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魔王


 コンコンとノックされる立派な扉

中からハイと声がした


「失礼いたします魔王様」

扉を開けて入ってきたのは竜人族の男ゴート・ハシュ

聡明な顔立ちに竜人族特有の尾、ねじれた角が頭に王冠のようにそびえる

魔王軍の参謀を務める幹部の一人


「あら、ゴートさん」

「いかがでした?勇者の方は保護できました?」


「申し訳ありません魔王様」

「あと一歩というところで邪魔が入ったようで」


「そう、ですか...」


悲しそうな顔をする少女

まるで魔王とは無縁のように思えるこの少女こそが現魔王

サクラ・ハイドル・クリュンベルト

愛を持って、すべての種族を統合し、世界に平和をもたらそうと考えた異色の魔王だ

その愛の大きさと能力の高さ、いざというときの純粋な力によってすべての部下に愛されていた


「大いなる闇は活動を開始しました」

「今の勇者では闇の一兵にすら殺されてしまうでしょう」

「それは、あの方との約束を果たせなくなってしまうということ」

「お願いします、ゴートさん」


「はい、承知しております」

「彼女たちはすでにエルフたちのもとへと向かったと報告が上がっています」

「今アドライトの部下であるシャーズロットとバニエイラ」

「それと、私の部下、アマツユとハルルーを向かわせております」

「まず間違いなく、保護されることでしょう」


「手荒な真似はだめですよ?」

「必ず、話し合いで解決してくださいね」


「ええ、シャーズロットとバニエイラには特に言い聞かせておりますので問題はないかと」

「私の部下はともかく、アドライトのところは少々問題児が多いのでね」

「特に、キムタムは邪魔だとみればすぐに手を出しますから」

「困ったものです」


「それについてはあとでアドライトさんにこちらに来るよう言っていただけますか?」

「愛を持ってヒュームを保護するようもう一度言い聞かせますから」


「はい、承知いたしました」


執事のように恭しくお辞儀をすると

「では、失礼いたします」

と言ってその場を去った


椅子に座りなおすサクラ魔王

慈愛に満ちたその心は、本当に世界の状況を憂いていた


かつて、世界を手に入れんと世界に戦争を仕掛けた魔王がいた

その魔王は勇者によって討ち果たされ、魔族も、それに準じた亜人種も

滅びかけていた

そこを救ったのが妖精女王だった

滅びかけていた魔族や亜人種をかくまい

何物もいない土地を作り上げ、そこに住まわせた

いわば、異空間と呼ばれる場所にだ

妖精女王はここにも希望を託していた


「いずれ、大いなる闇が動き出すとき新たな勇者が生まれるでしょう」

「そのとき、勇者を助けてあげてください」

「幼い勇者ではまだ大いなる闇に対抗できません」

「守り、育ててください」

「勇者は、あなたたちとともに強くなります」

「世界が完全に一つとなった時」

「大いなる闇は打ち払われるでしょう」


妖精女王の言葉に異を唱える者も当然いた

なぜ自分たちをここまで追い込んだ勇者に手を貸さなければならないのかと

魔族や異形を嫌う者共に協力せねばならないのかと


それと同時に、妖精女王に協力したいと思う者たちもいた

なぜなら、彼女のおかげで今自分たちはすむ場所を得、安全に暮らしていけるのだから

それから徐々に、妖精女王の意見に賛同し、協力者が増えた


その意思はずっと

妖精女王への感謝とともに受け継がれてきた

一部を除いてだが


サクラは思う

妖精女王

憧れであり、尊敬すべき王

世界を守る

何者からも

勇者とともに

守護者とともに

異色の魔王は目をつむり

世界中が手を取り合って仲良く暮らす未来を想像する

そんな未来は不可能だと告げる心の奥の思いを封じた


扉をたたく音


「はい」

とサクラは答えた


「失礼いたします魔王様」


「アドライトさん、どういうことでしょう?」


「は、はい、どういうことというのは?」


「わかっているのでしょう?」


「...はぁ、かないませんね、魔王様には」

「私の配下には一応言ってあるのですがね」

「魔王様の意向に逆らうなと」


「それが、あのヒュームの武力統治ですか?」


「えぇ、彼らは弱いくせに群れて他のものを虐げたがる」

「数だけは多い下等種族です」

「あのような種族に慈悲などと、魔王様は優しすぎます」


「それでもです」

「話し合いのない武力のみによる統治はいずれ崩壊します」

「お願いします、アドレイトさん」

「どうか、ヒュームの皆様にも愛を」


「..れを」


「はい?」


「その愛を!われら配下のみに向けてはくださらないのですか?」

「あなたは魔王なのですよ!?」

「我らだけを見てください!」


涙を流して訴えるアドライトを優しく抱きしめる魔王

その抱擁はすべてを包み込む愛で満ちたものだった


「も、申し訳ありません、取り乱しました」


「いいのですアドライトさん」

「あなたはお強い方ですから」

「私の前くらいは弱さを見せてくださいね」


そのときアドライトは思った

このお方に自らのすべてをささげようと

何物にも愛を向け、優しさを振りまく親愛なる魔王

いつかそのお胸に抱かれ、寵愛を受けたいと

そのためならばどんなことでもしたいと


魔王は気づいていない

その種族スキルである

“大いなる愛”に

近づくものすべてに愛を振りまき、魅了し、隷属させてしまう危険すぎるスキルに

気づいていないからこその超弩級の天然人たらしである

危険な魔王です

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