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3 冒険の始まり5

これは昔々のお話

勇者の冒険のお話

それは、本当にあったこと


魔王を打ち倒すために立ち上がった勇者とその一行

勇者、精霊族の大魔法使い、獣人の聖騎士、エルフの賢者、そして、妖精女王モルガナ

彼らは傷つきながらも幾度となく立ち上がり

すべての種族が勇者のもとに集い、彼らとともに戦いました


辛くも魔王に勝利した勇者たちは

それからみんなで仲良く平和な世界で暮らしましたとさ


しかし、いつしか平和の中で、手を取り合っていた種族は争い、決別していきました

勇者たちはそれを悲しみ

世界から姿を消しました


妖精女王は最後まで残り

世界に訴え続けました

しかし、誰も話を聞いてくれません


声が枯れ、のどが裂けても

涙が枯れ、血涙を流そうとも


やがて、妖精女王モルガナも

世界を去ってしまいました


勇者たちは、この世界に、愛想をつかしてしまったのです


そんな世界の中、去りゆくモルガナは、最後に一つだけ希望を残しました


「世界樹の花が咲くとき、私の後継者が生まれます」

「そのものは守護者となり、再び世界を守るはずです」

「そのとき、再び世界は手を取り合ってください」

「大いなる闇を払うために」


勇者のお話はおしまい

作者は不明

でも、大昔からこの絵本は人々に親しまれていた

この話は要約されたものだが、絵本以外にも様々な国で書物や冒険忌憚として語られている

皆、これをただの物語だと思っている

妖精女王、ティターニアモルガナとエルフの賢者の血を継ぐ世界樹の国の女王とエルフたち以外は


そんな絵本を手に持ち、エルフの子供たちに教える女王

それは、歴代の女王たちがやってきたこと


モルガナに託された約束

勇者の話を途切れさせないために


現女王セムディアは焦った

自分の代に守護者が生まれるとは夢にも思わなかった

勇者やティターニアの話は信じていた

いや、心の底では物語だと思っていたかもしれない


見つからない守護者


そんな女王に吉報が入る


「陛下!、至急お話したいことが!」


「わかりました」

「さぁ、子供達、今日のお話はここまで」

「また明日、続きを話しましょうね」


子供たちはいっせいに「はい」と返事した


いい子たちだ、そう女王は思う

彼らの笑顔が、願わくば、失われることがないように


「陛下、守護者様の居場所が判明しました」

「獣人の国、ガルードラです」


「そうですか、同盟国のガルードラならばいずれ見つかるでしょう」

「カノンに引き続き捜索を頼みますと伝えなさい」


「はっ、カノン様はすでに出立されました!」


「カノンはいつも仕事が早いですね」

「では、オールスにも伝令を伝えなさい」


「はっ!」


女王はほっと胸をなでおろす

守護者に会わなければ

会って伝えなければ

妖精女王の言葉を

勇者の意志を


いずれ、勇者を導くのはあなただと



――――――――――――――――


 ガルードラの開拓村


レオニル村長たちは盗賊たちと対峙していた

村人の数は30人ほど

たいして盗賊は50人と少し

戦力差は明らかだった


体力の多い獣人といっても木こりの村人と、戦闘経験豊富な盗賊たち

誰が見ても盗賊たちに軍配が上がる

盗賊たちも当然そう思った

しかし、村人たちはなぜか戦闘スキルを使いこなし

次々と盗賊を屠っている


あまりの状況に盗賊頭のゴトー・バルンドルは驚いた

ただ小娘を攫うだけの簡単な仕事だと思っていた

それが、変な虫に阻まれ

今現在蹂躙するだけだと思っていた村人に壊滅まで追いやられている


残る盗賊は自分を含めて15人ほど


「なぜだ、どうしてこうなった」

「俺はただあの豚貴族に頼まれただけなんだ」

「コレクトしたいモノがあると」

「転移なんて魔法、なんであんな豚が持ってるのかは知らんが」

「金払いはよかった」

「こんな簡単な仕事で」

「くそ!逃げるんだ」


そこに、レオニルが声をかけた


「わしらをただの村人だと思っていたのか?」

そこに立っていたのは貧弱な老人

ではなかった

どこに隠していたのか、やせた体は筋肉隆々

先ほど見た倍ほどに膨れ上がっていた

笑顔が怖い!

「あいにくとここいらは魔物が多い地帯でな」

「開拓のために元熟練冒険者・・・・・・であるわしらが派遣されたのよ」

「残念だったな、ヒュームの盗賊たちよ!」

「大地鳴動!!」


両手斧を振り上げ、スキルを発動させる

地面に突き刺さった斧から地面に地割れが盗賊頭のゴトーに走る

地割れはゴトーの下半身を飲み込み、閉じた


「ぐああああああ!!」


下半身をつぶす痛みに耐えかね、悲鳴を上げた


「大の大人が悲鳴を上げるでない、耳障りじゃ」

「お前には聞きたいことがある」

「それまでは、生かしておいてやろう」


レオニル村長は笑っていた

目は笑っていないが...

