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私の秘密


綾乃と遊んだあの日曜日以降、奏は今までよりも普通にクラスの中で綾乃に話し掛けられるようになった、がその分他のクラスメイトからは不思議な視線を浴びるようにはなったのだが。


「綾乃ちゃん、今日はお昼持って来た?売店で買うの?」

「綾乃ちゃん、昨日の宿題やって来た?私ちょっと分からない所あって..」


未だ控えめではあるものの、それぐらいの日常会話を話せるぐらいには距離感が縮まった。ただ綾乃は人気者であるが故に一緒にお昼を食べる、一緒に帰る、ような所までは行けないのだけど奏はそれでも毎日が暖かく過ごせるような、前とは違う過ごし易さをクラスの中で感じていた。それに綾乃は話し掛けるとにっこり笑い、あの時のテンションまではいかないまでも優しく接してくれて心までもが温まった。綾乃が抱えている「何か」についてはまだ聞く勇気など無かったし、その事については誰も知らない、綾乃だけの秘密なのだろうと分かっていたので、その部分にも触れる事無く日々は過ぎて行った。


そんなある日、珍しい事に綾乃の方から奏に歩み寄り、

「奏ちゃん今日大丈夫?たまには一緒に帰らない?」

と言って来て奏は嬉しいと言うよりも何となくその日の寂しい雰囲気の綾乃が心配になり、

「うん、良いよ。」

と静かに答え帰り仕度を始めた。


「何かあったの?綾乃ちゃん。」

「いや、何かね..たまにはこう、誰かと一緒に帰るっていう、そういう時間が欲しいなぁって思って。」


そういえば綾乃は人気者だがいつも足早に帰ってしまう為に誰かと一緒に帰っている姿を見た事は一度も無い。不思議な話だが、今更そんな事を考える。しかしこういう弱気な雰囲気の綾乃の姿も別格に魅力的で何というか、包み込みたい気持ちになってしまう。


「そういえば一緒に遊んだ事はあっても一緒に帰った事は無かったね。」


気を使うように奏は喋る。一緒に過ごして分かった事だが、綾乃は非常にナイーブで繊細な女の子でありただの明るい女の子、というのには全く違う部分がある

女の子だった。


「アリスちゃんは元気?」

「あの子は元気だよ。前に触った時に嬉しかったみたいで、いつでもアリス触りに来て良いからね。アリスも待ってると思うし。」

「そう..」


やはり今日の綾乃は元気が無い。何か心配事や抱えたものがあるのだろうか..とそこであの単語が思い浮かぶ、「魔法少女」。


「ねぇ綾乃ちゃん、私実は..」


そこで言葉が止まる、喋ってしまって良いのだろうか。あの日聞いた言葉を喋った事で綾乃に嫌われてしまったらもう二度と会話が出来ないかもしれない。綾乃に嫌われるのだけは嫌だ、絶対に。でも、多分綾乃が抱えている問題はそこにしか無い..それは何となく察しがついていた。今自分に出来る事は綾乃の気持ちを楽にする事だ。なら思いを聞いてあげなくては..そんな葛藤を綾乃が見ていたようで、綾乃が口を開く。


「どうしたの?奏ちゃん。」

「じ、実はね、あの、前に図書室の鍵を拾ってもらった時に聞いちゃったんだけど..」

「ん?」

「魔法少女..」


つい口が滑った。ある意味終わりだ、そう思った瞬間、

「あぁ、やっぱり聞いてたのか。」

と綾乃は答え、

「え?」

と奏は声を上げる。


「..うん、私ね、魔法少女、なんだ。信じてもらえないかもしれないけど。」


え、どういう事..奏は何も答えられず、綾乃は静かに深呼吸をし、ゆっくりと口を開き語り出した。


「私はね、この惑星を守る為だけに存在する、魔法少女、なんだよ。」


さっきまでの弱気な態度から一変、感情の込もらない事務口調のような冷たい言い回しで淡々と綾乃は語り始めた。


「それってどういう..」

「この惑星の外側ではね、大小無数の隕石が飛び交っていて、危ない隕石を私達が破壊し処理をする仕事があって、私の役目はそういう危ない隕石を魔法の力を使って破壊するって事、そういう魔法少女が世界中には沢山いてね。」

「それって..」

「まぁ、早い話がそういう事をしている子達がいるからこそこの惑星は無事に廻っていられる、日々堕ちて来るそれらをそれぞれ違う魔法少女達の能力で分散化する事によってこの星は守られているから。」

「え..」

「信じてもらえないかもだけどこれは真実。本当はね、隕石なんて無数に引き寄せられてこの地上に降っていて、でもそれが地上に堕ちる事なく済んでいるのは私達魔法少女が危ないモノを処理しているお陰でね、そういう情報は一般の人達には隠されているけど、世界中には本当に沢山の魔法少女達が存在している、全てはこの星を守る為だけの存在としてね。私はその仕事をこなす為に毎日夜は魔法少女達と共に地球の外側へ行って危ない隕石を破壊し分散化する仕事をしているの。」

