5 闇の侵攻5
やばいです
戻れるめどが立ちません
本来はアイテム「闇の扉」で一瞬で帰れるんですがなくしてしまいました
守護者様には黙ってますが、このままではわたくしの信用にかかわります
ごめんなさい守護者様、わたくしは本当は気が弱いんです
守護者様に話しかけられるだけで心臓が飛び出そうです
あぁ、わたくしはどうすれば...
本来の話し方もあんなクールビューティ的な感じじゃないんです
長いこと人と話してなかったのでとっさに変な口調になってしまいました
守護者様は何も言いません
きっと変に思っているはずです
ドジで間抜けで、おまけに魔法の腕では守護者様に完全に劣っています
このまま帰ればきっと魔王様にも愛想をつかされてしまいます
そんなの、そんなの絶対嫌です
ダークエルフのテュポルは悩んでいた
そんな様子を見てシェイナは思った
あぁ、この人、結構可愛いとこあるなぁ
おどおどしてるし、明らかに焦ってるね
僕がテュポルさん担いで空飛んで森から出ればいいのにそのことも忘れてる
うん、ドジッ娘だこれ
「ま、待ってくれ守護者殿、今方角を見る」
「みろ!星が出ているだろう、あそこに一番輝く星がある」
テュポルの指さす方向を見ると、真っ赤に輝く星があった
「あれはな、北の方角を指すアンテュルスという星だ」
「あの方角へ行けば北というわけだ!」
「ふむふむ、それで、森の出口はどっちの方角なんです?」
「あ、うぅ、そ、それは」
涙目になってる
正直可愛い、というか絶対この人マジックアイテム落としたこと隠してるよなぁ
よし、自分から言うまで黙っておこう
「あ、ああぁ、あっちだ!あっちの方に出口がある!」
テュポルは星とは反対方向の明らかに今より深い森の方を指している
あぁ、多分こっち行くともっと迷子になるんだろうなぁ
しょうがない、ここは
「ねぇテュポルさん」
「なななななんだ!」
「何か黙ってることない?」
「あうい!そ、そんなこと、ないぞ」
「ありますよね?」
僕はニコニコしている
「な、ない...です」
ヒィ!守護者様笑ってるけどこれ絶対怒ってるやつですよ!
もしかして、気づかれた?
「あるよね?」
「あ、あの、その、ごめんなさい、です」
しょぼんとするテュポル
その姿が可愛すぎて、思わず笑ってしまった
「あ、あの、怒ってないのか...です、か?」
「アハハハ、怒ってないよ」
「あれでだませると思ってるんだもん」
「テュポルさんってかなりの天然だよね?」
テュポルは顔を真っ赤にしている
図星のようだ
「あ、うう、その...魔王様には秘密にしてください」
「うん、言わないよ」
それから、テュポルは元の、自分自身の口調へ戻った
そして、身の上を語りだす
「わたくしは、魔王様に拾われた孤児の一人でした」
エルフはユグドラシオン以外にもいる
ユグドラシオンには基本、女王を含め、妖精女王の子孫のエルフが暮らしている
それ以外にはヒュームの隣国、深い深い森にあるエルフの国、ルーノリア
さらに森を挟んで東側にダークエルフの国、ソリュド
この二つの国は互いに憎みあい、しょっちゅう小競り合いをしていた
そしてついに、起こるべくして戦争は起きた
きっかけは一人のダークエルフの少女が興味本位でエルフの国の土地に入ったこと
それを口実に侵略だといちゃもんに近い理由をつけ、ルーノリアから仕掛けた
捕らえられたダークエルフの少女は当然のように処刑が決まり
耳を斬られ、次の日には首を落とされることになっていた
少女が処刑されることをダークエルフたちは知らない
その少女を人質に降伏するよう言われた
ダークエルフたちは慌てた
なぜなら、その少女はダークエルフの王女だったから
成すすべなく降伏し、ダークエルフは全て囚われ、奴隷としてヒュームの国へと売られた
残った少女もただ死を待つばかり
少女は死を覚悟していた
もともとは自分の蒔いた種
売られていった同胞へのせめてもの罪滅ぼしだと
そんなさなか、エルフの国があわただしくなった
ところどころ聞き耳を立てていると、魔王が一人で攻めてきたと兵士が話している
なぜ、こんなところに魔王が?
少女はおもったが、死にゆく自分はには関係ない
いっそのこと、このエルフの国ごと魔王が自分を滅ぼすことを望んだ
結果
魔王の圧倒的な力を前にエルフは降伏した
それがどうした
どうせ自分も殺されるに決まっている
そう思っていた矢先
牢が開き、一人の美しい魔族の少女が入ってきた
彼女は魔王だと名乗った
そんなはずがない
だが、魔族を毛嫌いするここのエルフがここまで魔族を受け入れていることに実感がこもっていた
「あなたがダークエルフの王女様ね?」
「あ、あなたは?」
「私は、魔王サクラ」
「あなたを助けに来たの」
「わたくしを?」
「えぇ、あなたの国の人達に頼まれてね」
そんなはずはない
全てのダークエルフはヒュームに売られていった
「大丈夫よ、あなたの国民は全員逃がしたわ」
「今わが国で保護していまよ」
その魔王の笑顔に緊張がほぐれていく
魔王がそっと手を、切り取られた耳に添えると
「ヒーリング」
暖かな光が体を包む
かけていた耳がキレイに生え、傷はふさがった
なぜ魔族が光魔法を使えるのか気にはなったが今はそのやさしさに包まれたかったので聞かない
「さぁ、行きましょう、あなたの家族のもとへ」
「ところで、あなたの名前は?」
「わたくしは」
「わたくし、は、テュポル・エネ・ソリュドです」
テュポルはかつてダークエルフの姫だった
ダークエルフがすべて魔王の庇護に入ってからはその地位を捨てた
そして、魔王のために働くと誓った
テュポルが話し終える
「そうなんですね」
「じゃぁ、戻らないとね」
「魔王のもとに」
「は、はい」
「はいこれ」
シェイナは拾っておいた闇の扉のオーブを渡す
「え?これは、なくしたと思って」
「テュポルさんが落としたのを拾っておいたんだ」
「嘘つかなければもっと早く渡すつもりだったのに」
「うぅう、す、すいません」
涙目で謝罪するテュポルを許し
二人は魔王城へと還った
やっぱエルフとダークエルフの確執ってかかせませんよね?
よね?