表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/12

すれ違い



教室の窓から見える曇った空を眺めながら奏はふと思う。永遠なんてものは本当にあるのかと。そんなものがあるせいで多くの人達が色々な物事に縛られているんじゃないかと。

生きて行くとは何なのか、命とはそもそも何なのか。奏は生きる事に迷う時多くの本を読み知識としてそれらを自分なりに解釈し得ながら生きて来たつもりだった。それがある女の子との出逢いで全て無駄だった事を肌で知る。永遠なんてものは本当は最初から無いのではないか、そんなものがあるからこそ多くの人達は無駄に「夢」を見るのではないかと。


「どした?ぼんやりして。」


綾乃が話し掛ける。


「ご、ごめん。ちょっとぼーっとしちゃって。」


奏は我に返る。綾乃との出逢いで劇的に考え事が増えた。綾乃という短い命に出逢ってから自分もそれに追い付くように思考が勝手に動いてしまう。私を埋め尽くす存在。


「..奏。来週からちょっと忙しくなる。」

「え..」

「ちょっと一緒に帰れなくなるかもしれない。」

「そんな..」


学業をこなし、魔法少女として仕事をこなす綾乃の苦労は奏では想像がつかない。


「ねぇ、何で学校に通いながら魔法少女なんか出来るの?学業なんて放って置いても..」

「あぁ、一応学校に通いながら魔法少女って形だから生活出来てて、魔法少女だけってのは許されてなくてね、両立するからこそ生活面は心配が要らない..」


「そんなの勝手に魔法少女に仕立て上げた奴らの勝手じゃない!!」


思わず声を張り上げる。その瞬間他のクラスメイトが奏の方に視線を向ける。それに気付き奏は我に返り萎縮してしまう。


「ど、どうしたの奏..」


奏は情緒不安定になっていた。綾乃の事を考えれば考える程どうして良いのか分からなくなる。役立たずの自分、何も出来ない自分。その全ての自分に嫌気が差して自己嫌悪に陥っていた。


「ご、ごめんなさい..いや、その..」

「..奏、大丈夫。私は奏の前からいなくなったりしないから。今ちょっと忙しいだけ。またすぐ時間作るから、ね?」


綾乃が頭を撫でてくれる。綾乃は優しい、どこまでもどこまでも。優しくされる分余計に自分が役立たずという事を思い知らされる。


「..ほら泣かないで。」


綾乃が遠くに行ってしまう。時間が迫る程に肌で分かってしまう。永遠の別れが迫る恐怖に奏は怯えていた。どうすれば、どうすれば..。


「ごめん、綾乃。気使わせちゃって。」

「ううん、良いよ。奏が泣くとこ見たくないから。」


綾乃が寂しそうな顔をする。辛いのは綾乃の方なのに。その循環がますます自分を苦しめる。


「ねぇ綾乃。」

「ん、何?」

「..いや何でもない、今度話す。」

「ん、分かった。」


何も言わずその日も二人で歩いて途中で別れた。奏だって気付いていた、これが永遠では無い事を。その現実が近付く程に奏の心は締め付けられて行く。


「..綾乃、私どうすれば..」


今日は空が淀んでいる。午後から雨が降ると天気予報でやっていたが気にもせず傘を置いて来てしまった。少しだけ小雨が降っている。


「..ねぇ綾乃、私どうしたら良いのよ。何でたまに寂しい表情するの。その表情を見る度本当に辛くなる。あなたと最初から出逢わなければこんな気持ちも知らずに、こんな事考えなかったんじゃないかってその繰り返し..もうあんまりよ。」


そう呟いていつもの川沿いの道を歩く。さっきまで小雨だったはずの雨が徐々に雨脚が強くなり、街の全てを洗い流すかのように強く降り注ぎ始める。奏はそれに気付かず考え事をしていたが、顔を見上げてそれに気付く。

誰にも気付かれぬまま奏は泣いた。小さく声を上げても届かない、誰に聞こえる事も無い。ただその場に立ちすくみその景色の中へと溶けて行く。


それから一ヶ月、綾乃と奏は学校の教室では話すものの、帰りは一緒に帰れない日々が続いた。その間奏はほとんど何も食べられず体重が激減してしまう。その姿を綾乃にも心配される始末。


「..もう駄目。」


奏はその日の夜綾乃に電話を掛ける、が出ない、忙しいのだろう。留守電にメッセージを入れる。


「奏です。大事な話があります。今度の休みに会って下さい。宜しくお願いします。」


そう留守電に残し電話を切った。もうこうするしかない。私も魔法少女になる、そう告げる事でしか奏の心は救われなかった。救われるには自分も魔法少女になるしかない、分かり切った答えを心の中で繰り返す。


