白鬼の姫武者修行中1
攻撃をする回数を増すごとに相手は速さを増し、こちらの動きは鈍くなる
リテッカイの杖による攻撃は確実に体力をそいでいった
「なんじゃ、手応えないのぉ」
息切れ一つ起こしていない、とても老人とは思えない動き
「これが八仙、実力が、違いすぎる・・・」
それでも攻撃の手を緩めない
本気で、殺す気で向かう
それでも攻撃はかすりもしない
「ほれ」
杖でこずかれる
軽く当たったように見えるだけで威力はすさまじく
骨まで響いた
「バラバラに戦っても勝ち目はない、連携じゃ!連携をとるのじゃ!」
三人はいったん下がり、体勢を立て直す
リテッカイはその場から動かない
「なんじゃい、終わりか?」
「どうした?一撃でも当たれば終わりじゃぞ?」
「やはり姉の方がセンスあるのぉ」
杖をコツンと地面につけ体重を預ける
「お前の姉クラハはたった一分でわしを殴り飛ばしおったわ」
「老人のわしに全く躊躇なくな」
切々と語るリテッカイ
「ああいうのを天才というのじゃろうの」
「あやつは一日ですべての修行を終え誰も至らなかった鬼子母神という未知の存在になりおった」
「もはやこの世に同じ実力の者がおるかどうかというところじゃ」
「不死鳥族の長ならば或いは、といったところかの」
老人にはあるまじき眼光でジロリとにらみつける
「お前さんは平凡も平凡」
「童子にはなったのじゃろうが」
「所詮はそこまで」
「おぬしからは才能のかけらも感じれんよ」
「努力は才能を凌駕するというがな」
「そんなことはない」
「いくら努力しても手の届かぬことはある」
反論できない
現にハクラはクラハに対して劣等感を抱いていた
大好きな姉で、尊敬もしているが、自分とはどこか違う世界にいる
いつもそう感じていた
「どうじゃ?修行なぞやめてここで楽しく暮らさんか?」
「ここならめったなことでは危険なもんは侵入してこん」
「もし来てもわしら八仙がお前さんたちを守ると約束しよう」
「クラハも納得するじゃろうて」
「それは、できない」
それだけははっきりと答えた
「なぜじゃ?」
「わらわはずっと守られて育ってきた」
「確かにわらわは弱い」
「姉上の足元にも及ばない」
「じゃがそれではダメなのじゃ」
鋭く見極めるように見つめ続ける
「何がダメだと?」
「わらわは国を預かる長じゃ」
「国の者を守る責がある」
「この身一つでどれほどが守れるかはわからんが」
「それでもこの命が尽きるまでは、守り切りたい」
「・・・」
「信念はあるようじゃの」
スッと杖を地面から放す
雰囲気が変わった
「本気を出す」
「これでだめならあきらめろ」
片足立ちに杖を構える異様な姿
その杖を抜き放つ
仕込み刀
黒燃鉄という特殊金属でできた赤黒い刀
その刀身は熱を帯び、切り口が焼けこげる
シュッと刀をいきなり突き入れてきた
その切っ先がかろうじて躱した髪の毛を焦がしながら斬る
「は、速い」
「姫!さがって!」
リンドウがハクラの前に立つ
「だめじゃリンドウ!」
リンドウが刀で刺し貫かれる
肉を焼き、血を吐き出しながら倒れる
「リンドウ!」
ハクラとアカネが倒れたリンドウをかばう
「うぐっ」
ハクラの横で聞こえる悲鳴
いつの間にか刀がアカネに刺さっていた
刀を飛ばしたのだ
「お前さん一人になったのぉ」
後ろで倒れた二人を見る
すでに戦闘不能だ
刀に繋がっていた紐を引く
ブシュゥと血が吹き出る
「重要な血管が切れたかの?」
「制限時間じゃな」
「その娘が死ぬまでといったところか」
「持ってあと五分、くらいじゃろう」
キリサメのように仙女たちは治療に来ない
リテッカイの意志をくみとったのだろう
「っく、この!」
白鋼の特殊な刀妖刀「散雪」
どんな武器にも思い通りに変化する刀を握りしめる
ハクラは散雪の形を変えた
右手に大剣、左手に小太刀
二刀一対にしてハクラが本気になったときのみ使う刀
その赤い目は怒りに燃えている
「ふむ、怒らせたか」
「まぁお前さんが怒ったくらいでは何とも思わん」
切っ先を向けるハクラ
「奥義、雪艶の舞い」
大剣を素叔母に振り下ろす
その反動で回転し、左手の小太刀を振り切る
体ごと大回転させリテッカイに向かっていく
それを受け止める
激しい火花と金属がぶつかり合う音
「ぐぬ、お、これは、」
ガリガリと押され始める
「そりゃぁ!」
はじき返した
「・・・」
「当ておったの」
リテッカイの額に少しのあざ
弾かれる寸前小太刀から手を伸ばし、何とか指がかすったのだ
「合格」
「ギリギリのラインじゃがな」
ハクラはいつの間にか切りつけられており、胸元からおびただしい血が流れ落ちていた
「さて・・・」
「お~い、こっちじゃ、治療が必要なものが三名」
「仙桃果を持ってきてくれ」
仙女たちが呼びかけに答え、通常の桃より大ぶりな白い桃を持ってきた
「ほいっと、お前ら、これを喰っとけ」
それぞれに渡す
一口かぶりつくと、痛みがスーッと引いた
それどころか、傷までふさがっていく
「これは・・・?」
「仙桃果じゃ」
「不老長寿の元でもある」
「その実には治癒効果もあってな」
「そのくらいの傷ならすぐ治る」
さっきとは打って変わって優しく微笑む老人
「認めたわけじゃないが」
「お前さんがどうするかを見たい」
「次の八仙のところへ行くといい」
リテッカイが鋭く切り立った剣山の方を指す
「あの山の頂上にカンショウリという太った男がおる」
「それが次のお前の相手じゃ」
カンショウリ
使者をも蘇らせる術を持つと言われる
かつて戦いに敗れ放浪し、ここに迷い込み仙人となった
ハクラは深々とリテッカイにお辞儀をすると
回復した仲間と共に山に向かう