「え、え、」


奏は言葉を失う。この子は何を言っているのだろう、にわかには信じ難い事を綾乃が淡々と喋っている。この女の子は何を..。


「はぁ..こんな事喋るつもり無かったんだけどなぁ、これね、自分から喋ったら絶対に駄目な事なんだけど、聞かれた危険性がある場合は聞かれたと思う人に確認しなきゃいけない義務になってるんだよ。」

「じゃあこの前廊下で話した時の..」

「うん、何となく聞かれちゃったかもって思ったから奏ちゃんに近付いた。」

「じゃあ、この前遊んだのは..」

「正直真意を確かめる為、だったんだけど本当に楽しくなっちゃって最後の方は忘れてた。」

「そんな..」

「ごめんね、でも義務だから。こういう事を黙っておくと私自身が消されちゃうからさ。」


奏は頭の中が混乱してうまく言葉を表せない。この綾乃は何者なのだろう。魔法少女?隕石?頭の中の線が結び付かない。


「私、何かされちゃうの..」

「いやいや、何もされないよ。私のミスだもん。そもそも学校の中で重要な事を話してる私が全部悪いんだから。」

「じゃあ綾乃はどういう..」

「私の処分はまぁ、消されるってのは無いんだけど、多分『あっち』の仕事に回される事になるかもしれないね。」

「『あっち』って?」

「後二年後に、この地球に巨大隕石がぶつかる事になってて、恐らくそれは回避出来ない。それが衝突すると壊滅的な被害になり多くの死傷者が出て自然界のサイクルまでもが変わってしまう事になる。そうなれば、生き残った人々でも住んでいるその場所自体が住めない土地になり果てやがては人の人口そのものが減ってしまう事に繋がる。この情報は世間一般の人々には知らされてはいない事。これらの事を公表してしまえば人々はパニックを起こし暴動、果ては戦争の引き金になってしまう可能性がある為に公言する事が出来ない。そしてその巨大隕石を破壊するプロジェクトがあって世界中にいる魔法少女達と協力してその隕石を破壊するプロジェクトがあるのね。ただ、そのプロジェクトに参加した魔法少女達はそのプロジェクトと共に散って消えて行く..まぁそんな所だよ。」

「あ、後二年って!?そんな..じゃあ綾乃の命は..」

「まぁ、後二年ってとこっすかなぁ。」

「な、何でそんな平気でいられるの!?私が聞かなきゃこんな事には..」

「いや、多分遅かれ早かれそのプロジェクトには参加しなきゃいけない空気ってのがあったからさ。世界中の魔法少女集めてやっとって言う大きさの隕石なんだから。」

「そんな..」

「私は幼い頃そういう危ない隕石を破壊する為だけに魔法少女として選ばれた、んまぁ兵器とまでは言わないけど、そうさせられた一人の女の子なんだよ。」

「そんな重大な事を私に喋っちゃって良いの?」

「バレちゃった人には喋っちゃって良い事になってて、んで信用出来ないタイプの人の場合は記憶を消すってのがあるんだけど..奏はそういうタイプではないし、それに一緒に遊んでくれた大切な友達だから..」


一瞬綾乃が寂しい表情を見せる。飄々と語る裏側で恐怖心と戦う、やはり綾乃は女の子なのだと瞬間的に感じる。


「でもまぁバレちゃったからにはね、あんまり仲良くしちゃうとお別れが辛くなっちゃうから距離置いてくれても良いし、その辺は自由にしてくれて良いからね。ごめんね奏、こんな事になっちゃって。」


そう言いながら綾乃は先に歩いて行く。奏は立ち尽くし、心の中を整理させる。


「綾乃の命は後二年..魔法少女..隕石..」


聞いた言葉を反芻するように自分に言い聞かせる。憧れだった女の子の運命。頭の中の整理が付かない。綾乃の表面しか見ていなかった自分の浅はかさ。抱えたもののあまりにも大きな責任。


「綾乃..」


奏はそう呟き、綾乃の後ろ姿を見つめる。奏は綾乃とは逆の方向へ歩き出すと、川沿いの陽の光が自分を試すように照らし出す。その煌めく景色が自分を揺らすように映し出し軽く目眩を起こす。何も知らなかった自分、何も知らされていないクラスメイト、周りの人達。自分に出来る事、しなきゃいけない事。


「綾乃っていったい..」


色を帯びていたはずの景色が、薄くぼんやりと徐々に色を失って行くような感覚。もう頭の中がぐちゃぐちゃで、その景色が何色だったか分からなくなって行く感覚。

その日は何も考える事が出来ないままただ時間だけが過ぎて行った。















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