永遠と言うものに縛られ人は夢を見るというのなら、私は何なのだろう。私の存在はいったい何なのだろう。そんな事を繰り返し考え、奏は覚悟を決める事で自分にその答えを突き付けそうする中で自分自身に意味を見つけ出していた。

そんな事を綾乃は何も知らないままで。


ーーー


「はい、了解しました。そちらへ向かいます。」


魔法少女の姿になると様々な能力が使えるようになる。ある魔法少女は瞬間移動、隕石を壊滅させる破壊能力、破壊した爆風から魔法少女を守る能力等々、魔法少女になった女の子達の能力は個々に違う能力を持っている。

あらゆる視点で互いに協力し合う事で隕石を破壊し分散化させる、そうして地上に隕石が落ちないよう、毎日魔法少女達は臨機応変に地球の外側へ出て行き協力し合いながら隕石撃墜任務を遂行する日々を送っていた。誰かとペアを組み協力し合い撃墜する、互いに不得意な部分を補うようにして与えられた任務をこなす、それが魔法少女達の使命であった。


綾乃が魔法少女になったのは幼い頃。綾乃自身もあまり覚えていない小さい頃。両親は魔法少女の育成に関する科学者で綾乃は素質を認められて技術者の元に預けられ魔法少女として育てられて来た。英才教育を受け飛び抜けた才能が開花し魔法少女としての素質が周りの魔法少女よりもズバ抜けていた。

魔法少女は基本的に生まれた国が住む土地となり普通の一般の学生と変わらない溶け込む生活をする事が義務付けられていた。綾乃は両親の顔を知らない、というか覚えていない。小さい頃に引き離され魔法少女として生きる事が最初から決められている、そういうものなのだとそれだけで綾乃は今までずっと生きて来た。


綾乃は破壊部隊に所属し魔法能力の一つであるミサイルを使い危ない隕石を破壊する部隊に所属していた。破壊部隊はベテランが多く、特別才能がありベテランでなければこなせない難しく危ない部隊で援護部隊は後ろでサポート役をする新人の魔法少女達がほとんどであった。16歳でベテラン扱い、綾乃にとってはそれが当たり前の事で自分が危ない仕事をこなし尚且(なおか)つこれからの新人を育てる、それが普通の事になっていてそれが当たり前の生活にもなっていた。破壊部隊は一番危ない部隊であり気を緩めると自分の命が一瞬で散ってしまう、そんな部隊で綾乃は同期で散って行った魔法少女を何人も見て来たが、もう何も感じなくなっていた。いつ散るかも分からない他の魔法少女の命で哀しんでいる暇が無い、その心の隙間が命取りになる、綾乃はそれを経験で知っていた。


魔法少女になってから誰よりも早く才能が認められ歳上の魔法少女と同じ扱いで現場で隕石撃墜任務をこなしていたが、そうした中で過去に先輩の魔法少女が隕石に呑まれて散って行く瞬間を目の当たりにした事があった。一瞬の気の緩み、その時綾乃の心は止まった。しかし魔法少女は辞める事は出来ない。魔法少女を辞める、それは即ち消されると言う事。綾乃が綾乃として存在する為には毎日隕石撃墜任務を遂行する事。憤りや哀しみの感情を捨てる事が求められる魔法少女の世界。

魔法少女を解けば解放される些細な日常。学校に行って勉学に励む束の間の休息。学校が終われば足早に地球の外側へ魔法少女達と向かうそんな日々。そんな事を知る人は誰もいない。誰も、いなかった。けれど奏、という女の子に自分の事を知られてしまった事。電話をしていたあの日、どうして学校で電話してしまったのか、心の隙間があったのか。誰かにいて欲しい、そんな心の弱さがあったのか..ふと考える瞬間があった。


巨大隕石撃墜プロジェクトの撃墜班リーダーに任命されてから全てが滅入っていた。結局自分が魔法少女である事が知られても知られなくても変わらない運命。こんな生活を続けながら最後は散る命、じゃあ何の意味があって私は存在しているのか、その気持ちを誰にも分かってもらえない、誰にも知られてはいけない事、魔法少女とはそもそも何なのか、私達魔法少女とは何の為に存在しているのか..。

多分自暴自棄になっていた。自分が自分で在る事を放棄した、だからバレてしまった、そういう事なんだろう。綾乃は学校の教室でクラスメイトと笑いながらそんな事を考えていた。


私の事を「憧れ」なんて言う女の子と出逢えた事、私はとても嬉しかった。そんな風に思ってくれる女の子がいるなんて..その思いを噛み締めるように今日も綾乃は地球の外側へと向かう、その小さな「憧れ」を守る為に、魔法少女としての意味が私に生まれた瞬間、初めてそう思えた存在と出逢えたのだから。




















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