魔王とハルピュイアの少女
前任魔王が亡くなった
ヒューム達に追い回され、居場所をなくした魔族や種族を受け入れ
多種族国家を作った素晴らしい魔王だ
私の番になっただけ
それでもその重責たるや、本当に自分を押しつぶしてしまうのではないか
そう思うほどだった
私の能力は生まれながらに高かった
まさに魔王となるべくして生まれた存在
それが私だった
でも、私は何も知らない
ただのしがない滅ぼされた村の生き残りだった私はその村の生活しか知らない
幼いころから聞かされた妖精女王様の話
唯一知る王の姿
それこそが理想だと思った
だから、世界を見て回ろう
助け出されたのはヒュームに滅ぼされた村唯一の生き残りの小さな小さな子供
魔王の臣下、キードット・カピュタムはその幼い少女を抱きかかえ
魔王城へと連れ帰った
キードットはディアブロ族の青年
魔王の命により、魔族の生き残りを探しているところだった
そこに入った情報
魔族の村、平和に細々と魔族が暮らしている村がヒュームに襲われたらしい
理由?恐らくは、ヒュームにとって目障りだった
自分たちと姿が違うものが怖い
そんな理由だろう
ヒュームは種族的に強い種族ではない
だが、魔族と決定的に違うものがある
それは、光魔法を使えること
光魔法は魔族にとって弱点と言われる魔法だった
ただの村人しかいなかった村はあっという間に消えた
ただ、一人の少女を残して、消えた
キードットが向かった時にはすでに村は燃え盛り、生き残りはいないかに思えた
どこかで、泣く声がする
子供?
キードットは急いで声のする方へ向かった
そこにいたのは、一人の少女
桜色の髪、幼い、一人で生きていくことはできないだろう
少女の傍らにはその子の両親と思われる死体と
大量のヒュームの死体が横たわっていた
少女には傷一つついていない
両親が守ったと考えるのが妥当だろう
しかし、その少女からは異様なオーラが出ていた
これは、魔王様と同じ?いや、それ以上の
恐らくだが、ヒュームに襲われ、覚醒したのだろう
そのオーラは抗えないほどの好意、この子のために何でもしたいと思わせる何かがあった
それでもキードットは抗う
幸いまだ力は安定していない
今ならまだ抑えれる
キードットは手を少女の頭にかざすと、眠らせる
連れて帰ろう
魔王様に報告せねば
闇の扉をくぐり、魔王城へと帰り着いたキードットはその足で魔王へと謁見した
「魔王様、トルク村の魔族ですが」
「申し訳ありません、間に合わず」
「そうか・・・」
きっと、そのそうかにはいろいろな感情を押し殺しているのだろう
「む、その子は?」
「はい、トルク村唯一の生存者です」
「おお、そうか、生き残りがいてくれたか」
「よかった、よかった...」
そう言い、少女の頭をなでる
すると、少女が目を覚ました
「ひぃ!」
おびえる少女
「あ、うぅ」
「安心おし、ここにはお前を傷つけるものはいないよ」
魔王は優しく声をかけた
「名前は、言えるかい?」
「う、うう、あ、あ」
少女はショックで声を失っていた
声が出ない
目の前で村人を、隣人を、そして両親を奪われ、自分にまでその手は迫ってきたのだ
幼い少女のその恐怖は計り知れない
「あ、う、うぅうう」
また泣き始める少女
魔王は、優しく抱きしめる
そこで、さらに鳴き声が大きくなった
安堵と、緊張が解かれたためだ
魔王はその子の力をキードットに聞かされる
「なるほど、“大いなる愛”それがこの子の力か」
その手には鑑定眼と呼ばれるアイテムが握られている
種族スキル“大いなる愛”そのスキルを知るのは魔王とキードットのみ
魔王は後継者としてこの少女を育てることに決めた
キードットを教育係として、少女を次期魔王に
それから数十年少女は美しく成長した
しかし、その顔に感情はない
あの時からまだ踏み出せずにいた
そんな中、魔王の訃報が知らされる
あれよあれよという間に自分が魔王に担ぎ上げられてしまった
私は何も知らない
何も
何も
先代魔王様の意向も
でも、成したいことはわかる
それが、幼いころからの
両親にいつも言っていた夢だから
妖精女王モルガナ様のように
愛を配る王に
それからほどなくして、少女、いや、魔王サクラは旅立った
世界を回り、見分を深めるため
虐げられたものを助けるため
世界中を愛で満ちる世界にするため
――――――――――
一人のハルピュイア族の少女がいた
両親や同族のみんなとと山の上で暮らし、のどかで、平和だった
しかし、その平和はもろくも崩れ去る
ヒュームの一団が村を襲った
成すすべなく殺され、囚われていく村人
逃げようとするものは矢で射られた
少女は捕まってしまった
ヒュームの笑う顔が怖かった
そして、少女はペット兼奴隷として貴族に売られた
そこでの生活は地獄そのものだった
空を飛べないように両腕の翼は折られ、走って逃げないようにその足は斬られた
毎日泣いていた
しかし、泣けばなくほど暴力は激しくなっていく
だから、笑った
ずっと、ずっと、ずっと
そうすれば、殴られても数回で済むから
だから、ずっと笑ってた
もう、自分の感情がどこにあるのかもわからない
私は、もうずっと死んでるんだ
死んでるから、早く、お母さんとお父さんに会いたい
会いたい、会いたい
それでも死ぬことは許されず、遊び道具としての毎日
そのうち、考えるのもやめ、ひたすら笑った
貴族は壊れたなと一言言って捨てた
ゴミ溜めだ
まだ少女だが、その目に光はなかった
あとは正しを待つのみ
そんな少女に手が差し伸べられる
なんのけなしにその手をつかむと
抱き寄せられた
温かい
優しい
気持ちいい
つらい
泣きたい
痛い
怖い
しにたい
いろんな感情がその時戻ってきた気がする
いや、多分本当には戻っていないのだろう
でも、一つだけ、少女の体に戻ったものがある
それは、愛
魔王だと名乗った少女から渡された、無償の愛
それが心を満たしていく
「あなたの名前は?」
「私...私は...アハハ、ハハ...」
「ハル、ルー...アハ、ハハ、う、うぅ」
「うああああああああああああああ」
泣き叫んだ
その温かい胸に抱かれて
それ以来、何も心にわかない
ただ、ただあるのは
魔王様に対する恩義と、愛のみ
魔王は少女にかつての自分の姿を重ねた
同じ目をしていた
いや、この少女はもっと悲惨な目にあっていた
少女を助けたい
心の底からそう思った時、自然と体が少女を抱きしめた
その時、“大いなる愛”が発動した
魔王も少女も気づいていない
しかし、その愛は少女を救った
彼女は知った
政治も
戦いも
人の動かし方も
世界のありようも
温もりも
......
まぁ再度ストーリーです