孫娘のように思っているミューを攫おうとしたことにキレているようだった

レオニルの冒険者時代の二つ名は「微笑みの虐殺者」

その名にふさわしい恐ろしさである



――――――――――――――――


王都にたどり着いたミューとワムは門野前にいる衛兵に近づいた


「ん?なんだ?魔物か?」

「む!子供を攫っているのか!?」

「待て、そこの魔物!」

「その子をどうするつもりだ!」


「待って、兵士さん!」

「この子は私の友達なの!」


「魔物が友達?」

「そんなわけがないだろう!」

「早く離れなさい!危ないぞ」


衛兵は手を差し伸べ、ミューを呼んだ


「ほんとに友達なの!」

「私の命の恩人なの!」

「そんなことより、開拓村が大変だから救援をよこして!」

「ヒュームの盗賊たちが襲ってきてるから!」


「なに?ヒュームだと?」

「ヒュームは遠く離れた国にいる種族だぞ?」


「レオニルおじいちゃんが、このままじゃ死んじゃう!」

「早く来て!」


その名をきいて衛兵は驚いた


「なに!レオニルさんが!?」

「よくわからんが、わかった、救援を申請しよう」

「すぐに向かうと思うから君はこっちに来て詳しく話してくれ」


衛兵はミューを城壁の中にある衛兵たちの詰めあい所へと通された


(あの~、僕はどうしたら)


「む、そうだったな、お前は外で待っていろ」

「危険はないみたいだが、ほかの衛兵たちに攻撃されないとも限らんからな」

「そうだな、そこの茂みにでも隠れておけ」


(わかった)


しばらく茂みで待っていると、ミューが衛兵とともに出てきた


「ワムちゃん、おまたせ」


「ワーム、まもなく救援が派遣されるはずだ」

「お前はこの娘とここで待つんだ」

「詰めあい所に食事を用意しておいた」

「それでも食べていてくれ」


(ありがとうございます)

それにしても、ずいぶん理解あるなぁ

僕だったらこんなでっかい虫見たら逃げるか攻撃するかなんだけどなぁ

もしかして、ワームってそれだけ弱いから警戒もされないのかな?


ミューとともに小屋で待っていると、数時間ほどで派遣された兵士たちは返ってきた

そこに、ボロボロの盗賊頭がとらえられていた


さすが国の兵士、仕事が早いね

この分なら村長さんたちも無事かもしれない

あれ、なんか後ろに村長普通にいたわ

無事だった、よかったよかった


村長の背に明らかに木を切る時とは違う武器タイプの斧が背負われているのがちらっと見えたが

ワムは気にも留めなかった

それは、知識がないからゆえなのだが...


村人たちは全員無事だった

むしろ、元凄腕冒険者たちに喧嘩を売ってしまった盗賊団は壊滅

もはや盗賊頭のみが生き残っていた

哀れ、とは思わない

でも、ほんのちょっと、塵埃ほどに同情した


盗賊頭ゴトーから話を聞いた概要はこうだ


ヒュームたちの国の辺境で盗賊団をやっていたがそこに貴族から裏の依頼が入った

名前は聞いていないが、豚のように肥えた貴族だったという

そいつは珍しい種族を剥製にしてコレクトするようなクソ貴族

どこから情報が入ったのか、ミューのうわさを聞きつけて欲しがったのだそうだ

しかし、獣人の国はあまりにも遠すぎる

断ろうと思った矢先に

その豚貴族、おっと失礼、貴族はどこからか、伝説、というよりおとぎ話の中の魔法

転移が使えるマジックアイテムを出したのだ

とある闇商人から買ったらしい

そんな下手をすれば国がいくつも動くようなマジックアイテムを使ってでも手に入れたいとは

恐れ行くコレクター魂だ

そのアイテムで転移し、ミューを攫おうとしたらしい


 供述通り、ゴトーのポケットから転移の魔法をこめたマジックアイテムと思しきオーブが出てきた

使える回数は二回が限度、つまり、あと一回使えるということだった


オーブを眺めまわしながらレオニルは言う

「こんなもの、一体どこで手に入れたんじゃ、その貴族は」

「いや、買ったと言っとたな」

「その闇商人は一体...」


疑問はいくつか残ったが、とりあえずミューは攫われずに済んだ

帰路に就く中、ミューは思っていたことを口にした


「ねぇ、レオニルおじいちゃん」


「ん?どうしたんだいミュー」


「私に戦い方を教えて」


「なんじゃと!?」


「私、強くなりたい」

「みんなを守れるくらい強くなりたい!」

「おじいちゃんは元冒険者なんでしょ?」

「お父さんと同じ」

「だから、私に戦い方を教えて!」


「ん、ぐ、ムぅ...」


渋い顔をしたレオニルだったが、観念したかのようにうなずいた


ミューは決意していた

あの絵本の勇者のように、みんなを守りたい、と


いろいろ考えすぎて頭が痛い

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