはそんな変態ではない!断じて!」
うぅううと泣く姫をなんとかなだめたマリア
外で待っていた二人は泣いているハクラを見て駆け寄った
「ど、どうしたんですか?」
「なんでもないぃぃいい」
「いいからいくぞぉぉぉ、うわ~ん」
何が何だかわからないが、こうして三人の冒険が始まった
ハクラはMという職業を墓場まで隠して生きていくと決めた
サイドストーリーです