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白鬼の姫武者修行の旅5

様々な花の甘い香りがそっと鼻腔をなぜる

 気候は少し暖かいが、動きやすいよう肌が露出しているハクラにとってここは少し肌寒かった

 その花畑で一人の女性が裸でくるくると踊っていた


 満面の笑みだ

 しかしどこかタガの外れたような奇妙な笑顔である

 “この女はやばい”そう思わせる何かがある

 

 どうやら彼女はこちらに気づいたようだ

 素っ裸でくるくると馬鹿みたいにこちらに近づいてくる

 頭の中もかなりの花畑のようだ

 訳の分からない鼻歌を歌い、どこからともなく鉄扇を取り出した

 しまうところなどないはずで、まるでマジックのようであるが。恐らく彼女の仙力なのだろう


 その鉄扇が振り下ろされた

 あまりにもゆっくりとした動きなので当たっても大したことない

 避けるまでもないと思ったが、脳内の危険信号が大音量で警鐘を鳴らしたためスッと避けた


 避けて正解だった

 ゆっくりコツンと地面に当たったかと思うと、まるで隕石が落ちたかのような衝撃と共に地面が抉れた

 当たっていたら今頃自分はただの肉塊に変わっていただろうことを思うとぞっとする


「あらら~?避けてる~」


 間の抜けた可愛らしい声

 裸を恥ずかしがることも隠すこともせず見せつけるかのようにハクラと対峙している

 ハクラにはないたわわな果実がその存在感を示していたため少し憂鬱になるが、再び舞いを踊り始めたランサイカが鉄扇を今度は素早く振り始めた

 見切れるので当たることはないが、一撃でも当たれば恐らくぐしゃぐしゃに潰され即死するだろう

 当たらないまでもかすればそれだけで致命的かもしれない


「避けないで~くださいよ~」


 そんなことを言われても命がかかっているので立ち止まるわけがない

 刀を抜いて応戦しようとするが、変則的でとらえどころのない動きはこちらに反撃させる隙を与えなかった

 そこに鉄扇の一撃が迫り、慌てて刀でそれを受け流した

 火花が飛び散る

 見事に受けきったが、ふと自分の腕を見て違和感を覚えた

 

「あ、れ?」


 両手があらぬ方向を向いているのだ

 遅れてくる激痛


「ぐっ、あ、あああ」


 その場に転げる

 そこに再び迫る鉄扇

 転がって避けるが、足にかすったようだ

 今度は右足がぐしゃりと太ももから折れ曲がった


「ああああああがっああ!!」


 痛みのあまり意識が飛びそうになる

 

「あらら~、動けなくなっちゃいましたね~」

「えいっ」


 今度は左足をつぶされた

 

「ぐがぁああ!!」


 痛い、スーッと遠くなる意識をとどめたのはハクラがかつて手に入れた特殊な職業によるものだった

 本人は否定しているがそれが役に立つことになるとは思わなかった

 痛みが快楽に変わるが、それのおかげでまだ動けそうだ

 ひしゃげ、折れ曲がった両手両足をひこずり、芋虫のように這いずって逃げようとする

 だが今のハクラの動きはランサイカにとっては本当に芋虫程度

 だから、その頭に鉄扇を振り下ろした

 自分の顔に迫る鉄扇


 頭がつぶれ、死ぬ


 そう思ったが、いつまでも意識がなくなることはなかった

 そっと目を開けると、鉄扇は目の前にあった

 その鉄扇の持ちぬしは微笑んでいる

 先ほどの不気味な笑みではなく、可愛い笑みだった


「う~ん、この状態でも意識を失わずに動けるってのは大したもんだけど~」

「それじゃぁダメなのよね~」


 ランサイカはどこからともなく仙桃果を取り出しハクラに喰わせた

 捻じ曲がれ、ひしゃげていた両手両足はすぐに元通りになる


「とりあえず~」

「裸になって」


「は?」


 あまりにも突拍子もない彼女の言葉に一瞬固まったが、とんでもない力で服を引っぺがしにかかる彼女になすすべなくひん剥かれた

 あまりにも恥ずかしく、屈辱的だが、彼女には全くいやらしい思いなどはない

 

「こうやってね、体の感覚を研ぎ澄ませて~」


 目をつぶるランサイカ


「さぁ、攻撃してみて~」


 何が何だか分からないが、刀を構えて斬りかかる

 目をつぶっているはずなのにあっさりと躱された

 それも、舞いを舞うように優雅に


「本気でいいよ~」


 その言葉に躊躇しながらも、胸を借りるつもりで自身の最速最強の一撃を横なぎに振った

 その直後、ランサイカの姿がブレて消えた

 

 彼女の姿はいつの間にか後ろにあった

 たった今しがた斬ったのは残像だろう

 相変わらず目を閉じている彼女に、二撃目、三撃目と加えていくが、そのことごとくを躱され避けられ、最後の一撃は切っ先を指で止められた


「ほら、あなたにも~、これをできるようになってもらうから~」

「この感覚をつかめれば~、どれだけ重い一撃でもいなしたり受け止めたりできるよ~」


 ランサイカ曰く、この修行は相手や攻撃の芯を見極める修行なのだそうだ

 芯をとらえれば、力を加えることなく敵を砕き、たとえ一撃でも喰らえば死ぬような重い攻撃でも受け流し、それどころかその力をそのまま相手に返すこともできるそうだ


 彼女の修行の意図を汲み、ハクラは改めて彼女に頭を下げて修行を請うた


 そして、彼女の修行は今までで最も苛烈で悲惨で心身ともにボロボロになるようなものだった

 それでも、目に光を失わず、強くなるため彼女の攻撃を受け続けた

 手足は砕かれ、全身の骨を余すところなく粉々にされ、一度は頭に攻撃を受けて死にかけるも、桃仙果によって回復させられる

 嘔吐し、血反吐や血尿を垂れ流し、内臓をいくつも破裂させられる

 それでもだんだんと感覚をつかみ、すべての攻撃に対応できるようになり

 最後にはランサイカ最大の一撃を両腕でだが見事に受けて見せた


 満足そうに微笑むランサイカ

 

「うれしいわ~、それでこそクラハの妹よ~」

「まぁクラハはここに来た時にはすでにこれを会得してたけどね~」


 それを聞いて改めて姉との差を確認できた

 だが、少しずつだが、ハクラはクラハに追いついてきていた


 ランサイカに次へ進むよう言われる


 次に向かうはカンショウシという男の元

 彼は自在に植物を操ることができ、種を植えてすぐに花を咲かせることもできる

 それは別に戦闘で使うわけではなく、彼の最大の武器はある種の予知能力だ

 相手の動きを完全に先読みできる

 さらにはこの世の先を見通すこともでき、いくつかの予言をしているが、その全てを的中させている

 恐らくだが、これまでよりも手ごわい相手となるだろう


痛いの嫌い

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