白鬼の姫武者修行中 終
周囲に水晶の球のよなものが浮いている
今まで以上に幻想的な雰囲気にのまれそうになっていると球体が動き始めた
その中でひときわ大きな球体に乗った長いひげを蓄えた老人がいる
彼こそが八仙のまとめ役でもあるチョウカだ
皆からは尊敬の念を込めてチョウカ老と呼ばれている
「来たか」
フワフワと浮きながらチョウカが迫ってくる
「では始めようか。本気で来なさい。今まで以上に限界を超えてな」
球体がだんだんと高速で舞い始める
それがまるでファンネルのようにチョウカの周囲に纏われた
「いくぞ」
ハクラは刀をはじめから二刀にし、体に仙力を充実させた
今までとは違い内からあふれる力
足に力を込め空中を駆ける
チョウカが動いた
手を広げ、こちらに突き出す
球体が一斉にハクラを取り囲むと、まるでビームのように何かを射出し始めた
どうやら本当にファンネルのようで、まるで意思があるかのようにばらばらに不規則に動く
その軌道を仙力によって読みギリギリで避ける
外れた攻撃が下に立っていた木を打ち抜くと木は一瞬で蒸発した
当たれば無事では済まないことがわかる
次から次へと繰り出される熱線がかすり、身を焦がしながらも今までとは違う格段に研ぎ澄まされた動きで避け、刀で弾く
しかもはじいた熱線は全てチョウカへと飛ばし返していた
チョウカはそのハクラの動きに満足そうな笑みを浮かべている
だが攻撃の手は緩めない。さらに速さと鋭さを増す
「いいぞ、いい動きじゃ」
「もっとだ、もっと仙力を爆発させろ」
それに促されるようにハクラの力がどんどん高まる
体が青白く輝き始めた
その時後方で何かが爆発した
「なんじゃ!?」
二人は戦闘を中断して爆発した方向を見る
そこには二つの人影があった
「誰だ、貴様らは」
二人のうち男の方は何かを手に抱えている
それは、ボロボロになったキリサメと女仙の一人ジョカだった
「キリサメ!」
「何ということだ。悪しきものは入れぬ結界を張っておったはずじゃが?」
「あんなの…私にとっては紙切れ…クヒヒ」
不気味な女の方が笑う
彼らは狂乱の二人だった
刃葬のキュリオンと呪葬のサヤ
「ひ、め…お逃げ、下さい」
ふり絞った声でキリサメが言う
「よくもキリサメを!」
キュリオンがジョカとキリサメを放り投げる
落ちる先には尖った岩
二人が刺さる直前、青白い光の筋が二人を救う
「なんじゃ?この速さは?」
自分でも驚くような速さだった
ハクラは自分の体を見る
体の光が増してきている
いまや仙力は完全にハクラになじんでいた
光が体を覆い切る
そして、輝きは収束するようにハクラの体内へと戻る
そこには騎士母神へと進化したハクラの姿があった
「おお、ついに至ったか」
「遥かなる高みへ」
チョウカが感嘆の声をあげる
ハクラには自分の力の使い方が分かった
助け出した二人に自分の仙力を分け与えると二人の傷がみるみる回復していった
そして狂乱二人に向き直る
ゆっくりと近づいていくハクラ
狂乱達は目の前の隙だらけの少女を見る
どう見ても隙だらけだし力も感じない
だが体が動かない
近づいた美しすぎる鬼子母神は青白くほのかに輝き、眼は吸い込まれるような赤い瞳を携えている
長い白銀の髪はふわりと揺れ、しなやかな手足ははかなげな印象を与えた
ハクラが狂乱の横を通り抜けると狂乱二人は振り返った
その瞬間に二人ははじけるように消えた
「ほほ、これほどまでに化けるとは、完全にクラハを超えておるわい」
嬉しそうに蓄えたひげを撫でるチョウカ
ハクラは気絶しているキリサメのそばへと戻る
「キリサメ?大丈夫か?他のみんなは?」
「姫様、大丈夫です、皆は先に逃がしました」
「そうか、無事じゃったか」
「すまぬキリサメ、世話をかけたな」
「もったいなきお言葉です姫様」
キリサメはハクラに微笑んだ
親友であり大切な仲間であるキリサメの無事にホッと胸をなでおろした
「どうじゃ?仙力を使いこなせるようになった感想は?」
「えぇ、内から力がどんどんあふれてきます」
「今までとは明らかに力の流れが違います」
「そうかそうか、これからも精進しなさい」
ニコニコとチョウカは笑った
鬼子母神となったハクラはキガシマへと帰郷する
成長した自分をクラハに見せるため、皆を安心させるために
帰って来たハクラをクラハはきつく抱きしめた
頭を撫でながら思いっきり臭いをかいでくる
そこにちゃっかりスネコスリのネネコも加わっていた
それから数日後、同盟国である魔王国から連絡が入る
ついに闇との決戦が始まったと
ハクラは自らキガシマの軍を率い姉クラハと共に魔王国へと向かった
この話はこれで終わりです
本編に繋がります