5 闇の侵攻4
オーガの国、キガシマ
小さな離島であり、ヒュームの国アドラード領海より南に3キロほど行ったところに位置する
希少種、白鬼の姫が治めるこの国は、傭兵業で成り立っていた
その中でもトップの実力を誇っていたのがアマツユ
現在は魔王軍に所属している男だ
白鬼の姫の名は、ハクラ・ウラ・ユキシロ数百年に一度生まれる白鬼で
魔力は最も魔法の扱いに長けた妖精族にも引けを取らないほど
それに比べて戦闘能力は中堅の鬼人族と同程度だ
しかし、彼女にはその戦闘力を補える秘宝がある
それが、鬼人族に代々伝わる妖刀「散雪」
持ち主の思い通りに形を変える刀だ
そして、この刀は幼刀でありながら聖剣という二つの属性を備える
つまり、聖魔両方を斬れるのだ
ハクラ姫は現在、ヒュームの侵攻に悩んでいた
周囲を海に囲まれているとはいえ、絶えず戦艦が来襲し、攻撃を加えては逃げていく
無効は大勢力なのに対し、個は強いが勢力の少ない鬼人族
いずれは疲弊し、敗北するのが目に見えている
そんな中、配下の一人が吉報を持ってきた
伝えに来たのはキリサメ、アマツユと双璧をなした実力者だ
「姫、吉報です」
「ほぉ、言うてみよ」
「ハッ!」
「魔王様の配下の方々が来られています」
「同盟の件だそうで」
「おお、通せ」
「はい」
「お客人、入られよ!」
ふすまが開き、三人の魔王の使者が入ってきた
一人はアマツユ
もう二人
燃え盛る炎のような男はサラマンダーのサウロ
揺蕩う水のような女はウンディーネのウェニー
二人はペーヨードの配下だ
「お久しぶりです、姫様」
「おお!アマツユか!」
「久しいのぉ」
「元気じゃったかえ?」
「はい、姫様につきましては、相変わらずお美しい」
「よい、世辞はよせ」
世辞などではなかった
雪のように白い肌、輝く白髪
その髪は長くおろし、後ろの一部を髪留めで留めている
ハッと息をのむようなはかなげな顔
しなやかな肢体は長く、ふと過ぎず、細すぎない体と完璧なバランスをとっていた
「して、魔王殿はなんと?」
「はい、同盟を結びたいと魔王様は仰っております」
普段の荒々しい口調からは想像もつかないほどの丁寧な言い回し
それだけ白鬼の姫に敬意を払っていた
「まことか!それは願ってもないこと」
「こちらも死者を出そうと思っておったのじゃが」
「その矢先にヒュームの侵攻が始まってな」
「出すに出せなかった」
「おぬしらはどうやってここに来たのじゃ?」
「はい、我らには転移用のマジックアイテムがございますので」
「なるほどのぉ、まじっくあいてむか」
「便利よのぉ」
「さて、同盟の件じゃが、答えはもちろんいぇすじゃ」
「すぐに書状を書こう、しばし待たれよ」
ハクラ姫はすらすらと何かを書き始めた
それを丸めると、指輪を熱し、閉じ口に焼き印を押した
「これを頼む」
「しかし、なぜヒュームはこの国に急に侵攻してきたのかのぉ」
「我らとヒュームは傭兵の貸し出しと貿易でよい関係を気づいておると思っておったが」
「はい、その件については口に出すのも憚れるのですが」
「ヒュームの愚王ダーストンが姫の美貌に目を付け、手に入れんとしたためのようです」
「なんじゃと!」
「そのようなことでこの戦争を仕掛けたというのか!」
「はい...」
「情けないのぉ、先代も次代もあれほど優秀だというのに」
「今代には何が起きた?」
「まるで自分の欲望を抑えておらんではないか」
「えぇ、就任当初はまともだったのですが」
「ともかく、これで我らも魔王殿に力を貸せるというわけじゃ」
「いや、貸してもらうという方が正しいのぉ」
「魔王様も支援は惜しまないと申しております」
「すまん、助かる」
「我らもできる限りそちらの要望に応えられるよう努めると伝えてくれ」
「ハッ、拝承致しました」
深々と頭を下げ、使者たちはハクラ姫のもとを去った
その中で、サウロとウェニーは思った
俺たち(私たち)来た意味あったのか?と
三人が去った後でハクラ姫はキリサメに聞いてみた
「のぉ、キリサメ」
「ハッ」
「わらわは戦争をしてまで奪うほどの玉か?」
キリサメはその質問に少し驚いたが、臆さず答えた
「はい、姫様はそれほどまでの美貌をお持ちです」
「ヒュームの愚王がそのような目で見ているなどはらわたが煮えくり返りそうですが」
キリサメは本当に怒っていた
この手で愚王を殴りたいほどに
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アマツユが急用ができたと言って戻ってからミューはゴートに剣を習っていた
ゴートもそこまで暇ではないのだが、子供が好きで、自ら買って出たのだ
「どう?ゴートさん」
孫を見るような目でミューを見つめていたゴートは答えた
「うむ、筋がいいぞ」
「いや、天才だな」
「スキルがすべてものになっておる」
「しかも、連携や虚々実々がうまい」
「これならすぐにでも戦いに出せるな」
「えへへ、ありがと~」
ゴートはものすごく優しくミューの頭を撫でた
その時、ミューの頭に何かが響いた
ポーン
— 進化が可能です
「え?」
「どうした?ミュー」
— 現在、ルナウルヴェンキャットマンに進化可能です
「進化?」
「どういうこと?」
「なんと!その年でもう進化するのか!」
ゴートは驚いていたが、ミューはなにがなにやらわかっていなかった
「ミュー、進化してみろ」
「さらに強くなれるぞ」
「え?シェイナちゃんみたいに?」
「うむ!」
「じゃぁする!」
「えーっと、イェスっと」
光り輝くミューの体
ミューは一回り大きく、美しく進化した
銀色の毛並みは白みがかった銀色となり、尾が二本になっている
体が大きくなったため、服が破けてしまった
ゴートはすぐには折っていたローブをミューにかぶせた
「私、強くなれたかな?」
「シェイナちゃんくらい」
ミューはニコリと笑った
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その頃
シェイナとテュポルは
「テュポルさん、こっちであってるんですか?」
「あっている!」
「でも、あの木、さっきもみましたよ!」
「気のせいだ!この辺りは似た木が多いからな!」
「でもあの木、さっき僕がつけた傷がついてますよ」
「...」
「迷った、んですね...」
コクリとうなずくテュポル
テヘペロ、みたいな顔をしていた
二人は...
絶賛迷子中だった
そのあと魔法のはじける音がして、一人のダークエルフが吹き飛んだのは言うまでもない
今のところ全作品にハクラは出てます
その秘密はいずれまた