13 迫りくる闇の猛威4
メルリの動きは先ほどとは打って変わって素早く、不気味になっていた
ガシャガシャと通常なら曲がらない方向にねじ曲がった足関節、剥き出しになった鋭い歯、その口から垂れる涎、目はぐるぐると好き勝手に動き、時折こちらを見据えるように止まる
メルリがこちらに向かって突進してきた
まっすぐに進んでいるはずなのにその動きがまるで幻惑のようにとらえどころがない
いつの間にか拳がミューの眼前に迫り、何とか反応して剣で受けるが、あっさりと愛用の剣は打ち砕かれて体ごと後方に弾き飛ばされた
ミューは体を岩壁に叩きつけられ息を押し出される
すぐにハノラが治療に向かうがそこを狙われ先回りされた
リモットが矢を放ち動きを止めたがそれもほんの一瞬だけ
だがその一瞬で詩季が間に入り込めた
槍に変形させていた武器を折りたたみ、いくつかのESPを込めてビームブレードを作り出した
通常の攻撃ではメルリの硬いうろこに文字通り歯(刃)が立たない
ビームブレードを振り迫っていた腕を受け止めると、肉の焼ける匂いが漂ってきた
メルリは手を少しずつ焼き切られているがそれにも構わずぐいぐいと押してくる
まるで痛みを感じていないかのように
ESPで身体能力を強化していた詩季は驚くほどの力でメルリの怪力を受け止め続ける
そこにイアとシェイナが同時に攻撃を加えた
手に翼を変形させたナックルを纏い、瞬間的に複数の連打を叩き込むイアと、威力はあるが周りを巻き込むことなく発動できる究極クラスの魔法を幾度も叩き込むシェイナ
それにより徐々にだが詩季のビームブレードを掴む手が緩んでいく
「グギギャガァ!!」
もはや人の言葉を発することなく思考回路まで戦闘力に回している
ビームブレードを掴んでいた手を離すと飛びのいた
赤くただれた腕や削がれたうろこ、魔法を受けたボロボロの体、それが見る見るうちに治っていく
ユラリと体を揺らし、シェイナを睨みつける
シェイナは瞬きをし、その瞬間にメルリの姿が消えた
もう一度瞬きをすると、その姿が一気に目の前にまで迫っていた
驚き離れようとするが、いつの間にか腕を掴まれていた
バキッと腕から嫌な音がする
二の腕の半ばから変に折れ曲がる自分の腕
メルリはその腕をさらに引き、そして千切った
吹き出す鮮血がメルリを赤く染める
顔に付着した血を長い舌で舐めとり、ニヤリと笑った
「っく、腕、が…」
激痛に意識が遠のくが、それでも目の前の危険な敵を倒すために踏みとどまる
ちぎれた腕を貪り食うメルリはほとんど邪竜そのものだった
その隙にイアが自分の一部をシェイナの腕のちぎれた部分にあてがい腕へと変質させた
イアの能力の一つ、“復元”
これにより腕はまるで以前から自分のものだったかのように精密に稼働する
痛みはもうない
それを見てメルリが食っていた腕をこちらに投擲した
速く鋭い
イアが翼で作った盾で防ごうとするが、突き刺さり、突き抜けた
自分の腕が迫るという異常な事態だが冷静に結界を張るシェイナ
喰われて骨がむき出しになっている自分の腕は結界に阻まれて地面に落ちた
その間にメルリの後ろでミューの治療を行っていたハノラ
リモットと共にメルリの背後から攻撃する
光の矢と光魔法の槍
それらは正に光速でメルリの背中を打ち抜いた
うろことその下の皮膚に穴を開けると、痛みからか悲鳴を上げた
光を纏った攻撃は恐ろしいほど効いたようで、再生が追い付いていない
すかさず連続で攻撃すると、メルリの動きが鈍くなってきた
「レディアントワールド!」
シェイナは今まで使えなかった自身の使える最高位の魔法を放った
それは温かい光ですべてを白く染めた
光はメルリを優しく包む
これは何?
暖かい…
優しくて、気持ちがいい
私が欲しかった光
どうして、こんなことになっちゃったんだろう?
でも、私これで、お父様とお母様の元へ…
メルリは光によって消えた
最後に浮かべた表情は安らいだ笑顔
たった一撃はなっただけで相当消耗したらしく、シェイナはそのまま気を失った
 




