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帰り道


「綾乃、一緒に帰ろう。」


数日後、奏は綾乃を誘った。


「か、奏?急にどうしたの?」

「良いから、一緒に帰るの。」

「今日はちょっと用事があるから、明日だと..」

「じゃあ途中まで。」


奏が強引にそう言うと綾乃は渋々承諾し「分かった。」と呟き一緒に帰る事になった。


「ねぇ綾乃、これから毎日一緒に帰れるかな?」

「ま、毎日!?そりゃ無理だよ。私も忙しいから..」

「途中までで良いから。」


奏は決めていた。あの話が本当なら綾乃には時間が無い。奏にとって綾乃は憧れの女の子。魔法少女、なんて事は信じられないがそんな事はこの際どうでも良い。綾乃が嘘を言う人間でない事は分かっている。なら出来る限り綾乃の側にいる、いや側にいたい気持ちの方が圧倒的に強かった。


「か、奏さん..随分と積極的っすなぁ〜こんなキャラだったっけ?」

「悪い?」

「い、いえ!何かこうイメージが全然違うって言うか、あはは..」


明らかに綾乃は引いている。が奏は御構い無し。

奏は考えた。自分に出来る事。綾乃と共に過ごせる時間を大事にする、そう決めた。


「..ねぇ、綾乃、今日はその『訓練』って言うのがある日なの?」


御構い無しにヅカヅカ綾乃の内面に踏み入るような口調で奏は喋った。


「今日は訓練ってより魔法少女達と集まってミーティングして、危ない感じの小隕石があれば早目に対処する、まぁそういう会議みたいな感じかなぁ。」

「そう..て言うかそういう事平然と喋って良いのね?」

「あ、うん、まぁ魔法少女って事がバレちゃうと何言っても同じって言うか..もうしょうがないから。てか私の言った事信じてくれる人がいる事にまず驚いてるって言うか。」

「綾乃は嘘つかないし。」

「..奏は結構不思議ちゃんだなぁって..」


綾乃は明らかに戸惑っていた。けど何処か嬉しそうな、はにかむような、やはり女の子の表情をしている。


「ね、綾乃。次のお休みはいつ?次はいつ遊べるの?」

「え、あぁ今は比較的忙しい時期って訳じゃないから今週の日曜日はお休み取れるけど..」

「じゃあ遊ぼ。決まり。」

「か、奏さん?」


綾乃は戸惑う。でも不思議と綾乃が断らないのが分かる。綾乃が背負っている問題は正直大き過ぎて全く分からない。けれど綾乃の事を思う気持ちは誰よりも強い。それだけは自負していた。


「うん、良いよ..」


ほんのりと少し顔を赤らめる綾乃。奏はその表情を眺め何とも言えない気持ちになった。過ごせる時間が決められているのなら、大好きな子の事を知り尽くす、奏はそういう貪欲さの塊のようなものがある事を綾乃と接して気付く。


「私、まだ綾乃の事全然知らない。あんな事言われたって正直納得いかない。距離置いてくれて良いなんて事言わないでよ。あんな言い方酷い..私は綾乃の事を半年間ずっと見つめて過ごしていたんだから。」


恥ずかしい台詞を隠さず淡々と語る奏の言葉を聞いて綾乃は赤くなる。何なんだこの子はと。


「え、いや〜そう言われましても、何と言うか..」

「手、繋いで。」

「ええ!それはちょっと..」

「良いから。」


その日から、奏と綾乃は学校から離れた場所から帰る時手を繋いで帰る事になった。綾乃の小さな白い手。私だけの手、誰にも譲らない。人が変わったように奏は綾乃との時間を求めた。限られた時間の中で全てを知り尽くすと言わんばかりに。


その日の別れた帰り道、綾乃はドキドキしていた。突き放すような言い方をしたのに、それでも自分の内面に踏み込んで来ようとする女の子。関わらないように突き放したつもりなのに..なるべく傷付けないように、それっきりになるように。言い方が良くなかったのか、普通あんな言い方されたら二度と関わりたくない人って思うんじゃないのか..色々考えてみてもいまいち自分なりの答えが出て来ない。


「あの女の子はいったい..」


少しだけ日曜日に期待している、そんな気持ちでいる自分にも不思議な感覚が残り、今までに無い違和感を綾乃は感じていた。


ーーー


綾乃と遊ぶ約束をした日、奏は少し考える。もしかしたら、綾乃は綾乃で過ごしたい人が他にいて、無理して付き合ってくれている可能性もあるんじゃないか、他に友達だっているだろうし家族だって..大切な時間を奪っている事にはならないかな..。

そんな事を考えながら前と同じ場所で待ち合わせをした。


「奏ー!」

「綾乃ー!」


お互いに名前を呼び合う。


「奏待った?ごめんね遅くなっちゃって!」

「ううん、全然。あのちょっと聞きたい事が..」

「ん?どした?」

「私は、綾乃との時間を一番に大事にしたい。でも、綾乃は綾乃で他に一緒に過ごしたい人がいるんじゃないかって..。他に友達とか、家族とか..」

「あぁそんな事気にしてたのか!いやいや大丈夫だよ、家族いないし。友達って言っても..」

「家族がいない?」

「うん。私魔法少女にさせられたの本当にちっちゃい時で、家族とはもうその時に引き離されて、んでまぁ施設とかそういう場所で育てられて訓練みたいな生活だったから家族の事全然知らなくて。」

「逢いたいって思わない?」

「どちらかと言えば逢いたくない、かな。何か責めちゃいそうで。何で私を魔法少女にしたんだ、って。」


奏は言葉が出ず、ただ綾乃の言葉を静かに聞いていた。


「いや、ほら気にしなくて良いよ!残された時間を大事にする、それにここまで生き延びて来られたのも奇跡みたいなものだし。」

「どういう事?」

「私達魔法少女は本当に危ない仕事で、命を落とす可能性がとても高い仕事なの。それで小隕石にのまれてそのまま散って行った魔法少女は沢山私も見て来たから。」

「辛くない?」

「そりゃ辛いけど、明日は我が身って言うし、ここまで生き延びて来られただけでも充分ありがたいって言うか..」


そこまで話を聞いて奏は綾乃を魔法少女に仕立て上げた組織を呪った。何なんだそいつらは。子供を利用してこの地球を守るっていうシステム、あんまり過ぎる。


「あんまりだよ、もう..」

「いや、まぁそう哀しまないで!私達がいてこの星が守られる、それは事実だから!それを知ってくれている友達が一人でもいる私はまだ充分幸せだよ..」

「え?」


綾乃が最後に小さく呟いた。


「さっ!どこ行こうか!私を案内してくれるんでしょ?奏さん!」

「え、あうん!そ、そうだなぁ、どうしようかなぁ..」


哀しんでいる暇は無い。嘆いている暇は無い。今ある命を生きる。その事を綾乃は知っている。奏は自分と比較して何て今まで生に対して無頓着だったんだろう、そう肌で感じた。

どんな人の話を聞くよりも、綾乃と過ごす時間の方が生きている事そのものを感じる事が出来る、そう考えると自然と涙が出て来た。


「..ごめんなさい、ごめんなさい..」


綾乃を励ますつもりが自分の方が教えられていた。生きるという事。今更そんな当たり前の事が、どれだけ尊いものなのかを綾乃で知る。世界中で起きてる出来事よりも、今この時間の方がどれだけ大事なものなのかを教えてくれた女の子。


「ほら!行くよ奏!」

「..うん、うん!」




















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