4 魔王のもとへ3
これからのこと、そう、魔王は言った
闇との戦い
それがこれから起こる
いつかは分からないが、そう遠くない未来
死ぬかもしれない戦い
そういわれた
今ここに魔王、勇者、守護者というと立場の三人がいるわけだけど
本来、魔王と勇者、守護者は敵対勢力だった
だから、警戒は解かない
もしかしたら装っているかもしれない
その気持ちはいまだ薄れない
ただ、魔王の能力は僕のはるか上だった
魔王と言われるだけあって、恐らくだけど、一撃で僕たち三人は跡形もなく消せる
それほどに差は大きい
そんな魔王がわざわざ敵となりうる僕たちを育てると言っている
これから戦うのは魔族、亜人族、異形種、それらすべての世界に生きるものの敵
その共通の敵と戦うために、ということなのだろう
だったら、もしその敵に勝利したら?
その先は?
魔王が裏切り、僕たちを殺す?
はたまた、僕たち勇者や守護者側が魔王の寝首を掻く?
魔王のことは信じ切れていない
でも、彼女の目はどこまでもまっすぐ前を見ている
僕はその目を信じたい
「世界中の人々が笑って暮らせる世界を作りたい」
そう彼女は言った
あの目は嘘じゃない
その目を知っているから
なんで?
僕は何で知っている?
僕は彼女の意見にとても共感している
世界は平和で、どんな種族もわけ隔てない
それこそが理想、それこそが世界
でも、これは僕の感情?
僕は、もともとこう?
その感情がもともとのものなのか、それとも、守護者として植え付けられたものなのか
いや、今はこのどうしようもない感情を受け入れるしかない
それしか今示されている道がないから
ミューは当然のように勇者で
サクラは絶対に魔王で
僕は、自分の意志ではない守護者だから
不安だ
なぜ僕はココニイル?
僕は、この世界に生まれてただ生きてきただけ
そんな僕に世界は何を望んでいるの?
何で僕は、ここにいるんだろう?
不安だ、怖い、逃げたい、逃げれないシニタクナイシニタクナイシニタクナイ
シニt
抱き寄せられた
魔王は僕とミューを抱きしめてる
「え?」
「ありがとう、ございます」
「私一人では不安で、どうしようもなくて」
「ただただ怖くて」
その身は震えていた
彼女は僕らよりはるかに大人に見えた
実際僕らの10倍は生きている
長命な種族のためわからなかったが、彼女もまた少女なのだ
決して割り切れる大人じゃない
一人でずっと戦ってきた少女だ
この子のことも守りたいと思った
だから、後のことはあとで考えよう
強くなって、闇を打ち倒して、それから考えればいい
今はただ、抱かれていたかった
勇者と、魔王と、守護者
三人の不安は
三人で共有すればいい
涙を浮かべた魔王は、サクラは、笑っていた
「動き出した闇はヒュームを先導し、世界の表舞台に立とうとしています」
「ヒューム達は今、そのものに狂わされ、世界に戦争を仕掛けようとしています」
「私の配下が...」
「やり方は間違っていますが、戦争を止めようと一つの国を支配しようとしました」
「しかし、もう少しというところで、もぐりこんでいた方は捕まり...」
その先は分かった
ヒュームに捕まるということは多分
「時間はあまりありません」
「でも、できるだけあなた方を強くしたいと思います」
魔王はどこかへ通信するかのように連絡を取った
「私です、部屋に来てください」
それだけ言うと、通信をきった
しばらくすると、二人の人物が部屋へと来た
一人はこの国に連れてきてくれた鬼人族のアマツユ
もう一人は、恐らくダークエルフと呼ばれる褐色のエルフの女性
「失礼いたします」
「ではアマツユさん、テュポルさん、彼女たちをお願いします」
テュポルと呼ばれたダークエルフの女性は僕をじっと見ている
「おい勇者、お前は俺と訓練だ。行くぞ」
「あ、はい!」
ミューはアマツユについていく
「大丈夫ですよ守護者さん、アマツユは剣技の達人です」
「きっとミューちゃんの力になってくれるはずです」
僕の不安を感じ取ったのか、魔王はそう言った
「あの、僕も名前で呼んでください」
「シェイナと」
「はい、シェイナさん、では私のことはサクラと」
「えぇ、よろしくお願いしますサクラさん」
「それで、僕はどうすれば?」
「シェイナさんは魔法と召喚ができますよね?」
「はい」
「ですので、そちらをさらに鍛えていただきます」
「あの、魔法と言ってもそんなに使えるわけじゃないんですが」
「大丈夫です」
「テュポルさんは大魔法の使い手ですので」
テュポルはただ無言でこちらを見ている
「テュポルさん、彼女をお願いしますね」
コクリとうなずいたテュポルは突如ローブの裾から手を出し
僕の手をガシッとつかんだ
そのまま引っ張られるように僕は連れていかれた
魔王国を出て、しばらく行ったところに大草原があった
草の香りが鼻腔をくすぐる
少し飛んでみたいな、と思っていると
テュポルが口を開けた
「飛ぶ?」
「ん?え?いいんですか?」
「いい、少しくらい」
「というか、見たい」
「じゃぁちょっと失礼します」
羽を羽ばたかせる
飛べるのか?という不安はあったけど、すんなり体は浮いた
鱗粉をきらめかせ、空を舞う
気持ちいい
初めての飛行は想像以上に良かった
どんどん上昇する
そして、下を見た
広大な異空間とは思えない景色
美しい
ここは、僕が元いた世界よりも、多分だけど、きれいだ
この美しい世界を守りたいと魔王は言った
いや、サクラは言った
なら、僕も彼女を支えよう
勇者とともに
僕とミューの特訓が始まった
正直勇者も守護者も強いです
それでもそれはスキルや魔法に頼ったものであって、いずれ崩壊する強さです
だから練習は必要なんです