幼獣たちは復讐に燃える4
ここはどこだろう?
なぜこんなところを歩いているんだっけ?
私は誰だったかな?
陛下を守らなければ
陛下って誰?
そんな疑問がずっと頭の中を駆け巡っている
復讐しなきゃ
誰に?
痛い、皮をはがすのはやめて!
目も耳も潰された
誰に?
私は苦しみながら殺された
誰に?
誰に?誰に?誰に?
私は誰に殺されたんだろう?
ふと、目の前に小さな村が見える
その村の入り口で倒れ込んだ
妖獣として蘇った彼女はこの数週間飲まず食わずで歩いている
その限界に達したようだった
「あ、れ?動けな、い」
「眠・・い」
そのままゆっくり、意識を失った
気が付くと、温かい何かにくるまれていた
ぼやける視界が戻ってくる
その目に映るのは空ではなく、木で出来た天井
キョロキョロと目だけを動かし辺りを探る
別段危険はなさそうだった
「ここは?」
そこに自分をのぞき込む心配そうな顔の少女が現れた
「あ、目が覚めたのね?」
「・・・誰?」
ギョロギョロと不気味に左目を動かし、それが少女を少し怖がらせたようだ
しかしその目の動きを止めることはできない
「ひぃっ!」
「あぁ、すまない、なぜか左目だけ動きが止まらないんだ」
動き続ける左目は赤く、少女を見つめる右目は青い
それを聞いて安心したのか、少女がアナフィアの額に置いてあるぬれタオルを水に浸け、絞ってからまた乗せる
「これは・・・君が私の介抱をしてくれたのか?」
「は、はい」
「村の入り口であなたが倒れていたので」
「皆さんに頼んで家に運んでもらったんです」
「私、両親がいないので、ここなら気兼ねなく傷も癒せるはずですよ」
「傷?」
自分の体を見ると、ところどころに痛々しい傷があり、一部は胸から股にまで走っていた
「なんで、このような傷が?」
「いや、私は・・・誰なんだ?」
「なにも、思い出せない」
「記憶を失っているのですね・・・」
「あなたが良ければ記憶が戻るまでここで暮らしませんか?」
少女の提案は今の自分にとって最良のものに思えた
「いいのか?迷惑では?」
「いえ、先ほども言ったようにここには私しかいません」
「どうぞ、遠慮なく」
「そうか、すまないが、厄介にならせてもらおう」
アナフィアは自身の名前さえも思い出せない
ただ、何かを追いかけていた、その記憶だけはうっすらと残っていた
それから三日、村に来てから一週間が経った
動き続ける左目は不気味すぎるので包帯で隠している
村人はアナフィアの誠実で真面目な性格を受け、彼女を受け入れた
畑仕事を手伝い、狩りを手伝い、危険な魔物を討伐し
村人から少しずつ信頼を得ていく
アナフィアを助けた少女は名をテテトといい
このイズナ族の国、辺境の名前のない村で生まれてからずっと暮らしているそうだ
両親は村を魔物が襲った際にテテトを守って二人とも死んだ
もう一人一つ年上の姉がいるが、幼かったテテトのためお金を稼ぎに魔王の配下に入ったのだという
姉は3か月に一度ほど帰ってきて一日だけ滞在し、また魔王国へと戻るのだそうだ
「お姉ちゃんはすごいんです」
「イズナの中でも特質してて、いずれ神の御使いになれると言われています」
「それに、優しくて、かっこよくて、私の自慢のお姉ちゃんなんです」
「そうか、私には・・・兄弟姉妹は、いなかった・・・と思う」
「思い出せないが、多分いない」
思い出そうとするが、もやがかかったようで、なにもわからない
「ゆっくり思い出せばいいですよ」
「思い出せなくても、ずっとここにいてくれていいんです」
「しかし、それでは迷惑だろう?」
「傷が回復したら出ていくさ」
「いえ私は迷惑だなんて思っていません」
「むしろ家族が増えてうれしいんです」
屈託のない本当に純真な笑顔を向ける
アナフィアはなんだか心の何かが解かされていく気分になった
そして、笑う
久しぶりに笑ったアナフィア
笑顔はぎこちなかったかもしれない
それでも、今ある幸せをかみしめて笑った
人間性を取り戻しましょう